スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

宇宙いっぱいの愛 第8話


第8話




 次の日、咲良はサークルに顔を出した。

 教室には陸しかいなかった。

 竜輝に煽られ、勇気を出してここまで来たものの、咲良に気付いた陸の態度にくじけそうになる。

「あ、相変わらず淋しいねっ」

 声をかけるが、陸は咲良を見ようともしない。

 やっぱり嫌われてるんだろうか。

「あのさ、陸」

「俺なんかに構ってる余裕ねーんだろ。彼氏と別れるほどに好きなやつがいるんなら、そっちを頑張れば

いいだろ」

 素っ気ない言い方に、さらに落ち込みそうになる。

「だって、いくら私が好きだって思ったって、伝わらないんだもん」

「告白したの?」

「……それはまだだけど」

「じゃあ、どうして伝わらないってわかるんだ」

「わかるよ。その人の言葉とか態度とか、私に対する気持ちが全然見えないっ!」

 陸が眉をひそめて咲良を見た。

 一瞬目が合ったけれど、すぐに陸は咲良から目を逸らす。

「俺に怒るなよ」

「だって……」

 その人は、陸なんだから。

 そう言えばいいだけだ。だけど、どう見ても陸の気持ちが自分にあるとは思えなかった。

「咲良が誰を好きなのか知らないけどさ、好きになってもらうの待ってるだけじゃ、いつまでたっても片

想いのままだぜ。ツライだろ? 俺と住んだり彼氏を作ったりして気持ちを紛らわそうとしてるのかもし

れないけどさ、そんなん逃避だろ。現実から目を背けてるだけじゃんか」

 そうやって言うのは簡単だよ、陸。所詮他人事だもんね。

 わかってるよ。告白すればいいことくらい。

 それが簡単に出来ないから悩んでるんだ。

「好きなやつに気持ちが届かない淋しさは、他の誰にも埋められねーんだよ」

「……なによ、わかったようなことばっかり言って」

「わかるよ。俺だって好きな女、いるし」

 どこか別の世界の言葉に聞こえた。

「い、いるの? 陸……好きな人」

 陸は読んでいた本をパタンと閉じた。

 そして咲良をじっと見据えると、ハッキリ言った。

「いるよ。いるから片想いのツラさがわかるんだ」

「陸……」

「だけど、その女には好きなヤツがいるんだ。最初から振られてんだよ、咲良より可哀相だろ? 俺」

 陸にじっと見つめられて……違う、睨まれてるんだ。

 好きな人からこんな風に軽蔑するように見られたら、もうどうしようもなくなる。

 ほんの少しの勇気さえ、音もなく壊れていきそうだ。

「俺と同居してさ、俺に逃げてんのかもしれないけど、その男の身代わりにされたくねーんだよな」

「そんなんじゃ、ない……」

 陸の言葉が咲良の胸に深く突き刺さった。

 今にも泣きそうになるのを必死でこらえる。

「その男に告白して振られたならともかく、言ってねーんだろ? 告る勇気もないくせに、他人を巻き込

むな」

 絶対泣かないと頑張ったけど、無理だった。

 ぎゅっと目をつぶった拍子に涙が落ちた。

「ごめん、泣かせた」

 陸が謝った。

「言うだけ言っといて、今さら謝らないでよ」

 咲良は涙をたくさん浮かべたまま陸を睨んだ。

 陸は一瞬、戸惑いを見せる。

「俺は咲良のために言ったんだ。咲良が現実逃避なことばっかやってるから……」

「何が咲良のためよっ! 嫌いなんでしょ、私のことなんか。嫌いなのに干渉しないでよ」

「嫌いなんか言ってねーだろ? それになんだよ、そっちが俺に逃げてるんだろ?」

 ふに落ちない、と言うような表情を陸はした。

「嫌いだなんて、いつ言った?」

「だって、竜輝先輩が私のこと好きかって陸に聞いたとき、陸は、あいつ彼氏いるぞって言っただけだっ

たし、竜輝先輩が私に告白するって言ったときも、勝手にすればって言ったじゃん。どうでもいいんでし

ょ、私のことなんか。嫌いだって言ってるようなものじゃない?」

「どうでもいいなら何も言わないだろ。こんな風に会話すんのも、嫌だろ」

「じゃあ、嫌いじゃないってこと?」

「まあな」

「……じゃあ、好きってこと?」

 理屈からすれば嫌いの反対は、好きってことになる。

 けれどこう言う場合、単純にそうはいかないことくらい、咲良にだってわかる。

 だけど、この際どうでもいい。

 咲良は覚悟を決めた。

「嫌いじゃないなら好きってことでしょ? ねえ陸、答えなさいよっ」

 咲良は陸の腕をつかんで揺さぶった。

「なんだよ、放せよっ」

 陸は咲良の手を振り払うようにして、腕を上げた。

 咲良は振り払われた手を、ぎゅっと握り締めると、陸に向かって殴りかかった。

「陸のバカーッ!」

「ちょっ……」

 陸は咲良の手首をつかんでかわした。

「なんだよいきなり。何をそんなに怒って……」

「陸が悪いんだからっ!」

 もうやけくそだった。

「陸のばかー」

 陸につかまれた手を振り払おうと、思い切り暴れる。

「何だか訳わかんねーんだけど。ってゆーか、落ち着けよ咲良」

「もう嫌だっ……」

 陸にとっては、いい迷惑だろう。

 訳がわからないって思うのも当たり前だ。

「私……」

 だから、陸に伝えよう。

「陸が……私は、陸が……好き」

「……は?」

「そんな呆けたような顔しないでよっ」

「んなこと言ったって。咲良、言う相手間違ってるぞ。俺は咲良の好きなヤツじゃないだろ。俺に逃げる

なって言ったはず……」

「だから、陸だよ」

「え?」

「私の好きな人って、陸だよ。最初から今の今までずっと陸なんだからっ!」

 ハッキリ伝えた。

 目からは涙がボロボロこぼれた。

「咲良……」

「もうガマンできないよ。好きだよ、陸」

 咲良は自分から陸の唇にキスをした。

「さく……」

 陸の身体がびくんと震えた。

 だけど陸は咲良を押しのけようとはせず、やがて咲良の背中に腕を回してきた。

「咲良……」

 きつく身体を抱きしめられて、キスが深くなる。

 いつも近くにいたのに、触れることのなかった陸とキスしているなんて、信じられない気分だった。

 咲良が陸の腕をぎゅっとつかんだ瞬間、唇が放された。

 咲良はうつむいて、大きく息を吐いた。

「ごめん陸。急にこんなこと……」

 言ってしまってから、咲良は急に身体の力が抜けてしまう。ズルズルとその場に座り込んでしまった。

「ちょっ、大丈夫か、咲良っ」

 陸が支えてくれなかったら、そのまま床に倒れてしまって、きっと二度と顔を上げられ

なかっただろう。

 穴があったら入りたい気分だった。

 いくら竜輝に、押し倒せって言われたからって、本当に自分からこんな風にキスしてしまうなんて。

「咲良。あの、今の……本気なのか?」

 陸が咲良の身体を支えたままの格好で、咲良の顔を覗き込むようにして聞いている。

「なにが?」

 なんだっけ。

 すっかり頭が真っ白だ。

「咲良は、俺が好きなのか? 咲良の好きなやつって、俺のことだった?」

「……うん。陸が好き」

 うなずいたまま顔が上げられない。

「ごめんね、陸」

「なんで、謝る?」

「だって、陸は私のこと、何とも思ってないのに。なのに無理やり強姦しそうになった」

「咲良」

 陸が咲良の身体を抱き寄せた。

「何よ。同情?」

「違うよ。そうじゃない」

 抱きしめた格好のまま、陸の手が咲良の髪を撫でている。

 同情だとしても嬉しかった。

 何するんだって突き飛ばされないだけ、ずっと良かった。

 目を閉じて、陸の胸に耳を当て、陸の早い鼓動を聞いていた。

「だいたい、咲良が彼氏なんか作るのが悪い」

「……え?」

「俺のほうこそ、咲良は俺のことは友達としか思ってないと思ってたよ。彼氏作るし、他に好きなやつが

いるなんて聞けば、それがまさか自分のことだとは思わないだろ、普通。よっぽど自惚れてなきゃ、無理

だって」

「自惚れてよ。陸なんだから」

「……なんだよ、そーゆーことは早く言えよ」

 陸が咲良の身体を少し放す。そして咲良の頬に手を触れた。

「陸?」

 ゆっくり顔を上げると、陸の微笑が咲良を見ていた。

「咲良……。俺、咲良とは無理だって決め付けてたから、自分の気持ち……封印してた」

 封印?

 咲良は瞬きするのも忘れて、陸をじっと見つめていた。

「咲良がいつも料理を作ってくれたり、俺の話を嫌がらずに聞いてくれたりしてさ、一緒にいて心地よか

った。ずっとあんな風に続けて行きたかったけど、咲良は彼氏を作っただろ? 結局、俺の片想いだった

と思ったよ」

「……片想い?」

「うん。咲良が彼氏といるほうが楽しいなら、応援しなきゃって思った。正直、あのまま一緒にいたら、

いつか無理やり咲良のこと襲ったかもしれない。だから部屋を出たんだ。早く咲良の気持ちを知ってた

ら、俺のほうから告白したのに」

「陸……」

「咲良が受け止めきれないくらい、俺の気持ちは大きいよ。ずっと好きだった」

 


 竜輝が言ってた言葉を思い出す。
 
 ──大丈夫。きっとうまくいく。 

 ──上手くいく可能性もゼロじゃないと思うよ。

 ──陸はいきなりで躊躇(とまど)ってただけだ。

もう一回、咲良ちゃんが真剣に言えば、聞いてくれるよ。
 
 本当だった。
 
 さすが陸の友達だけあって、ちゃんと陸の気持ちも気付いていたってことだ。

「サークル活動中だってゆーのに、俺たち何やってんだろ」

 ふいに気が付いた、と言う顔で陸は言った。

「じゃあ、星空研究会らしく、告白する」

 やっと咲良も落ち着いてきて、こんなことを言える余裕が出てきた。

 陸の気持ちが分かったんだ。

 まさかの両想いだったんだ。

 何を言っても受け止めてくれる。

「ものすごく広くて大きな宇宙のなかで、陸に出会えたことは、すごい運命だと思う。そして好きになっ

て、好きになってくれたことは、さらにすごい運命だよ。果てしなく広い宇宙の、無限の大きさに負けな

い愛。私の愛を陸にあげる」

「じゃあ、俺も咲良の告白に答えるよ」

「うん。言って」

「広大な宇宙から見れば、チリみたいにちいさな俺たちだけど、生きてるってことはちゃんと理由がある

んだ。それが何なのか俺たちには全部知ることは出来ないかもしれない。だけど、今わかったことがひと

つある。俺は咲良を愛するために生きてるんだってこと」

「私もだよ、陸。私のすべては陸に向かってる。宇宙規模で考えれば小さな愛かもしれないけど、いつか

私の愛で宇宙を埋めつくしたいよ」

「咲良の宇宙いっぱいの愛、俺が独占?」

「私も陸の愛。独占する」

 陸と咲良は顔を見合わせ、どちらからともなく唇を合わせた。

 陸の腕に抱きしめられて、咲良はそのぬくもりをかみしめていた。

 やっと想いが通じ合った奇跡の瞬間を、信じられない気持ちで味わっていた。


次回、最終話に続く。
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 BLOG TOP 


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。