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宇宙いっぱいの愛 第5話


第5話




 大学中を探したけれど、陸の姿は見つけられなかった。

「ま、いっか。サークルに顔を出せば会えるよね」

 独り言を言いながら、サークルの教室に向かった。

「咲良ちゃん、こんにちは」

 途中で陸の友達、竜輝に出会った。

 陸よりずっと体が大きい竜輝を、咲良は見上げるようにして挨拶を返す。

「こんにちは」

「今からサークルに行くの?」

「はい。ちょっと覗いてみようかなって。竜輝先輩は?」

「おれは行かない。用事があるんだ」

 しばらく先輩と立ち話をした。

 そして、不意に聞かれる。

「その後、どう?」

「その後って?」

「一緒に住んでるんだろ? 陸と。もうやられちゃった?」

「やだな、先輩。すぐそっちの方に考えちゃって」

「だって陸は男だぜ? 男と女がずっと一緒に暮らしててさ、何もないなんて信じられない」

 先輩は、「で、真相は?」と再び咲良に聞いた。

「何もされてません。竜輝先輩、考えすぎです」

「そうか? だったらアイツ、珍しいヤツだな。どっか変なんじゃないか?」

「変で悪かったな」

 急に後ろから声がして振り返ると、陸が目を眇めて二人を見ている。

「勝手に人の噂してんなよ」

 陸は不機嫌そうにそう言うと、咲良と竜輝を追い越して行ってしまった。

「あーあ、怒らせちゃったな」

 竜輝が言ったけれど、陸が怒ったのはたぶん今のだけが理由ではないだろう。

「じゃ、咲良ちゃん。急ぐからまたね」

 竜輝は言って、サークルの教室とは反対方向に歩いて行った。

 竜輝を見送って、サークルの教室のほうを見た。

「はあ。会うのもツライかも」

 今、陸は咲良の顔を一度も見なかった。視線はずっと隣にいた竜輝に注がれていた。

 わざと避けられた。

 そんな気がした。

 きっと朝のメールのことを怒っているに違いない。

 でも、どうせ帰ったらあの狭いワンルームで、嫌でも顔を合わせるのだ。早いうちに仲直りしよう。

 そう決意して、咲良は教室に向かった。

 教室をのぞくと、やはり陸のほかには誰も来ていなかった。

 相変わらず、みんな不真面目だ。

 陸は椅子に座って、熱心に何かの本を読んでいる。きっと宇宙の本に決まっている。

 咲良は少しずつ陸に近づいた。

 本に熱中してるのか、陸は咲良に気付かないのか、本から顔を上げてはくれない。

 ──無視してるのかもしれない。

 咲良は思って、陸の背後まで辿り着くと、陸の読んでいる本をそっとのぞきこむ。そして書いてあるこ

とを声に出して読んでみた。

「木星は……引力が、すごく、強い」

 後ろにいる咲良に気付いてないはずがないのに、陸は振り向いてもくれない。

 やっぱり無視してるんだ。

 どうせ、誰もいないんだ。

「陸っ」

 咲良は思い切って、陸の背中におぶさるようにして抱きついた。

「うわあっ! 何だよいきなりっ」

 陸は余程驚いたのか、咲良の体を乱暴に振り払った。

「やっ、ひどい仕打ち」

 冗談っぽく咲良は言ったが、内心ひどく動揺していた。

 陸に払われたショックで、涙が出そうになってしまった。

「あ…いや、そういうつもりじゃなくて。…泣くなよ」

「泣いてないもん」

 涙が頬を伝っているんだ。泣いていることはわかっている。

だけど、認めたくなくて、わざと強がった。

「泣いてるだろっ。何なんだよもう…」

 はあっと陸が大きなため息をついたのに、またさらに落ち込んだ。

「いいよ。そんなに怒るなら帰る! 先に帰るからねっ、バイバイ」

「待てよ!」

 陸が咲良の腕をつかんで引き止める。

「ったくもう。咲良が怒ってたんじゃねーのかよ。怒ったり、怒らせるようなことしたり、泣いたり。咲

良ってそんなヤツだった? なんか最近の咲良、ちっともわかんねー」

「わかんないのは、陸だよ」

「は? 朝っぱらから変なメール送りつけてくるし、わかんねーのは咲良だろ」

 呆れたように陸が言う。

「だから無視したの?」

「休むって言ったくせに学校に来てるし……」

「来ちゃいけないの? だいたい先に陸が悪いことしたんだからね」

「なんだよ」

「飲み会なんかに行ったし、抱きついたしっ」

「酔って覚えてねーんだよ」

「覚えてなかったら何してもいいのっ!」

「咲良…、本当に覚えてないんだ」

 陸が申し訳なさそうに、息を吐いた。

「ごめん。覚えてないとは言っても、そんなに怒るってことは、相当嫌な思いをさせちゃったんだろ? 

俺、咲良に何した?」

「何って……」

 言えない。だってそれ以上のことは何もされていないんだから。自分が望んだように陸が行動しなかっ

たってだけで、自分勝手に怒ってるんだ。

「もういいよ。許すよ、陸」

 最悪だ。許すだなんて、傲慢な言い方をして、すべて陸が悪いかのように責任転嫁している。

「言えないようなことを、俺は咲良にしてしまったんだな」

「……陸」

 違うよ、そうじゃない。

 そう言わなきゃいけないのに、言葉が出てこない。

「一緒にいたら、またこんなことが起こらないとも限らないよな。ちょうどいい機会かもな。俺、咲良の

とこ出てくよ」

 じゃあまた明日ねって言うように簡単に、陸はあっさりと咲良に告げる。

「やだ。出てくって何よ。出て行ったって、行くところあるの?」

「あるよ」

「ないから、うちにいたんじゃないの?」

「咲良の好意に甘えてただけだ。もともと金がたまるまでのつなぎのつもりだったんだ。ちょっと予定よ

り早くなったけどさ、竜輝のとこだって泊めてもらえるだろうし。大丈夫、心配すんな」

 陸は咲良の頭をポンッと軽く叩く。

「咲良は彼氏、安心させてやれよな」

 じゃあな、と言って、陸は咲良を残して教室を出て行った。

「これで……終わりなのかな」

 あまりにあっけないサヨナラだ。

 咲良はそこにあった椅子に、倒れこむようにして座った。





 陸がいなくなった部屋は、とても静かで、とても寂しかった。

「快適だなー。陸のイビキって時々すっごいうるさくて迷惑だったんだもん」

 大きな声で、自分自身に言い聞かせるようにして言った。

 今まで、そこに置きっぱなしだった陸の荷物がなくなった。

「荷物、散らかって邪魔だったもんっ」

 すっきりと片付いて良かったよ。

「良かった良かったー」

 笑おうとするのに、笑えなかった。




 次の日、サークルの教室をのぞくと、陸はちゃんといた。

「今日もひとりで活動してるの?」

 咲良が声をかけると、陸は気付いて笑顔をくれた。

「ハハッ、相変わらずだよ」

 咲良は陸の隣に座ると、陸が読んでいた本を見た。

「何の本、読んでるの?」

「宇宙の中における地球の位置の謎」

「謎?」

「そう。宇宙の中にはたくさんの星があるだろ? 近いところでは火星とか金星。けど、どの星も生物が

すむには条件が悪くて無理なんだ。地球だけが生物の住める唯一の星なんだよな」

 咲良はうなずきながら聞いた。

「生物が生きていくのに、絶対必要なのが水なんだ。地球の海と陸の割合って──」

 陸の話は、それからかなり長く続いたけれど、本当に良く知っているし、語るときの陸の目は、キラキ

ラしている。

 宇宙が本当に好きなんだなあ、と思ったら宇宙にちょっとだけ嫉妬した。

「本当に謎だよね。地球だけが特別な星で、そこに私たちが住んでるのってスゴイよね」

「さすが咲良。俺の話についてこれるのって、咲良だけだ」

 陸に喜んでもらえたことが、すごく嬉しかった。

「昨日、つい竜輝に同じように話してたんだけど、もういいよーとか途中で言われてさ、がっかりしてた

んだ」

「そっか。じゃあ戻ってくればいいよ。いつでも話を聞いてあげるよ」

「え……」

 陸は目を瞬いた。

「昨日、淋しかった。陸のいない部屋は広すぎて、眠れなかった。睡眠不足になっちゃうよ。帰って来て

よ、陸」

「何言ってんだ。彼氏に来てもらえばいいだろ」

 そっけなく、陸は言った。

 陸が出て行かなければならない状況を作ったのは、咲良自身だったのだ。

 咲良が、涼と付き合わなければ。

 咲良が酔っ払った陸のしたことを責めなければ。

 そして、あんなメールを送らなければ、まだ陸は部屋にとどまってくれていたかもしれないのだ。

「そのうち慣れるだろ? もともと一人で住んでたんだし。そのうち俺なんかいないの

が、当たり前になる」

 口を開いたら、泣いてしまうんじゃないかって思った。

 咲良は、陸にひとこと「じゃあね」と告げると、逃げるように教室を飛び出した。

 振り返っても陸は追いかけては来ない。

 


 その日以来、咲良はサークルに顔を出すのをやめた。




 陸が出て行ったことを話したら、涼は喜んだ。

 けれど、そんな涼を見て、咲良は腹が立ってしょうがなかった。

 涼と付き合わなかったら……。

 恨みがましく、涼を見てしまう。

「咲良。あのさ、オレたちそろそろ……」

 咲良の部屋に、涼が遊びに来ていた。

 彼氏に来てもらえばいいって言った陸の言うとおり、呼んでみたのだ。

淋しさが埋まると思ったからだ。

 ベッドに横並びで座っている。

 涼が何を言いたいのか、咲良にはわかってる。

「咲良」

 涼の腕が肩に回る。その手に力がこもったと思ったら、もう涼に押し倒されていた。

 見上げる涼の顔は、咲良に優しく微笑みかけてくれている。

「好き……さくら」

 涼の唇が触れる瞬間、そっと目を閉じた。

 初めて涼に抱かれたけれど、ちっとも集中出来なかった。

 
第6話に続く
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