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恋にとどくまで~苺花と大和(14)

苺花





 何をやっているんだろう。

 乱暴に閉めてしまったドアを前に、私は脱力していた。

 椎名が協力してくれると言ってくれたことに対して、自分ではこれ以上どうすることも出来ないと思っ

ていた私は、ものすごくホッとしたんだ。

 誰かの力を借りてでも、大和に気持ちが伝えられるかもしれないチャンスだって思った。

 なのにそのせっかくのチャンスを、私は自らの手で逃してしまった。

 椎名と付き合うって、大和に言ってしまった。

 しかも、大和のこと、大嫌いって言ってしまった。

 情けなすぎて、涙も出ない。

 自分のバカさ加減にうんざりする。呆れる。

 椎名もきっと、こんな結果になるとは思ってなかっただろう。

 大和と両想いになればもちろん良かったけれど、ならないとしても私の気持ちを伝えることは、出来た

と思うに違いない。

 こんな風に、何も告げることができないまま、まるで一方的に喧嘩を売ってしまったようなことになる

とは、想像もつかなかったんじゃないかな。

「はあ……」

 ため息混じりに部屋の中に戻った。

 ベッドに倒れるようにして、寝転んだ。

 大和は私を何とも想っていないことだけが、はっきりしたようなものだ。

「諦めなきゃ……なのかなぁ」

 もう一度、ため息とともに呟いたとき、椎名が帰ってきた。

「苺花ちゃん」

 呼ばれたけど、顔を上げる気持ちにはなれない。

 椎名のマクラに顔を埋めたまま、私は黙っていた。

「わけわかんねーって、大和……怒ってた。聞いてもわかんねーって言うだけだったんだ。うまく、伝え

られなかった?」

「うん……」

 声にならない声で返した。

「そっか。ダメだったか」

 椎名が言った「ダメ」と言う一言が、ぐっさり胸に突き刺さった。

 やっぱりもう、ダメなんだ。

 大和とは、ダメなんだってことだよね。

「あのさ、苺花ちゃ……」

「慰めてくれる約束だよ、椎名くん」

 両手をついて、ベッドから身体を起こした。

 椎名の顔をじっと見た。

 困ったような表情。

 それはそうだよね。困るよ。

 私は、いろんな人に迷惑をかけてきた。そしてそれは今も続いている。

 椎名にも迷惑を、かけてしまう。

 一時的に慰められたって、悩みは解消されない。

 そんなの逃避でしかない。

 誰かに頼ってはいけない。自分で、ちゃんと解決しなきゃならない。気持ちの整理をつけなきゃ……。

「これ、使いなよ」

 目の前にタオルが差し出された。

「え……」

顔をあげると、やっぱり困ったような顔で椎名が見ていた。

「泣いてもいいけど、垂れ流しじゃかっこ悪いじゃん」

 私は泣いている。

 そうか、泣いているんだ。

 なんか、息が苦しいと思ったら、泣いてたんだね。

「ありがと……」

 椎名の手からタオルを受け取り、顔いっぱいに覆った。

 椎名は、慰めるような言葉は何も言わなかった。

 私の身体に触れて、慰めるような素振りをすることもなかった。

 泣いているなんて、気付いてもいないように、そっとしておいてくれていた。



 どれくらい時間がたったのか、ようやく気持ちが落ち着いてきた。

「本当だったら、うまくいったよって椎名くんに笑って言うはずだったのに。こんなことになっちゃっ

て、ごめんね」

「大和も大和だよ。僕の説明不足だとしたって、もう少し苺花ちゃんの身になって考えればすぐに気付く

ことなのに。鈍感ってゆーか……鈍感、だよな。それしかないよ」

「鈍感じゃないと思う。わかってるんだと思う。私の気持ちに大和は気付いてる。だけど、迷惑だからわ

ざとそらしてるの」

大和はまだ梨々が好き。梨々意外は受け入れられないんだ。

「もう、諦めようかな」

 ベッドからおりて、洗面所へ行き鏡に顔を映す。

アイラインもマスカラも綺麗さっぱり涙と一緒に流れちゃったようだ。

「苺花ちゃん。これから、どうすんの?」

 背後に立った椎名が鏡越しに聞いてきた。

「帰るよ。ここにいたら椎名くんに迷惑かかるし、帰る」

 振り向いて精一杯の笑顔を作って言った。

「帰るってさ、大沢ってやつが来るかもしれないから帰れないって言ってなかったっけ?」

「そうだけど。もういいよ」

 もう、どうでもいい。大沢がやってきて、殴られたっていいやって気分になっていた。

 それにもう来ないかもしれないんだし。

「ヤケクソ? だったらそういうの、後悔することになると思う。もっと大事にしなきゃダメだってば」

「だったら、椎名くんが大事にしてくれる? 私のこと守ってよ」

「……だから、それもヤケクソなんだって……」

「そうよ、誰でもいいの。椎名くんも私にかかわってると不幸になるよ。だからバイバイ。今までいろい

ろありがとね」

 椎名を押しのけるようにして部屋に戻ると、ほおり投げてあったバックを手に、私は椎名の部屋を飛び

出した。

 後ろから私を呼ぶ声が聞こえた気がしたけど、無視してそのまま逃げるように走った。




★ちゃんと家に帰るかな???
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夕日とアナタと私の写真

本当はふたりで手をつないで歩きたいのに

アナタは夕日の撮影に夢中



だけど、後になって見せてくれた写真には

ちゃんと私が映ってた


恋にとどくまで~大和と苺花(13)

大和



バイトが終わり着替えをしていた更衣室で、椎名の視線を背後に感じで俺は振り向いた。

「なんだよ、そんなに見るなよ」

俺と目が合うと、椎名はびくんとして慌てたように目をそらした。

明らかに何かを隠しているように見える。

そして、そのことを言おうかどうしようか迷っているという様子だ。

わかりやすい奴だ。

きっと嘘や隠し事が出来ないタイプなんだろう。

「話?それとも何か悩みでもあんの?」

俺がストレートに聞いた事に対して、椎名もあっさりとうなずいた。

「話…ある」

だけどここでは話せないと椎名が言うので、俺は誘われるまま椎名のアパートに寄ることになった。

「あのさ、いきなり会うときっと驚くから、先に言うから驚くなよ」

部屋のドアの前で、ドアを背にした椎名は俺をじっと見つめる。

何を言おうとしているのか、何を言われるのか、椎名がなかなか口を開かないのでドキドキしてきた。

「何だよ、脅かすなよな」

 やけに真剣な眼差しの椎名に、たじろいでしまう。

「うん。いや、実はさ……苺花ちゃんのことなんだ」

「苺花の? 何?」

 また苺花が何かやらかしたのだろうか。椎名に何かやった?

「苺花ちゃんの携帯、見たことないだろ?」

「……何それ」

 何を言い出すかと思ったら、携帯?

「待ち受け画面に、大和がいた。大和を待ち受けにしてるんだ。いや、してた。入学式の大和だって言っ

てたんだ。この意味わかるか?」

 椎名は一気に俺に言うと、今度は俺に質問をぶつける。

「わかるかって聞いてんだ。大和、答えろよ」

「入学式の……俺を待ちうけ? 何で?」

 良く意味がわからなかった。

「そんなの、大和が好きだからに決まってんだろっ」

 椎名が熱くなっている。肩で息をしているって感じだ。

「なんだよ、驚かないの? 驚けよ。それとも本当は知ってたのか?」

「いや、知らねー。ってゆーか、何? 何か話が良く見えないんだけど」

 椎名が言っている言葉の意味はわかる。

 苺花の携帯の待ち受けに、俺の入学式の写真が登録されているってことだろ?

 で、どうしてかっていうと、苺花が俺を好きだから。

「え……苺花が俺を好き?」

「やっと理解したか、大和。そういう事だ。だから今からこの部屋にいる苺花ちゃんの話を聞いてやれ

よ。それで──」

「ちょっと待てよ椎名。苺花が部屋にって……。え? なんで? 何それ……」

 やっぱり良く意味がわからない。

「いいからっ! 僕はその辺で時間潰してるからさ、話がすんだら携帯鳴らしてよね」

「ちょっと、おい、椎名」

「じゃあねー」

 逃げるように椎名は、俺を残してどこかへ走り去ってしまった。

「なんなんだ?」

 椎名の説明が下手なのか、俺が理解出来ないのが悪いのか。

 いまひとつ良くわからないんだが、とにかくここに苺花がいて、苺花と話せってことだよな。

 とにかくこのままここに立っていてもしょうがないようなので、俺は椎名の部屋のドアをノックした。

「……大和?」

 あらかじめ、俺が来ることを苺花も了解していたのだろう。

 普通にドアが開いて、見慣れた苺花の顔がのぞいた。

「椎名が、苺花と話せって言うから来たんだけど。なんでここに苺花がいるんだよ。ここで何してん

の?」

「……私……」

「椎名に聞いたんだけど、携帯の話。待ちうけがどうこう言ってた。どういうこと?」

「それは……」

 苺花は言葉を曖昧に濁し、しかも俺のほうを見ずに目をそらしたままだ。

 何をやらかしたんだろう。

 そういえば、例の大沢とか言う男とはどうなったんだろう。

 椎名の部屋にまで上がりこんでいるってことは、大沢とはもう別れて、椎名に乗り換えたんだろうか。

「苺花」

「……なに?」

「椎名と付き合ったのか?」

「え……」

 やっと苺花が顔を上げた。

 大きな目をいっぱいに開けて、俺を見上げている。

「大和、椎名くんから……携帯のこと、聞いたって言ったよね」

「ああ。聞いたけど」

「なのに、どうしてそういう発想になるわけ? 私は……」

 苺花が言葉を途切らせた。

 ぎゅっと唇を噛んで、俺を睨んでいる。

「椎名が言ってた。苺花って、俺が……その、す……」

「好きじゃないもんっ! 何を自惚れてんのか知らないけどっ! 壊れちゃったのよ、私の携帯。終わり

なの、もういいの。大和のことなんか……大嫌いなんだから」

 すごい剣幕で怒鳴ったかと思うと、両手で思い切り突き飛ばされた。

「いいよ、もう。どう言ったって大和は私のことなんか、どうも想ってないってわかってる。椎名くんが

せっかく協力してくれようとしてくれたけど、大和の気持ちがそれだったら、何をどうしたって上手くい

くわけがないよ。いいよ、私、椎名くんと付き合うもんっ! 邪魔しないでよね、大和」

 話し合いも何もあったもんじゃなかった。

 目の前で思い切り閉められたドアを、ぼう然と見ていた。

「俺が……悪い?」

 苺花が怒ったのは、俺が何も理解していなかったのが原因だろうか。

 苺花は俺と何の話があったんだろうか。

 椎名が言った携帯の話。それに協力とか言ってたっけ。

「さっぱりわかんねー。意味不明」

 急に怒り出すし、話になんないじゃん。


とりあえず俺は、椎名に電話をかけた。
 



★作戦しっぱいなのだ。

恋にとどくまで~苺花と大和(12)

話の都合上、もう一回苺花編でお届けします。

苺花




つながった電話の向こうで、事情を話した私の願いを困ったように聞いていた椎名だったけれど、大和

がいつも言うようにわかったよって言って迎えにきてくれた。

「とにかく……入って」

 すごく散らかってるけど、と言いながら椎名が部屋に入れてくれた。

 一人で住んでいるというアパートは、高校のときから住んでいる部屋で、かなり古い外観をしていたけ

れど、部屋の中は外から感じるほど古くはなかった。

「本当に散らかってる」

 素直な感想を口にしてしまった。

「明日、片付けようと思ってたんだってば」

 椎名は言い訳をしながら、冷蔵庫の中から冷えた缶ビールを出して渡してくれた。

「適当に座って……って、座れるのベッドしかないか。ちょっと待ってね、片付ける」

 床に散らばった服や雑誌類を拾い上げ、隅のほうにほおり投げている。

「ごめんね。急に呼んじゃったから。いいよ、ベッドに座る」

 言いながら私は、ベッドに腰掛けた。

「そこはダメだって。ダメダメ。危ない場所なんだから」

 冗談っぽく軽く笑っているけれど、ちょっとだけ態度が挙動不審に見える。

「危なくていいもん。椎名くん。しようか」

「……は? ハハハ、何言ってんの」

「椎名くんのこと、けっこう好きだし。迷惑かけちゃったし、迷惑料がわりに抱いてもいいよ」

 椎名をじっと見つめたまま、私は誘いの言葉をかける。

 ほぼ99%の確率で、男は私を押し倒すんだ。

 そうしない1%は、もちろん大和だけ。

「苺花ちゃん、大和はどうしたんだよ。大和が好きだって、言ってたじゃん。携帯だって見せてくれた

し、一途なんだなって思ったら応援したくなったのに。どうしちゃった訳?」

 警戒しているのか、椎名は部屋の隅に立ったまま、近づいてこようとはしなかった。

「どうもこうもないよ。あの日の私がおかしかっただけで、これが本当の私なのよ。誰でもいいの。椎名

くん、最初に私に言ってくれたよね、可愛いねって。付き合ってみようって言ったよ。付き合おうよ、私

も椎名くん好きだよ」

 あまりにスラスラと好きだとか、付き合おうと言う言葉が出てくるのに、内心驚いていた。

 こんな風に同じように、大和には言えない。

「大和に、気持ち伝えられないから言ってるだけだろ? 大沢とか言うやつのことにしたって、投げやり

になって適当に近づいた結果、こうなってんだろ? 落ち着きなよ」

 椎名と大和がちょっとだけ重なる。

 最初は軽く誘いをかけてきたから、その辺の男と同じだって思ったけれど、話が通じる人みたいだって

わかった。

 一瞬、椎名だったら大和を忘れさせてくれるんじゃないかと思ってしまった。

「落ち着いてるよ。ただ、もう……大和のことは忘れようかなって思ってるだけ」

「忘れる? 気持ちを伝えてもないのに?」

「壊れちゃったんだもん、携帯。ずっと想ってたって大和に言ったところで証拠も消えちゃったんだよ。

何言ってんだって笑われるよ。信じてもらえるはずないよ」

 椎名から視線を外して、足元に目を落とした。

「一緒に言ってやるよ。僕がちゃんと見たって言う。僕が苺花ちゃんの証拠になるからさ、言おうよ。大

和に気持ちを伝えようよ」

「椎名くん……」

 私はもう一度顔を上げ、椎名を見た。

「自暴自棄になったらダメなんだってば。女の子なんだし、自分を安売りしちゃダメだ。苺花ちゃんの純

粋に大和を想う気持ちは、あの日ちゃんと感じたしさ、大事にして欲しいと思った。大和は苺花ちゃんの

ことをちょっと……いや、かなり誤解してるようだけど、そうじゃないんだし。素直になろうよ。女の子

はそのほうが絶対いいんだって、幸せになれるんだってば」

 真面目な顔をして、必死になって私を説得しようとしてくれる椎名を見ていたら、ちょっとだけだけど

告白してみようかな、と思える勇気が……少し湧いてきてしまった。

「ダメだったら、どうしよう」

 弱気な気持ちを、椎名に素直に言ってみた。

「玉砕覚悟だっていいじゃん。ずっとこのままでいるよりスッキリすると思うよ。同じところでぐるぐる

悩んでるより、行動しなきゃ。抜け出そうよ」

「……玉砕したら、慰めてくれる?」

 冗談交じりにお願いしてみた。

「玉砕しないから、慰められないと思うよ」

 そう言って笑ってくれた椎名を見ていたら、本当に大丈夫そうな気持ちが大きくなった。




♪続く♪

彼の腕の中で眠りたい


疲れきっているはずなのに眠れない夜

携帯電話を開いてアナタを呼んだ

しょうがないなって笑うアナタの優しい笑顔を見ただけで

疲れなんかあっという間に癒されてしまった



そしてアナタは私を腕の中に包みこんでくれる

朝までこうしていたいってわがままを言う私の頭を撫でて

いいよって言ってくれるアナタの胸に頬を寄せた



できることならずっとこうしていたい

ずっとずっとこうして

彼の腕の中で

毎日毎日眠りたい

恋にとどくまで~苺花と大和(11)

苺花


「痛いよ、大沢」

 さっき大和につかまれた腕を、大沢にゴシゴシ洗われていた。

「飲みに行くんじゃなかった、苺花」

「痛い……」

 強くタオルでこすられて、腕が赤くなっている。

 ほんの数日前、暇つぶしに入ったゲームセンターに、大沢はいた。

 三人の男に絡まれてしまった私を、助けてくれたのが彼だった。

 同級生だって言うのは、嘘だ。

 大和が知らないのは当然だし、私自身この大沢って男のことは何も知らない。

 助けてもらったお礼に、付き合ってくれっていきなり言われた。

 一目惚れだと言われたことは初めてじゃないし、驚くほどのことでもないし、嬉しいとも思わなかった

けれど、大和が私に対して同情の気持ち以上を抱いてくれないとわかってしまったから、もうなんだかど

うでも良くなった。

 今までの私が、私らしくて、大和が安心するなら。そうすることが最善ならば、そうしているほうがい

いんじゃないかって思った。

「好きだ、苺花」

 抱きしめられても何も感じないし、好きだって言われて心も動かないけれど……。

「会って間もないのに、どうしてこんなに好きになったんだろう」

 一瞬、ひどい嫌悪感が湧きあがった。

「嫌……」

 小さな抵抗は、軽く封じられる。

 大沢の手が私の頬を撫で、徐々に下へ下がってゆき、胸元を探られるうち、大沢の息があがってくる。

「はあ……苺花……:」

 気持ちが悪かった。

 逃げ出したかった。

 私がこんなことをされている間、大和はきっと笑いながらテレビに夢中になっているんだ。

 気付いて欲しいけれど、気付いてもらえるはずはない。

 助けて欲しいけれど、助けて欲しいなんて言ったらまた大和に迷惑がかかってしまうんだ。

 諦めなければいけないんだと思う。

 そう思うのに心は何故か言うことを聞いてくれない。

 大沢に抱かれながら、私の心はまだ大和を想っていた。




 徐々に、大沢の束縛がひどくなり、ついに大和を待ち受け画面にしている携帯にも気付かれた。

「ふざけんなっ」

 目の前で携帯を二つに折られたときは、怒りよりも悲しさが上回ってしまい、何も言葉を発することも

出来なかった。

「信じられない……」

 床に叩きつけられた携帯を拾い、涙と一緒に言葉を落とす。

「新しい携帯、買ってやる」

 カッとなって悪かったと、大沢がすぐに謝ってくれたけれど、新しい携帯じゃ代わりにならない。

 そこに、入学式の大和はきっと映らないんだから。

「もう、終わりだよ……」

 大沢と出会って、2週間目。

 やっぱり大和の代わりにはならない。

 同じ間違いを何度も繰り返し、やっと素直になろうと決めたものの、大和には気持ちが伝えられなかっ

た。

 そしてまた同じことをやった。

「もう嫌だ。別れる」

 携帯を握りしめて、大沢の目を見ずに言った。

「え……。あ、怒った? 怒ったんだろ? 悪かったよ、マジで。もうしないから、な……」

「もう遅いよ! 大事な携帯だったのにっ。ひどいよ、こんなにしやがってっ!」

 携帯を持ったままの手で、大沢の頬を殴った。

「いっ……」

 大沢がひるんだ隙に部屋を飛び出す。

 走って走って、追いつかれないようにわき道に逃げながら走り続けた。

 もう二度と会いたいとは思わなかった。

 始めから好きじゃなかった。

 好きになるつもりもなかった。

 ただの現実逃避だ。


 きっと、これだけで終わらないだろうってことも、漠然とながら感じていた。

 家には帰れない。

 大沢に家は知られているんだし、押しかけられたら家族に迷惑がかかる。

 もちろん、大和に迎えに来て欲しいなんて言えるはずがなかった。

「どうしよう……」

 誰に連絡を取ろうにも携帯のデーターは消えている。

 壊れてしまったんだ。


「あ……そうだ」

 バッグの中を探ると、この前飲みに行ったときにもらった紙切れが出てきた。

 椎名が予備に、と笑って書いてくれた携帯の番号が書かれた紙。

 ……連絡したら、どうなっちゃうだろう。

 椎名に迷惑がかかってしまうことは必至だ。

「迷惑に……ならなきゃいいんだよね」

 ふと湧き上がった気持ち。

 そうだよ。

 

 冷静なときに考えれば、バカなことをまたやろうとしているのはわかったはずだけど、その時の私は、

そうすることしか思いつかなかった。




 紙を手に、公衆電話を探す……なんてことを。




★苺花ちゃん……。続く。



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恋にとどくまで~大和と苺花(10)

大和



 翌日のバイトの休憩時間、椎名が言った言葉を俺は問い返す。

「苺花が……椎名に?」

「なんか急に電話で。ああ、番号は昨日交換したんで驚かなかったんだけど、何なんだろうな?」

「何なんだろう……って、苺花がそう言うんなら、考えてやればいいんじゃない?」

 俺に何だと聞かれたって困る。

 苺花が次の彼氏候補に椎名を選んだからって。

 苺花の彼氏の替わるサイクルの速さは今に始まったことではないし、昨日だってもともとそのつもりで

二人にしてやったんだし……。

「何もわかってないんだね、大和。本気で気付いてないわけ?」

 怒ったように椎名が俺に詰め寄るんだけど、何が?

 わかってないとか、気付いてないって……。

「何がだよ」

「苺花ちゃんの気持ちだよ」

「苺花の何の気持ち……」

「ダレが好きなのか、本当にわかってないのかって聞いてんの」

「……椎名じゃねーの?」

「バッカじゃね?」

「は? バカって……何なんだよ、椎名っ」

 いきなりバカなんて言われなきゃいけない意味がわからない。

「自分で確かめてみなよ。苺花ちゃんの携帯、見たことないんだろ?」

「苺花の携帯?」

「おおっと。これ以上は言えないんだけどね。ま、とにかく僕は苺花ちゃんとは付き合いません。て言う

より付き合えませんね」

 椎名は言うと、じゃあなって俺の肩をぽんっと叩いて、休憩室を出て行った。

 ひとり取り残された俺は、ちょっとだけ頭の片隅にチラチラ浮んでいた気持ちを思い返す。

 もしかしたら、そうなのかもしれないと、これまで何度か考えては、

違う、勘違い、思い過ごし、自惚れ。

 そう思い、打ち消していたことがある。

 ……苺花は、もしかすると俺のことを、好きなんじゃないかってこと。

 いつも冗談交じりに言っている苺花の言葉、ひとつひとつに対して、振り回されていた自分。

 いつの頃からか、まともに受け取ってはバカを見るんだと自分に言い聞かせ、相手にしないように心が

けていたっけ。

 時々、ふとした瞬間に感じる苺花の視線。

 言葉や態度が、以前とは違ってきたような気は、確かにしていた。

「けどなあ……」

 苺花は大人で、カッコイイ男が好きだ。

 エッチが上手じゃなきゃ問題外って思っているようだし、

俺なんか上手どころかやったことさえないのだ。

 もし万が一、仮に苺花の好きなのが俺としよう。

 でもいざって言うとき、まるで下手くそな俺のこと、鼻で笑われるんじゃないのだろうか。

 最悪、梨々に「大和ってねー、超下手くそなんだよー」とか吹聴されるかもしれない。

「冗談じゃねーってば」

 そうなったらきっと、俺は死にたくなるに違いない。

「冗談だよなー、アハハハ」

 考えていたことを自己完結し、俺も休憩室を出た。

 仕事に集中して、忘れようと思った。




  ★   ★   ★ 




 危うく強姦されかけて、一時期苺花は落ち着いていたようだったが、夏休みを迎えて間もなく、再び以

前のように遊び始めた。

「大和~飲みに来てやったよー」

 バイト先の居酒屋に苺花は、いかにも遊んでますと言う雰囲気の男を連れて飲みに来た。

「あれって、かなりヤバくない?」

 椎名も俺と同じように思っていたらしい。

 暖簾のすきまから、こっそり窺うように苺花と男のいるテーブルを見ている。

「髪が黄色だし、腕にお絵かきしてあるし……」

 椎名が男を控えめに描写している。

「彼氏……じゃないよな? って、おい大和。ほっといていいの? あれ」

 俺の服の裾を引っ張りつつ、椎名が心配そうに聞いてくる。

 最近、ほとんど苺花と接触がなかった。

 連絡も滞っていたし、苺花は苺花で元気にやっているんだろうと、思っていたんだ。

 避けられているのかもしれない、とは思って多少気にかかりはしていたけれど……。

「すいませーん」

 苺花がこっちに向かって手を振っている。

「オーダーしまーす」

 すでにどこかで飲んできたのか、苺花の頬がピンクに染まっていて、目も焦点が合っていないような感

じだし、呂律も回ってないような気がした。


 俺は苺花たちのいるテーブルへ行った。

「ご注文は……」

 言いかけたとき、遮るように苺花が男を指差して言った。

「大和ー、懐かしの大沢くんだよー」

「え?」

「高校で一緒だったじゃんねー? 忘れたのー? もう、大和は梨々以外誰も目に入ってなかったんだも

んねー」

 アハハと楽しげに笑う苺花の前で、大沢と言われた男は、俺を見てフッと笑った。

 高校在学中、こんなヤツはいた記憶がなかった。

「髪を伸ばしてー、金髪に染めてー、変わっちゃったから私も最初は大沢くんだって、気付かなかったん

だよー。でもね、正真正銘、大沢くんなのよー」

 苺花がそう言うならそうなんだろうが、本気で覚えていなかった。




 あまりに椎名がヤバイヤバイとしつこく言うので、俺もそうかと心配になった。

俺と椎名は二人が帰る頃を見計らって、店の裏口から表にまわり、二人を背後から呼び止めた。

「苺花!」

 すぐに二人は同時に振り返る。

「あー、大和。アハハ、椎名もいるー。どうしたのー?」

 ヘロヘロになってしまっている今の状態の苺花に、何を言ってもたぶん、まともに聞いてはもらえない

だろうと思った。

だけど、友人として見なかったことには出来ない。

いくら同級生だったからと言ったって、何となく雰囲気だけでも危なそうな男だ。

人を外見で判断するのは良くないとは思うが、やはり見逃すのは……何となく……。

「苺花、ちょっと話しない?」

「話? なあに~?」

「今はちょっと。今日は11時に上がるから待っててもらえると助かるんだけど……」

「俺の女なんだけど? 勝手な真似すんなよ」

 大沢が割り込んでくる。

 いかにも「俺のもの」と言う態度にムッとした俺は、負けずに言い返す。

「俺の友達なんだ。話くらいさせろよ」

「は? やだね。苺花が他の男と話すの嫌なんだ。苺花のこと見られるのも、ホントはイヤダ。もう苺花

に関わらないでくれる? 伊沢大和くん」

 フルネームで知られているってことは、やはり同級生なんだろうが、何かすっげー嫌なヤツじゃん?

「そう言うわけにはいかない。苺花、こっち来いよ」

 手を伸ばして、苺花の腕を掴んだ。

「触るなっ」

 その瞬間、すごい力で手を払われる。

「苺花に、触るな」

 大沢の目が怖い。

 普通じゃないと思った。

 情けないことに俺は何も言い返せなくなった。

「大和っ……」

 俺の後ろで、椎名が俺の服を掴んだまま、小さく言った。

「どうすんだよ、どうしよう」

 椎名は役に立ちそうになかった。

 もちろん俺も。

「気分最悪だな。帰るぞ、苺花」

 大沢が苺花の肩を抱き寄せる。

 苺花も大沢に身を預けるようにして、従っている。

 何故かひどく腹が立ったけれど、それ以上何も出来ないまま、二人を黙って見送ってしまった。





★大和も椎名もヘタレてました~。役立たず~。

 苺花はどうなるんでしょう。次回に続く。

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恋にとどくまで~苺花と大和(9)

苺花






 大和の親と会うのは初めてだ。

 初めてなのに、こんな夜中なのに、大和の両親は、大和の話を聞くと快く私を迎えてくれた。

 その上、私の家にも連絡をしてくれたんだ。

 布団の用意が出来るまで、大和の部屋で待つことになった。

「ちょっと散らかってるけど」

 苦笑いで、その辺に散らばった雑誌や洋服を必死で片付ける大和を、いつもよりカッコイイなんて思っ

て見ていた。

「ごめんね。迷惑かけて。けど、頼れるの大和しかいない」

「気にすんな。いいってば。迷惑なら迎えに行かねーよ」

「そっか」

 軽く流したけど、迷惑じゃないって言葉がメチャクチャ嬉しい。本心だろうか。

 たぶん、違うと思う。

 こんな状態のときだからきっと、大和はそう言ってくれたんだろう。

 怖かった。

 本気で怖かった。

 今まで散々、いろんな男とやってたくせにって思われるだろうけれど、少なくとも相手は選んでいた

し、少しは好きだなって思わなきゃ無理だった。

 あんなこと、初めてだった。

 山の奥に連れて行かれなくて良かったと思った反面、あんな場所でいきなり襲い掛かられたのは、逃げ

出すためには良かったんだろうと思う。

 不幸中の幸いってヤツだ。

 失くしたミュールは惜しいけど、また買えばいいんだ。

「ごめん、大和。こんなとき、本当は親を呼ぶんだろうけど、迎えに来させてごめんね」

「もういいって言ってんだろっ」

「良くないよ。ごめんね、今度からもう私にかかわらなくていいよ。私も大和にこれ以上迷惑かけられ

な……」

「そんなこと言わなくていいんだよっ。混乱してんのかもしんねーけどさ、そんなの苺花らしくないって

ゆーか。いつもの苺花でいいじゃん。俺でよかったらいつでも頼っていいよ」

 大和の言葉を、そのまま素直に受け取れない自分が悲しい。

 いつもみたいに、軽く言えばいいんだ。

 じゃあ、頼るよって笑って言えれば……いいのに。

「同情なんでしょ? 大和、優しいから嫌って言えないだけだよね」

 大和は答えてくれない。

 何か言いたげにはしているようだけど、何を言えばいいか迷っているって顔だ。

 きっと私を傷つけないような言葉を探してくれているんだ。

 考えて言われた言葉は、本心とは微妙なズレがあるんじゃないかと思う。

「嫌じゃねーよ、苺花」

「……嘘だよ。私があんな目に合ったから……」

「苺花、今日はもう寝たほうがいいって。そろそろ布団も用意できただろうし、見てくるよ」

「ここでもいいのに」

「え?」

 部屋を出ようとしていた大和が、私を振り返った。

「大和と同じベッドでいいのにって、言ったのよ」

「やっといつもの苺花になった」

 驚くでもなく、大和は私を見てホッとしたように笑った。




 好きだから、付き合いたいと思う。

 だけど気持ちが一方通行なのはわかっているから、付き合えないのも知っているから、それが辛いし、

悲しい。

 大和はいい人だから、いい人とめぐり合って幸せになって欲しいと思う。

 それが私だったらとても嬉しいけれど、私はいい人じゃない。

 気持ちを伝えたいけれど、伝えたらこの関係も終わってしまうようで、怖くて怖くて、とても伝えられ

ない。

 大和が私にこうして優しくしてくれるのは、私に対する同情だけど、それがたとえ同情であっても、大

和の目に触れる場所にいられることが、とても幸せだと感じてしまう。

 私が今日のように落ち込んでいたり、素直になろうとしたりすると、いつもの私じゃないって思われて

大和が心配する。

 大和に頼りたいし、守って欲しいと思う反面、やっぱり同情でされることに不満はあって……。

「はあ……なんだか思考回路、メチャクチャだな」

 大和のお母さんが敷いてくれた布団の中で、天井をじっと見つめながら考えた。 

 たぶん、この上が大和の部屋で、あのベッドに大和は眠っているはずで、私のようにこうやって、あれ

これ考えて悩んで眠れないということはなく、きっともうぐっすり眠っているんだろう。

「人の気も知らないで」

 言ってないんだから、私の気持ちが伝わっているはずはない。


 だけど少しくらい、気付いてくれたっていいんじゃないかと思ったんだ。






★続く。。。

ちょっとだけ


ちょっとだけ、考えてみても悪くないような気がしてきた。

自分自身の

幸せについて。

恋にとどくまで~大和と苺花(8)

大和


 もうすぐ家に帰り着くって時に、苺花から電話がかかった。

『大和っ……助けて』

 助けて?

「苺花? 何だよ、どうした? どこいんの?」

『こう……こうえ、んっ』

 しゃくりあげるほどに泣いている苺花が、俺をからかっているのではないことは明白で、そのただなら

ぬ状況に、俺の心臓がドキドキ鳴った。

「公園って、どこのだよ。苺花? しっかりしろよ」

 椎名と一緒じゃなかったのか?

 まさか、椎名が苺花に何かやった?

 二人で残してきたのは間違いだったんだろうか。

 何とか場所を聞き出した俺は、すぐに自転車を引っ張り出し、苺花の言った公園へ急いだ。

「苺花っ」

 公園の片隅にあるベンチに、苺花は座っていた。

 俺の声に顔を上げ、すぐに立ち上がろうとしてその場にへたり込む。

 慌てて側に駆け寄り、苺花の身体を支えながら訊ねる。

「なんだよ……何があったんだよ」

「怖かったよっ……大和ー」

 苺花はパニック状態に陥っているらしく、話すのもままならない様子だ。

 俺の胸に顔を埋め、しがみつくようにして泣いている。

 とりあえず苺花をそこにあるベンチに座らせ、自販機でペットボトルのジュースを買って渡した。

「開かない……」

 苺花の手は小刻みに震えていて、蓋を開けるのもままならない様子。

 苺花の手からジュースを取ると、蓋を開けてもう一度手渡す。

「ありがと……」

 ジュースを飲んで、しばらくすると少し苺花の様子が落ち着いてくる。

「どうしたんだよ、何が……。椎名はどうした? 一緒じゃなかったのか?」

 改めて事情を苺花に聞いてみる。

「バチが当たったんだよ。大和……」

「バチ? わかるように話せよ」

「わざと……終電に乗り遅れたの。椎名くんはちゃんと駅まで送ってくれたよ。でも、どうしても大和に

迎えに来て欲しくって、電車に乗らなかった。そしたら……」

 言葉を止め、苺花は数回、深呼吸を繰り返した。

「大丈夫か? 無理して話さなくても……」

 聞きたいし、知りたいけど。

 とりあえず見た感じ、外傷があるわけではなさそうだ。

 気持ちが混乱しているならば、もう少し落ち着いてから改めて聞いても良さそうだ。

 そう思ってとにかく苺花を送って行こうと思い、立ち上がりかけたとき、苺花が言った。

「強姦されそうになった」

「え……」

 強姦? それって……。

「声……かけられた。駅前で、大和に電話しようとしてたら。車で送って行こうって……知らないオヤジ

が言うの」

 俺は苺花の隣に座りなおし、苺花の顔をのぞきこむ。

「……いいですって断ったら、車から降りてきて……腕を掴まれたの。人は周りに少しいたけど、誰も助

けてくれない。嫌だって騒いだら……体……抱きしめられて……」

「い、苺花。大丈夫だったんだろ? み、未遂だよなっ?」

 情けないことに、声が震える。

 そうであって欲しいと願いながら、苺花の答えを待った。

「車に、押し込められて……身体、触られて……。でも、絶対それ以上は嫌だって思ったから思い切り爪

立ててやったよ」

 ほら、見て。と苺花が自分の爪を俺に見せた。

 うっすらと赤く染まっているのは、もしかして血?

「おかげで車から逃げられた。それから走って……。信号も無視して走って……」

 途中で車に轢かれそうになったけど、と苺花はぼんやりとした表情で告げる。

 車に轢かれていないのも、とりあえす無事だったのも目の前にいる苺花を見ればわかるんだけど、心の

中の状態は、あきらかに安定していないのも、見ればわかった。

「ミュール……失くしちゃった」

「ミュール?」

 言われて苺花の足元を見ると、靴が片方しかないのに今さら気付いた。

「苺花……あの……」 

 こんなとき、どうやって慰めてやればいいんだろう。

「送ってく。……今日も自転車なんだけどさ」

 こんな気の利かない言葉しか言えないのが情けない。

「いい。自転車がいい。車は……怖い」

 やはりいつもの苺花じゃない。

「大和……」

 自転車の後ろに苺花を乗せようとしたとき、苺花が縋るような目で俺に言った。

「一緒にいたい。帰りたくない」

 一瞬、迷った。

 いつものふざけたノリじゃないし、一緒にいたいってことは、どういうことだと瞬時に思い巡らせた。

「俺んち……家族いるけどそれでいいなら」

「うん。ごめんね」

 うちでいいらしい。

 うちに誘ったものの、親に何て言おう。

 でも、ホテルなんかよりその方がいいんじゃないかと、何となくだけどそう思ったんだ。




★続く

恋にとどくまで~苺花と大和(7)

苺花




「ごめんね、椎名くんが誘ってくれるのは、とっても嬉しいのよ。だけど私、大和が好きなんだ」

 きっぱり断って、ついでに携帯の待ちうけ画面も見せてやったら、椎名は納得したのか、それ以上しつ

こく誘っては来なかった。

「片想いなんだよね」

 しんみりと椎名に漏らす。

「あいつ、知ってんの?」

「知らないよ。私なんか恋愛対象外だもん。大和は私の親友が好きなの。結婚しちゃった彼女のこと、ま

だ吹っ切れてないのよ。私の気持ちは、永遠にとどかないかもしれないな」

 つい、ため息を落としてしまった。

「気持ちは伝えなきゃ伝わらないよ。大和って、そういうの鈍そうだし、言わなきゃホントに伝わらない

と思うな」

 男はみんな、私の話なんかまともに聞いてくれないと思ってたのに、この椎名ってやつは、真面目に聞

いてくれるし、アドバイスもくれる。

 しつこくしないところもちょっとだけ好感が持てた。

 出会ってすぐに、男は私の顔を見る。そしてすぐに視線が胸に下りて行くんだ。

「言っても、無理だよ。私は軽い子だって思われてるから……」

 さっきから椎名の目は、ずっと私の目を見ている。

 下がらない。胸を見ない。

 直感的に、悪い人じゃなさそう、なんて思ってしまった。

 それから、とりとめのない世間話をしていたんだけど、なかなか大和が戻って来ないことが気になり始

め、落ち着かなくなってきた。

「大和、遅いな。トイレで倒れてるんじゃない?」

「そうだね、僕ちょっと見てくるよ」

 待ってて、と椎名は言って席を立った。

 ひとりになって私は、大和の飲みかけのグラスについ、手を伸ばす。

 口をつけて、間接キスでもいいから、したい衝動にかられた。

「……危なすぎだよ、私」

 どうにか理性を保ち、グラスをテーブルに戻した。

「大和、いなかった」

 椎名が困ったような表情で私に告げる。

「いなかった? トイレに流されちゃったのかな」

「アハハ、だったら驚くよね。あいつ、帰っちゃったのかな」

 私の冗談を軽く流して、椎名は椅子に座る。

「どうしようか。大和に連絡取ってみようか」

 携帯を取り出した椎名を、私はぼんやり見ていた。

 すぐに大和につながったらしく、椎名は話し始めた。

 大和が生きていることに、ホッとする。

「なんだよ大和。余計なお節介だって。苺花ちゃんは……。って、もしもしっ」

 椎名は携帯を閉じてから私の顔を見て、申し訳なさそうに言った。

「あいつ、何にもわかってないよ。僕と苺花ちゃんがどうにかなればいいとか思ってるんだ。そんなんじ

ゃないのにね」

 椎名はため息混じりに言うと、伝票を持って立ち上がる。

「出ようか。あ、支払いはいいよ。僕が出しておくから」

 私は小さく、ありがとうと言ってから、椎名の後について店を出た。

「送ってく、と言いたいところだけど飲んじゃったし運転できないから。どうしよう、一人で帰れる?」

「帰れるよ。まだ電車動いてる時間だもん。それより椎名くん、車持ってんの?」

 駅まで送ってもらいながら、椎名と話をした。

「中古の軽だけどね。それでもローン組んじゃったから、バイト頑張って返済中なんだ」

「ふーん、そうなんだ」

 大変だね、って言おうとしたけどやめた。

 大変じゃないかもしれないからだ。

「そうそう。大和もだよね。車を買うために頭金貯めてるんだって。バイト頑張ってるよ、あいつ」

「大和が……車を買うの?」

 免許が取れたことは聞いていた。早く車を買いなさいよって言ったのは私だけど、まさか私に言われた

から買おうとしているんじゃ……ないよね。それは自惚れすぎ。

「そう言ってたよ。偉いと思うよ。頭金貯めてからなんて、計画性があってすごいよ。僕なんかとにかく

早く車が欲しくて全額ローン組んじゃって。後のこと何も考えてなかった」

 ダメだよなーって苦笑いする椎名だけど、ちゃんと支払いしてるんだからいいじゃんって思った。

 大和の計画性は高く評価できるかもしれないけど、大和は慎重過ぎると思う。

 考えて行動するのは悪いことじゃないけれど、もっと本能で突っ走ればいいのにって思うことは多いん

だよね。

 特に恋愛において、大和は考えすぎて、結局タイミングを逃してしまって梨々を逃しちゃったんだ。

 私のことも、もっと考えてくれればいいのにな。

「じゃ、気をつけてね」

 駅に着いて、切符を買うまで椎名はいてくれた。

「椎名くんもね。ありがとう」

「大和と頑張れよ。応援する」

「ありがとう。じゃあね」

 手を振って背を向けて、改札口を抜けた。

 少し歩いてチラッと振り返ると、笑顔で椎名がまだ見送ってくれていた。

 もう一度手を振ってから、私はホームへの階段を駆け上がった。

 今までの私だったら、きっと帰らないって言って、椎名といたかもしれない。

「可愛い男の子だもんね」

 どちらかと言えば、好みの顔だったし、性格も悪くなさそうだった。

 今までの私だったら、絶対誘ってただろうな。

 でも、今までとは違うんだ。

 もう、よそ見はしない。

 大和しか見ない。

 一生、気持ちが伝わることがないかもしれなくたって、大和のそばで大和を見て行きたいんだから。

 電車を待っている間、携帯を開き、待ち受けの大和をじっと見ていると、大和に会いたくなった。

  呼んだら大和は来てくれるだろうか。

 ホームに電車が入ってくる。

 最終電車だ。

 これに乗り遅れたら、家に帰る方法は、タクシーしかない。

 電車が止まり、扉が開く。

 乗り込んで行く人たちを、私は眺めていた。

 扉が閉まるアナウンスが聞こえた瞬間、私はくるりと方向転換をして、ホームの階段を駆け下りた。

 駅員に乗り遅れたので、と告げて切符を払い戻してもらってから、改札を抜けた






続きます~~♪


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