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宇宙いっぱいの愛 第3話


第3話





 涼と映画を見に行った帰り、夕食を食べるために、駅ビル内にあるカフェレストランまで

行くことになった。

 駅前にバスセンターがあって、その上がビルになっている。

 九階建てのそのビルは、各階ごとにいろんな店が入っているのだ。

 映画はあまり面白いとは言い難かったけれど、涼は映画館を出てからずっと楽しそうにはしゃいでいる

から、咲良も笑顔を作って答えた。

 店に入り、向かい合わせに座ってメニューを広げた。

「なに食おうかなー」

「私、カルボナーラ」

「決めるの早いな」

 目の前の涼がメニューから顔を上げて言った。

「これは? 当店おすすめのかぼちゃのタルト」

「夕食だぜ。そんなんで腹いっぱいになんねーよ」

 そう言いながら涼は、おいしそうだなって笑った。

 結局、涼も咲良と同じものを注文し、涼はデザートにタルトをひとつ頼んだ。

 パスタを食べ終える頃に運ばれて来たタルトは、白いクリームがふわふわした感じで

のっていて、すごく美味しそうだ。

 フォークを使って涼がタルトを半分に切っているのをじっと見ていると、その半分を取り皿に載せて、

咲良の前に置いて言った。

「半分ずつ食おう」

「食べたかったんでしょ? いいよ、全部食べて」

「いいから食えって」

 無理やり押し付けられたタルトだったが、口に入れるととてもふんわりと柔らかで、とろけそうに美味

しくて、幸せな気分になった。

「おいしい」

「そっか。良かった」

 目の前に座る涼の顔も、いつもよりも柔らかな笑顔になった。

 ほんのちょっとだけど、こういうのもいいかもしれないと咲良は思った。




「人間の三大欲って何か知ってる?」

 店を出て、一階に下りるためにエレベーターを待っているとき、いきなり涼が

変なことを質問してきた。

 咲良は答えず、怪訝な目を涼に向ける。

「一つ目が食欲。コレは今、満たされただろ?

で、二つ目が睡眠欲。やっぱり満腹になったら眠くなるんだ。そして三つ目が何だと思う?」

 咲良の反応を窺うような目で、涼が顔をのぞきこんでくる。

「食欲、睡眠欲と来れば最後は……」

 ホテルとか行くなよって言った陸の言葉が頭をよぎった。

「わかった?」

 面白そうに涼が聞いてくる。

「涼くん、誘ってるの?」

 そう言ったら涼は満面の笑みを浮かべた。

「やっぱり咲良はいいな。男を良く理解してくれてる。さすが大学生、大人の女って感じ」

 そんな言葉でほめられても嬉しくない。

 年上だからって簡単に抱かせてもらえると思ってるのかもしれない。

「私はまだ大人じゃないよ。未成年だし」

「えー。けど、17のオレに比べれば大人だよ」

「比べればね。でもたった二つだし、自分ではまだまだ子供だと思ってるもん。悪いけど涼くんの性欲、

満たしてあげられないから帰るね」

 ちょうど開いたエレベーターの中に、咲良はさっさと足を踏み入れる。

「ええーっ。帰るのかよー。けど、まあいっか、先は長いんだし。じゃ、送るよ」

 不満そうな声を出しながらも、それ以上しつこく誘ってはこなくて、ちゃんとアパートの前まで咲良を

送ってくれた。

「ありがとう、ここでいいから」

 じゃあね、と言って部屋の鍵を開けようとした咲良の肩を、涼が後ろからつかんだ。

「部屋に入れてくんねーの?」

「……入りたいの?」

「コーヒーくらい飲んでって、とか言えよ」

 ドラマの見過ぎなんじゃない? 

「悪いけど、一人暮らしじゃないから勝手に他人を入れられないの」

「嘘、マジで? てっきり咲良って一人で住んでるとばっかり──」

「残念でした。そう言う事だから、またね」

 笑顔でヒラヒラと手を振ったとき、向こうのほうから陸が帰ってくるのが見えた。

「あ、陸!」

「え……」

 涼が振り向いたと同時に、陸もこっちに気付いたようだ。

「一緒に住んでるって、まさかあいつ?」

 涼は咲良を振り返ると、怪訝そうに聞いた。

「うん。同じ大学の先輩。陸ってゆーの」

「男と住んでるのか?」

 涼の顔つきが見る間に曇ってゆくのを、目の前でヤバイと感じながらも、咲良は言葉

を止められなかった。

「それがどうかした?」

「どうかって、なんだよそれ」

 涼の戸惑いが手に取るようにわかる。

 そうしている間に、陸が二人のそばまで辿り着いた。

「例の彼氏?」

「うん。桜井涼くん。送ってもらったの」

「ふーん。カッコイイ彼氏じゃん。まあうまくやってくれ」

 言いながら陸は横目でチラッと涼を見ると、先に部屋に入っていった。

「嫌だな……」

 涼がつぶやいた。

「え?」

「嫌だって言ったんだ。咲良が男と一緒に住んでるなんて。好きな女が他の男と一緒になんて、

すっげー嫌だっ」

 涼は大声で怒鳴るように言った。

「嫌なら別れればいいじゃない。解消する気ないよ、陸との生活」

 無言で睨みつけるように咲良を見る涼に、負けそうになった。

「な、何よっ!」

 咲良も負けずに、大声で怒鳴り返す。

「何よじゃねーだろっ、オレよりアイツとの生活のほうが大事だって言うのかっ! オレは咲良の彼氏じ

ゃねーのかよ。何だよその態度。はっきり言ってバカにされてる気がする。頭にくるんだよっ!」

 一気に怒鳴りつけられて、咲良は言葉に詰まった。

 涼の言いたいことはわかる。

 でも彼氏だと言っても、何となく付き合っっただけで陸との生活を犠牲にしてまで続けたいとは思わな

いのも事実だ。

 もしかしたら本当に涼のこと、バカにしているのかもしれない。

「今日は帰る……。けど絶対嫌だからな。こんなの絶対認めねー。絶対別れないからなっ」

 そう言い残して涼は帰って行った。





「あーあ、疲れたよ~」

 部屋に入るなり、咲良はベッドに倒れこんだ。

「なんか揉めてたみたいだな。って無理ねーか。初日でいきなり同居がバレたんだから、彼氏もキツかっ

たよな」

 涼に同情するような言い方をしたのに、咲良はムカッとなった。

「何よ~! 私だってキツイんだからね。疲れた疲れた。陸、マッサージして?」

 咲良はベッドに仰向けに寝返った。

「さっきの今で、良くそんなことが言えるよな」

 呆れたように陸が言った。

「さっきのって? そんなことって何よー」

 冗談っぽく咲良は言ったが、陸の反応は違った。

「どこマッサージして欲しいんだよ」

 意外にも陸の顔が真剣なので、咲良も笑っている場合じゃないかもしれないと悟った。

「どこでも……陸の好きなとこ、触っていいよ」

 陸は一瞬、目を大きく見開いたけれど、すぐにさっきよりもっと真面目な顔つきになって、無言で咲良

のわき腹あたりに手を触れた。

「ひゃははっ! やめてー」

 くすぐったくて身をよじった。

「もうっ! 陸がくすぐるなら、私だってこうしてやるー」

 咲良も陸の身体中をくすぐりだした。

「うわっ、やめろって…ハハッ、ちょっ……」

 二人で、シーツをグシャグシャにしながら暴れた。

「ああっ、もうダメって……やめっって降参」

 ついに陸が涙を流しながら降参した。

「もう降参なのー、つまんないの」

「ってゆーか、咲良……おりてくれる?」

 ハアハア息を乱しながら、陸が咲良を見上げる。

 ふと気が付くと、咲良は仰向けに寝た陸の身体に、またがるような格好で座っていた。

「あ、ごめん」

 咲良が陸から放れようとした瞬間、

「咲良……」

 ふいに陸が、咲良の腕をつかんだ。

 下りろと言ったのは陸なのに、どうして腕をつかまれるんだろうと、首をかしげて陸を見ていると、そ

のまま腕を引っ張るようにして……。

「きゃっ」

 ベッドの上に倒された。

「油断大敵」

 今度は陸が咲良の上に乗っかった。

「ああん、もう。重いよ~」

 咲良は陸の体を両手で押しのけようとしたが、一瞬早く陸に手首をつかまれ、シーツにギュッと押し付

けられた。

「陸?」

 咲良を見下ろす陸の表情は、天井に取り付けた明かりが逆光になってよく見えない。

 だけど、笑っていないことだけはハッキリと感じられた。

「陸……痛いよ」

 咲良は急に陸が怖くなった。

 強く握られた手首。そのせいか指先がじんじんとしびれてきた。

「…俺だって…ちゃんと男なんだ。そんな風に無防備に体…さらされたら…」

 咲良から目をそらし、陸は唇をかんでいる。そしてゆっくりと目を閉じると、ため息とともにつかんだ

手首を放してくれた。

 咲良を解放した陸は、テーブルのうえからタバコとライターを手にとって、ポケットに入れた。

「ちょっと…頭冷やしてくる」

 振り向かないまま告げてから、陸は部屋を出て行った。

 咲良を押さえていた陸はいなくて、自由に動けるはずの体が何故か動かない。

「何…これ」

 陸の言葉を頭の中で反芻した。

「わかってるよ。陸が男ってことくらい」

 そんなの改めて教えてくれなくても、十分承知している。

 無防備にって言ったって裸さらした訳でもないのに、あんな風に怒られるのはふに落ちない。

「そっか。欲求不満なのかも」

 ずっと彼女と一緒に住んでいた男が、別れて急に一人になったんだ。

 そこに女がいれば、血迷ってしまってもしょうがないのかもしれない。

 咲良は自分に魅力がないのかと思っていた。だから陸は一緒に住んでも何も起こらないんだと思いこん

でいた。

「私でも女に見てもらえたってことよね?」

 でも、陸は出来た男だからちゃんと警告してくれたんだ。

「やっぱり陸っていい人だな」

 涼が考えるようなことは起こらない。

 だから陸との生活を解消なんかしなくてもいい。

 そう考えたら、さっき怖いと一瞬思った陸のことも、もう怖くないと思えた。






★第4話に続く
 
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