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宇宙いっぱいの愛 第1話


奏の初、恋愛小説。「恋にとどくまで」の涼が出てきます。
良かったら読んでみてくださいね。


宇宙いっぱいの愛~第1話



「陸先輩、しっかりしてくださいよ!」

 道路の端に座り込んで眠ってしまった上原陸(うえはらりく)先輩を、

結城咲良(ゆうきさくら)は懸命に介抱していた。

 大学のサークルの飲み会で、完全に酔っ払いと化してしまった陸を、みんなから押し付

けられたのである。

 陸は、付き合っていた彼女に昨日振られたらしい。彼女と一緒に住んでいたアパートも、

昨日限りで追い出されたと言っていた。それでヤケ酒だったのだろう。結局悪酔いしたらし

く、何度もトイレで吐いていた。

 自業自得だと言ってみんなは帰ってしまったが、陸をほおっておけなかった咲良は、こう

して陸を、揺さぶっていると言うわけだ。

 とりあえずタクシーを拾った。

「先輩、タクシーに乗りましょう」

 咲良が陸の耳元で言うと、陸はうっすらと目を開けた。

「ああ、ごめん……」

 そう言って陸は、何とか自分でタクシーに乗ってくれた。

 行く当てのない陸を、咲良はしょうがなく自分のアパートへ連れて帰った。





 咲良は大学に入学して、一人暮らしを始めて一ヶ月になる。三年の陸の勧誘で、

星空研究会と命名されたサークルに入って二週間目に今日の飲み会があった。

 星空研究会と言うのは、名前の通り、星に関することについて研究するサークルだ。

 夏休みには天の川を見にキャンプに行ったり、プラネタリウムに行ったり、希望者は、

市が開催する観測会にも参加できると説明された。

 陸は、星のほかにも天体全部に興味があるらしく、入会したばかりの咲良に熱心に話を

聞かせてくれた。宇宙の話は、咲良も好きだから楽しかった。

 他のメンバーたちは、サークルに入ってはいるものの、それほど真面目に活動している

わけではなく、熱心な陸にちょっと引き気味だ。

 とにかく陸の話は長い。好きな話だから全部を事細かに話したいのだろうが、聞くほうは、

うんざりしていることが多いらしい。

 そんな陸の話を、嫌がらずちゃんと聞いていた咲良だから、自然と話をする機会が増えていった。

 そうやって勧誘のときからお世話になっているし、実を言うと咲良は物知りな陸を尊敬しているし、い

い人だと思っているから、今日だってほおっておけなかったのだ。

 やっとのことで陸をベッドに寝かせると、咲良はふうっとため息をついた。

「連れてきちゃったけど、どうしよう」

 一人暮らしを始めて、まだとりあえず必要なものしか揃えていない。余分なふとんなんかないのだ。

真夏ならバスタオルくらいあれば床にだって寝れるけれど、まだ五月になったばかりで、

それでは風邪をひいてしまうかもしれない。

 シャワーを浴びて、パジャマに着替え、そしてベッドに寝かせた陸の寝顔をじっと見た。

「いっか。熟睡してるし」

 咲良は陸の隣に潜り込んだ。

 一応背を向けて寝たものの、かなり緊張してなかなか眠れなかった。





 陸より先に目が覚めた咲良は、起きて朝食の用意を始める。

 今日は日曜日だ。まだ陸を起こさなくてもいいだろう。ゆっくりと支度にとりかかる。

 たまご焼きを焼いて、味噌汁を作った。焼き魚でもあれば格好がつくが、なかったので

ウインナーを焼いて、ほうれん草のゴマ和えを作った。

 そしてご飯が炊き上がる頃になってようやく目を覚ました陸は、目をこすりながら首をひねった。

「あれ、俺……なんで?」

 陸は部屋を見回し、キッチンにいる咲良に目をとめる。

「咲良? 何で。ってここ咲良の家? あれ、俺きのう……」

 戸惑った様子で陸は自分の体を確かめるように触っている。

「先輩。昨日かなり酔ってて大変だったんですよ。ここまで連れてくるのがやっと。今まで熟睡でした」

 だから心配するようなことは何もありません、と笑って返す。

「そうか。悪かったな、迷惑かけた」

「いいです。それより朝ごはん食べませんか?」

 咲良はテーブルに食器を並べた。

「すっげー、これ咲良が作ったのか」

「はい。何もないですけどどうぞ食べてください」

 そう言って咲良は陸に箸を渡した。

 すっげー、と言われるほどのメニューではないが、褒められて素直に嬉しい。

「じゃ、遠慮なくいただきます」

 嬉しかった。陸がおいしいおいしいと言って食べてくれる。

「いいよな、こういうの。毎日こんなだったらいいな」

 ポツリと陸が言った。しかも涙ぐんでいる。

「先輩?」

 咲良はそんな陸を目の前にして、ちょっともらい泣きしそうになった。

「住むところ決まるまで、ここにいてもいいですよ」

 咲良の言葉に陸はハッと顔を上げた。

「行くところないんですよね。昨日、飲みながらそう言ってましたよね。先輩さえ良かったら

しばらくここにいても……いいです」

「いいのか? 俺、男なんだけど。一応、男」

「一応じゃなくて、男でしょ」

「いや、そうじゃなくて。いや、そうなんだけど。あの、その、もし何かあったらとか、

考えないわけ?」

「はい。先輩に限って何もないと信じてますから」

 咲良があまりにハッキリと信じていると言った手前、陸は何も言えなくなってしまったようだ。

「ところで先輩。荷物とかどこに置いてあるんですか?」

「荷物はまだ、あいつの。別れた彼女のところに置いてある」

「じゃあ、朝食がすんだら取りに行きましょう」

「本当にここに住んでもいいのか?」

 陸はもう一度、確認するように咲良に聞いた。

「いいです。先輩にはサークルに入ったときからずっとお世話になっているし、

いい人だってわかてますから。困ったときはお互い様です」

 でもちゃんと家賃と光熱費は半分払ってくださいね、と咲良はにっこり笑って付け加えた。




 午前中のうちに陸は荷物を取りに行った。

 荷物と言っても、身の回りのものだけだ。小さなボストンバッグひとつしかなかった。

「まさに、身ひとつで出てきたって感じですね」

 帰ってきた陸を見て、咲良は笑った。

「じゃあ適当に寛いでいてください。私、今からバイトなので行ってきます。あ、

合鍵作っておきました」

 咲良は陸に鍵を渡す。

「合鍵。何かやること早いな」

「だって、いるでしょう?」

 首をかしげた咲良に、陸は「そうだけど」とうなずく。

「じゃ、行ってきます」

 まだ一緒に住むことに実感がないらしい陸を置いて、咲良はでかけた。

 咲良は土日だけ、昼間から夕方にかけてファミレスでバイトをしている。

 今日も忙しくて、勤務時間の五時まで休む暇もなかった。

 五時になり、更衣室で制服を着替えていると、ふいにドアが開いた。

「やだ、涼くん。またのぞき?」

 慌てて咲良は前を隠した。

「ここは女子更衣室だって何度言えば……」

 咲良の言葉を無視して、桜井涼(さくらいりょう)は中に入ってきた。

 涼は、咲良と入れ替わりにバイトに入る男の子で、まだ高校生だ。

「いいじゃん。いつものことだし。咲良しかいねーんだし」

「涼くん、ダメってば。もう時間でしょう。早く行きなさいよ」

 こっちに向かって手を伸ばしかける涼をかわすようにして、咲良は言った。

「はーい。じゃあお疲れ」

 涼はあっさりと引き下がって更衣室を出て行った。

「はあ」

 一人に戻ると、咲良は深いため息を落としてしまう。

 涼とは何故か、もう一ヶ月もの間こんな調子である。

 高校生は何を考えてるのか、ちっともわからない。

 更衣室にはちゃんと鍵があるのだが、壊れていてかからない。

早く修理をして欲しいと言っているのだが、ドアに使用中のプレートをかけておけば

いいだろうという理由なのか、後回しにされているようだ。

 もうひとつため息をついて、咲良は着替えを済ませた。
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