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宇宙いっぱいの愛 第6話


第6話





 それ以来、会うたびに涼は咲良の身体を求めた。

 これが、涼の言う「付き合う」と言うことなんだろうか。

 咲良はそれに大人しく応じてはいたが、心はいつも可笑しいくらい冷めていた。

「咲良。あの、慣れてねーのかもしんないけどさ。気持ちよくない?」

 ベッドの中で、ふいに涼が言った。

「声とか、もっと出して?」

「……出せない」

 あれこれ要求されても出来ない。

「そっか。わかった。ごめん、変なこと言って」

 涼の気持ちに、ちゃんと答えてあげられない自分。

 まだ、咲良は涼を好きになれていないんだと悟った。

「私も……ごめん」

「咲良が謝らなくてもいいんだ。オレが下手なんだから」

 もっと研究するからな、と言われたって困る。

 それしか研究することがないのかって思った。

 そんなことよりも、もっと話をたくさんして、お互いのことを分かり合って……。

 じゃなきゃ、いつまでたっても、気持ちが熱くならない気がした。

 ちょうどその時期、バイトのシフトが変わって、更衣室で涼と会う機会がなくなった。

 誘われれば応じるけれど、自分から会いたいとは思わなかった。

 しかも会うたびに気持ちが冷めてゆくのだ。

 もう、終わりにしたい。

 そう思いながら、涼に言えないまま1ヶ月が過ぎた。

「最近ずっと具合、悪そうだな」

 咲良の部屋に来ている涼が、ベッドに寝たままの咲良を心配してくれる。

 それが、ひどく重荷だった。

「それって体の具合が悪いんじゃなくて、精神的なストレスじゃないのか?」

「……頭が痛いの」

「そうか? いつも頭が痛くなったり、胃が痛くなったりさ、すっげーツラそうだし、

オレといるのが……嫌?」

 涼といなきゃいけないって、言い聞かせていた。

 好きにならなきゃいけないって、頑張っていた。

 会いたくないのに、我慢して会っていた。

 それが精神的に自分を追い詰めているなんて、咲良は思っていなかった。

「誘うのはいつもオレのほうだし、電話だってオレからばっかだし。会ってもこんな風なんだ。

咲良がオレを好きじゃないってことくらい、わかるよ。最初から今日まで、咲良はオレが一度

も好きじゃなかったんだっ」

「怒鳴らないでよ。頭が痛いって言ったでしょ……」

 頭を抱えて、ベッドにもぐりこんだ。

「嫌なら嫌だって言ってくれていいよ」

 静かな口調で涼は言う。

「……嫌」

 聞こえないくらい小さな声で言った。

「聞こえるように……言えよ」

 咲良はゆっくり体を起こした。

 涼を見ると、涼も咲良をじっと見ている。

 寂しそうな目。それでいて、キツイ眼差しだ。

「嫌いなの。嫌い。涼くんなんか大嫌いっ!」

 こんな言葉が自分の口から出るなんて、咲良は驚いた。言われた涼のほうも、大きく目を見開いたま

ま、しばらくの間何も言えないようだった。

「……んだよ、それ……」

 震えるような声だ。

「涼くんのせいで……陸が出て行ったの。涼くんと付き合ってなかったら、陸は今もここにいたの」

 涼はぼう然と咲良の顔を見ている。何か言おうとしているようだけど、きっと言葉も出ないんだろう。

「嫌なんだもん。会いたくなかった。しょうがないじゃん。それでも涼くんが、会いたい会いたいって言

うから、無理して会ってあげてたのに」

「そんなに嫌われてるとは……思わなかったな」

 怒っているような、泣きそうな。そんな顔を涼はした。

「私もこんな嫌いになるとは思わなかった。涼くんと付き合ってなかったら、こんな嫌な自分に

ならなかった」

「咲良は、全部オレが悪いって言うのか?」

「そうよ。涼くんに縛られてるせいで、無駄に時間を過ごしたじゃない。どうしてくれるのよ! 返して

よ。アンタと過ごした時間。1ヵ月を返してよっ!」

 咲良は、自分でもわかっていた。

 言っていることはめちゃくちゃだし、涼を傷つけていることもわかっていた。

 けれど言葉を止められなかった。

「もういいよ。それ以上聞きたくねーって。ひどいよ、咲良。そんなこと言うなんて、信じらんねーよ」

 涼は咲良に背を向けた。その背中に向かって、咲良はさらに言葉をぶつける。

「聞きたくないなら、帰ればいいじゃんっ」

「わかったよ、帰るよ。そしてもう絶対会わねー。バイトも辞めてやるよっ。咲良とは一切関係ないから

な、こっちこそおまえなんか、大嫌いだっ! 別れてやるから、陸ってヤツとまた一緒にっ……暮らせば

っ、いいだろっ」

 最後のほうは涙声になっていた。

 涼は咲良に顔を見せないまま、部屋を出て行った。

「……ごめんなさっ……」

 いなくなった涼にはもう届かないけれど、ドアに向かって咲良は謝った。

 涼を傷つけた。

 会いたいと言ってくれた涼に、好きだと言ってくれた涼に応えてあげるのが、良い事だと思っていた。

 涼は楽しそうにしていたし、間違ってないと思ってた。

 ──本当に、楽しかったんだろうか。

 涼はいつも笑っていた。でも、それは心からのものだったんだろうか。

 もしかして、涼も無理していた?

 咲良の顔色を窺って、無理して明るく振舞ってくれていたんじゃないだろうか。

 でも……。

 だけど、やっぱり好きじゃないのだ。

 どうして、こんなに陸が出て行ったことに拘っているのか。どうして陸にそっけなくされて、傷ついて

しまったのか。

「私……陸がいいんだ」

 好きなんだ、と思った。

 陸の話があんなに面白いと思ったのは、宇宙が好きなのはもちろんだけど、きっとそれ以上に陸が好き

だからなのだ。

 いつから?

 ……そんなのどうでもいい。

 いつからか知らないけれど、咲良は陸が好きだと気付いた。


 
 気持ちに気付いたら、陸に会いたくてたまらなくなった。

 だけど、この一ヶ月。まともに陸を見ていなかったし、会話など一言もしていない。

 サークルにもご無沙汰だった。

 会うのは緊張するけれど、会いたい気持ちのほうが勝っていた。

「よし。行こう!」

 決心して、咲良は一ヶ月ぶりにサークルに顔を出した。
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