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難しい話し合い-8

ずっと音信不通だった妻、香織が突然帰ってきた。
ちょうど僕は仕事が休みで、家にいた昼間の出来事だった。
香織は持っていた鍵で、勝手に入って来て僕と目が合うなり、固まっていた。
ちょっと笑えた。
口がぽかんと開いたまま、本当に固まっていたんだ。
「どうしたの」
久しぶりに会った香織に対する第一声がこれだ。
僕の言葉に香織は、ハッとしたように我にかえると、僕を無視してたんすの引き出しを探り出す。
そこには、印鑑や通帳を入れてあった。
今は置き場を変えてしまったから、そこにはタオルしか入っていない。
きっと僕のいないすきに香織は勝手に持ち出すことを考えていたんだろう。
「あのさ、香織。悠が会いたがってたよ」
唐突に伝えると、香織は無言のまま僕を睨みつける。
その顔を見たとき、「老けたな」って思ってしまった。
「今後のことと、悠のことを話し合わないといけないよね」
「今後なんかないわよっ! まだやり直す気でいるの? もう無理よ。話し合う必要なんかないわ」
そうじゃないよ。
僕だってやり直す気はない。
今後の話し合いって言うのは、離婚後の話だよ。
そう言う間もないくらい、香織はすごい剣幕で怒鳴りだす。
「湊が自分で言ったじゃない? 悠は自分が育てるって。私に押し付けようったって、いらないわよっ」
悠がいなくて良かったと思った。
悠のいない平日で良かった。
自分の子供なのに、そんな風に言える香織が、僕には理解出来なかった。
結局、何の話し合いも出来ないまま、香織は手ぶらで出て行った。

いったい、どういうつもりなんだろう。
何を考えているんだろう。
話し合う暇もなかった。



そして、その後。
何度か香織に電話をしてみたけれど、またつながらない日々が続いただけだった。
とりあえず、今も僕のそばには悠の笑顔がある。
どうなるか、全くわからないけれど確実なことはひとつ。
悠とずっと一緒にいられるんだって言う幸せだ。

ずっと悠と……-7

言うつもりはなかったのだが、仕事がすんでから、白石さんに問い詰められた僕は、あっさり事情を話してしまった。
「悩みがありそうな顔を見てたら、ついお節介にも口を出したくなるのよね」
話を聞き出し終えた白石さんは、うっすら笑みを浮かべて、僕をじっと見ている。
「何かあったら、いつでも相談してね」
白石さんの微笑みに、危うくつまずきそうになるのを、あえて誤魔化しながら、僕は家に帰った。
白石さんは夜になって、僕の携帯に電話をかけてきた。
まだ何か言いたいことがあったのかと聞いていると。
『悠くんに、またご飯作りに行きたいんだけど』
などとごにょごにょ言っている。
「悠も喜ぶと思う。お願いします」
僕ったら、そんなことを言っている。
電話を切って振り返るとすぐに、悠が僕に聞いた。
「ハンバーグカレーのおばさん?」
「え……ああそう」
22歳でおばさんか。可哀相に、白石さんが聞いたら怒るよな。
「ふうん。いい人なら、結婚すれば?」
「結婚はできないな。まだ、離婚していないからね」
「離婚してないの?」
「してないよ」
「早く離婚すればいいのに。悠は、お父さんと二人でいいもん。お母さんなんかいらない。いなくても生活に困るわけじゃないもんね。でもお父さんが結婚したいなら、いいよ。その人が、悠と遊んでくれるならいい」
まだ、親に遊んで欲しい年頃なのかと思った。
僕は頭の中で想像していた。
僕と悠がキャッチボールをしているんだ。
その少し向こうの日陰に敷いたシートに、白石さんが座っている。
時々振り返ると、にっこり笑顔で笑って手を振ってくれるんだ。
「悪くないかも……」
僕はそんなことを考えながら、布団に潜り込む。そして目を閉じてさっきの続きを想像していた。

だけどそれが実現するかどうかは、まだ先の話。
将来のことなんか、今は何もわからない。
まずは離婚話をするところからなんだろうな、とは思うけれど、でも具体的にどう動き始めればいいかなんて、すぐには考えつかない。
今わかっているのは、きっと僕は悠と暮らし続けるだろうってことだ。
情けないし、頼りない。
たかが22歳の若造で、子供を育てていると言うよりも、一緒に成長させてもらっていると言う段階だ。
でも、暮らしていく以上、無責任に放り出すことは出来ない。
こんな父親だけど、悠に見放されないように、しっかり歩んで行こうと僕は思った。

難しいイジメ問題-6

『証拠はあるんでしょうねっ』
いきなり電話口で怒鳴りつけられたときは、びっくりして泣きそうになった。
3人組女子のうちのひとり、千春ちゃんの母親からだった。
キレイなお母さんで、いつも愛想よく僕に笑いかけてくれていた。
あの顔からこんな怒鳴り声が?
『うちの子は、イジメなんかするようなタイプじゃありません』
彼女は、延々と僕を責めた。
『だいたいちーちゃんは、悠くんとは友達だって言ってるんですからっ。誰か
別の子と勘違いしてるんでしょう』
そんなはずはないと思った。
悠は言ったんだ。千春が首謀者だって。
中心になって、悠を攻撃するって。
──女の子だから、手を出したら駄目だって思って。我慢してるんだけど、口じゃ敵わないんだ。
悠はそう言った。
確かに手を出してしまったら、女の子に怪我をさせるかもしれない。
そうなったら、悪いのはきっと悠になるだろう。悠の判断は間違っていないと思った。

 

だが、事態はますます悪化した。
 それぞれの親が校長室に呼ばれ、集まった。
千春の母親以外の二人は、子供が素直にやったと認めたため、頭をさげて謝ってくれた。
悠の愛想のなさがイジメの原因だったらしい。
偉そうな態度がムカついたらしい。
悠にも反省すべき点はあったのだろうが、いじめるほうが悪いんだと言って、麻子と涼子の母親は言ってくれたんだ。
「麻子はいつかやると思ってたんですよー」
ごめんなさいね、と麻子の母親は言った。
涼子の母親なんか、僕に手紙まで書いてきてくれた。
「早いうちにわかって良かったです。このまま気付かずに中学生になっていたら、もっと大変なことになっていたかもしれない」
まだ4年生、言い聞かせれば素直に聞く年齢なんだそうだ。
素直に嬉しかった。
「被害妄想ですっ」
千春の母親だけ、絶対に認めてはくれなかった。
二人の子供が、3人でやったと言っているにもかかわらず、最後まで頑なに認めようとはしなかった。
こんなことになって、話もしたくない、顔も見たくないと、直接言われてしまった。

別にいいけど。
女の人は怖いなって思った。
 


結局それ以来、涼子と麻子とは仲良くなったようだったけれど、千春とは未だに仲良くなれていなかった。
3人組みも解消になったようで、千春だけが一人でいると、悠から聞かされる。
「悠が声かけてやれば?」
「無理。アイツだけは嫌だ」
「……そっか」
千春の将来を不安に思ってしまうのは、傲慢な考えだろうか。

不登校の原因-5

「悠、今日はカレーでいい?」
「いいよー」
僕は野菜かごから、ジャガイモとたまねぎを取り出した。
皮をむき、切って鍋に入れる。冷蔵庫から人参を出してふと手を止めた。
「なんか、面倒くさいな……」
冷凍室からミックスベジタブルを出して、鍋にザラザラ入れた。
夕食の支度なんて、やりたくなくてもやらなきゃいけなくて、毎日毎日、
メニューを考えるのも、大変だし……。
「お父さん、肉は?」
「え……」
しまった。うっかりして肉をカレーに入れるのを忘れていた。
「溶けちゃったんだよ。今日はミンチよりも小さい肉の粉を入れたんだ。味はするだろ」
「……子供だからって、騙すのは良くないよ」
冷ややかに返された。
どうも悠は、冷めてていけない。子供らしい無邪気さと言うものが欠如しているようだ。
現実、担任教師からも言われた。
『悠くんは、考え方が大人です。けれど、そのせいでクラスのみんなの言うことが、
バカバカしいと言う態度を取るのは困ります』
協調性がないと言われた。自己中心的、一度決めたら絶対変えない頑固さ。
短気ではないが、一度キレると手がつけられなくなる。
悠にだって、良い所はたくさんあるんだ。それを見てくれず、悪いところばかり
指摘されると、教育がなっていないとか、父親失格だと言われているようで、辛いんだ。
確かに、僕の教育は甘いかもしれない。
けれど家にいる時の悠は、特に口を出さなくても、何でも自分でやるし、
手伝いもしてくれるいい子なんだ。僕の腰を気遣う優しさもあるし。
いい子が危ない、と言われるのも知っている。担任が言う事は事実だろう。
集団生活がうまく行かないのは、社会に出た時、致命的かもしれない。





そんなある日、急に悠が学校へ行きたくないと言い出した。
半分泣きながら、それでも僕の聞くことに対して、堅く口を閉ざしたまま
ハッキリ言おうとしないのだ。
それでも何とか登校は続けていたのだが、とうとう朝、起きられなくなってしまった。      
寝つきも寝起きも良かった悠が、決まって朝になるとおなかの痛みを訴えるようになったのだ。
この症状は本で読んだことがあった。
もしかして、学校でイジメにでもあっているんじゃないだろうかと不安がよぎる。
悠は、言いたいことはハッキリ言うタイプだ。
もしかすると、イジメられた子を庇ったせいで、今度は悠が標的になっているんじゃないだろうか。
問い詰めたわけではないつもりだったが、結果的には無理やり聞き出したようになってしまった。
悠は、クラスの女子に嫌がらせを受けていることが判明した。
すれ違いざまにわざとぶつかり、バーカと言われるのは日常だったようだ。
他にも陰で足をけられたり、プリントをぐしゃぐしゃにされたりしたらしい。
思い返せば、悠が持って帰ってくるプリントはいつも汚かった。
男の子だから、雑なんだろうなって、あまり気にしていなかった。
気付いてやれなかったのは悔やまれる。
『イジメの兆候が見られたら、必ず連絡帳に書いて連絡をしてください』
春の家庭訪問のときに、悠の担任は言った。
少し迷ったものの、もう悠は半月登校出来ていなかったのだ。
風邪具合が悪いとか、腹痛とか、果ては足が痛いと言うようになっていた。
食欲も落ちて、風呂場で急に叫び出したときは、さすがにヤバイんじゃないかと思った。
僕は連絡帳に事実を記入し、担任に報告をした。
すぐに電話がかかり、誰に苛められているのかを問い詰められる。
「え……言わなきゃいけないんですか?」
『言ってもらわなければ、解決しません』
「はあ……」
悠から名前は聞いていた。
相手は女の子3人だった。
──千春ちゃん、麻子ちゃん、涼子ちゃん。 
こう言うの、チクるって言うんじゃないかと、かなり抵抗があったが、
僕はそれで解決するなら……と甘いことを考えていたんだ。

スキンシップ過剰?-4

悠が寝ているうちに、僕は悠の時間割を確かめてやるためにランドセルを開く。
時々こうして確認してやらないと、まだ忘れ物をしてしまう年齢なのだ。
「あれ……」
ランドセルの底から、ぐしゃぐしゃになった紙が出てくる。
開いて見てみると、『花の植え替えのお手伝い募集』と書いてある。
参加できるかたは、参加用紙に記入して提出してくれと書かれてあった。
けれど日付を見ると、すでに締切りも作業の日もとっくに過ぎていた。
翌朝、悠にプリントを見せながら聞いた。
「こういう大事な提出書類は、ちゃんと見せてくれないと困るよ?」
仕事の都合上、こういう行事にはなかなか参加できないでいる僕は、
他のお母さんたちからは、非協力的と思われているんだ。
作業の日は水曜日で、僕の休日の曜日だった。これなら参加できたのに。
「だって、嫌だろ?」
悠が僕から目を逸らしたまま言った。
「え?」
「だってさ、腰痛いんだし、せっかく休みなんだしさ、しなくていいって思ったんだ」
だから隠していたんだと悠は言った。
「悠、僕のためなの?」
「いいんだよ。そーゆーのはやれる人がやればいいんだからさ。暇なオバサンが
いっぱいいるんだからいいのっ」
「悠……それは違うよ」
悠が僕のためにと思ってくれた優しさは嬉しい。だからと言って、悠の考え方は
違うと教えてやらなければいけないと思った。
「やれる人がやればいいって言うのは、全くの間違いじゃないと思うよ。どうしても
無理なものは無理してもやれないんだからさ。でも、何も出来ませんじゃ済まない。
やれることは協力しなきゃいけないと思うんだ。この日は休みで無理じゃない。それに
花の植え替えなら、僕もやれると思うんだ」
「腰が痛いくせに?」
「悠が心配してくれる気持ちはわかるし、嬉しいと思ってるよ。でも、ちゃんと
外に働きに行けるくらいなんだ。何もかも無理ですじゃ、通らないんだ。相談して欲しかったな」
「……だって」
「怒ってるんじゃないよ。悠はどう思う?」
「悠は……」
「お父さんの言うことが全部正しいとは限らないから。違うと思ったら違うって
言ってくれていいからさ、正直に思ったこと、言って?」
悠は少しの間、落ち着きなくそわそわして、泣きそうになっていたが、やがて
僕の顔をじっと見ると、
「ごめんなさい」
小さく謝った。
「謝らなくていいんだって。そりゃ、プリントを隠してたのは困るけどさ、
悪気があったわけじゃないんだし」
僕の言いたいことは、間違って悠に伝わったのかもしれない。
つくづく言葉って難しいもんだ。思ったことが思った通りに相手に伝わればいいんだけど。
「悠」
僕は悠の頭をそっと撫でた。
顔を上げた悠の目が、涙に濡れていて、ちょっと胸が痛くなる。
「これからは、学校のプリントはちゃんと全部見せて?」
「うん。わかった、見せるね。ごめん」
うなずくと同時に、悠が抱きついてくる。
小さい身体を抱きしめながら、愛おしさがこみ上げる。
どっちかと言うと、僕と悠はスキンシップ過剰だと言われる。
僕の母親なんか、良くこういうんだ。
「ホントの親子はそこまでベタベタしないよ」
そうなんだろうか。
言われてみれば、僕は母とは距離を感じていたっけ。
抱きしめられるどころか、頭を撫でられたことも、確かになかったような気がする。
だけど、学校で貰ってきたプリントに書かれてあったんだ。
スキンシップは大事だって。
無理してやっているとか、心がけてやっているんじゃなかった。
本当にそうしたいと思うから手を伸ばす。
こんなに可愛いのに、抱きしめたくならないわけがないと思うんだけどな。
でも、本当に血がつながっていたら、どうなのか。想像したってわからないのだ。

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