スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【23】彼だと誤解された彼

「あ、理花……大丈夫か?」

ベッド脇に、何故か樹がいた。

「な、何でいるの!」

びっくりして理花は飛び起きた。

掛けられたタオルケットを引っ張って、体全部をガードする。

「すごい反応」

 声のするほうを見ると、さっきまで一緒に飲んでいた涼もいた。

「高浜さん、飲みすぎだよ。ちょっと加減したほうがいいね。あんな風になるなんて」

苦笑いで涼が言う。

「あんな風?……」

あんな風とは、どんな風なのだ。

「誰でも酒が入れば理性のガードは緩むんだろうけど」

「わたし、何かした?」

「何かされても文句は言えないこと……言ってたかな」

「何言った?」

「うーん、抱いてもいいのよって」

お酒が入って、ガードが緩んで、ヤケクソだったし、そういう気持ちになったとしても

おかしくないかもしれない。

「正直なところ、禁欲生活中だし、浮気してるわけじゃないし、やばかったかな」

「ごめんなさい!」

恥ずかしくて顔から火が出そう。

理花は頭からタオルケットを被って隠れた。

「でも、何とか落ち着かせて玄関まで連れてきたらさ、彼がいたわけだ」

樹を指して涼が苦笑いした。

「じゃ、後は彼から事情を聞くといいよ」

ちゃんと仲直りしなよ。と言い残し、涼は帰って行った。

残された樹は、困ったような表情のまま、黙っている。

「……あの」

おそるおそる、理花は聞いた。

「なんで……いるの?」

「うん、透弥とケンカしたって功至に聞いて。で、原因は俺だって責められるから。一応

誤解は解いてきたつもりだけど、あんま信じてもらえなかった。理花も落ち込んでるかもって

思って謝るつもりで来てみたんだけど、そしたら理花とさっきの男が一緒に帰ってきたんだ」

事情はわかった。

だけど、今こうして部屋にいる事実。また透弥に知られたら誤解されるのではないか。

それに、誤解が解けてるとすれば、透弥から連絡があっても良さそうなものだ。

それがないと言うことは、まだ樹のことは誤解されたままだし、

理花のことも許してくれているわけではなさそうだ。

「ごめん、さっきのヤツに誤解された。俺が理花の彼氏だって思ってたみたい」

「……そっか」

こんな夜中に理花の家の前で待っていれば、そう思われても不思議ではない。

「しかも俺、彼氏だって誤解されたまま、説教された」

「涼が樹くんにお説教したの?」

彼氏だと誤解されたのもおかしいけど、素直に説教をされている樹を想像しても、ちょっと笑えた。

「ケンカするのはいいけど、理花がヤケになる前に何とかしろって言われた。俺が相手だったから

良かったものの、男はそう甘いもんじゃないよ、結局そういう事態になって傷つくのは女の子のほうだ、

しっかり守ってやらなきゃダメだぞってさ。そんな風に言われた」

「それ、大人しく聞いてたの?」

「彼氏じゃないって否定するスキなく説教された。ホントは、透弥が責められなきゃいけない

ことだから納得いかなかったけどさ、言ってることは間違ってないことだし、大人の男の

考えを吸収するのも悪くないよなって思って」

「大人の男ねー……」

出会ったときの涼って、今みたいじゃなかった。

もっと余裕なくて、言うことやること空回りしているような雰囲気があった。

何か物足りないような、大人なんだろうけど子供っぽいような。

でも、今の奥さんと知り合ってから、だんだん頼もしくなってきたような気がする。

涼は、奥さんを守るために頑張ったんだろうな、と思った。

「で、いいもの吸収できた?」

「うん。出来たと思う。俺、目先のことばっか考えてた。どうしたら理花の気持ちをつかめるかなって、

そればっか考えてた。でも、その前に自分を見つめ直す必要があるって感じた。今のままじゃダメだ。

頼もしい大人の男になる」

涼が樹に何をどれくらい説教したのか知らないけれど、樹に気合が入っているのがわかる。

「だからさ、見ててくれよなっ。理花に認めてもらえるまで頑張るからな」

夢は諦めたらそこで終わりだ。

と、樹は言った。

まだ、諦めないつもりらしい。

だけど、そんな風に頑張ろうと思う樹のことは、悪くないかもしれないと、

理花はほんの少しだけ思った。

【22】後悔先に立たず。。。

『……なに?』

電話に出た透弥の声が、あまりに素っ気なかったので、理花も素っ気なく返した。

「わたし、何日放置されるのかな」

透弥は黙ったままで、何も言わない。

「わたしたち、付き合ってるんだよね、こういうの付き合ってるって言える?」

不満が、声になってどんどん出てきた。

「付き合ってるのって、わたしの勘違いかな。どうなの?」

『さあね』

「何よそれ!」

まるで他人事のように透弥が言うから、理花は大声で反応してしまった。

『俺のほうが聞きたいんだけど』

今度は理花が黙り込んだ。

透弥が連絡して来ないように、理花も連絡していなかったのだ。

お互い、相手に放置されていると思っていたとしても無理はないと思った。

『樹とも上手くやってるんだろ? だから、俺なんか適当に扱ってるんだよね』

「え?」

樹と上手くやってる?

急に樹のことを振られて、理花の脳内処理が追いつかない。

『功至が、さっき見たって言うんだ。理花んちに樹が入ってくところ』

「あ……」

そうか。

さっき功至が来て、入れ替わりに樹が来たのだ。

見られていたとしても不思議はない。だけど、それは誤解だ。

功至も功至だ。

見ただけで、事実を確認しもしないで、透弥に告げ口するなんてひどい。

『結構長い時間、樹が出て来なかったらしいじゃん? 何してたかはどうでもいいんだ。俺、

言ったよね。他の男を部屋に入れたらダメだよって』

違ったかな? と透弥は理花に確認するように聞いた。

「それは……確かにそうだけど、でも……」

『言い訳するより、謝ったほうがいいと思うよ』

冷たい口調に、理花の心の中も冷えてゆく。

『功至が言ってた。理花は樹とも満更じゃないんだろって。俺のことがダメでも、

樹がいるから寂しくないんじゃないのかって』

理花の言うことに耳を貸さないで、功至の言ったことを信じて責める。

勝手に誤解して、勝手に怒って……。

『理花?』

「もういい。じゃあねっ!」

透弥なんかいらない。

大嫌い、知らない、もう会わない。

どうせもう終わり。

もともと、付き合おうって言葉だけで、何も始まってなかったんだ。

電話を切ったあとも、腑に落ちないイライラとモヤモヤで、どうしようもなく腹がたって、

我慢しきれなくて涙が出た。

衝動的に電話を切ってしまったことは、後悔してももう遅い。





翌日、イライラが治まらなかった理花は、仕事帰りに、同僚の桜井涼を誘ってみた。

年下の奥さんは、まもなく赤ちゃんを出産するらしく、里帰り中らしい。

退屈なんだと、最近聞いたばかりなのだ。

「高浜さん、飲みすぎだよ」

ヤケになって、ついつい飲みすぎた。

「誘われたときも思ったけど、高浜さん、彼氏で出来たって言ってただろ? いいの? 

俺と一緒に酔っちゃって」

「そっちこそ。奥さんの留守中に、わたしなんかといいの?」

誘ったらすぐ乗ってきたくせに、今さら何を言っているんだろう。

「別に何があるわけじゃなし、一緒に飲むくらいいいんじゃね?」

「そうよ。そうよね。いいのいいの。ふん、彼氏なんか!」

理花が言い放ったひとことは、しっかり涼に聞かれていた。

「ああ、もしかしてケンカ中とか? だからヤケ酒飲みたかったんだ?」

ケンカ中と言うより、たぶんもう終わってる。

でも、いちいち涼に説明するのも面倒なので、無視してだまっていた。

「これ以上飲まないほうがいいよ。送ってく」

涼に腕をつかまれた。

「送らなくていいもん。ひとりで帰れる。帰りたいなら、先に帰ってくれてもよくってよーだ」

自分でも何を言っているのか、わからないくらい酔っていた。

ちゃんとしゃべれているのかも、あやしい状況だ。

「先に帰ったら、他の男にさらわれそう」

そんなことを言いながら、涼が身体に手を回す。

抱えられるようにして、椅子からおろされた。

床に足をついて、やばいと思う。

足元がユラユラ揺れる。

頭もぐるるぐ回る。

とてもじゃないけど、ひとりではまともに歩けないどころか、立っているのもおぼつかない。

「ああ、ちょっ……大丈夫か?」

涼の声が遠くに聞こえた。

それからのことは、覚えていない。

完全に酔ってしまったらしく、気がついたときは自分の部屋のベッドにタイムスリップしていた。

【21】彼の友達

納得してないと、なかなか行動に移せないものらしいことに、

今さらながら理花は気づいた。

どうして私から連絡取らなきゃいけないのよ。

考えてみれば、理花も常に受け身だった。

男が好きだと告白してきて、付き合いが始まる。

中には、俺のこと好きじゃなくてもいいから、とりあえず付き合ってみようと言われて

始まったこともあった。

好きじゃないのに付き合うのもどうかと思うけれど、相手がどうしてもと言うし、

暇つぶしでもいいと言うから応じてただけなのに、だんだん相手の要求が大きくなる。

そうなると束縛や干渉がうっとおしくなって、メールの返事をするのも面倒になる。

もう俺が嫌いになった? なんて聞かれたらもうダメだ。

最初から好きじゃない、とも言えなくて「ごめんね」と言って終わりにする。

そんなことの繰り返し。

男なんか面倒なのだ。

面倒だから、いらないって思うのに……。

「ああ、イライラする!」

理花は立って冷蔵庫を開けた。

そこには週末に飲む予定の赤ワインが入っている。

今日はまだ週末ではないし、明日もウエディングショーが入ってるけれど、飲まずにはいられない気分。

コルクを空けて、ワイングラスにワインを注ぐ。

キレイな赤色、おいしそうな香り。

それだけでも心が落ち着いてくるのがわかった。

ワインを飲み始めてすぐ、来なくていいのに樹が来た。

「なんか用?」

思い切り不機嫌な顔で言ってやったら、樹はひるんだ様子を見せた。

けれど、それは一瞬のことで、樹は笑顔を作りながら手に持ったいつものスーパーの袋を理花に見せた。

「ヤケ酒飲まねー?」

「ヤケ酒? 誰がヤケになってるって言うのよ!」

確かに不機嫌だけど、何で樹にバレているんだろう。

「いいからいいから。ワイン好きだろ? あ、もう飲んでるのか?」

部屋の中を覗くようにして、樹は強引に部屋に入ろうとする。

「入っちゃダメ。入っていいなんて言ってないんだからね」

「気にすんな。俺と理花の仲じゃん。いまさら遠慮すんなよ」

「そこまで気を許してるわけじゃないし」

「そんな口尖らせてると、キスするぞ」

「え……」

「あ、ごめん。今のは冗談。引いたよな。悪い悪い」

悪いと言いながら、全く悪びれた素振りも見せず、樹は理花に近づいて来る。

「ダメだってば! わたしの唇は高いんだからね」

樹の身体を手で押しのけながら、理花は顔を背けた。

「高いってどれくらい? 身体で払うよ。って、いくら何でも悪乗りし過ぎ?」

笑いながら言う樹は、どうやら本当に冗談で言ったりやったりしているらしいと思えた。

なので、理花も少し警戒を緩めて、冗談に付き合ってみる。

「ふん、その身体じゃ無理ね」

「あ、言ったな? この身体の良さを知らないくせに。後でおつりあげるわって言われても

受け取らねーからな」

「借金してもムリムリ、高級品なのよ、わたしは」

「そうか、じゃあ物は試しにやってみようか」

樹がいきなりTシャツを脱いだ。

急に目の前に樹の裸を見てしまい、かなり驚いた。

しばらくの間、その身体を凝視してしまう。

見惚れていたのとは、違う。

文字通り、理花は固まってしまっていた。

「はは、マジに驚いてやがる。冗談だよ、冗談。彼氏のいる女に誰が本気で手を出すかって」

あはは、と笑って樹は脱いだTシャツを頭から被る。

「そ、そんなのわかってるよ。誰が本気にするもんですか」

言いながら、心の中ではかなりドキドキしていた。

「そっか? 結構本気にしてたっぽかったけどな。顔赤くなってるし」

からかわれたようで、腹が立つ。

「バカにしないでよ。もう、帰ってよー」

勝手に玄関の中にまで入って来ていた樹を追い出そうと、手を上げた。

けれどそれは、すぐに樹につかまれる。

「放しなさいよ」

「理花さ、マジで隙ありすぎ」

「樹くん、冗談だって言ったじゃない。手を出さないって言ったでしょ」

「そんな言葉、信じるなよ」

「ウソなの? 手を出すの?」

少しだけ真面目な顔をした樹に、理花は安易に信じた自分を悔やんだ。

「そりゃあさ、出していいって言うなら俺も男だし、下心ありまくりだし、こんな目の前に

好きな理花ちゃんがいたらさ、我慢にも限度はあるよ。でも、この前みたいに殴られたら痛いから、

やめとくけどよ」

樹は手を放してくれた。

でも、目はまだまっすぐ理花を見ている。


「わたし、透弥くんと付き合ったんだよ」

「知ってる。だから諦めようと思ってる。けどさ、功至にも聞いたんだけど、おまえら

上手くいってねーって言うじゃん? 透弥だって、自分から行けねーとか言って、理花からの

メール待ってるばかりだしさ、そんなの本気で好きって言えるのかな。これからもそんなんじゃ

うまくいかねーって。別れちゃえよ、透弥と」

樹は本気だ、と思った。

まだ諦めてくれてないのだ。

好きとか、別れろとか、そんなこと押し付けられても困る。

「だからって、透弥くんと別れたからって、樹くんのこと好きになるか保証できないよ」

「いいよそんなの。わかってるよ。急に好きって言われるほうが信じらんねーよ。俺、

待ってるからさ。理花が好きになってくれるまで待つ。まあ、待ってても叶うか

わかんねーけどさ。でも、先のことなんかわかんねーだろ? 理花が気の迷いで俺を

好きになってくれる可能性だって、ゼロじゃねーって思うし。思ってるだけで可能性ゼロかも

しんねーけどな。でもさ、一番近くにいさせてくれないかな。一番の友達でもいいし、側にいたいんだ」

かなり真面目な告白なんだろうけれど、言葉が頭の中を素通りしてゆく。

申し訳ないけど、まったく心に響かない。

好きじゃないんだ。

これからもきっと、樹のことは好きになれないと、理花は思った。

「今日は帰るけどさ、また来るね。また来てもいい?」

「……うん。いいけど」

可能性がないなら、この場ではっきり断ったほうがいいのではなかっただろうか。

でも、この状況で「もう来ないで」とも言いにくい。

これって、状況に流されていると言うことだろうか。

「なんか困ったことがあった時はさ、いつでも言えよな。おれはずっと理花の味方でいたいし、

遠慮なんかしなくていつでも呼んでいいしな」

「うん、ありがとう」

樹は、持ってきたワインを置いて帰った。

ひとりで飲んでてって言われたけれど、飲んだらいけないような気が、なんとなくしていた。

スーパーにある1000円もしない安物ワインだけれど……。

これまでにも樹は、スーパーに寄っては買い物をしてきて、ここでご飯を作ってくれた。

今日のように、ワインを持ってくることもあった。

樹の好意に甘えていたけれど、かなりの金額を使ってきたのではないだろうか。

自分で貧乏だと言っていた樹は、壊れそうなアパートに住んでいる。

気にしないようにしてたけど、洋服も同じものを着てくることが多いと思う。

車だって、お父さんのお下がりって言っていた。

理花の世話を焼いてる余裕は、ないはずなのに。

好きでしてくれてることだろうし、気にしなくてもいいのだろうけれど、

改めて考えると、やっぱり気になる。

それに引き換え、透弥と言えば、何もしてもらってない。

これでは、どっちが彼氏かわからない状況みたいだ。

理花は、携帯を手に取り、透弥に電話をかけた。

【20】彼氏の意味

仕事が終わったあと、理花はぼんやりしていた。

今日は予定がない。

違う、今日もだ。昨日もその前も、この10日間何もなかった。

10日前、透弥と付き合い始めたけれど、それきりだ。

付き合うって、こんなもの?

理花は携帯電話を開いたり閉じたりして、考えていた。

メール送ってみようか、それとも電話しようか。

だけど、何て書けばいいんだろう。

『何してるの?』

『元気?』

それくらいしか思いつかない。

文字を打っては消し、打っては消し、繰り返していたが、急に嫌になってきた。

こんなくだらない内容のメールなんか、無視されちゃうかもしれない。

うるさいなって思われるかもしれない。

透弥は、メールなんか面倒臭いって思ってるのかもしれない。

男のひとって、メールが苦手だって紗夜が言ってた。いかに返信をもらうか、

メール内容を考えるのは大変だって言っていたのだ。

透弥が、メールをよこさないのがいい証拠。

用がないから連絡がないわけで、用があれば連絡が来るはずで……。

だけど、それじゃあ付き合う意味がないように思える。

ただの知り合いレベルだ。

好きなひとには、何でもなくても声が聞きたいとか、一目でも会いたいって思うものよって、

那絵が頬を染めながら話していた表情が印象的だった。

これまで、理花はその感覚が良くわからなかった。

たぶん、これまで付き合ってきた相手が、そんなに好きじゃなかったのだと思う。だからいま、

透弥からの連絡がないことが気になっていると言うことは、透弥のことが好きだと

言うことになるのではないか。

「でも、単に連絡よこさない透弥くんに、イライラしてるだけかもー」

好きを認めるのが何だか不安で、自分の気持ちを声に出して打ち消した。

恋は盲目だとか、恋に溺れるとか、そんなことになったら、どうすればいいのか。

そうなったときの自分は、自分じゃなくなるような気がして、理花は怖かった。




結局、メールも電話も出来ないまま、理花は家に帰ってきた。

アパートに着くと、ドアの前に功至がいた。

「何してるの? 何か用?」

階段を上り、功至の前に立ってから聞いた。

「ああ、急に悪いな。ちょっと聞きたいことがある」

悪いな、と言いながら功至は、ちっとも悪いと思ってないような口調で、理花に言った。

「おまえ、透弥のことなんだと思ってるわけ?」

「何って……」

「付き合うことになったんだろ? 『彼氏』って答えらんねーのかよ」

「だって……」

「だってじゃねーよ。会ってないんだろ? 全然会ってないって透弥が言ってた。メール

ひとつ送ってこないって、どうしたらいいかわからないって悩んでたんだ」

「そ……」

「はっきりじゃべれよ。誤魔化してんじゃねーよ」

答える前に功至がどんどん問いかけてくるから、答える隙を逃してしまう。

何で会ってくれないのか、理花のほうが聞きたいと思っていたのだ。

上から見下ろされ、怒鳴りつけられ、正直怖かった。

こんなところで、大声を出されたら近所の目だって気になる。

だからと言って、部屋の中に入れるわけにはいかない。

透弥とも約束したのだ。

理花は俺の彼女になったんだから、もう他の男を部屋に入れたらダメだよって。

さっさと話を終わらせて、帰って欲しい。

「おまえさ、素っ気ないって透弥が気にしてた」

それは透弥にだって、言えることだと思う。

「あいつ、今まで常に受け身でさ、特に女に関して受け身。けど、おまえに関しては

かなり頑張ってたんだぜ。だから俺も応援しようと思ってるわけだ。なのに、何か上手く

いかねーって落ち込んでる。どうしたらいいかわかんねーって相談受けたんだ。だから、

俺がちょっと間に入ってだな、上手くやってやろうと思った。俺のお節介なんだけど、透弥を頼むよ」

功至の言葉を聞いて、急に理花は心が揺らいだ。

何だか違う。

こういうことって、友達に言ってもらうことなのだろうか。

相談するのはいい。

だけど、それから先は透弥が自分で動くことではないのか。

功至くんに頼まれてもね、と言おう思ったけれど、逆らうと功至に怒られそうなので、

素直にうなずいておいた。

とりあえず、この場を終わらせたい。

「わかった。電話してみる」

納得いかないままだったけれど、功至は「じゃあ、悪いな」と言葉を残し、引いてくれた。

階段を下りてゆく功至を見送りもせず、理花は逃げるように部屋のドアを開けた。

【19】慣れない彼氏

チャペルの後ろの席に座って、透弥がウエディングショーを見学している。

昨夜、透弥は理花の部屋に泊まった。そして今朝、ここまで送って来てくれた。

何だか実感が全く湧かないけれど、透弥と付き合うことになった。

見学してもいいよ、と言ったものの、知り合いに見られていると言うのは、

照れ臭さ倍増になるものらしい。

透弥の視線が気になって、ショーに集中できないまま、何とか1日の仕事をやり終えた。

私服に着替えて、透弥が待っているはずの教会の入口まで行くと、いつも

写真を撮ってくれるカメラマンの木田さんが、透弥と何かしゃべっていた。

「木田さん、何やってるの?」

声をかけるとすぐに木田さんは振り返った。

「理花ちゃん、今日も良かったよー、きれいに撮れた」

「そう? 木田さん、腕がいいからだよ」

いつものように笑い合っていると、透弥が間に割り込むようにして言った。

「理花、早く帰ろう」

「あ、うん」

透弥が理花の手をつかむ。

それが思いがけず強い力だったのに、ドキンとする。

「あ、君。さっきの話だけど」

木田さんが、後ろから引き止めてきた。

そういえば、二人は何か話していたっけ。

「さっきの話ってなに?」

聞いたけど透弥は答えてくれない。

しょうがなく木田さんに視線を向けると、木田さんが理花に聞いた。

「彼、理花ちゃんの彼氏?」

「……うん、そう」

ちょっと間が空いてしまった。まだ彼氏、と言う響きに慣れない。

「そうかそうか。理花ちゃんの彼氏か」

木田さんは、嬉しそうな表情で透弥を眺めながら続けた。

「実はね、さっきスカウトしたんだけど、断られちゃったんだよ。

理花ちゃんからも勧めてくれないかな」

「スカウトって?」

「うん。次回企画の冬物ファッションのモデルにって思って──」

「俺、嫌だからな」

透弥は素っ気なく言うと、理花からも木田さんからも顔を背けた。

「ですって。残念だね、木田さん」

「そうか? ほんとに嫌かな?」

「嫌だね」

怒ったように透弥は言うと、理花を引っ張るようにして教会を後にした。

振り向くと、木田さんが困ったような苦笑いでこっちに手を振っていた。

お疲れ様の挨拶もまともに出来なかった。

「ちょっと失礼な態度だったかも」

透弥の車の助手席に座りながら、理花は言った。

独り言だと思われたのか、透弥は何も言わない。

「ねえ、怒ってるの?」

口をぎゅっと結んだまま、理花と目も合わせない透弥は、

どう見ても怒っているようにしか見えない。

「後で、木田さんに謝っておこう」

「何で謝るんだよ。やるもやらないも自由だろ?」

あ、反応した。

「それは自由だけど」

「だったらいいじゃん」

「うん、でも……」

もうちょっと言い方ってものがあるんじゃないかなって思ったことは、言えなかった。

透弥の車の発進のさせかたが、心の中を表しているように乱暴だったからだ。

これ以上言ったら、もっと透弥の機嫌を損ねてしまいそうで、言えないまま、言葉を飲み込んだ。




続く~。。

| ホーム |


PREV PAGE «  BLOG TOP  » NEXT PAGE


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。