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宇宙いっぱいの愛 第4話


第4話





 涼から呼ばれて、咲良は涼と近所の公園で会った。

 昨日、陸とちょっと気まずくなったことが気になっていて、涼の言葉が頭に入ってこない。

「だからさ、嫌だってこと」

「……あ、ごめん。もう一回言ってくれる?」

 タバコを吸いに外へ出て行った陸を、咲良は迎えに外に出た。

 けれど陸は目を背けたままだった。

 咲良について部屋に入ってくれたものの、話もしないまま寝てしまって、そして朝も陸は黙ったままだ

った。咲良から話しかければ答えてくれたのかもしれないが、話しかけられる雰囲気じゃなかった。

 ──今日帰ったら、いつもの陸に戻ってるといいな。

「って、聞いてんのかよっ、咲良!」

「あ……」

 ダメだ。

 涼の話が全く聞けない。

「ごめん。ちょっと悩みが……」

「悩み? どうしたんだよ、悩みがあるなら聞くよ」

「ううん。お……女の秘密の悩みだから、涼くんには言えない」

 咄嗟についた嘘だけど、涼は「そっか」なんてうなずいて納得してくれた。

 咲良は気を取り直して、涼に言った。

「もう一回言って?」

「ああ」

 二人で並んでベンチに座っていた。

 咲良の右手を、涼がそっと握る。

 咲良もチラッと涼の横顔をうかがった。

「だから、嫌なんだ。咲良が男と住んでるの」

「うん……」

 その話だよね、やっぱり。

「嫌なんだけど、咲良が同居を解消するならオレと別れるって言ったじゃん? だから、別れられるくら

いならオレ…ガマンする。せっかく付き合えたのに、簡単には手放せない」

「いいの?」

「いいよ。あいつとは何でもないんだろ? ただの同居人ってだけだろ?」

 涼が咲良の顔を覗き込む。

 そこまでして自分と付き合っていたいんだろうか。と咲良は思った。涼のことを好きだとまだ思ってい

ないのに、それでもいいのだろうか。

「一緒にいたいんだ、咲良と」

 真摯な目で訴えられる。

「私……中途半端な気持ちで、涼くんの告白に応じた。取り敢えずでいいって言ったから、うなずいたん

だよね」

 土下座なんかされたから、しょうがなく。

「こんな形だけでいいの?」

「いいんだよっ」

 涼は、咲良を繋ぎ止めようと必死になっている。

 涼の気持ちはわかる。

「友達だって、一緒に遊んだり過ごしたり出来るんじゃない? 一緒にいて、私が涼くんを好きって思え

たら改めて付き合おうよ」

「ヤダよっ!」

 涼は子供のように大きく首を横に振って、唇をぎゅっと噛んで咲良を凝視する。

「友達なんか言ってたら、咲良他に彼氏出来るかもしんねーじゃん。陸ってヤツと一緒に住んでるんだ

し、アイツのほうが好きになる可能性だってあると思う。そしたらオレの入るスキなんかなくなる。一緒

に住んでるヤツに勝てる自信ねーよ。嫌だからな、別れない。絶対に別れないんだからなっ!」

 涼は一気に自分の気持ちを告白してしまうと、脱力したようにうな垂れた。

 形だけでも恋人同士でいたいんだろうか。

 付き合っている相手がいたって、他の人に心が奪われることだってあるのに。

「咲良、本気で好きなんだよ? 咲良がファミレスにバイトに来た瞬間から。やっとここまで来れたの

に、簡単にオレのこと捨てるなよ」

 懇願するように言われると、涼に流されそうになる。

「他に好きなヤツがいないなら。もう少し傍にいさせて欲しいんだ。オレ、頑張るからさ。咲良の理想の

男になるから、だから……」

 涼にだってプライドがあるだろうって思う。なのに、情けないくらい咲良に縋ってくる。

「うん。わかった」

 また断れなかった。

 また流されるように、咲良は涼と続けることを約束した。

「オレさ、ダメなとこばっかりかもしれないけど、頑張るからなっ」

 出来るだけ、涼を見てあげようと思った。涼のいいところをたくさん見つけていれば、きっと好きにな

れる。






「あれ? 陸、いないの?」

 帰った部屋は、真っ暗だ。

 遅くなるとは聞いていない。と言うより何も話していないんだった。

 帰りに夕食の買い物をしてきた。

 スーパーの袋をテーブルの上に置くと、咲良は中から買ってきた品物を取り出す。

 今日のメニューは、ちらし寿司と茶碗蒸しだ。

「まずは茶碗蒸しのダシをとるか」

 咲良は食品棚から椎茸を取り出し、水を入れたボウルに入れる。

 米を研いで、炊飯器にセットしてから錦糸卵を焼いた。

 そうしているうちに、陸が電話をかけてきた。

『悪い。バイトの仲間に誘われてさ、今日、飲み会になった』

「ええーっ、もう用意してるのに! もうせっかく……」

『しょうがねーじゃん。ちゃんと連絡したからな』

「もうっ、り──」

 陸は咲良の言葉を遮るようにして、電話を切ってしまった。

「なによ。電話するなら、もっと早くして欲しいよ」

 でも、連絡くれるだけ、いいのかもしれないと思った。

 それでも作りかけた夕食は、自分のためだけには、もう作る気がしなくなった。

 作りかけの料理をそのままにして、咲良はベッドに潜った。

 目をつぶっていたら、いつのまにか眠ってしまったらしく、玄関のドアが開く音で目が覚めた。

「たらいま~って。もう寝てるって」

 酔いの回った口調で陸は言うと、咲良の寝ているベッドに入ってきた。

「ちょっと陸! 陸はあっちでしょー」

「いいじゃん一緒に寝よ」

「陸!」

 酔っ払った陸を見るのは初めてじゃないけれど、こんな風に絡んでくることは今までなかった。

「咲良ちゃん……」

 陸に体を抱きしめられる。

「や……陸、放してっ」

 両手でぐいっと押し退けたら、陸がベッドから落ちた。

「う~ん……」

 落ちたままの体勢で、陸は眠ってしまったようだった。

「もう。しょうがないなー」

 咲良は陸のふとんを敷いてから、陸を運んだ。

「あーん。重いっ」

 引きずるようにしてやっと陸を寝かせると、そのままにしていた作りかけの料理を片付けた。





 翌朝、咲良は朝食を作らなかった。

「咲良、あの、ごめん」

 朝食の用意されていないテーブルを見ながら、陸が謝った。

 咲良が怒っていると思ったんだろう。

 怒っているわけではなかったけれど、素直に許すのも癪に障る。

「怒ってるんだよな? 昨日のこと」

「ふーんだ。知らない」

 咲良は陸と目を合わせずに、ふんっと顔をそむける。

「ホント悪かったよ。機嫌直せよ…な?」

「酔っ払って抱きついてきたくせに!」

「ええっ、嘘だろ。覚えてない。けど、それだけだろ? まさかそれ以上のことは……」

「さあね。早く学校行きなさいよ!」

 怒っていると言うより、ちょっとした反抗心。照れ隠しだ。

「咲良は?」

「今日はお休みするのよ。陸のせいで寝不足なの。頭が痛いんだもん」

 咲良は言って、ベッドに直行した。

 きっと陸は「大丈夫か?」って心配してくれるはず。

「そっか。じゃあ俺行くな。ホントごめんな?」

 なのに陸は、咲良の期待を裏切って学校へ行ってしまった。

「もう!」

 咲良は携帯を開き、陸にメールを送ってやった。

『陸のバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ

バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ……』


 画面いっぱいに「バカ」が並んだところで、送信した。

 こんなことをやって、子供っぽいと思われるだろうけど、それでも良かった。

「はー。学校行こう」

 本当は頭なんか痛くなかった。

 陸に心配して欲しかっただけだ。

 なのに、陸は逃げるように学校へ行ってしまったんだ。

 学校で陸をつかまえて、メールの反応を確かめたいと思った咲良は、陸を追いかける

ようにして家を出た。

 






第5話に続く

宇宙いっぱいの愛 第3話


第3話





 涼と映画を見に行った帰り、夕食を食べるために、駅ビル内にあるカフェレストランまで

行くことになった。

 駅前にバスセンターがあって、その上がビルになっている。

 九階建てのそのビルは、各階ごとにいろんな店が入っているのだ。

 映画はあまり面白いとは言い難かったけれど、涼は映画館を出てからずっと楽しそうにはしゃいでいる

から、咲良も笑顔を作って答えた。

 店に入り、向かい合わせに座ってメニューを広げた。

「なに食おうかなー」

「私、カルボナーラ」

「決めるの早いな」

 目の前の涼がメニューから顔を上げて言った。

「これは? 当店おすすめのかぼちゃのタルト」

「夕食だぜ。そんなんで腹いっぱいになんねーよ」

 そう言いながら涼は、おいしそうだなって笑った。

 結局、涼も咲良と同じものを注文し、涼はデザートにタルトをひとつ頼んだ。

 パスタを食べ終える頃に運ばれて来たタルトは、白いクリームがふわふわした感じで

のっていて、すごく美味しそうだ。

 フォークを使って涼がタルトを半分に切っているのをじっと見ていると、その半分を取り皿に載せて、

咲良の前に置いて言った。

「半分ずつ食おう」

「食べたかったんでしょ? いいよ、全部食べて」

「いいから食えって」

 無理やり押し付けられたタルトだったが、口に入れるととてもふんわりと柔らかで、とろけそうに美味

しくて、幸せな気分になった。

「おいしい」

「そっか。良かった」

 目の前に座る涼の顔も、いつもよりも柔らかな笑顔になった。

 ほんのちょっとだけど、こういうのもいいかもしれないと咲良は思った。




「人間の三大欲って何か知ってる?」

 店を出て、一階に下りるためにエレベーターを待っているとき、いきなり涼が

変なことを質問してきた。

 咲良は答えず、怪訝な目を涼に向ける。

「一つ目が食欲。コレは今、満たされただろ?

で、二つ目が睡眠欲。やっぱり満腹になったら眠くなるんだ。そして三つ目が何だと思う?」

 咲良の反応を窺うような目で、涼が顔をのぞきこんでくる。

「食欲、睡眠欲と来れば最後は……」

 ホテルとか行くなよって言った陸の言葉が頭をよぎった。

「わかった?」

 面白そうに涼が聞いてくる。

「涼くん、誘ってるの?」

 そう言ったら涼は満面の笑みを浮かべた。

「やっぱり咲良はいいな。男を良く理解してくれてる。さすが大学生、大人の女って感じ」

 そんな言葉でほめられても嬉しくない。

 年上だからって簡単に抱かせてもらえると思ってるのかもしれない。

「私はまだ大人じゃないよ。未成年だし」

「えー。けど、17のオレに比べれば大人だよ」

「比べればね。でもたった二つだし、自分ではまだまだ子供だと思ってるもん。悪いけど涼くんの性欲、

満たしてあげられないから帰るね」

 ちょうど開いたエレベーターの中に、咲良はさっさと足を踏み入れる。

「ええーっ。帰るのかよー。けど、まあいっか、先は長いんだし。じゃ、送るよ」

 不満そうな声を出しながらも、それ以上しつこく誘ってはこなくて、ちゃんとアパートの前まで咲良を

送ってくれた。

「ありがとう、ここでいいから」

 じゃあね、と言って部屋の鍵を開けようとした咲良の肩を、涼が後ろからつかんだ。

「部屋に入れてくんねーの?」

「……入りたいの?」

「コーヒーくらい飲んでって、とか言えよ」

 ドラマの見過ぎなんじゃない? 

「悪いけど、一人暮らしじゃないから勝手に他人を入れられないの」

「嘘、マジで? てっきり咲良って一人で住んでるとばっかり──」

「残念でした。そう言う事だから、またね」

 笑顔でヒラヒラと手を振ったとき、向こうのほうから陸が帰ってくるのが見えた。

「あ、陸!」

「え……」

 涼が振り向いたと同時に、陸もこっちに気付いたようだ。

「一緒に住んでるって、まさかあいつ?」

 涼は咲良を振り返ると、怪訝そうに聞いた。

「うん。同じ大学の先輩。陸ってゆーの」

「男と住んでるのか?」

 涼の顔つきが見る間に曇ってゆくのを、目の前でヤバイと感じながらも、咲良は言葉

を止められなかった。

「それがどうかした?」

「どうかって、なんだよそれ」

 涼の戸惑いが手に取るようにわかる。

 そうしている間に、陸が二人のそばまで辿り着いた。

「例の彼氏?」

「うん。桜井涼くん。送ってもらったの」

「ふーん。カッコイイ彼氏じゃん。まあうまくやってくれ」

 言いながら陸は横目でチラッと涼を見ると、先に部屋に入っていった。

「嫌だな……」

 涼がつぶやいた。

「え?」

「嫌だって言ったんだ。咲良が男と一緒に住んでるなんて。好きな女が他の男と一緒になんて、

すっげー嫌だっ」

 涼は大声で怒鳴るように言った。

「嫌なら別れればいいじゃない。解消する気ないよ、陸との生活」

 無言で睨みつけるように咲良を見る涼に、負けそうになった。

「な、何よっ!」

 咲良も負けずに、大声で怒鳴り返す。

「何よじゃねーだろっ、オレよりアイツとの生活のほうが大事だって言うのかっ! オレは咲良の彼氏じ

ゃねーのかよ。何だよその態度。はっきり言ってバカにされてる気がする。頭にくるんだよっ!」

 一気に怒鳴りつけられて、咲良は言葉に詰まった。

 涼の言いたいことはわかる。

 でも彼氏だと言っても、何となく付き合っっただけで陸との生活を犠牲にしてまで続けたいとは思わな

いのも事実だ。

 もしかしたら本当に涼のこと、バカにしているのかもしれない。

「今日は帰る……。けど絶対嫌だからな。こんなの絶対認めねー。絶対別れないからなっ」

 そう言い残して涼は帰って行った。





「あーあ、疲れたよ~」

 部屋に入るなり、咲良はベッドに倒れこんだ。

「なんか揉めてたみたいだな。って無理ねーか。初日でいきなり同居がバレたんだから、彼氏もキツかっ

たよな」

 涼に同情するような言い方をしたのに、咲良はムカッとなった。

「何よ~! 私だってキツイんだからね。疲れた疲れた。陸、マッサージして?」

 咲良はベッドに仰向けに寝返った。

「さっきの今で、良くそんなことが言えるよな」

 呆れたように陸が言った。

「さっきのって? そんなことって何よー」

 冗談っぽく咲良は言ったが、陸の反応は違った。

「どこマッサージして欲しいんだよ」

 意外にも陸の顔が真剣なので、咲良も笑っている場合じゃないかもしれないと悟った。

「どこでも……陸の好きなとこ、触っていいよ」

 陸は一瞬、目を大きく見開いたけれど、すぐにさっきよりもっと真面目な顔つきになって、無言で咲良

のわき腹あたりに手を触れた。

「ひゃははっ! やめてー」

 くすぐったくて身をよじった。

「もうっ! 陸がくすぐるなら、私だってこうしてやるー」

 咲良も陸の身体中をくすぐりだした。

「うわっ、やめろって…ハハッ、ちょっ……」

 二人で、シーツをグシャグシャにしながら暴れた。

「ああっ、もうダメって……やめっって降参」

 ついに陸が涙を流しながら降参した。

「もう降参なのー、つまんないの」

「ってゆーか、咲良……おりてくれる?」

 ハアハア息を乱しながら、陸が咲良を見上げる。

 ふと気が付くと、咲良は仰向けに寝た陸の身体に、またがるような格好で座っていた。

「あ、ごめん」

 咲良が陸から放れようとした瞬間、

「咲良……」

 ふいに陸が、咲良の腕をつかんだ。

 下りろと言ったのは陸なのに、どうして腕をつかまれるんだろうと、首をかしげて陸を見ていると、そ

のまま腕を引っ張るようにして……。

「きゃっ」

 ベッドの上に倒された。

「油断大敵」

 今度は陸が咲良の上に乗っかった。

「ああん、もう。重いよ~」

 咲良は陸の体を両手で押しのけようとしたが、一瞬早く陸に手首をつかまれ、シーツにギュッと押し付

けられた。

「陸?」

 咲良を見下ろす陸の表情は、天井に取り付けた明かりが逆光になってよく見えない。

 だけど、笑っていないことだけはハッキリと感じられた。

「陸……痛いよ」

 咲良は急に陸が怖くなった。

 強く握られた手首。そのせいか指先がじんじんとしびれてきた。

「…俺だって…ちゃんと男なんだ。そんな風に無防備に体…さらされたら…」

 咲良から目をそらし、陸は唇をかんでいる。そしてゆっくりと目を閉じると、ため息とともにつかんだ

手首を放してくれた。

 咲良を解放した陸は、テーブルのうえからタバコとライターを手にとって、ポケットに入れた。

「ちょっと…頭冷やしてくる」

 振り向かないまま告げてから、陸は部屋を出て行った。

 咲良を押さえていた陸はいなくて、自由に動けるはずの体が何故か動かない。

「何…これ」

 陸の言葉を頭の中で反芻した。

「わかってるよ。陸が男ってことくらい」

 そんなの改めて教えてくれなくても、十分承知している。

 無防備にって言ったって裸さらした訳でもないのに、あんな風に怒られるのはふに落ちない。

「そっか。欲求不満なのかも」

 ずっと彼女と一緒に住んでいた男が、別れて急に一人になったんだ。

 そこに女がいれば、血迷ってしまってもしょうがないのかもしれない。

 咲良は自分に魅力がないのかと思っていた。だから陸は一緒に住んでも何も起こらないんだと思いこん

でいた。

「私でも女に見てもらえたってことよね?」

 でも、陸は出来た男だからちゃんと警告してくれたんだ。

「やっぱり陸っていい人だな」

 涼が考えるようなことは起こらない。

 だから陸との生活を解消なんかしなくてもいい。

 そう考えたら、さっき怖いと一瞬思った陸のことも、もう怖くないと思えた。






★第4話に続く
 

宇宙いっぱいの愛 第2話


第2話



 いつも真っ暗で、しんと静まった部屋に帰ってくる咲良(さくら)は、部屋の明かりがついていること

にホッと心が癒された。

「お帰り。いつもこんなに働いてるの?」

 迎えてくれる人がいるのはとても嬉しいと思う。

「働かないと、食べていくだけで精いっぱいなんだもん」

 たくさん遊びたいし、と咲良は言った。

 親が送ってくれる仕送りは、生活費に消えてしまう。オシャレもしたいし、おいしいランチだって食べ

たい。それに昨日のように飲み会があったら、お金なんてあっという間に消えてしまうのだ。たくさん遊

びたいために働いている。そう言っても過言ではないと思う。

「俺も、早くバイト探すから」

「そうそう。ちゃんと稼いでくださいよ、先輩」

 冗談交じりに言ってから、シャワーをするために咲良はバスルームに行った。





  陸(りく)との同居生活が始まって十日が過ぎた。

 ちゃんと陸は約束を守って、バイトを始めた。

 食事の用意や後片付け、ゴミだしにいたるまで陸はちゃんと分担してくれた。

 それに、新しい布団を買って来たとは言え、ワンルームの部屋だからすぐそこに陸が寝ている。そんな

状況でも、咲良に指一本触れてこない。やっぱり陸はいい人だった。これならいつまでいてくれても構わ

ない。

「でさー、月って地球の動きに影響を与えてんだって。23.5度の傾きがその理由。すっげーよな。きっち

り計算されてんの」

「すごいね」

 陸の話に笑顔でうなずく。

「そもそも地球の存在自体がすごいんだって」

「すごいんだね」

 陸は延々と宇宙の話を続ける。

 宇宙の中にある地球の存在もすごいと思うけれど、それよりも陸の熱く語る表情がすごいな、と思う。

好きなことを話しているその表情は、生き生きと輝いて見えた。





「咲良ー。明日、映画行こうよ。って、あれ? まだ着替えてねーじゃん」

 次の日のバイトの終わりがけ、更衣室に涼(りょう)が入って来て言った。

 どうせ今日も乱入は予測できていたから、咲良はまだ着替えていない。

「涼くんが出てってから着替えることに決めたの」

「残念。咲良の下着姿、見れるの楽しみなのに」

 大袈裟にため息をつくと、涼はいきなり咲良を抱きしめる。

「ちょっと、涼くんっ」

 かわす間がなかった。

「咲良、オレの彼女になってよ」

「ええっ!」

「そんなに驚くなよー。オレのこと、嫌い?」

「今までそんな素振りも見せなかったくせに、急に言われても信憑性に欠けるっ」

「素振りもなにも、最初から咲良のことが気に入ってたから、いつも来てんじゃんか。やっぱり咲良って

鈍感だな」

 鈍感って言われても……。

 今まで涼は、単なる覗き趣味なのかと思っていたのだ。咲良だけじゃなく、誰に対してもやってるんだ

とばかり思っていた。

 ここで会う以外は、涼とはなにもない。携帯の番号も知らないし、どこの高校に通っているのかさえ、

知らなかった。そりゃあいつも覗きに来られていれば、全く意識していなかったなんてことはないけれ

ど。

「なー、咲良ぁ。付き合おうよ、付き合って?」

 甘えるようにお願いされる。

 いい人かどうかもわからない。性格だってつかめない。趣味も家族も何も知らないのに、付き合えるだ

ろうか。

「好きなんだもん。咲良ー、ねー。嫌いじゃないなら付き合おうよ」

 ギューギュー抱きしめられて、困ってしまった。

「私の、何を知ってるのよ。どこが好きだってゆーの?」

「そんなの顔じゃん。咲良、カワイイ」

「顔? 顔しか知らないんじゃないの?」

「いいじゃん、顔も咲良の一部。良く顔より性格が大事ってゆーヤツいるじゃん? けど、一番目につく

のは、顔だよ。顔から好きになって、何が悪い」

 そういうの、ヘリクツって言うんじゃなかった?

「咲良、オレの顔キライ? コレでもオレ、学校じゃかなり人気あるんだよ。涼くんと付き合いたいって

女の子いっぱいなんだ。そんなオレと付き合えるの、嬉しくない?」

 それじゃあ、いっぱいいる女の子と付き合ってやればいいじゃない、と思ったが……。

「とりあえず。お試しでいいから付き合って」

 涼は咲良の体を解放すると、いきなり目の前で土下座した。

「とりあえず……でいいなら」

 断れなかった。

 咲良の曖昧な返事に、涼は思った以上に喜んでいた。





 バイトから帰ったとき、部屋の明かりが消えていたことに一瞬ドキンとした。

「陸?」

 まだ七時にもなっていないと言うのに、陸は咲良のベッドで眠っていた。

 とりあえず陸がいたことにホッとする。

 バイトを始めたばかりで疲れているんだろう。

 起こさないように気をつけながら、咲良は夕食の用意を始めた。

 今日のメニューはハンバーグだ。野菜かごから玉ねぎを取り出し、皮をむいた。まな板の上で半分に切

ってからみじん切りにした。

 今日の玉ねぎは、やけに目にしみる。涙を拭き拭き玉ねぎと格闘してたら、

「おかえり、咲良」

 目をこすりながら、陸が起きてきた。

「なんか、今日すっげー疲れてさ。ああ、なんだか目も痛い」

 それは玉ねぎのせいだ。

「咲良も疲れてるのに、俺ばっかり眠っちゃって…って、どうしたんだよ、何で泣いてんの?」

 涙を流している咲良を見た陸は、驚いたように咲良の顔を覗きこんだ。

「まさかバイト先で何かあったのか?」

「違うよ。これ、玉ねぎが目にしみただけ」

 エプロンで涙を拭いながら咲良は言った。

「心配した?」

「まあ。けど何でもないなら、いい」

 陸は言って、テーブルの上を片付け始めた。




 料理は咲良の担当だけど、後片付けは陸の仕事に決めてある。 今日も夕食が済むと、陸が食器をキッ

チンまで運んでゆく。

「あのさ、咲良」

 陸が食器を洗いながら言った。

「明日、竜輝(りゅうき)と夕飯食う約束なんだ」

「あ、私も。明日は……」

 そこまで言って、咲良は言葉を濁す。

「咲良も用事?」

「うん。バイト先の人と映画に行く約束したんだ。たぶん遅くなるから、陸には外食してもらおうって思

ってた」

「俺も竜輝に誘われたものの、咲良にひとりで夕食食わせるのってかわいそうだーとか思ってたからさ、

咲良も誘おうかって内心考えてたけど、それなら良かった」

 それなら、そのほうが絶対楽しいと思う。

 竜輝は、同じサークルの先輩で、陸の友達で面白い人だ。

「バイト先の人って、男?」

 陸が聞いた。

「うん。しつこく誘われちゃったからしょうがなく」

「乗り気じゃない?」

「うーん。そうでもないようなあるような」

「なんだ曖昧だな。嫌なら行くのやめれば?」

「でも、もう付き合うって言っちゃったし」

 携帯の番号を聞くのを忘れたのだ。行かなかったら待ちぼうけさせてしまうだろう。

「付き合ってるの?」

「あー、うん。彼の熱意に負けて、ちょっと強引にね。今日から付き合うことにしたの」

 流されるようにうなずいたんだ。

「熱意ねえ。…まあいいけど。最初からあんまり飛ばすなよ」

「飛ばすって?」

 咲良は首をかしげた。

「いきなりホテルとか行くなよってこと。誘われても付いて行くなよ」

 男はみんな下心があるんだ、と陸は言った。

 洗い物が終わって、タオルで手を拭きながら陸は咲良の傍に座った。

「みんなってことは陸もあるの、下心」

 陸をじっと見つめて、咲良は聞いた。

「俺は特別出来た男だから。大丈夫だってわかってんだろ? 今まで暮らして咲良になんかしたか?」

 偉そうに胸を張って威張っている。

「そうだね」

「…でも、咲良に彼氏が出来たんなら、こういうのも解消するべきなんだろうな」

 ふいに陸が言った。

「こういうのって、同居のこと?」

 咲良の言葉に陸はうなずく。

「やっぱ、自分の彼女が男と暮らしてるなんて、俺だったら嫌だな。きっとそいつもいい気しねーと思う

よ。解消だな、同居」

「行くところ、ないくせに」

 陸は、咲良の言葉を無視して立ち上がると、布団を出して床に敷いた。

「陸とのこの生活楽しいもん。出て行くことないよ。いればいいじゃん」

 咲良は陸の背中に向かって言った。けれど陸は答えてくれない。

 咲良は陸の傍まで行くと、顔を覗き込むようにしてもう一度聞いた。

「何で無視するのよ。楽しくないの?陸は」

 陸はチラッと咲良を見ると、すぐに目を伏せ大きなため息をついた。

「どうしたの?」

「なんでもない。俺やっぱり疲れてるんだな。悪い、もう寝る」

 陸は布団に潜り込んでしまった。

「変な陸!」

 咲良はわざと大きな声で、陸に言葉をぶつけた。



★第3話に続く

宇宙いっぱいの愛 第1話


奏の初、恋愛小説。「恋にとどくまで」の涼が出てきます。
良かったら読んでみてくださいね。


宇宙いっぱいの愛~第1話



「陸先輩、しっかりしてくださいよ!」

 道路の端に座り込んで眠ってしまった上原陸(うえはらりく)先輩を、

結城咲良(ゆうきさくら)は懸命に介抱していた。

 大学のサークルの飲み会で、完全に酔っ払いと化してしまった陸を、みんなから押し付

けられたのである。

 陸は、付き合っていた彼女に昨日振られたらしい。彼女と一緒に住んでいたアパートも、

昨日限りで追い出されたと言っていた。それでヤケ酒だったのだろう。結局悪酔いしたらし

く、何度もトイレで吐いていた。

 自業自得だと言ってみんなは帰ってしまったが、陸をほおっておけなかった咲良は、こう

して陸を、揺さぶっていると言うわけだ。

 とりあえずタクシーを拾った。

「先輩、タクシーに乗りましょう」

 咲良が陸の耳元で言うと、陸はうっすらと目を開けた。

「ああ、ごめん……」

 そう言って陸は、何とか自分でタクシーに乗ってくれた。

 行く当てのない陸を、咲良はしょうがなく自分のアパートへ連れて帰った。





 咲良は大学に入学して、一人暮らしを始めて一ヶ月になる。三年の陸の勧誘で、

星空研究会と命名されたサークルに入って二週間目に今日の飲み会があった。

 星空研究会と言うのは、名前の通り、星に関することについて研究するサークルだ。

 夏休みには天の川を見にキャンプに行ったり、プラネタリウムに行ったり、希望者は、

市が開催する観測会にも参加できると説明された。

 陸は、星のほかにも天体全部に興味があるらしく、入会したばかりの咲良に熱心に話を

聞かせてくれた。宇宙の話は、咲良も好きだから楽しかった。

 他のメンバーたちは、サークルに入ってはいるものの、それほど真面目に活動している

わけではなく、熱心な陸にちょっと引き気味だ。

 とにかく陸の話は長い。好きな話だから全部を事細かに話したいのだろうが、聞くほうは、

うんざりしていることが多いらしい。

 そんな陸の話を、嫌がらずちゃんと聞いていた咲良だから、自然と話をする機会が増えていった。

 そうやって勧誘のときからお世話になっているし、実を言うと咲良は物知りな陸を尊敬しているし、い

い人だと思っているから、今日だってほおっておけなかったのだ。

 やっとのことで陸をベッドに寝かせると、咲良はふうっとため息をついた。

「連れてきちゃったけど、どうしよう」

 一人暮らしを始めて、まだとりあえず必要なものしか揃えていない。余分なふとんなんかないのだ。

真夏ならバスタオルくらいあれば床にだって寝れるけれど、まだ五月になったばかりで、

それでは風邪をひいてしまうかもしれない。

 シャワーを浴びて、パジャマに着替え、そしてベッドに寝かせた陸の寝顔をじっと見た。

「いっか。熟睡してるし」

 咲良は陸の隣に潜り込んだ。

 一応背を向けて寝たものの、かなり緊張してなかなか眠れなかった。





 陸より先に目が覚めた咲良は、起きて朝食の用意を始める。

 今日は日曜日だ。まだ陸を起こさなくてもいいだろう。ゆっくりと支度にとりかかる。

 たまご焼きを焼いて、味噌汁を作った。焼き魚でもあれば格好がつくが、なかったので

ウインナーを焼いて、ほうれん草のゴマ和えを作った。

 そしてご飯が炊き上がる頃になってようやく目を覚ました陸は、目をこすりながら首をひねった。

「あれ、俺……なんで?」

 陸は部屋を見回し、キッチンにいる咲良に目をとめる。

「咲良? 何で。ってここ咲良の家? あれ、俺きのう……」

 戸惑った様子で陸は自分の体を確かめるように触っている。

「先輩。昨日かなり酔ってて大変だったんですよ。ここまで連れてくるのがやっと。今まで熟睡でした」

 だから心配するようなことは何もありません、と笑って返す。

「そうか。悪かったな、迷惑かけた」

「いいです。それより朝ごはん食べませんか?」

 咲良はテーブルに食器を並べた。

「すっげー、これ咲良が作ったのか」

「はい。何もないですけどどうぞ食べてください」

 そう言って咲良は陸に箸を渡した。

 すっげー、と言われるほどのメニューではないが、褒められて素直に嬉しい。

「じゃ、遠慮なくいただきます」

 嬉しかった。陸がおいしいおいしいと言って食べてくれる。

「いいよな、こういうの。毎日こんなだったらいいな」

 ポツリと陸が言った。しかも涙ぐんでいる。

「先輩?」

 咲良はそんな陸を目の前にして、ちょっともらい泣きしそうになった。

「住むところ決まるまで、ここにいてもいいですよ」

 咲良の言葉に陸はハッと顔を上げた。

「行くところないんですよね。昨日、飲みながらそう言ってましたよね。先輩さえ良かったら

しばらくここにいても……いいです」

「いいのか? 俺、男なんだけど。一応、男」

「一応じゃなくて、男でしょ」

「いや、そうじゃなくて。いや、そうなんだけど。あの、その、もし何かあったらとか、

考えないわけ?」

「はい。先輩に限って何もないと信じてますから」

 咲良があまりにハッキリと信じていると言った手前、陸は何も言えなくなってしまったようだ。

「ところで先輩。荷物とかどこに置いてあるんですか?」

「荷物はまだ、あいつの。別れた彼女のところに置いてある」

「じゃあ、朝食がすんだら取りに行きましょう」

「本当にここに住んでもいいのか?」

 陸はもう一度、確認するように咲良に聞いた。

「いいです。先輩にはサークルに入ったときからずっとお世話になっているし、

いい人だってわかてますから。困ったときはお互い様です」

 でもちゃんと家賃と光熱費は半分払ってくださいね、と咲良はにっこり笑って付け加えた。




 午前中のうちに陸は荷物を取りに行った。

 荷物と言っても、身の回りのものだけだ。小さなボストンバッグひとつしかなかった。

「まさに、身ひとつで出てきたって感じですね」

 帰ってきた陸を見て、咲良は笑った。

「じゃあ適当に寛いでいてください。私、今からバイトなので行ってきます。あ、

合鍵作っておきました」

 咲良は陸に鍵を渡す。

「合鍵。何かやること早いな」

「だって、いるでしょう?」

 首をかしげた咲良に、陸は「そうだけど」とうなずく。

「じゃ、行ってきます」

 まだ一緒に住むことに実感がないらしい陸を置いて、咲良はでかけた。

 咲良は土日だけ、昼間から夕方にかけてファミレスでバイトをしている。

 今日も忙しくて、勤務時間の五時まで休む暇もなかった。

 五時になり、更衣室で制服を着替えていると、ふいにドアが開いた。

「やだ、涼くん。またのぞき?」

 慌てて咲良は前を隠した。

「ここは女子更衣室だって何度言えば……」

 咲良の言葉を無視して、桜井涼(さくらいりょう)は中に入ってきた。

 涼は、咲良と入れ替わりにバイトに入る男の子で、まだ高校生だ。

「いいじゃん。いつものことだし。咲良しかいねーんだし」

「涼くん、ダメってば。もう時間でしょう。早く行きなさいよ」

 こっちに向かって手を伸ばしかける涼をかわすようにして、咲良は言った。

「はーい。じゃあお疲れ」

 涼はあっさりと引き下がって更衣室を出て行った。

「はあ」

 一人に戻ると、咲良は深いため息を落としてしまう。

 涼とは何故か、もう一ヶ月もの間こんな調子である。

 高校生は何を考えてるのか、ちっともわからない。

 更衣室にはちゃんと鍵があるのだが、壊れていてかからない。

早く修理をして欲しいと言っているのだが、ドアに使用中のプレートをかけておけば

いいだろうという理由なのか、後回しにされているようだ。

 もうひとつため息をついて、咲良は着替えを済ませた。

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