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恋にとどくまで~苺花と大和(24)

苺花



 普通のシティホテルの前にタクシーは止まった。

 大和がお金を払い、先に降りる。

 私は、身体が固まったように動けなかった。

「苺花、降りなきゃ」

 大和が車内を覗き込むようにして、私に言った。

 大和とは別の視線を感じて、チラッと目を上げるとミラー越しに運転手と目が合った。

 その目が好奇心に満ちているような嫌な気がして、それから逃れるようにして車を降りた。

 大和の前に立った瞬間、背後でドアが閉まった音にドキンとする。

 振り向いて、行ってしまうタクシーをじっと見てしまう。

 ああ、タクシー行っちゃった。どうしよう、どうしよう。

「空いてるかな」

 独り言なのか、私に聞いてるのかわからない大和の呟きを、聞こえない振りでやり過ごす。

「行ってみるか、苺花」

 ふいに手首をつかまれ、引っ張るようにして大和はホテルの入口に向かおうと歩き出す。

「や……待って、嫌だ」

 身体が勝手に抵抗する。

 足を踏ん張るようにしていると、大和が怪訝そうな表情で、私をじっと見た。

「嫌だ? 何で? 苺花が行きたいって言ったんだろ?」

「い……言った……かなあ?」

「とぼけんなよ。言っただろ。だからこうして──」

「大和はどうなのよっ!」

 私が行きたいと言ったから、しょうがなく来てやったんだって言うニュアンスを感じたのだ。

 それじゃあ、今までと同じだ。

 私の言う通りに、しょうがなく、同情で付き合ってくれるんじゃダメなのだ。

 せっかく大和がその気になっているかもしれないけれど、そこに愛がないのは、嫌なんだ。

 私のことを、好きじゃなくても、抱いてもらえるならいい。とは思えない。

 いろんな男の人と身体を重ねてきたくせに、今さらって思われるかもしれないけれど、

特別なんだもん。

 大和は、私の特別。

 他の男みたいに、軽々しく私に触れちゃダメなんだから……。

「椎名が……」

「椎名くん?」

 大和の口から出たのは、予想もしてなかった椎名の名前。

「うん。今日、苺花に逢うって話したんだ、バイトの休憩中に」

 大和は私から目をそらし、気まずそうに目を泳がせている。

「俺さ、苺花のこと、椎名に相談したんだ。この前のこととか、いろいろ。そしたら……」

 大和は一旦、言葉を止めて、ホテルを振り返った。

「やってみたら、わかるんじゃない? って、椎名が言うんだ」

「やってみたら?」

 何を? とは聞くまでもない。

「俺、自分の気持ちが良くわからないんだ。苺花のこと、嫌いじゃないし、むしろ好きかなあって思うん

だけど、それが恋愛の好きなのか、友達としての好きなのか、曖昧でさ。それでも、この前苺花に追い返

されて、かなりショックだったし、あのままもう会えないのかと思ったら、悲しかったし……」

 大和は、こっちを見ないまま喋り続けている。

 ずっと、ホテルに目を向けたままだ。

 どんな顔をして言っているのか、見たかった。

「私が好きなのっ?」

 冗談っぽく、勢いに任せて思い切って聞いた。

「ねえ、大和!」

 大和の頭をつかむようにして、無理やりこっちに向かせた。

「痛いじゃん、乱暴すんなよっ」

 大和に手を振り払われる。

 だけど、大和は私を見てくれた。

 その目は、怒っているのでも、笑っているのでもなく、真剣な眼差しに見えた。

「言ってよ。ねえ、言って。友情なの?」

 確かめるように、私も真剣に大和に聞いた。

「たぶん、愛情だろって椎名が言うんだ」

「愛情? そう椎名くんが言ったの?」

「そう。そう言ったんだ。そうじゃないと、苺花のことなんかほったらかすだろうし、そんなに気にしな

いだろって」

「気にしてくれてたの?」

 そうだったら嬉しいんだけど、でもそれは椎名が言ったから、そう思ってしまっただけであって、大和

がそうだって気がついた気持ちじゃなくて……。

「苺花のこと、前は単純に友達ってしか思わなかったんだけど、いつの間にか、だんだんわからなくなっ

てた。苺花が、他人に迷惑をかけるのを止めたいと思ったし、困ってるときは、頼ってくれてもいいと思

ったし、苺花の気持ちを椎名とか梨々とかが代わりに言ってくれたし、苺花の両親だってだし。だんだん

わからなくなってたんだけど、今日、椎名があんな風に煽るからさー」

「椎名くんに煽られて、勢いだけでここまで来たっていうことなの? 大和の気持ちはどうなのよ。大和

は確かめるだけのためにここまで来て……」

「そうなってもいいかもって、思ったのは本当」

 素っ気なく、大和が言った。

「苺花、別に初めてじゃないし、俺と何回もホテル行きたがってたしさ、まあ、いいかなって」

「……まあ、いいかなって?」

 ショックだった。

 確かめるためだけに、ここまで来たんだ。

 別に、初めてじゃないしって……。なにそれ。

大和は、確かめて私と寝てみて……。違ったらどうする気だったんだろう。

初めてじゃないんだし、傷つかないとでも思った?

 落ち着こうとするけれど、体が震えてしまう。

 これは、怒りだ。

 怒りで、身体が震えているんだ。

「寝てみてやっぱり友情だったら、どうするつもりだった?」

「それは……」

「そこまで考えてなかったんでしょ?」

 思い切り、軽蔑をこめた目で大和を睨んでやったら、大和はまた私から目をそらした。

「ごめん、苺花。苺花が冗談で言ってるのはわかってたんだ。高級ホテルに行こうって。で、椎名が言っ

たとおりに確かめるチャンスかと思って、利用しようとした。それは悪かったと思う。だけどさ、だけど

苺花、俺は──」

「もういいよ。大和のバカっ!」

 大和が全部言い終わらないうちに、大和の言葉をさえぎり、大和の身体を思い切り突き飛ばした。




★大和のバカ!ってところで続くのです。
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