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【5】友達の好きな男

「ん……?」

理花が気がついたのは、どこかのベッドの上だった。

見慣れない天井だしやけに汚いし、ついたままの蛍光灯は、何だか薄汚れている。

自分の部屋じゃないことだけは、確かだと思った。

起き上がって見回すと、ベッドの下に樹が寝ていた。

そして少し離れた場所に功至と透弥が寝ている。布団もかけずに雑魚寝状態だ。

理花は記憶を辿った。

確か樹と合流したあと、ワインバーに行ってみんなで飲んで、割と楽しくて笑って、

そして調子に乗って功至が高いワインを注文した。

それがすごく美味しくて、樹がどんどん勧めてくれて透弥もそばで微笑んで見てて……。



それから……。どうしたんだっけ。



「憶えてない……」

飲みすぎて意識がなくなっちゃったらしい。

理花は自分の体を確かめてホッとする。

大丈夫。ちゃんと服を着ている。

誰の家なのかわからないけど、酔い潰れた理花をここまで運んでくれたらしい。

理花をベッドに寝かせてくれて、自分達は畳に寝てる。

悪いひとたちじゃなさそうで良かった。

初対面のひとたちと飲んで酔いつぶれるなんて、警戒心なさすぎだ。

こんな男3人の中で、ぐっすり眠ってしまうなんて……。

今は酔っ払って寝ているけど、目が覚めて変な気をおこされないとも限らないから。

最悪の状況を想像して、理花は少し不安になってきた。

今のうちに帰ろう。

そう思ってベッドからそっとおりたつもりだったのに。

「痛っ!」

「あ、ごめんなさ……」

すぐ下に寝ていた樹の手を踏んでしまった。

目を覚ました樹は、理花に気づくとすぐに笑顔で心配の言葉をくれた。

「大丈夫? 相当飲んでたみたいだったけど? 頭痛くね?」

「うん。平気。それよりココ誰の家?」

「おれんち」

この汚い部屋は、樹の部屋だったのだ。何となく樹のイメージにピッタリかも。

などと少々失礼なことを考えてしまった。

「理花ちゃんのうち、聞いてもわかんな~いって言ったじゃん? だから

しょうがなくタクシーでここまで乗ってきた。ごめんね、勝手に連れ込んじゃった」

「ううん、酔っぱらった私も悪いし」

連れ込んだって言葉にどきんとした。

「帰るなら送っていこうか? もう酔い冷めたし運転できると思うし」

「うん、ありがとう」

ここで朝を迎えるのは嫌だし、タクシーで帰るにもいくらかかるか見当もつかない。

「じゃ、行こうか」

樹の後について玄関の外に出ると、すぐ階段があった。

樹の部屋は2階だったらしい。

下の駐車場に止めてある車は、今時の大学生が乗るにしては古臭い。

「これさ、親父のお下がりの車なんだ。カッコ良くねーけど、ちゃんと走るから気にすんな」

何も言ってないのに、言い訳するところを見ると、たぶん女の子たちから

いつもアレコレ不満でも言われているんだろうなって思った。

紗夜なんかいつも車で男の価値を判断する。カッコ悪い車なんか乗りたくないとか、

車がサニーだったりカローラだったりしたら、それだけで冷めるとまで言う。

そういえば、うちの会社の所長はカローラだったな。

若くてカッコイイけど、紗夜には相手にされないんだろう。

「掃除してないし、ちょっと汚いんだけどさ」

ごめんな、と笑いながら樹が助手席を勧める。

夜だからわからないが、明るいところで見たら、埃が舞ってそうな車内。

助手席の足元に置いてあった、樹のものと思われるこれもまた汚れたスニーカー。

樹はそのスニーカーをつかんで、後ろの座席にほおり投げる。

チラッと後部座席を見ると、到底誰も座れそうにないくらい、ものが積まれていた。

まるで物置みたいな車……。

履いているスカートが汚れたら嫌だな、と思いながら『やっぱり送らなくていい』とも

言えずに勇気を出してシートに座った。

「あ!」

ちょっとごめん、と言った瞬間、理花の目の前で樹が両手を叩いたので、

びっくりして身を引いた。

「な……何っ!!??」

「いや、蚊が飛んでたからさ。刺される前にやっつけた」

開いて見せた樹の手のひらには、確かに蚊が潰れてた。

「ああ……」

ありがとうと言うのも変な気がして、言葉を濁す。

樹はそのまま何事もなかったように、蚊を下に落とすとハンドルを握る。

送ってもらう車内は、沈黙にならないように気を遣ってくれているのか、

ずっと樹はしゃべり続けていた。理花も適当に相槌をうってうなづいて返す。

なんでもない世間話だったけれど、それは不思議と心地よかった。



そして理花を家まで送り届けたとき、「じゃあまた」と言って握手を求められたが、

さっきの『蚊』を潰したままの手のひらに触れる気持ちになれなくて、曖昧に微笑んで辞退した。

「また、連絡するね~」

樹は満面の笑みを浮かべつつ、手を振りながら帰っていった。

ひとり暮らしだと知ると、あがりこもうとする男は多い。

だけど樹はそんなこと言わなかった。

それだけでいいひとだとか、信用できるとかは思わないけれど、

悪いひとではないのかなぁ、と漠然と感じていた。

那絵が好きになった樹くんは、ものすごく庶民的な男の子だと思った。

もうちょっと身の回りとか自分自身を小奇麗にしていたら、

もうちょっと何とかなりそうな……。

「余計なお世話よね」

あれはあれで、きっと樹の個性なんだ。

「……個性、だよね」

ちょっとだけ首をかしげつつ、理花はアパートの階段をあがった。








続く続く。

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