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白石さん-3

客足がふっと途切れる瞬間と言うのが、平日には良くあることで、
今日も夕方五時を過ぎた頃、その時間がやって来た。
「春原くん、その後奥さんとはどう?」
白石さんには、香織が出て行ったことが知られている。
僕が相談を持ち掛けた訳ではない。
どうも僕は、感情が顔に出やすいタイプらしく、白石さんは目ざとく僕の悩みをキャッチした。
飲みに誘われ、週末で悠は実家に泊まりに行っている事も手伝って、ついつい飲みすぎた。
そして、しゃべり過ぎたらしい。
「相変わらずだよ。音信不通」
「ふうん。どう言うつもりなんだろうね、浮気相手がいるなら離婚したいだろうし……」
お客様が店内に入ってきた。
良かった、あのままだったら白石さんのおしゃべりは延々続いた事だろう。
閉店時間になり、予想通り白石さんが誘って来た。
「さっきの話の続き、飲みながら話さない?」
「せっかくだけど、今日は無理かな。悠がハラ空かして待ってるから、帰らないとね」
「あ、じゃあ私が夕飯作ってあげようか?」
「え、白石さんが?」
「作れるわよ、ちゃんと。何がいい? ハンバーグでもカレーでも。和食だっていいわよ」
作れるかどうかを知りたかったんじゃない。うちにまで押しかけてくる気かと聞きたかったんだ。
白石さんは、じわじわと僕の生活に侵入しつつある。別に嫌いとか、そういうんじゃないんだけれど、
だからと言って好きではなかった。年が同じで話は合うけれど、ただの同僚。それ以上には見れない。
顔がどうこう言うわけではない。顔とスタイルは、きっと並以上だと思う。
可愛いし、胸だって大きい。何も妻に逃げられた子持ちの僕なんかに付きまとわなくたって、
他にも男がたくさん寄ってきそうなもんだ。
「スーパーに寄って材料を買って行きましょう。悠くん、成長期なんでしょ? ちゃんと栄養とらなくっちゃ」
もしかしたら、同情されているのかな。僕と悠の二人暮らしでろくなものを食ってないとか、思われて
いるんだ。そうだきっと、白石さんは、困っている人をほっとけない性質なんだよな。
……って、別にたいして困ってないんだけど。



「わーすっげー! カレーの上にハンバーグが乗っかってるー」
白石さんの作ってくれたハンバーグカレーに、悠は目をキラキラと輝かせて喜んだ。
「ほんとだ! うまそー、いただきまーすっ」
僕まで喜んでどうする、と心の中で突っ込みをいれた。
だけど、本当においしそうだったんだ。手作りのカレーにハンバーグだよ?
インスタントなんかじゃないんだ。
悠と二人で、三杯ずつおかわりをして、満腹になった頃、白石さんが後片付けをしてくれる。
いいなあ、と思ってしまった。
正直、洗い物は大嫌いなんだ。食後はゆっくり転がっていたいんだよ。
自由に転がらせてくれる白石さんを、不覚にも「いい」なんて思った。
 
 


その後、白石さんを、車で送って行った。
「悠は、ゲームしてるもん」
てっきり着いてくるかと思ったのに、成長したんだな、夜に一人でいられない子だったのに。
「それにしても、悠くんがあんなに喜んでくれるなんて、ちょっとびっくりしちゃった。
やっぱり母親がいないから、寂しいのね」
普段、悠は香織の話をしない。
いなくて寂しいとも、どこに行ったのかも聞かない。悠は、お父さんやおじいちゃん、おばあちゃんがいるから平気だと笑っている。
「お母さんは必要なんじゃない?」
真顔で言われ、ドキンとする。
「けどもう、あいつとは無理だ。僕、一緒に暮らす自信はないよ」
連絡がついた時が、離婚の時なんだろうな、と漠然と思っているのだ。
「じゃあ、離婚成立したら、新しいお母さんもらう?」
「……僕、おかしいんだ。おかしい僕のところになんか、来てくれる人はいない」
「おかしい? どこが?」
白石さんが不思議そうに尋ねる。
「あいつに言われた。僕はおかしいって、人として変なんだって。だからあいつ、出ていったんだ。おかしい男とは、暮らせないんだ」
「春原くんは、おかしくないよ。おかしいのは出て行った奥さんの方なんじゃない? だいたい、おかしいとか、変とか思ってる男に、一人息子を預けていける?」
「あいつは悠の事もおかしいって言ったんだ」
「ひどい! 自己防衛のために春原くんと悠くんに、責任を転嫁してるだけに聞こえる。人のせいにしたら、自分は守れるもの」
有難かったな。僕の味方をしてくれる人がいるだけで、なんか救われる気がした。
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