スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

恋にとどくまで~苺花と大和(18)

苺花



 秋の海は、真夏に見るのとはまた違った姿をしている。

 ずっと向こうまで続く海を見ていると、心が少し癒されていくような気がした。

「何があったか、言いたくなったらどうぞ。聞くから」

 フェンスにもたれるような格好で涼は、私の隣で顔を覗き込みながら笑って言った。

 ちらりと涼に目を向け、すぐに海の方へと視線をそらす。

 悔しいけれど、涼に私の誘惑は通用しないような気がする。

 車でここに向かう途中も、試行錯誤しながら涼に話しかけたけれど、まるで子供を相手にするように、

軽く笑われかわされた。

「梨々が言ってたんだけど、大和くんが好きなんだって?」

「うん……好き」

 何故だか驚くほどあっさりと、素直にうなずけてしまった。

 何故だかわからないけれど、何を言っても受け止めてくれるような気がした。

「ストレートに言えばいいだけ。でも、それが言えないから悩んでるんだろ?」

「そうよ。その通り。言えればこんなに苦労してない。遠回りしてないよ」

「だよね」

「……大和はまだ、梨々が好きなのよ」

 答えなんか聞く前からわかりきっていたけれど、あえて涼に聞いてみた。

「涼は、梨々と別れる気はある?」

「0パーセント、あるよ」

 ハハハと笑われる。

「残念だけど、梨々を大和くんに渡す気はない」

 そういうことだろ? と涼が言った。

 嫌になるくらい、見透かされている。

「梨々が言ってたんだけど、大和くんに告白して振られたら死んじゃうんだろ、苺花ちゃん」

「し、死ぬわけないじゃん」

 いったい、いつの話よ。

 そういうことを言った気もするけど、それを涼にまで言わないで欲しい。そりゃ、夫婦で隠し事がない

って言うのは理想的だし、羨ましいなって思うけど、話し過ぎよ。

「じゃあ、告白しろよ」

「しろよったって……」

「大和くんの幸せを願う気持ちは、いいね。微笑ましくさえ映るよ。でも、そのせいで不幸になるひとも

いるわけだ。この場合、梨々と俺だよね。いや、違うか。作戦は失敗に終わるんだから梨々も俺も不幸に

ならないか。苺花ちゃんの計画倒れだね」

 不幸なのは、苺花ちゃんだって笑われた。 

 ムカツク言い方だったけれど、外れていないので、怒れない。

「身を引くのも、当たって砕けるのも結局は同じことだろ。まあ、傷つき方はちがうかもしれないけど、

ふっきれると思うよ。ずっと消化不良みたいに体の奥深くに想いを閉じ込めたまま、自分を偽って生きて

くんだ。つらいと思うし、次への出会いにも影響すると思うけどな」

 涼の言っていることの意味はわかる。

 自分自身、ちゃんとわかってることだ。

 涼に言われなくても……ちゃんと知っている。

 彼氏が欲しかったんじゃない。

 私の欲求を満たしてくれる人が欲しかったんじゃない。

 大和が欲しかったんだ。

 大和しかいらないって、決めてたはずなのに私はまた何を繰り返そうとしているんだろう。




「じゃあね、元気だせよ」

 私を車から降ろしたあと、家の前まで送ってくれた涼が、運転席に座ったまま、助手席の窓越しに笑顔

で言う。

「ありがとう。ごめんなさい」

「気にしないでいいよ。誰でも行き詰まることはあるんだし、とんでもない行動とりがちな時もある。

梨々にも大和くんにも言わないから」

 じゃあね、と軽く手をあげてから、涼は帰って行った。

 彼の車じゃないんだから、見えなくなるまで見送る必要もないと思ったんだけど、私は涼の車をじっと

見送ってしまった。

「はあ……疲れた」

 あまりにも自分が子供に思えた。

 涼は、きっと浮気なんかしないんだろうな。

 梨々がうらやましいと思う。そんな風に私も愛されてみたい。

 もちろん、涼にじゃない。

 大和とそんな風になれたらいいのにな。

 ぼんやりと妄想しながら、家の玄関を開けた。

「あら、どちら様かしら」

 母の嫌味を聞き流し、自分の部屋にあがろうと階段に足をかけたとき。

「大和くんから、何度も電話があったわよ」

 後ろから母に言われた。

「連絡欲しいんですって」

 私は迷った。

 すぐにでも電話はしたい。だけどまだ、心の準備が整っていないのだ。

 今言ったら、きっととんでもない告白になってしまう。

「何だか用事があるようだったから、早くかけなさいね」

 母は言い残し、キッチンのほうへ行ってしまった。

「そっか……」

 用事があるのは、大和のほうで、私の告白を待っているんじゃないのだ。

 心の準備は必要ない。

 何か用? と言えばいいだけだ。

 携帯がないのは不便だけど、まだ購入できるほどのお金はない。

 リビングに置いてある電話の前まで、私は行った。

「そこのメモに番号書いてるから~」

 メモ用紙に、大和の名前と番号が書いてある。

 何度もかけたことのある大和の携帯番号だけど、こんな番号だったけ、と改めて思った。

 アドレス登録しているから、いざって時に思い出せないんだろうな。

 受話器をあげ、私はその番号をプッシュした。




  続く
スポンサーサイト

恋にとどくまで~苺花と大和(17)

苺花



大和が幸せになる方法を考えたとき、梨々のことが思い浮かぶ。

大和は、梨々とじゃなきゃ幸せになれない。

梨々は、涼と結婚したらいけなかったんだ。

別れさせなきゃ……。

そんなことを思って、私は梨々と涼の住むマンションに出かけた。

マンションのエントランスに備え付けのベンチに腰掛け、涼が仕事から帰ってくるのを待ち伏せていた。

「あれ、苺花ちゃん?」

 帰ってきたばかりの涼に、気付かれ、声をかけられるのも計算の上のこと。

「何してるの。梨々に用事?」

「別にっ。私もう帰るし。何でもないですから」

 泣き真似だって、出来る。

 心配して涼が追いかけてくるかどうかは、計算できなかったけれど、

涼は私の思い通りに動いてくれた。

「苺花ちゃん、どうし……」

「ほっといいてよ!」

 取り乱し、暴れて、泣き崩れる素振りをすれば、大抵の男は私の身体に手を伸ばし、

抱きしめて慰める。

 面白かった。

 面白いように、涼が思うままに動くんだから。

「私……」

 涼の胸に飛び込むようにして、そこに顔を埋める。

 涼の手が背中に回る。

 撫でられる手に、落ち着きを取り戻した振りで顔を上げ、じっと見つめて相談を

持ちかける予定だった。

「何してるのよ!」

 驚いて、涼から放れた。

 計算外に、梨々が現れたのに私はひどく戸惑ったけれど、これって都合が良すぎる展開じゃないかと内

心、笑っていた。

 二人の前から、逃げるように走り去りながら考えた。

 浮気現場を梨々に見つかってしまった涼。

 少しずつ、涼の気を惹く作戦だったのに、以外に早く引き離せるかもしれない。

 梨々のことだから、涼を責めて泣いて……。

 すぐに涼に連絡を取って、謝ることを口実に会ってもらおうと考えた。



 私の計画は、面白いように思い通りに進んでいった。

 これで、うまくいけば梨々と涼は離婚になって、傷心の梨々を大和が慰めて、上手く行くの。

「大和の幸せのためよね」

 楽しかった。

 たとえ自分が幸せになれなくても、大好きな大和が幸せに笑う顔が見られれば

それで幸せだと思っていた。


 どうせ、大和とは付き合えない。


 そのときの私は、自分では気付いていなかった。


 何かがおかしいと、全く気付いてなかった。


 壊れてたんだと思う。
 

 そんな私を救えるのは、大和だけだったってこと。

 それに目を背けていたんだってことを、気付かずに動いていた。



 私の呼び出しに応じて、涼が来てくれた。

「この前はごめんなさい。梨々、怒ってたでしょ」

 申し訳なさそうに謝ってみたものの、涼の反応は意外なほどあっさりとしていた。

「あれくらいどうってことないよ。気にしなくていい」

 ハハハと軽く笑われ、何事もなかったようにさっき買った缶コーヒーを口にしていた。

 涼の車のサイドシート。

 梨々の指定席であるだろう場所にも、どうってことなく座らせてもらえた。

 愛する妻の友達。

 それ以上にもそれ以下にも思われていない。

 涼にとって、私は気にもとめられない存在なんだろう。

「海が……」

「え? 海?」

 ポツリと呟いた私の言葉を、涼が繰り返す。

「海浜公園。行きたい」

 涼の顔を窺うように見て言った。

「連れてって? お願い」

 懇願するようにじっと見つめて言った。

 大抵の男は、こうやって見つめると、顔を近づけてくるかさっと目をそらすかのどちらかの行為をして

くれる。

「いいよ」

 軽く笑って、逆にじっと見つめられた。

しばらく見つめ合うような格好だったけれど、先に目をそらしたのは私のほうだった。



★次回も苺花編で。

戻れない……


辿る指

赤い痕を残してゆく唇

融けてしまいそうになる身体




溺れて飲みこまれてひとつになって

戻れなくなる心。

恋にとどくまで~大和と苺花(16) 

大和


苺花に会おうと思ったものの、携帯がつながらなかった。

「壊されたって、椎名が言ってたっけ」

 携帯をパタンと閉じて、自分の部屋の本棚に立ててある、高校の卒業アルバムを取り出した。

 後ろのほうのページに、苺花の自宅の番号が記されている。

 自宅にかけるなんて、初めてだから緊張するが、気にしてなんかいられない状況だ、と気合をいれてか

ら番号をプッシュした。

 数回コールの後、苺花の母親だと思われる女性の声が聞こえる。

「あ……」

 不覚にも声が詰まった。

『もしもし? どなた? 嫌ね~、間違い電話かしら』

 切られそうな雰囲気を察知し、俺は一気に話した。

「伊沢大和と言いますがっ、苺花さんお願いします」

 しばらく、相手が無言になった。と、思ったら受話器からツーツーと言う機械音。

「あ、切れてた」

 一旦、俺も電話を切ってから、再び苺花の家へかけた。

 今度は、ちゃんと名乗れたし、苺花のお母さんもちゃんと答えてくれた。

『ああ、大和くん?』

 苺花の母親とは面識がない。

 話をしたこともなかったはずだけど……。

『苺花がお世話になってます』

 そうか。

この前、苺花をうちに泊めたことがあった。

 あのとき、母が苺花の家に連絡したんだっけ。

「いえ、こちらこそ」

 とりあえず挨拶を終えてから、苺花に代わってもらうよう頼んだんだけど。

『それがね、帰って来ないのよ。どこに行ってるんだか』

 あはは、と苺花の母親はなんでもないことのように、笑った。

『またどこかの男の人とでも一緒にいるんじゃないかしら』

 困った子ねぇ。なんて言っているが、ちっとも困っているようには感じられない。

 日常茶飯事なことで、慣れてしまっているんだろう。

 俺は電話を切って、深くため息をついた。

 どこにいるんだ、苺花。

 つかまらないと思ったら、どうしても会わなきゃいけない気になってくる。

 思いつく場所と言えば、椎名のところ。

 それか、雅人?

 涼と一緒かもしれない。

 いや、大沢ってやつといるかもしれない。

「わかんねーな」

 相手が多すぎる。

 もしかすると、全然知らないやつと一緒にいるかもしれないのだ。

 今、一番可能性のある涼にまず連絡を取ってみた。と言っても涼にではなく、梨々にだ。

『苺花の居場所?』

 苺花を知らないか、と聞いた俺に梨々は同じ言葉で問い返してきた。

『わかんなくなっちゃったの?』

「携帯が壊れてて、家にもいなくて……」

『ふうん。そっか。じゃあ、涼と一緒かもね』

 開き直っているのか、淡々とした声で梨々が言った。

「一緒って、苺花と涼ってどうなってんの?」

『知らないっ! 梨々に聞かれたってわかるわけないよ。梨々のほうが聞きたいくらいよ。せっかくのお

休みだっていうのに、朝から誰かに呼び出されて、絶対行かなきゃならない用事だって言って出かけた

の。きっと苺花よ。苺花に会いに言ったのよ』

 最後のほうは、声が震えていた。

 取り乱し、落ち着きをなくした様子の梨々が心配になった。

「梨々、大丈夫か? 俺、行ってやろうか?」

 答えはなかった。

「梨々?」

『来ないでよ。大和のせいよっ。大和が苺花を捕まえてくれないからよ。苺花は大和が好きなのに、受け

入れてあげない大和が悪いんだからぁ~』

 バカ~と言う声と共に電話は切れた。

 梨々の声が耳に残る。

 俺のせいだって?

 俺が苺花をつかまえておかないせいだって?

「は? なにそれ」

 もう切れてしまった電話に向かって、つい文句を言ってしまう。

 梨々は、苺花は俺が好きって言った。

 今、聞いたばかりだから忘れっこない。確かに言った。

 そして、椎名もそう言った。

 言わないのは、苺花本人だけだ。

 だけどきっと、ふたりの言う事は正しいんだろうと、何となく思えてきた。

 確信とまでは行かないけれど、そうなのか。ふうん、そっか。納得、ってくらいにはわかった。


 好きと言う気持ちとは、やや違う気はするが、気にはなる。

 ほっとくと周りに迷惑がかかるのならば、俺がつかまえておかなきゃならない。

 そうだ。

 つかまえよう。

 
俺はもう一度梨々に電話をして、涼の携帯番号を教えてもらった。



★会えるかな、苺花に。

 次回に続く♪

恋にとどくまで~大和と苺花(15)

大和




椎名が言っていた言葉がずっと心に引っかかっていた。

『苺花ちゃんは大和のことを最初から好きなんだ』

 苺花から聞いたから確実だって、椎名は言う。

 本当は、苺花の口から言うべきことで、僕が言うことじゃないけど、と言いにくそうに椎名は続けた。

 椎名の話を俺は、物語を聞くような感覚で聞いていた。

 大沢に壊されて証拠はないけど、確かに携帯のその待ち受け画面が俺の写真だったって言うこと。

 高校の入学当初から好きでいてくれたこと。

 俺はだけど梨々を見ていたから、素直じゃない苺花は気持ちを言えなかったんだって言うこと。

 椎名の口からそれを聞くのは、何とも形容し難い気持ちで、椎名に言えるのにどうして直接言わないん

だと、何だか自分勝手ながら、ムカついていた。

 苺花の口から聞かなきゃ信じられないとは、思わなかった。

 不器用だから。

 知っているから。

 苺花ならあり得ると思える。

 ちゃんと、真面目に受け止めて考えようと思った。

 苺花のことは苦手だと思っているが、呼ばれれば出かけていってしまうし、ヤバイことに巻き込まれた

ときには、本気で心配したし、頼って欲しいと思ったこともあった。

 ほおっておくと、何をしでかすかわかったもんじゃないし、俺でやれることなら、やってやろうかと思

ったこともあった。

 それはたぶん、好きだからと言う感情よりも、同情的なものに近い感情だと認識している。

「バカすぎて……ほっとけない」

 どこかで誰かが言ってたような言葉だけど、妙に今の自分の気持ちとぴったり合った。

 すんなり話し合えるとは思わない。

 苺花が素直に認めるとも思えない。

 簡単に話がまとまるなら、とっくにまとまっているはずで、こんなに他人を巻き込んで、ややこしくな

ってはいないだろう。

 だけど、俺は苺花に会おうと思った。

 会って、話を聞きたい。

 苺花は逃げるかもしれないけど、椎名が言うように、苺花が俺のことをずっと想ってくれていて、その

せいで前に進めず、バカなことばかりしているとしたら、やはり知らない振りは出来ない。しちゃいけな

いような気がした。

 責任を感じる、なんて言うと傲慢かもしれない、自惚れかもしれないけれど、まったく無関係ではない

はずだ。



 友情、同情。

 その延長線のような感情。

 保護者的感覚なのかもしれない。


 そんなことを考えていた矢先、梨々から急に電話がかかってきた。

 久しぶりだったから、ドキドキしてしまった。

 まだ、ちょっと意識しているらしい俺。

 『あのね、大和。実は相談っていうか、聞いて欲しいことがあるのよ』

 いい? と聞いてきた梨々の声は、以前と何も変わらない。

「俺で良ければ何でも言っていいよ」

 あの頃のようなノリで返した。

『ありがと。じゃあ、言うね』

 そう言って続けた梨々の言葉を、俺は問い返した。

「は? 苺花が……浮気?」

 そうみたいなの、と言うと梨々は電話の向こうで涙ぐんでいるらしく、ぐすんと鼻をすするような音が

聞こえた。

『梨々、苺花が信じられない。涼だってそうよ。あっさり苺花に騙されちゃって……。梨々、どうしよ

う。どうしたらいい?』

 俺だって信じられない。

 まさか苺花が梨々のダンナである涼と不倫だなんて。

 涼だってそうだ。

 あんなに梨々を大事にしていたじゃないか。

 それほどまでに苺花が魅力的に映るのか、苺花の誘惑が上手いのかわからないが、そんなことは今、ど

うだっていい。

「梨々、大丈夫か? それ、本当のこと? ちゃんと証拠があるんだろうな」

『梨々、見ちゃったの。涼が……苺花をぎゅって抱きしめてるところ。間違いないよ』

「抱きしめて……そしてどうした?」

『……梨々に気付いて、はっとして放れた。苺花はそのまま走って帰っちゃったけど、涼は梨々に弁解す

るの。何もないなんて嘘つくのよ』

 ちょっとだけ、力が抜けた。

 抱きしめただけ? 弁解?

 それって、本当にそれだけなんじゃないだろうか。

『涼が信じられなくなっちゃった』

 ますます苺花に会って、確かめなきゃいけない気がした。




★短いけど続く

| ホーム |


 BLOG TOP 


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。