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宇宙いっぱいの愛 第2話


第2話



 いつも真っ暗で、しんと静まった部屋に帰ってくる咲良(さくら)は、部屋の明かりがついていること

にホッと心が癒された。

「お帰り。いつもこんなに働いてるの?」

 迎えてくれる人がいるのはとても嬉しいと思う。

「働かないと、食べていくだけで精いっぱいなんだもん」

 たくさん遊びたいし、と咲良は言った。

 親が送ってくれる仕送りは、生活費に消えてしまう。オシャレもしたいし、おいしいランチだって食べ

たい。それに昨日のように飲み会があったら、お金なんてあっという間に消えてしまうのだ。たくさん遊

びたいために働いている。そう言っても過言ではないと思う。

「俺も、早くバイト探すから」

「そうそう。ちゃんと稼いでくださいよ、先輩」

 冗談交じりに言ってから、シャワーをするために咲良はバスルームに行った。





  陸(りく)との同居生活が始まって十日が過ぎた。

 ちゃんと陸は約束を守って、バイトを始めた。

 食事の用意や後片付け、ゴミだしにいたるまで陸はちゃんと分担してくれた。

 それに、新しい布団を買って来たとは言え、ワンルームの部屋だからすぐそこに陸が寝ている。そんな

状況でも、咲良に指一本触れてこない。やっぱり陸はいい人だった。これならいつまでいてくれても構わ

ない。

「でさー、月って地球の動きに影響を与えてんだって。23.5度の傾きがその理由。すっげーよな。きっち

り計算されてんの」

「すごいね」

 陸の話に笑顔でうなずく。

「そもそも地球の存在自体がすごいんだって」

「すごいんだね」

 陸は延々と宇宙の話を続ける。

 宇宙の中にある地球の存在もすごいと思うけれど、それよりも陸の熱く語る表情がすごいな、と思う。

好きなことを話しているその表情は、生き生きと輝いて見えた。





「咲良ー。明日、映画行こうよ。って、あれ? まだ着替えてねーじゃん」

 次の日のバイトの終わりがけ、更衣室に涼(りょう)が入って来て言った。

 どうせ今日も乱入は予測できていたから、咲良はまだ着替えていない。

「涼くんが出てってから着替えることに決めたの」

「残念。咲良の下着姿、見れるの楽しみなのに」

 大袈裟にため息をつくと、涼はいきなり咲良を抱きしめる。

「ちょっと、涼くんっ」

 かわす間がなかった。

「咲良、オレの彼女になってよ」

「ええっ!」

「そんなに驚くなよー。オレのこと、嫌い?」

「今までそんな素振りも見せなかったくせに、急に言われても信憑性に欠けるっ」

「素振りもなにも、最初から咲良のことが気に入ってたから、いつも来てんじゃんか。やっぱり咲良って

鈍感だな」

 鈍感って言われても……。

 今まで涼は、単なる覗き趣味なのかと思っていたのだ。咲良だけじゃなく、誰に対してもやってるんだ

とばかり思っていた。

 ここで会う以外は、涼とはなにもない。携帯の番号も知らないし、どこの高校に通っているのかさえ、

知らなかった。そりゃあいつも覗きに来られていれば、全く意識していなかったなんてことはないけれ

ど。

「なー、咲良ぁ。付き合おうよ、付き合って?」

 甘えるようにお願いされる。

 いい人かどうかもわからない。性格だってつかめない。趣味も家族も何も知らないのに、付き合えるだ

ろうか。

「好きなんだもん。咲良ー、ねー。嫌いじゃないなら付き合おうよ」

 ギューギュー抱きしめられて、困ってしまった。

「私の、何を知ってるのよ。どこが好きだってゆーの?」

「そんなの顔じゃん。咲良、カワイイ」

「顔? 顔しか知らないんじゃないの?」

「いいじゃん、顔も咲良の一部。良く顔より性格が大事ってゆーヤツいるじゃん? けど、一番目につく

のは、顔だよ。顔から好きになって、何が悪い」

 そういうの、ヘリクツって言うんじゃなかった?

「咲良、オレの顔キライ? コレでもオレ、学校じゃかなり人気あるんだよ。涼くんと付き合いたいって

女の子いっぱいなんだ。そんなオレと付き合えるの、嬉しくない?」

 それじゃあ、いっぱいいる女の子と付き合ってやればいいじゃない、と思ったが……。

「とりあえず。お試しでいいから付き合って」

 涼は咲良の体を解放すると、いきなり目の前で土下座した。

「とりあえず……でいいなら」

 断れなかった。

 咲良の曖昧な返事に、涼は思った以上に喜んでいた。





 バイトから帰ったとき、部屋の明かりが消えていたことに一瞬ドキンとした。

「陸?」

 まだ七時にもなっていないと言うのに、陸は咲良のベッドで眠っていた。

 とりあえず陸がいたことにホッとする。

 バイトを始めたばかりで疲れているんだろう。

 起こさないように気をつけながら、咲良は夕食の用意を始めた。

 今日のメニューはハンバーグだ。野菜かごから玉ねぎを取り出し、皮をむいた。まな板の上で半分に切

ってからみじん切りにした。

 今日の玉ねぎは、やけに目にしみる。涙を拭き拭き玉ねぎと格闘してたら、

「おかえり、咲良」

 目をこすりながら、陸が起きてきた。

「なんか、今日すっげー疲れてさ。ああ、なんだか目も痛い」

 それは玉ねぎのせいだ。

「咲良も疲れてるのに、俺ばっかり眠っちゃって…って、どうしたんだよ、何で泣いてんの?」

 涙を流している咲良を見た陸は、驚いたように咲良の顔を覗きこんだ。

「まさかバイト先で何かあったのか?」

「違うよ。これ、玉ねぎが目にしみただけ」

 エプロンで涙を拭いながら咲良は言った。

「心配した?」

「まあ。けど何でもないなら、いい」

 陸は言って、テーブルの上を片付け始めた。




 料理は咲良の担当だけど、後片付けは陸の仕事に決めてある。 今日も夕食が済むと、陸が食器をキッ

チンまで運んでゆく。

「あのさ、咲良」

 陸が食器を洗いながら言った。

「明日、竜輝(りゅうき)と夕飯食う約束なんだ」

「あ、私も。明日は……」

 そこまで言って、咲良は言葉を濁す。

「咲良も用事?」

「うん。バイト先の人と映画に行く約束したんだ。たぶん遅くなるから、陸には外食してもらおうって思

ってた」

「俺も竜輝に誘われたものの、咲良にひとりで夕食食わせるのってかわいそうだーとか思ってたからさ、

咲良も誘おうかって内心考えてたけど、それなら良かった」

 それなら、そのほうが絶対楽しいと思う。

 竜輝は、同じサークルの先輩で、陸の友達で面白い人だ。

「バイト先の人って、男?」

 陸が聞いた。

「うん。しつこく誘われちゃったからしょうがなく」

「乗り気じゃない?」

「うーん。そうでもないようなあるような」

「なんだ曖昧だな。嫌なら行くのやめれば?」

「でも、もう付き合うって言っちゃったし」

 携帯の番号を聞くのを忘れたのだ。行かなかったら待ちぼうけさせてしまうだろう。

「付き合ってるの?」

「あー、うん。彼の熱意に負けて、ちょっと強引にね。今日から付き合うことにしたの」

 流されるようにうなずいたんだ。

「熱意ねえ。…まあいいけど。最初からあんまり飛ばすなよ」

「飛ばすって?」

 咲良は首をかしげた。

「いきなりホテルとか行くなよってこと。誘われても付いて行くなよ」

 男はみんな下心があるんだ、と陸は言った。

 洗い物が終わって、タオルで手を拭きながら陸は咲良の傍に座った。

「みんなってことは陸もあるの、下心」

 陸をじっと見つめて、咲良は聞いた。

「俺は特別出来た男だから。大丈夫だってわかってんだろ? 今まで暮らして咲良になんかしたか?」

 偉そうに胸を張って威張っている。

「そうだね」

「…でも、咲良に彼氏が出来たんなら、こういうのも解消するべきなんだろうな」

 ふいに陸が言った。

「こういうのって、同居のこと?」

 咲良の言葉に陸はうなずく。

「やっぱ、自分の彼女が男と暮らしてるなんて、俺だったら嫌だな。きっとそいつもいい気しねーと思う

よ。解消だな、同居」

「行くところ、ないくせに」

 陸は、咲良の言葉を無視して立ち上がると、布団を出して床に敷いた。

「陸とのこの生活楽しいもん。出て行くことないよ。いればいいじゃん」

 咲良は陸の背中に向かって言った。けれど陸は答えてくれない。

 咲良は陸の傍まで行くと、顔を覗き込むようにしてもう一度聞いた。

「何で無視するのよ。楽しくないの?陸は」

 陸はチラッと咲良を見ると、すぐに目を伏せ大きなため息をついた。

「どうしたの?」

「なんでもない。俺やっぱり疲れてるんだな。悪い、もう寝る」

 陸は布団に潜り込んでしまった。

「変な陸!」

 咲良はわざと大きな声で、陸に言葉をぶつけた。



★第3話に続く
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