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ハツコイゴコロ-2

悠は急に私の手首をつかんだ。
ドキッとして顔を上げてみると、やっぱり不機嫌な顔と目が合う。
「痛い……」
まるで私が逃げて行かないようにするかのように、手首を握る手に力がこもっている。
「悠、痛いったら」
「つまんなかったら、和が行けなくなった時点で、俺だって行くのやめてるよ」
つまんなくねーよ、と悠は吐き捨てるように言った。
「だから、ごめんねとかゆーな。謝る必要なんかねーんだよ」
まるで怒られているような悠の口調だけど、言っている言葉の意味が、そうじゃないことはちゃんとわかる。
「それに、花火なんか口実だし」
ぐいっと手首を引っ張られ、そのまま悠が歩き出すのについてゆく。
どこに行くんだろう。花火大会の会場とは全く逆のほうへ、どんどん引っ張っていかれる。
不安はあったけれど、悠にだったらついて行きたいと思った。



花火大会のあっている公園の奥に、何だかわからないけれど大きなコンクリートの建物みたいなものがあった。暗かったし、後でそれが何だったのか確かめないままなので、その正体はいまだにわかっていない。
そこの陰に隠れるようにして、ふたりで向き合って立っていた。
ココからじゃ、花火なんか全く見えない。だから人もいないんだろうけれど、あのときはこれから何が起こるのかわからなくて、ドキドキしていたから、それさえ気がつかなかった。
「佳奈は、和のことが好きなんだろ」
予想もしていなかった言葉が、悠の口から出てきた。
「和が言ってた。佳奈はいつも楽しそうに、たくさんしゃべってくれるって。話も合うし、気も合うし、それに……」
そこまで言うと、悠は言葉を止めた。
「それに、何?」
「佳奈は、俺のことがたぶん好きだと思うって」
「俺って、和希くんのこと?」
「そう。で、和のヤツも佳奈が好きなんだってさ」
両想いってヤツだろって、悠はまた怒ったみたいに言った。
私は、勘違いをしていたようだ。
つまんなくないとか、花火は口実だとか、そんな風に悠が言った言葉に期待した。
私が悠をいいなって思っているように、悠も思ってくれているんじゃないかと。
こんな場所に連れてこられたのは、もしかして告白? とか、上手く行けばキス……なんて。
だけど、とんだ思い上がりだったようだ。
一緒に出かけるのは嫌じゃないけれど、好きだからじゃなかった。
もしかすると、悠には私の気持ちが知られていて、でも悠にとって私のことは、友達以上ではない。
親友の和希の気持ちを知っていたから、私が悠に告白する前に和希の気持ちを代弁したんだ。


遠くで花火の音が聞こえる。
始まったんだ、花火。でも、その明るささえもここまで届かない。
「佳奈は、和のこと好きなんだよな?」
好きじゃない。好きなのは悠だ。そう言いたかったけれど、言えなかった。
「っ……ううっ……ひっく」
不覚にも泣いてしまった私に、悠の困ったような声が降ってくる。
「何だよ、泣くなよ。俺が泣かしたみてーじゃん」
「だって……っ」
ポロポロこぼれ落ちる涙を止めたくて、両手で顔を覆ったのに、悠に引き剥がされる。
両方の手首を悠につかまれ、泣き顔を隠すことも出来ずにうつむいた私の顔を、悠はのぞきこんでくる。
「泣くなよってば」
「見ないでよ!」
「何で泣くんだよ」
「知らない、言わない」
会話にならないような言い合いを、何度か繰り返していた。
そして、先に言葉を止めたのは悠だった。
つかまれていた手首も解放されて、呆れたように背を向けられる。
バカみたいにボロボロ泣いてしまった。
子供みたいにしゃくりあげてしまう。
そしてそのまま、立っているのもつらくなった私は、その場に座り込んでしまった。
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ハツコイゴコロ-1

中学のときに好きなひとがいて、そのひとと同じ高校に行きたくて受けた公立高校に私もそのひとも見事に落ちてしまった。
それで、第二希望だった私立高校にそれぞれ進んだ。

付き合っていたわけではなかった。ただの私の片想いだったから、卒業後はまったく接点はなくなってしまった。

家から少し遠い私立高校。同じ中学からは、誰も進学しなかった。
誰も知る人がいないはずの高校生活の始まりだと思ってた。


悠(はるか)に声をかけられるまでは。





誰も知るひとがいなかった不安いっぱいの高校生活の始まりに、悠との再会は、とても心強かった。
悠とは、小学校が同じだった。
男の子の中でも目立つほうで、いつもみんなの中心にいた。
私はひそかに悠のことが「いいな」と思っていたから、この再会はとても嬉しかった。
悠が転校してしまってそれきりで、中学校も別々だったのに、ずっと仲良くしていたように、気があった。
悠と同じ中学から来たという和希(かずき)くんは、悠の親友で、一緒に行動することが多くなって、悠に接するように、私にも優しくしてくれるようになった。


3人でいることは、楽しくてしょうがなくて、毎日学校へ行くのが待ち遠しかった。
ずっと3人でいられると思ってたのに、それは夏休みに崩れてしまった。
3人で行こうねって行ってた花火大会だったのに、和希が急に高熱を出したために行かれなくなってしまったのだ。
私はずっと、悠のことが密かに好きだったから、本当は和希の熱を心配しなきゃならないのに内心、喜んでいたんだ。


ふたりきりの花火大会。


いつもは3人でいたから、こんな風にふたりきりだと、どう接すればいいのかかなり戸惑っていた。
いつもどおりに振舞えばいいんだと思うのに、態度がぎこちなくなるし、上手く言葉も出てこない。
それに、せっかく着せてもらった浴衣のことも、悠は何も言ってくれないし、履きなれない草履は、歩きにくくてだんだん足も痛くなった。
人ごみに、悠を見失いそうになったけど、走って追いかけるには、足が痛くて……。
何度か立ち止まって、私を待っててくれる悠は、いつものような笑顔じゃなくて……。
ふたりで来たって、楽しくなかったのかなとか、浴衣なんか着てきて、こんな風に上手く歩けなくて、迷惑なんだって思っているように見えた。

「悠、ごめんね」
追いついて、謝った。
「ごめんって、何が?」
「……私といても、つまんないんでしょ」
そっと悠の顔を窺うと、やっぱり怒っているように見える。
居た堪れなくって、すぐに目を逸らした。

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