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恋にとどくまで~苺花と大和(30)

苺花



椎名は大和の友達だし、バイト先でも顔を合わせるんだし、私が椎名の家に

泊めてもらっていることは、たぶんすぐに大和に知られてしまうだろうと思っていた。

知られて欲しかった。

そして、心配になった大和は、椎名の家まで私を迎えに来てくれる。

そんな思いが私の頭の中にあった。

案外早く会えてしまって、ちょっとだけ拍子抜けだったけれど、嬉しい気持ちは否定しない。

ただこの場合、迎えに来てくれたんじゃなく、偶然会ってしまっただけで、感動の再会ではない。

つまんない。

つまんないけど……。

「送ってくよ」

どうやら大和は機嫌が悪いらしい。声が怖い。

それはそうだろう。

さっきから嫌なことばかり言ったんだ。

椎名の車の悪口も言ったし、大和に対しても背を向けたこんな態度を取っているんだから。

動きづらい車のシートから体を起こす。

まっすぐに座り直して、大和にチラリと目を向けた。

「このまま……送られちゃうの?」

大和はじっと前を向いたままハンドルを握っている。

事故らないように必死なのか。それとも怒って無視されているのか。

たぶん怒っていると考えるほうが妥当だよね。

自分の態度や言葉を多少反省しつつ、大和の横顔を見つめた。


高校生の頃から、大和の横顔ばかり見てきた。

梨々を見つめている大和の横顔。それは私にとって見慣れた顔で、正面から

向き合って、目が合う大和より「大和」なのだ。

この顔が好きで、ずっと見ていた。

時々こっちを見ることもあったけれど、恥ずかしくてすぐに目をそらしていた。

しかも思い切り可愛くないやり方で、高飛車な態度で「ふんっ」なんてやっていた。

私が大和を好きなんて、誰ひとり気がつく人はいなかったから、鈍感な大和が

私の気持ちを知る確率は、きっと0%だったに違いない。

だけど…。

やっぱり好きだな、この横顔……。

「送る」

無愛想に大和が答えた。

「そっか。送られるのか。あ、そうだ、送り狼になっちゃう?」

「何考えてんだ。バカ」

「だよね。狼になんかなれないんだよねー」

大和が試しにやれるような人じゃないことはわかっていた。

さっきだって、試しに抱かれるのかと思ったらメチャクチャ腹がたったけれど、

冷静になって考えてみれば、部屋に入ったところで大和はきっと後悔したと思える。

勢いでやれるなら、そういう機会は何度かあったのだ。

私が「嫌だ、やめて」とでも言えば大和はやめたに違いない。

そういう人。そういう人だから好きになって、そしてずっと諦めきれない。

自分の外見とかエッチの上手さとかに自信満々な、偉そうな男よりはずっとずっといい。

だって、ひとりの女の子を大事にしてくれそうだから。

大和の大事な「ひとり」になりたいな。

「その辺で降ろしてくれてもいいよ」

なのに私は、どうして心と反対のことを言ってしまうのだろう。

「は? その辺って?」

「他の狼さんに食べてもらうー」

これは、素直じゃないどころの問題ではない。

病気かもしれない。

素直じゃない病だ。

そう思った瞬間、大和が急ブレーキをかけた。 

上半身をフロントガラスにぶつけそうな衝撃だ。

「ちょっと、危ないじゃない」

後続車がいなかったのが幸いだと思った。

そうじゃなきゃ、思い切り追突されていただろう。

大和はそのまま、車を道の端まで移動させてから止めると、いきなりこっちに

向かって大声で怒鳴りつけてきた。

「いい加減にしろよ、苺花!」

いつになく真剣な表情で、大和が本気で怒っていると気付いた。

「やだ、なに怒ってんのよー。大和ったらー」

咄嗟にいつもの調子でふざけ半分にかわす。

いつもなら、ため息をつかれて無口になって、呆れられるんだけど今日は違った。

「いい加減にしろって言ってんだよ。そうやって、ずっとそんな態度とって、

俺のことからかって笑ってふざけてる気なのか? そんなだったら、もう着いて

行けない。勝手にどっかの男にヤラレちまえばいいんだ。俺は知らない。

知らないからな。苺花のことなんか助けてやんねーし、ほっとっくからな」

それでもいいのかよって、大和は怒鳴った。

「何よ……」

「俺以上に好きになれる男がいないんじゃねーのかよっ!」

大和は、私が言い返す隙を与えてくれない。

こんな車内の狭い空間で、こんなに大声を出されて怒られて、逃げ場もなくて少しだけ

怖くなった。

「苺花っ! おま……」

「もう、うるさいなー! そんな大声出さなくても聞こえるよ。狭い車なんだからさ」

ひとこと余計だったかな。

「もういいもん。歩いて帰る」

シートベルトを外してドアを開けた。

「じゃあね」

引き止めてくれるのを期待した。

だけど、大和は何も言葉をかけてくれない。振り返るのもカッコ悪い。

車を降りて、大和の顔を見ないようにしてドアを閉めた。

どっちに行けば自分の家だったかさえ、すぐにはわからないくらい戸惑っていた。

さすがの大和も呆れてしまったに違いない。

その場から動けず、じっと立ったままでいたら、それからすぐに大和が車から降りてきた。
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