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恋にとどくまで~苺花と大和(5)

苺花





数日後、私は雅人の部屋にいた。

梨々からの電話で、雅人が倒れたと知らされたのだ。

うわ言で、私の名前を呼んでいたらしい。

目の前のベッドで目を閉じている雅人の顔は、青ざめていて、やけにやつれて見える。

 私と別れた後、まともに休みも取らず、仕事に没頭していたと聞かされた。

 過労だった。

 食事も満足に摂らず働いていた雅人は、かなり痩せてしまっていた。

電話の向こうで梨々は、涙混じりの声で、私にお願いしてきた。

『もう一回、やり直してあげて。雅人さんは苺花がいなきゃダメなんだと思うの』

 お願いって頼まれたからと言って、いいよとはうなずけない。

 だって、雅人と寄りを戻したって、気持ちは大和にあるんだから、きっとまた同じように喧嘩して別れ

ちゃうよ。

「……苺花……」

 目を開けて、雅人が私に手を伸ばす。

「手を……」

「え……」

「手を握ってくれないか」

 手が触れた瞬間、びっくりした。

 雅人の手が、ひどく冷たかったのだ。

「もし、僕が……このまま死んでしまうとしても、苺花は大和くんを選ぶだろうね」

 急に死ぬなんて言葉を比較に出されても困るよ。

「死なないよね?」

「それじゃあ、答えになってない」

「……わかんないよ、そんなの」

 本当はわかってる。大和を選ぶんだってこと。

 でも、こんな状態の雅人に、言えるはずがなかった。

「喧嘩別れだっただろ。後悔ばかりが大きくて、なかなか別れを受け入れられなかった。だけど、別れを

先に口にしたのは僕のほうだし、あんな夜中に苺花を追い出したのも僕だ。今さらなかったことにしたい

なんて、言えるはずがないだろ?」

 雅人は、一旦言葉を止めると、ベッドから起き上がろうとする。

「寝てたほうがいいよ」

「いや、起きたいんだ」

 辛そうに顔を歪めながら、私の手も借りずに雅人は起き上がる。

「忘れるために仕事に逃げた。けど、無理だった。倒れて心細くなって、一番に苺花に会いたくてたまら

なくて……」

 雅人がうつむき、今にも泣きそうに声を震わせている。

大人のくせに、男のくせに、泣くなんて。

 いつもならきっと、そんな言葉を雅人にぶつけていただろう。

 だけど、そんな言葉は、今の雅人には言えない。

 だけど、もう一度やり直そうとも、言ってはいけないのだ。

「私の心は……ごめんなさい、大和にしかあげられない」

 冷たいようだけど、ちゃんと伝えなきゃいけない。

「もう、無理……なんだな」

「別れ、受け入れて?」

 すぐには答えられないんだろう。雅人はしばらくの間、何も言わずに視線を宙にさまよわせていた。

 考えてくれているんだろうか。

「苺花、最後にお願いがあるんだ」

「お願いって?」

「抱かせて?」

 今度は私が言葉に詰まる番だ。

「何言ってんのっ。そんな身体で無理よ」

「元気だったらOKって言ってるように聞こえた」

 雅人は少し笑いながら、私の表情を窺うように見た。

「勝手な解釈しないでよね」

「キスなら体力いらないか」

 さっきからずっと握られたままの手は、温かさが戻ってきている。

 ぐいっと引かれ、雅人に抱きしめられそうになるのを、咄嗟にかわした。

「やめてよっ!」

 しかも反対側の手で、雅人を突き飛ばしてしまった。

「ダメなの。無理なの。今までとは違うの! 大和の片想いがやっと終わったのよ。もう誰とも付き合わ

ない、大和しか見ないって決めたんだから邪魔しないで!」

 自分を好きだと言ってくれる人に対して、今までも散々ひどい言葉で罵倒して切り捨ててきたんだ。

それで殴られたこともあったし、危ない目にあったこともある。

 好きじゃなかったんだから、そんなに良心は痛まなかったのに、雅人の悲しそうな表情を前にして、

何故だかひどく胸が痛んだ。

「ごめんね、雅人」

 それはきっと、同情的なものだと思う。

 病気で弱くなっているから、傷つけることが辛いと思うだけ。

 だからいくら胸が痛くなったからと言って、雅人の気持ちを受け入れることは出来ない。

「雅人は……大和じゃないんだもん」

 そう言ったら雅人は目を伏せ、「わかった」と小さく呟いた。



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