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恋にとどくまで~大和と苺花(6)

大和



 高校時代、梨々と苺花とばかり遊んでいたから、男友達と二人で遊ぶことなんてなかった俺は、バイト

の後で椎名に飲みに行かないかと誘われた瞬間、嬉しくてすぐに乗った。

 近所の焼き鳥屋に行って、カウンター席に横並びで座った。

 メニューを広げ、どれを頼もうか迷っていると、苺花から電話が入った。

『大和、迎えにきてよ』

 苺花の声に元気がなかった。

「今、友達と飲んでるんだけど。どうかしたのか、元気ないじゃん?」

『飲んでるなら、私も一緒に飲む。そこ、どこ?』

「ええっ、来る気かよ」

 断りかけた俺の手から、椎名が携帯を奪うと、

「もしもし、初めましてー」

 自己紹介なんかして、苺花を誘ってしまった。

「へへっ、ラッキー。苺花ちゃんと会えるー」

 うきうきしながら、椎名が俺の手に携帯を戻す。

「気にいってんじゃん、苺花のこと」

 この前はそれほどでもなさそうにしていたくせに、椎名のやつ。

「大和の彼女じゃないんだろ?」

「ないよ」

「だったら問題ないよね。気に入ったって僕が言ったって」

「まあ、いいけど」

 曖昧にうなずいて、目の前のコップを持ち上げる。

「あれ、もしかして僕にとられるの気が進まない?」

 椎名が顔を覗きこむ。

「そういうんじゃなくてさ、アイツ飽きっぽいからさ、椎名が遊ばれて捨てられるのが可哀相だなーっ

て、単純にそう思っただけだよ」

 軽く付き合いにOKするんだ。でも、すぐに飽きて捨てられる。それに苺花はエッチの良し悪しで相手

を選ぶらしいし。

「ふーん、そういう子なんだ、苺花ちゃんって」

「そういう子なの。1回やったら終わりにされるかもよ」

「1回でもやれるならいいかも」

「はー、椎名がそれでいいなら頑張れば?」

 遊びのつもりなら、いいかもしれない。

 だけど、遊びで軽々しくそういう行為をするってこと自体、俺にはどうしてもダメなんだよな。

 古い考えなのかもしれないが、本当に好きなことしかやりたくない。

 本当に好きだった梨々と、したかったなー。

 おかげでこの年まで、未経験だよ。カッコ悪くて誰にも言えないけど。

「大和!」

 ぽんっと肩を叩かれ、苺花が俺の横に座った。

「ホントに来たよ」

「あー、迷惑そうな顔したー。あ、そっちが椎名くん?」

 俺を飛び越えて、苺花の視線が椎名に向いた。

「こんちは。川瀬椎名ですっ」

「高野苺花でーす。で、これが伊沢大和でーす」

「知ってまーす」

 ノリが合っている。

 それより椎名って、苗字じゃなかったんだ。知らなかったな。

「ねーねー、苺花ちゃん、こっちに座りなよー。話そうよ」

「やだー、誘われちゃった。どうしようかな。ね、大和」

「俺に聞くなよ。好きにすれば?」

「うん。じゃあ好きにする」

 言って席を立つかと思った苺花は、またしても俺を飛び越えて椎名と会話する。

「あのねー、椎名くん、私ね……」

「あ、ちょっと俺、トイレ」

 何となく邪魔なんじゃないかと言う気がして俺は席を立った。

 俺のいない隙に、きっと苺花は椎名の隣に移動する。

 もしかしたら意気投合して、戻ったときには二人で消えているかもしれない。

 苺花のことだ。伝票はそのままでいいのよ、大和が払うんだから、って言う具合に俺に支払いを押し付

けて行くんだ。

 そうだ、きっとそうに違いない。

 トイレの個室に入って、俺はしばらく時間を潰していた。



★短いけど、続く。

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恋にとどくまで~苺花と大和(5)

苺花





数日後、私は雅人の部屋にいた。

梨々からの電話で、雅人が倒れたと知らされたのだ。

うわ言で、私の名前を呼んでいたらしい。

目の前のベッドで目を閉じている雅人の顔は、青ざめていて、やけにやつれて見える。

 私と別れた後、まともに休みも取らず、仕事に没頭していたと聞かされた。

 過労だった。

 食事も満足に摂らず働いていた雅人は、かなり痩せてしまっていた。

電話の向こうで梨々は、涙混じりの声で、私にお願いしてきた。

『もう一回、やり直してあげて。雅人さんは苺花がいなきゃダメなんだと思うの』

 お願いって頼まれたからと言って、いいよとはうなずけない。

 だって、雅人と寄りを戻したって、気持ちは大和にあるんだから、きっとまた同じように喧嘩して別れ

ちゃうよ。

「……苺花……」

 目を開けて、雅人が私に手を伸ばす。

「手を……」

「え……」

「手を握ってくれないか」

 手が触れた瞬間、びっくりした。

 雅人の手が、ひどく冷たかったのだ。

「もし、僕が……このまま死んでしまうとしても、苺花は大和くんを選ぶだろうね」

 急に死ぬなんて言葉を比較に出されても困るよ。

「死なないよね?」

「それじゃあ、答えになってない」

「……わかんないよ、そんなの」

 本当はわかってる。大和を選ぶんだってこと。

 でも、こんな状態の雅人に、言えるはずがなかった。

「喧嘩別れだっただろ。後悔ばかりが大きくて、なかなか別れを受け入れられなかった。だけど、別れを

先に口にしたのは僕のほうだし、あんな夜中に苺花を追い出したのも僕だ。今さらなかったことにしたい

なんて、言えるはずがないだろ?」

 雅人は、一旦言葉を止めると、ベッドから起き上がろうとする。

「寝てたほうがいいよ」

「いや、起きたいんだ」

 辛そうに顔を歪めながら、私の手も借りずに雅人は起き上がる。

「忘れるために仕事に逃げた。けど、無理だった。倒れて心細くなって、一番に苺花に会いたくてたまら

なくて……」

 雅人がうつむき、今にも泣きそうに声を震わせている。

大人のくせに、男のくせに、泣くなんて。

 いつもならきっと、そんな言葉を雅人にぶつけていただろう。

 だけど、そんな言葉は、今の雅人には言えない。

 だけど、もう一度やり直そうとも、言ってはいけないのだ。

「私の心は……ごめんなさい、大和にしかあげられない」

 冷たいようだけど、ちゃんと伝えなきゃいけない。

「もう、無理……なんだな」

「別れ、受け入れて?」

 すぐには答えられないんだろう。雅人はしばらくの間、何も言わずに視線を宙にさまよわせていた。

 考えてくれているんだろうか。

「苺花、最後にお願いがあるんだ」

「お願いって?」

「抱かせて?」

 今度は私が言葉に詰まる番だ。

「何言ってんのっ。そんな身体で無理よ」

「元気だったらOKって言ってるように聞こえた」

 雅人は少し笑いながら、私の表情を窺うように見た。

「勝手な解釈しないでよね」

「キスなら体力いらないか」

 さっきからずっと握られたままの手は、温かさが戻ってきている。

 ぐいっと引かれ、雅人に抱きしめられそうになるのを、咄嗟にかわした。

「やめてよっ!」

 しかも反対側の手で、雅人を突き飛ばしてしまった。

「ダメなの。無理なの。今までとは違うの! 大和の片想いがやっと終わったのよ。もう誰とも付き合わ

ない、大和しか見ないって決めたんだから邪魔しないで!」

 自分を好きだと言ってくれる人に対して、今までも散々ひどい言葉で罵倒して切り捨ててきたんだ。

それで殴られたこともあったし、危ない目にあったこともある。

 好きじゃなかったんだから、そんなに良心は痛まなかったのに、雅人の悲しそうな表情を前にして、

何故だかひどく胸が痛んだ。

「ごめんね、雅人」

 それはきっと、同情的なものだと思う。

 病気で弱くなっているから、傷つけることが辛いと思うだけ。

 だからいくら胸が痛くなったからと言って、雅人の気持ちを受け入れることは出来ない。

「雅人は……大和じゃないんだもん」

 そう言ったら雅人は目を伏せ、「わかった」と小さく呟いた。



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恋にとどくまで~大和と苺花(4)

大和


 土曜の11時に梨々の家に直接行くと言う約束をして、苺花と別れた。

 苺花に夕食を一緒にって誘われたけれど、俺は断った。

 今からバイトに行くのだ。

 やっと自動車の普通免許がとれた。

 いつも苺花に自転車だとバカにされるからだ。

 いや、それだけの理由じゃないけれど……。

 自分の車を買うために、バイトを始めた。

 頭金くらいは現金で払いたいと思って、この居酒屋で働き始めた。

「ショッピングセンターで見たよ。彼女?」

 更衣室で着替えをしていると、バイト仲間の椎名(しいな)ってやつが声をかけてきた。

「見てたのかよ。声くらいかけろよ」

「邪魔するわけに行かないだろ。それよりすっごい可愛い子だったね。今度紹介してよ」

 苺花、可愛いからな。それは素直に認めるが、もう目をつけられたってわけ?

「紹介してやろっか? 俺の彼女ってわけじゃねーし」

 椎名に言ったら、苦笑いで返された。

「や、紹介しろとは言ったけどさ、大和の彼女として紹介しろって意味だったんであって、別に僕の彼女

にって紹介してもらうつもりはなくてさ、アハハ」

 弁解しつつ、顔がにやにやと笑っている。

 椎名は俺と同じ年だ。バイトに入った初日から仲良くしているが、なかなかいい奴だ。

 カッコイイより可愛い雰囲気のやつだ。

 苺花も気に入るかもしれない。




 そして土曜日。梨々は手料理をでもてなしてくれた。

 いなくていいのに、涼も仕事が休みだからと言って、そこにいた。

「元気ないのね、苺花」

 可愛いエプロンをつけた梨々が、不機嫌そうな苺花の顔を心配そうに見つめている。

「無理ないよ。雅人さんと別れたばかりだから」

 涼が梨々に説明している。

「雅人のことなんか、とっくにふっきれてるよ。元気なく見えるのは、梨々と涼の幸せぶりに

ちょっとムカつくからだよ」

「なんだ、そっか」

 梨々は、苺花の毒舌に慣れているらしく、さらりと笑って流しているが、隣にいる涼は、

少々戸惑い気味だ。

「そうだよ。イチャつくのは二人だけのときにしてよ」

 ね? と言って苺花は俺に同意を求める。

「あ、ああ。ハハッ」

 曖昧に笑って誤魔化した。

 だけど、それからずっと二人を観察していたが、俺と苺花がいるのもお構いなしに、ラブラブっぷりを

披露してくれていた。

 苺花が選んだプレゼントの包みを開けた瞬間など、そのピークに達していて、梨々も涼もピンクオーラ

が漂っていた。

 ──やってられない、見てられない。

「そろそろ帰ろう」

 苺花が言ってくれて、俺はホッとした。

「食べるもの食べたし、プレゼントも渡したし、お邪魔だから帰ろうっと」

「もう帰るの? ゆっくりしていけばいいのに」

 とりあえず一旦は梨々に引き止められたけれど、

「後は二人でごゆっくり」

 と言った苺花の言葉に、梨々は頬を染め、涼が梨々を愛おしそうに見つめていた。

 苺花と外へ出た瞬間、一気に疲れが出てしまう。

「大丈夫? 大和」

 苺花が心配そうに聞いてくれる。

「顔がずっと引きつってたからさ」

「ああ。気をつけてたつもりだったんだけどな。ダメだな、あいつら見てると辛いかも……」

「梨々たちはお互いしか見てなかったから、大和のことは気にしてなかったと思うよ。私でも呆れる、

あのバカップルぶりには」

「はあ。独り身同士には辛いよな」

「一人が嫌なら、付き合おうか」

 またまた苺花が冗談を言った。

「大和と付き合いたいなー」

「冗談ばっか言うなよ。いい加減にしろ」

 ヘラヘラ笑って言われたって、誰がまともに受け取るか。

 からかうのもいい加減にして欲しいって言うのが、正直な感想だった。

「ね、今からカラオケ行かない?」

「行かない。バイトなんだ」

「今日もなの?」

「今日もなんだよ」

「ふーん、そんなに働いてどうするの? あ、私に貢いでくれるのね。わーい、嬉しいなー」

 横で手を叩いて喜ぶ振りをしている苺花を、冷ややかにしか見れなかった。

「それじゃあ送ってって、大和」

「無理だよ。すぐ行かなきゃ遅刻なんだ」

「え~~っ! 私を一人で帰すってゆーの?」

 苺花は、ひどーいとか、冷たーいとか騒いでいるが、一人で来たのだから一人で帰れるはずだし、まだ

外は明るいのだ。彼女でもないくせに、苺花は要求が多すぎて困る。

「じゃな、俺マジで急ぐから」

 不満げな苺花にヒラヒラと手を振って、俺はバイトへ行った。

 俺だって、いつもいつも苺花の言いなりってわけじゃないんだ。

 こうやってちゃんと断ることだって出来るんだ。




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恋にとどくまで~苺花と大和(3)

苺花



 自転車の後ろに乗って、大和の身体に腕を回す。

 背中から伝わる温もり、そして大和の匂いにうっとり陶酔する。
 
 あんな状況で何もしないなんて、やっぱり大和は誰とも違う。

 ますます好きが、大きくなった。

「ねえ、大和」

「んだよっ」

「男はみんな獣だと思ってたのよ」

「ああ、そうですか」

 かなり大和のご機嫌は斜めになっているようだ。

「大和、何もしなかったよね」

「……不満かよ」

「違うよ。男性観変わったよ。大和みたいなヘタレな男もいるってわかった」

 ぎゃー、私ったら、そこは褒めるところなのに、落としてどうするっ!

「ヘタレで結構。付き合ってもいない女とやるのがヘタレじゃない証拠だったら、

俺は一生ヘタレでいいですよ」

「ハハッ、一生ヘタレ大和ー」

「いいよいいよ。一生言ってろ」

「一生、言うよ」

 大和の背中に頬を押し付ける。身体に回した腕に力をこめた。

 一生、大和のそばで言い続けてやるんだ。

 たとえ、この気持ちが大和に届かなくても、友達でいいからずっと付きまとって、

そばで言い続けてやる。

「また遊ぼうね、大和」

 家の前で自転車を降りてから、大和に手を振った。

「ああ、またな」

 素っ気なく言われるが、「また」があることが嬉しい。

「またね、バイバイ」

「ま、元気そうでなにより。じゃな」

 小さくなってゆく大和の姿が見えなくなるまで見送った。

「……大和。本当はね、ずっとずっと好きなんだよ。素直に言えなくて悩んでたんだ。大和が、大好き」

 何度も言葉に出して、練習したのに、なかなか伝える勇気もチャンスもなくて……。

「はあ……ダメだな、私って」

 こんな風に切ないため息を落とすのも、もう数え切れないくらいだった。

 大和には変なところばかり見られている。 

 変な女って思われているだろう。

 どうでもいい男は簡単におとせるのに、どうしても大和はおとせない。




 10日ぶりに大和に会ったのは、梨々への結婚祝いを買うためだった。

「生活用品がいいかな。それとも……って大和どこ見てるのよ」

 大和の視線を胸元に感じて、慌てて押さえた。

「は? そんなとこ見てねーよ。自意識過剰ってゆーの。見られたくないならそんなん着てくんな」

「ってことは、やっぱり見てたんでしょう」

「見えるよ。目に付くんだよ」

 大和は視線を外しながら、目の毒。なんて言った。

「ひっどーい。毒だなんて」

 キャミソールは大好きなアイテムだし、男の人は喜ぶんだけどな。

大和にとっては目の毒にしかならないんだ。

「梨々のお祝い、エッチな下着にしようか」

 ムカつくので、からかってやることにした。

 下着売り場で、居心地悪そうにしている大和の反応が面白くてついつい調子に乗った。

「これ可愛いよね、試着してみようっと」

 淡いピンク色の小さなフリルが可愛いブラを手に取った。

「苺花のじゃねーだろ。梨々に選べよ」

「着心地とか良いほうがいいでしょ? つけてみて気持ちよかったら決めるのよ」

 大和に言って、試着室に入った。

 鏡の前でつけてみる。

「いいかも」

 さすが値段が高いだけはある。身体にぴったりだし、その感触も気持ちがいい。

「大和、見てみて」

 すきまから顔を覗かせて大和を呼んだ。

「え……」

 見る間に大和が赤くなる。

「冗談だよ」

 ふふっと笑って、カーテンの中に引っ込んでから元通りに服を着た。

 「決めた。これにしよう。可愛いし」

 梨々のサイズは、確か70のBカップ。私のと比べると、小さくて可愛い。

「自分のも買うのかよ」

 レジに並んでいると、大和が手に持った二つの下着を呆れたように見ている。

「色違いだよ、梨々のは清純の白にするの。私はピンク。今度つけたところ見せてあげるね」

「は……いいよ、そんなん見たくねーし」

 ふんっと大和はそっぽを向いた。

「ホントは見たいくせに。あ、見たいのは梨々のほうか。私じゃなかったねー」

 アハハと笑ってみせるが、大和の反応はなかった。

 呆れられちゃったか。

 支払いを済ませ、梨々のはプレゼント用にリボンをつけてもらった。

「持って」

 紙袋に入った梨々のプレゼントを大和に持たせた。

「涼には何にする? ネクタイとかでいいか」

 男の人って、何をもらったら嬉しいんだろう。

 プレゼントはもらうばかりで、あげたことがないからわからない。

 例えば大和だったら、何が欲しいかな。

「ネクタイでいいんじゃねーの?」

 どうでもいいって口ぶりだ。

 そうだよね、大好きな梨々をとられたわけだし、涼を好意的に見られないのもしょうがないことだ。

「じゃ、ネクタイ売り場に行くぞ」

 大和が先に歩いてゆくのを、慌てて追いかける。

「あっ……」

 急に走ったせいで、そこにいた人にぶつかり転んでしまった。

「大丈夫か」

 大和が気付いて手を差し出してくれる。

 つかまっていいの? 大和の手に。

 迷う暇なく、大和に引っ張られる。

「あ……」

 大和の手が意外に大きくて、力強くてドキンとする。

「あれ? 苺花、何かテレてるねー」

 顔を覗きこまれ、さらにドキンとする。

「テレてないよ、バカッ」

 咄嗟に大和の頬を、叩いてしまう。

「イキナリ叩くなよ」

 大和が驚いたような、ムカついたような、そんな反応をした。

「大和がからかうからだよ」

「からかったかもしんねーけど、苺花だってからかっただろ」

「からかってないもん」

「下着姿、見せようとして反応楽しんでただろ」

「見せてないじゃない。なによ、見せなかったから怒ってんの?」

「誰がっ……ってゆーか、またからかって」

 とうとう大和は、バカにすんな、と言って私に背を向けてしまう。

 またやっちゃったよ。

 ダメだ、このままじゃケンカ別れになる。

「ごめんなさい、もうしません」

 頭を下げて、素直に大和に謝った。

「なんだよ、もういいよ。もうっ……行くぞっ」

 先に立って歩き出した大和を追いかけながら、許してもらえたことにホッとする。

 ちゃんと素直にいろんなことが言えれば、きっと大和は見捨てないでくれるだろう。

 いくら照れ隠しで言った冗談でも、真面目な大和には通じないことが多いから、私は頑張って努力して

行きたいと思う。

 そう。思うんだけど行動が伴わないんだよね。


 

恋にとどくまで~大和と苺花(2)

大和



 何故だか苺花が泣きながら電話をしてきた。

 すでに眠り込んでいた俺は、意識が夢か現実か曖昧な場所にいた。

「何時だよ」

『三時っ! もう、時間なんかどうでもいいから来てよっ!』

「……は? どこ?」

 苺花は雅人と帰ったはずで、とっくに家で寝ているんじゃなかったのか?

『雅人のマンションの下よっ。いちいち説明しないとわかんないの?』

「わかるかよ」

 ため息混じりに言ったら、苺花に怒られた。

『いいから早く迎えに来なさいよねっ』

 何だか良くわからないが、泣いているんだ。こんな時間に女の子をほおってもおけないだろう。

 俺は洋服に着替えると、雅人のマンションまで自転車を飛ばした。

「もう、遅い! しかも何で自転車で来るのよ」

 これでも急いで来たんだ。迎えに来てやったのに、どうして怒られるのだろう。

「文句言うなら帰る」

「バカ大和。帰るなら来るな!」

「……帰んねーよ。はあ、何かわけわかんねーけど、乗れよ。送る」

 苺花を後ろに乗せて自転車をこいだ。

「大和」

 苺花が俺の身体に腕を回し、ぎゅっときつくしがみつく。

「ごめんね、大和」

「……いいよ、別に。慣れてるし」

 苺花は良く男に放置される。

 その度に迎えに呼ばれて来た。

 いつものことだから、どうってことはなくなった。

「私、雅人と別れた。喧嘩別れだよ」

「そっか」

 それでこんな時間に追い出されたのか。

 けど、女の子をこんな時間に普通、追い出すかな。

「雅人ね、私と大和が出来てると思ってるんだよ。大和のせいで別れちゃったよ。責任取って

付き合ってよ」

「はー、何それ」

 ムチャクチャだ。

「ホテル行こうよ、大和」

「もう、やめようよ。こんな状況で言うことじゃない。冗談にならない」

「本気だもん。行ってよ。帰りたくないもん。行ってくれないならここで下ろしてよ。そのへんの

怖い男捕まえて、強姦されちゃうからね」

 過激な発言。メチャクチャだ。

 だけど、失恋したてだし、ヤケクソで苺花ならやりそう。

「私がボロボロになったら、大和のこと恨むからね」




 半ば強制的に、有無を言わさないように強引に、苺花にホテルに連れ込まれた。

 ものすごく不本意だ。

 しかも苺花のやつ、俺を誘惑しようとしていたのか、エッチなビデオを見せようとしたり、シャワーを

した後にバスタオル一枚身体に巻きつけただけの格好で出てきたり、抱きついたり……。

 危うく苺花の誘惑に乗りそうになったじゃないか。

 自分の身体が、苺花に対して反応してしまったことに、ひどく狼狽していた。

 知り合ってすぐにエッチする苺花を、梨々は軽蔑していたんだ。

 付き合ってもいない苺花と、そんなことになって、もし梨々にバレたらきっと梨々は俺を

軽蔑するだろう。

 梨々は結婚したんだし、俺とどうなるわけでもないけれど、友達でもいられなくなるのは

避けたかった。




「え、俺が払うの?」

 ホテルのチェックアウトのとき、俺に当然のように全額支払いをさせようとする苺花に文句を言った。

「誘ったのはそっちだろ。半分出せよ」

「信じられない大和。女の子に払わせる気? かつてひとりもいませんでしたね、そういう男」

「知るか。いいから出せって」

「男は私の身体を好きに出来るんだから、ホテル代を出すのは当然なのよ。お小遣いくれる人も

いたっけなー」

「俺、苺花に何もしてねーし」

「しないほうが悪いのよ。せっかく私がしてもいいって言ってあげたのに、床で寝るなんてバカ、大和く

らいなものよ」

 結局、俺が全額支払う羽目になるんだ。



 やっぱりふに落ちない。不本意。

恋にとどくまで~苺花と大和(1)

恋にとどかなかった大和の続きになります。
今回は苺花視点ですが、大和視点と交互に書いていこうと思っています。


苺花



タクシー待ちの列に大和を並ばせて、私は駅前広場に設置されているベンチに座って待っていた。

 携帯で遊んでいる振りをしながら、じっと大和の背中を盗み見ていた。

 親友の梨々が好きで、私が見ていることに全然気がつかない鈍感な男。

 梨々に失恋し、結婚したっていうのにまだ気持ちを引きずっている未練がましい男。

 優しいだけが取り柄みたいな、そんな大和だけどずっとずっと大好きなんだ。

 携帯の待ちうけ画面に目を戻した私は、小さく呟く。

「こっちなんか、ちっとも見てくれないんだもん」

 言い寄ってくる男はたくさんいた。可愛いと言われ、ちやほやされる。

 なのに私は、ちやほやの「ち」さえもしてくれない大和が気になった。気になってずっと見ていたら、

いつの間にか自然に探すようになっていて、そして大和の視線の先にいつも梨々がいることに気付いた。

 その瞬間、大和が好きだと自覚した。

 3年間の片想い。

 叶うときは来るんだろうか。

「苺花?」

 自分を呼ぶ声に顔をあげると同時に、携帯を閉じた。

「帰ったんじゃなかったのか」

 二次会の帰りらしい雅人だ。

「大和が落ち込んでたから、カラオケ行ってたんだよ」

 嘘じゃない。本当に落ち込んでいる大和を励ましてやりたかった。

「今、タクシー待ちしてるんだ」

 言って、大和を指差した。

「そうか。飲んでるのか?」

「少しだよ。少しだけしか飲んでない」

 雅人は、未成年の私がお酒を飲むと、いい顔をしない。

 雅人は、少し顔をしかめると、大和のほうに向かって歩き出す。

 私も後をついて大和のそばまで行った。

「遅くまで苺花が引っ張りまわして悪かったね」

 雅人は、私のせいにして大和に謝る。

「ありがとう。苺花は僕が連れて帰るから」

「あ、じゃあお願いします」

「大和くんにお願いされるのは、変だけどね」

 せっかく頭まで下げている大和に向かって、雅人が笑いながらそう言った。

 大和に別れを告げると、雅人は電話でタクシーを呼んだ。

 手馴れた風にタクシーを呼ぶ雅人を、無性に嫌だと感じた。





 一緒にタクシーに乗ってからしばらくすると、雅人の説教が始まった。

「今までは梨々と3人だったから許したけどね、2人きりで大和くんと会うのはやめて欲しいな」

 それって、嫉妬だろうか。

「大和は遊び友達だもん。これからも遊びたい」

「遊びたいって、子供みたいな……」

「子供みたいな遊びしかしないよ。雅人は、大和といつ間違いが起こるかって心配してるんでしょ? 平

気だよ、大和だから何にも起こらない」

「ふうん。随分信用があるんだな、大和くんは」

「あるよ、あいつヘタレだもん。女の子に指一本だって触れられないくらいなんだからさ」

「今はそうでも、いつ……」

「強制しないでよ。束縛されるのは嫌」

 雅人は私の行動を干渉しない。干渉しないで自由にさせてくれる。そう言うところが楽だったのに、何

を今さら言ってるんだろう。

「ずっと気付かない振りをしようと思ったんだが」

 雅人が窓の景色を見つめたまま、言葉を続ける。

「苺花、僕と付き合っている間、何回浮気した?」

「浮気? してないよ、そんなの」

 どきんとした。ばれていないかと思っていたのに、コイツ気付いていたんだ。

「僕を騙せると思ってた?」

 ああ、嫌だな。

 今まで黙認してたなら、今さら言わないで欲しいよ。

「苺花?」

 きつく唇を結んで首を振る。

 言わない言わない。浮気なんてやってないんだ。

 そうこうしているうちに、タクシーが止まった。

「着いたよ、降りなさい」

「ええ、ここ私のうちじゃないじゃん」

 勝手に雅人のマンションに連れてこられた。

「いいから、降りろ」

「もう、怒んないでよ。ハゲちゃうよ」

 私の冗談にも笑えないくらい、雅人は怒っているらしかった。

 しぶしぶ降りて、マンションの部屋に入る。

「苺花が一年以上も僕と付き合ってるのが、すごいねって梨々が言ったんだ」

 いきなり雅人はそんなことを言い出す。

「苺花は冷めやすいのに、雅人さんすごいねって。僕がどんな気持ちでそれを聞いていたかわかるか?」

「知らないよ。言ってくれない気持ちなんかわかりませんよ」

 ふふんっとそっぽを向いた。

「苺花が、他の男と浮気しているのを見逃してやっていたから続いてたんだろ。ずっとガマンしてたん

だ。梨々は、僕が苺花に愛されているんだと思っている。どんなに虚しいか、わかるか?」

 だから、わからないって言ってんじゃん。

「気付いてたなら、早く言えばいいでしょ? 今さら何よ」

「言ったら一ヶ月で終わってたよ。僕は真面目に付き合って行きたかったから何も言わずにいたんだ。な

のに、その後も全然落ち着いてくれない。何が不満なんだ? 言いたいことがあるならちゃんと言ってく

れよ」

 そっちこそ、言いたいことがあったなら、早く言えよって感じ。

 雅人は適当に遊ばせてくれるから、とりあえずキープだったけど、こんな風に責めたてられるんだっ

たら終わりにしたい。

「別に嫌なところも不満もなかったよ」

「大和くんじゃないからだろ」

「え……」

 雅人と目が合う。言い逃れは許さないって目つきだ。

「携帯の待ち受け、見たんだ」

「もう。勝手に見ないでよ!」

 信じられない。

 きっと私の通話記録もメール内容もチェックされていたんだ。

 待ち受け画面には、大和の姿を登録してある。

 こっそり盗み撮りした大和は、私とは目が合うことはないけれど、どうしても消せないんだ。

「見たくて見たわけじゃない。偶然見えたんだよ」

「偶然なわけないよ。携帯は開かなきゃ見えないでしょ」

「見たとか見ないの問題じゃない」

「へ理屈で責め立てようって魂胆ね。見たんでしょう?」

 持っていた引き出物の入った袋を、雅人目がけて投げつけた。

恋にとどかなかった~大和のその後


惜しくも? 梨々との恋に破れた大和。

その後どうなったんでしょうか。と言うことで続きを書いてみました。

高校を卒業した後のお話でお届けいたします。



 恋愛に関して、真面目に取り組んだことがないとか、相手が変わるサイクルが早いとか、熱しやすく冷

めやすい、などなど。

 俺が片想いしていた梨々の親友、苺花に対する梨々の分析結果だ。

「元気出しなさいよ、大和!」

 その苺花に、背中をバシッと叩かれる。

「カラオケでも行こうか? もちろん大和のおごりで」

「はあ? 何で俺のおごりだよ」

「私と二人でカラオケなんて、お金払ってでも行きたいって男、たくさんいるのよ。大和くらいなもの

よ、私に冷たいの」

 じゃあ、他の男と行けばいい。

「やっぱり目の当たりにすると、辛いよね。いいよ、大和。今日は特別に私がおごる。行こう」

 苺花が俺の腕を引っ張ったとき。

「苺花」

後ろから苺花の恋人であり、梨々の叔父にあたる雅人の声が聞こえる。

「この後、会社の奴らと二次会なんだけど、苺花も一緒に行くか?」

「どうしようかなー」

この雅人ってやつ、苺花とは、結婚の約束をしているとか、いないとか。

確か俺たちより10くらい年上だっけ。

「大和はどうする? 二次会行く?」

「俺はいい。行かない」

「じゃあ、私も行かない。雅人、楽しんできていいよ。私、大和と帰る」

 雅人の視線が俺に移った。そしてすぐに苺花に目を戻す。

「俺は抜けられないからな。悪いけど大和くん、苺花のこと頼むね」

 そう言って、雅人が苺花の手に、お金を握らせた。

「じゃあな、苺花。タクシーに乗ってちゃんと帰れよ」

雅人の後姿を見送った苺花は、何故か深いため息を落とした。

「良かったのか、行かなくて」

「いいのいいの。会社の人といたってつまんないし、梨々と涼のラブラブなの、これ以上見たくないのよ

ね。大和もそうでしょ」

「そりゃあ、まあ。そうかもな」

 梨々に失恋して以来、自分なりに気持ちを整理できたと思っていた。ちゃんと梨々のことは、卒業する

まで友達として付き合えたと思う。もう何とも思っていない。ちゃんと二人を祝福できるはずだ。

 そう確信できていたからこそ、今日こうして梨々と涼の結婚式に出席を決めたのだ。

 あっと言う間だったな。

 高校を卒業して、こんなにすぐ結婚だなんて。 

 でもいざ幸せそうな二人を見ると、やっぱり胸のどこかがチクッと疼いた。

「行こう、カラオケ」

 苺花に促され、立ち上がる。

「帰るんじゃねーの?」

「せっかくお小遣いもらったから、奢るってば」

 苺花はさっき雅人にもらった5000円札をヒラヒラと目の前で振ってみせる。

「それ、帰りのタクシー代じゃね?」

「いいの! もうこのお金は私のものだし、どう使おうと自由だもん」

「はー、やな女だな、おまえ」

 今に始まったことではないが、苺花の行動、言動には呆れるを通り越して、もはや理解不能。

「行くの行かないの!」

「いいよ。雅人さんに頼まれたし、ほっとくと苺花、どっか行っちゃうだろ。しょうがねーから行ってや

るよ」

 しぶしぶついて行った風を装ったが、俺は苺花以上に歌いまくってしまった。

 歌に何もかもをぶつけるように。

 そして、引き出物の中に入っていたケーキや赤飯などなどを、持ち込み禁止のカラオケボックスで、し

っかり全部食ってやった。

 二人で4時間歌いまくり、店を出る頃には、かなりスッキリしていた。



 大通りに出て、タクシーを拾おうとするが、土曜の夜だからか、なかなか空車が見つからない。

「大和、帰るのやめようか」

「は? 何それ」

「その辺に泊まっちゃおうか」

 また苺花がバカなことを言い出す。

「彼氏いるんだろ。俺たちそーゆんじゃねーだろ」

 俺は苺花のそういう誘いは一切無視なんだ。

「別に大和とエッチするつもりじゃないのに。眠いんだもん。眠りたいだけなのに大和ったらエッチなこ

と考えちゃって」

 肘でわき腹をつつかれる。

「眠るだけなら尚更じゃんか。わざわざ泊まらなくたって、帰って寝ればいいんだ」

「タクシーつかまんないから、言ってるんじゃない」

「駅のほうにタクシー乗り場あっただろ。少し歩くけど、行くぞ」

 苺花には付き合ってられない。

 先に歩き出した俺の背に、苺花が文句をぶつける。

「もー、大和ー。足が痛いのー。待ってよー」

 履きなれないヒールの高い靴。さっきから痛そうにしているのには、気がついていた。

「世話の焼ける女だな」

「おんぶして、大和」

「は? 何甘えてんだ。腕につかまれよ、腕に」

「ひゃはは、大和が赤くなったー」

 すぐそうやって苺花は俺をからかうんだ。

 

 梨々に失恋して以来、こんな調子で苺花は俺に構ってくるようになったが、正直言って時々困る。

 スキンシップ過剰だし、冗談ばかり言うのだ。

 俺を振り回して楽しんでいる。

 苺花のいいおもちゃになっているんじゃないだろうか。

 あれしろ、これしろと要求は多いし、苺花の奴隷にされているんじゃないかと疑うこともある。



 早く彼女でも作って、苺花から解放されたいとしみじみ思いながら、

苺花を抱えるようにして駅まで歩いた。
 





引き続き、「恋にとどくまで~苺花の恋」を書こうと思います。

苺花と大和が、恋人同士になる……のかな?? 苺花の想いが大和に届き、大和が苺花を好きになる。

……はず。

その恋の成就までの過程を、書いてみようと計画中。

無理かな。無理そう? いえ、恋人同士にしてしまいます!!(強引にではなく、自然にですね)


近日公開予定!


ご期待ください。(期待しているかたがいらっしゃるならば、ですね)

誰が森につかまっちゃったんだろう。(森の奥シリーズ?)


決して森の奥には入っちゃいけないよ。

そういつもお母さんに言い聞かされていた。

もう耳にタコが出来るくらいに。

今日遊びに行ってみると、森の手前にある大きな木の根元に、

一台の自転車が置き去りになっていた。


誰が乗ってきたんだろう。


周りを見回すけれど、誰の姿も見えないんだ。

ボクは森の奥にじっと目を凝らす。

もしかして、お母さんに知らされていないその人は、

森に呼ばれちゃったのかもしれない。

嫌だと言えるはずもなく、暗い暗い森の奥の、

あの、小さな輝きに誘われるまま行っちゃって、

そしてつかまっちゃったに違いない。


いったい誰だろうと思うけれど、確かめることはきっともう出来ない。


恋にとどくまで~梨々の恋 ファイナルstep

20step



 都市高速に乗って、西の海岸へたどり着いた。

 夜になるとライトアップされるタワーが近くに建っている。

 車を駐車場に止めてから、涼が言った。

「俺ってさ、付き合ったら違ったって言われるんだ。なんか俺、クールなイメージあるみたいなんだけ

ど、実際違うから。軽く付き合えそうとか、遊び相手程度に扱われるんだ。いつも俺のほうがはまって、

本気になったら捨てられる」

 そう言うの、嫌だからさ、と涼は前置きするように梨々に言った。

 前置きはいいから、早く付き合うかどうするかを言って欲しいのに。

 ちょっとイライラしながら、涼の言葉の続きを待った。

「さっき、大和といるのを見たときに、ああ、とっくに大和と出来てたんだって思ったよ。やっぱり一ヶ

月は長かったのかなって、少し後悔して……」

「後悔役立たずなんだから、後悔するくらいならさっさと言えばいいのよ」

 梨々は頬を膨らます。

「後悔……そうだよね。確かに役立たずかも」

 涼は笑って、ホントは先にだけどね、と良くわからないことを言った。

「梨々はちゃんと待ってるのよ。今だって、涼に生殺しなのに、待ってるの。早く言って欲しいのよ」

「待っててくれたんだ、梨々ちゃん」

 うなずくと涼は、車の窓を開けた。

 外の冷たい空気がすーっと入ってきて、わずかにぶるっと震える。

「あ、ごめん、寒かったね」

 再び涼は車の窓を閉める。そして、窓越しにそこに見えるタワーを指差して見上げた。

「あそこの展望台で、結婚式できるんだ」

「結婚式?」

 急に何なの?

 戸惑う梨々に、涼は微笑みかけてくれる。

「あそこで、結婚したいって前に付き合った彼女に言ったんだ」

「……涼が、言ったの?」

「そう。そうしたら鼻で笑われた。夢見すぎだって」

 思い出したのか、涼は遠い目をして苦笑いをする。

 梨々はタワーを見上げた。

 まだ夜と言うには少々明るいが、夜になるとライトアップされるタワーのキレイなことは、見たことが

あるから知っている。

「梨々はどう言う? バカみたいだって笑う?」

「笑わないよ。梨々だって、あんな高いところから夜景を見下ろしながら結婚式なんて、いいなって思う

もん」

「そっか。じゃあ梨々と一緒に俺の夢、叶えようかな」

「へ?」

 梨々は涼の顔を、首をかしげつつ見つめてしまった。

「言ったじゃん、梨々。俺と結婚しようって」

「ええっ」

「驚くなよ。自分のセリフだろ。それともあれは、その場の思いつき? 嘘だった?」

「そそそ……そんなことないっ」

 梨々は大きく左右に首を振る。

「永遠に、俺が好きって言った梨々の声が、あっち行ってる間ずっと頭の中で何度も繰り返し聞こえるん

だ。うるさいくらい」

 涼は、シートベルトを外すと、左手を助手席の背もたれ部分に回してきた。梨々の背中に触れそうで触

れない距離に、涼の温度を感じてしまう。

「ずっと何度もシュミレーションしてた。梨々と付き合ったらどうなのかなって。ずっと考えたよ」

 涼の指が、梨々の髪に触れる。身体がゾクッとする。

 心臓が、飛び出しそうに高鳴っている。

「クリスマスに、俺が彼女に振られて。梨々が遊びにきてくれた。思えばあのときすでに意識し始めてい

たんだろうなって。大晦日の夜に迎えに行ったのだって、物産展のとき、カフェで待ち合わせたのだっ

て、会いたいと思ったからなんだろうなって、今になって思うんだ」

 なのに、そらしてばかりでごめんね、と涼は申し訳なさそうに謝ってくれた。

「自信がなかったんだ。いや、自信って言うより、勇気かな? 次の恋に踏み出す勇気。それから、梨々

を信じきれていなかった。言い方は悪いけれど、この一ヶ月間、試したってことになるのかもしれない。

梨々ちゃんの気持ちも。そして俺自身の気持ちも」

 梨々から見れば、大人に見えて、何でも余裕でこなしているようにしか思えなかった。カッコ良くてカ

ッコイイ涼にも、こんな一面があったなんて。

「もう一回、確認していい?」

 涼の目が、じっと梨々の目を捉える。

「大和とはなんでもないんだな?」

「ないっ」

 大きくうなずいた。

「俺が、一番?」

「そうだよ、涼が梨々の一番っ」

「ずっと?」

「ずっとずっと永遠に一番だって、い、言ったじゃん」

 涼の顔が、梨々に近くなる。

 ぐっと抱き寄せられ、少しでも顔を動かせば涼に食べられてしまいそうな距離だ。

「梨々、俺……束縛するよ?」

「い……いいよ。ひ、紐でぐるぐる巻きにして縛ってもいいよ」

 声がメチャクチャうわずってしまう。

「いつも会いたいって言うよ? ウザイって言われるくらいしつこくても平気?」

「平気だよ、涼」

「ホントに、一番……だよな?」

「一番!」

 しつこく確認され、梨々もそれにちゃんと答えた。

「じゃあ、梨々。約束しよう。あのタワーで俺と梨々、結婚式しよう」

「け……結婚っ? ほんとなの?」

 涼からプロポーズだよ。何これ。夢?

「これ、交換じゃなく改めて買ったんだ」

 梨々の指に、涼が指輪をはめてくれた。

 クリスマスにもらいそこねたネックレス。それがこんなカタチで返ってくるなんて。

「いつだって、付き合うときは真剣なんだ。結婚したいって考える。なのに、いつだって、叶わないまま

振られ続けてきたんだ。もう嫌なんだ、そういうの。梨々も本気じゃないなら断るのは早めにしろよ。じ

ゃなきゃ、俺、放さないよ?」

 涼の左手が梨々の後頭部を引き寄せる。と同時に右手も背中に触れた。

 涼の腕の中に梨々……入ってる。

「梨々、答えは?」


「あ……有難く受けて立つに決まってるじゃん。梨々の本気なんか、涼よりもっとずっとすっごい大きい

んだから。涼こそ、梨々に束縛されて逃げられなくなって、後悔しないようにしなさいよねっ」

「わかった。梨々の本気、全部もらうね」

 涼が、梨々の頭ごと抱きしめてくれた。

 てっきりキスしてもらえるかと思っていたのに、外れちゃった。

でも、梨々の耳から聞こえてくる涼の規則正しい鼓動が、ちょっとだけ早いと感じて、何だかとっても幸

せな気分になった。

「あのね、涼。梨々……」

 涼の胸に抱かれたまま、梨々は涼に伝えた。

「進路調査票……書かなきゃいけなくて。それで、梨々……」

「進路?」

 涼に、身体を離されてしまった。不審げに見つめられる。

「進学するの、やめたくなった。梨々……それに涼って書こうかな」

 こんなことを言えば、笑われるか呆れられるかのどちらかだと思うのに、涼はそのどちらとも違う反応

で返してくれた。

「いいよ。俺に永久就職って、書いとけ」

 冗談ぽく涼が笑う。




 両親に放任されて、ずっと寂しかった。



 だけど、もうひとりじゃない。



 ずっと憧れていた涼の腕の中で、梨々は幸せな気持ちでいっぱいに満たされていた。

 涼の全部を独り占め出来るんだ。

 これからずっと、一生涼を見ていても怒られないんだ。

 こんな幸せなことが、夢みたいなことが現実になった。

「梨々の恋、涼に届いちゃったね」

 梨々が言うと、涼は俺の恋だってそうだよって笑ってくれる。

「これからが大事なんだよな。想いが通じ合うことばかりにとらわれてたけど、これから、どう続けてい

くか。長く一緒にいると、嫌なことにもきっと突き当たる。それをどう乗り越えるかが大事なんだよな」

 物語だと、ここでハッピーエンドなんだけど。

梨々と涼は、ここからもちゃんと続編が待っているのだ。
 
たいてい、続編は何らかの事件が起こるんだ。だけど、たいてい、それを乗り越えて、より深いつなが

りがもてるんだ。


 そんな風になりたいと思う。


 そしていつか、梨々はきっと、幸せな家庭を作る。


 涼と一緒に。


 ふたりだったら、きっと幸せにも届くだろう。




 涼がくれた指輪が、幸せな未来を約束するよって言っているように、梨々の薬指でキラリと光った。




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恋にとどくまで~梨々の恋 19step

19step



 家に帰ると、玄関の前に大和が座り込んでいた。

「大和、梨々を待ってたの?」

 声をかけると、大和が顔を上げて梨々を見た。

「うん。待ってた」

 大和は言って、立ち上がりながらジーンズについた砂埃をはたく。

 チラリと視線を移すと、大和が乗ってきたらしい自転車が止めてあった。

 すでに私服だし、1回帰ってから自転車で来たのだろうとわかる。

「ドラクエ……。魔法のじゅうたんがどこにあるか、わかんねーって梨々が言ってたじゃんか。教えてや

ろうと思ったんだ」

「ありがとう。そうなの、見つからなくて困ってた」

 笑って大和を部屋にいれようとしたが。

「あのさ、梨々」

「どうしたの、大和。早く入りなよ」

 玄関先で靴も脱がないまま、大和が梨々をじっと見つめる。

「俺と付き合って、梨々」

「……え?」

 大和の言った言葉の意味が、すぐには理解出来ず、梨々は固まっちゃった。

「好きなんだっ。彼女になって、梨々」

「え……あっ」

 腕をぐいっと引っ張られたかと思うと、梨々の顔と大和の身体がぶつかった。

 背中に大和の腕が回って、梨々は大和に抱きしめられたって気付いた。

「ウソなんだ」

「え……え??」

 何が何だか混乱してた。

「苺花をスキって言ったの。あれ、嘘だったんだ。ホントは梨々が好きだったんだけど、梨々は涼ってや

つのことしか眼中になかっただろ。俺の気持ちなんかちっともわかってない。そんなのに、梨々が好きな

んか言えなくて、つい照れ隠しだったんだ。苺花は好きじゃない。梨々の友達だから話はするけど、そう

じゃなかったら苦手なタイプだし話しもしてないよ」

 一気に大和に告白……だよね。告白されちゃった?

 いくら鈍感な女の子でも、こんなに抱きしめられて好きって言われれば、大和の気持ちに気付くよ。



 ……ん?



 鈍感な女の子?



 苺花が言ってた。



 ……大和。


「あ……」

 苺花が言ってた……大和の気持ちに気付かない……鈍感な女の子って……。

「梨々だったのっ?」

 気がついて、びっくりして梨々は大和の身体を両手でぐいーっと押した。

 そして目の前で梨々を見下ろしている大和をじっと見つめる。

「大変だよ、大和」

「え……大変?」

 大和が首をかしげる。

「そうだよ、苺花は大和が好きなのよ」

「へ……?」

「良かったじゃん、苺花と両想い……って、あれ?」

 梨々、再び混乱した。

「あの、何言ってんの、梨々」

 大和に怪訝そうな目で見られる。

「……そっか。そうだったんだ」

 頭の中で、整理した。

 苺花が好きなのが、大和。

 大和が好きなのが、梨々。

 梨々が好きなのが、涼。

 涼が好きなのは、……?

「あれ?」

 再び、梨々はパニックになった。

「梨々、涼が好きなのが誰かわからないの」

「……なんだよそれ。意味わかんねー。それより梨々、俺さー今、梨々に告白したつもりなんだけど、届

いてない?」

 梨々から時々視線を外すような仕草で、大和は怒ったような表情で続ける。

「苺花の話とか、涼の話は今どうでも良くね? 俺の話をもっと真面目に受け取って欲しいんだけど、無

理?」

「うん。それはそうなんだけど」

「俺の告白なんか、考えるまでもないってこと? それよりもっと大事なこと、梨々は考えてる。そりゃ

そうだよな。俺にとってはずっと考えていた気持ちだけど、告われた梨々にしてみればいきなりだし、俺

は苺花を好きだと思われていたんだし、驚くのも無理ないし……」

 大和がイロイロ説明している言葉が、梨々の耳を通り抜ける。

 ちっとも理解出来ないくらい、梨々は混乱していた。

「で、結局のところ俺は梨々に告ったものの、砕けるんだろ、涼が好きなんだし、それは承知の上だっ

た。言わずにいるの、苦しくなったんだ。友達のままでこうして遊んでるのも楽しいけどさ、辛いんだ。

だからいっそ、当たって砕けろって気持ちだった。だからいいよ。言ってすっきりしたし。梨々に俺を好

きになってもらえる確率、ゼロに等しいってわかったし」

「……大和、梨々は……」

「涼ってやつの返事、もうすぐもらえるんだろ? いい返事だといいな」

 大和は泣きそうに一瞬顔を歪めたけれど、無理やり笑顔を作ると、じゃあなって言って自転車に乗って

帰ってしまった。

 大和の姿が見えなくなると、何だか寂しくなった。

 梨々って鈍感。

「梨々」

 梨々の心の声と、誰かの言葉が重なった。

 声のしたほうに顔を向ける。

「涼……」

 一ヶ月ぶりに見る涼の顔。

 梨々の目の前に、梨々の好きな涼がいる。

「悪い。声かけられなかった。なんか、大事な話をしていたようだったから」

「いつからいたの?」

「梨々が帰ってくる前から、そこに」

 涼が指した方向に、涼の車が止まっている。

「声は聞こえなかったけど、抱き合ってたのは見えた」

 ずっと見られていたんだ。

「見ないでよ」

「見えたんだよ。車に気付けよ」

「気付く前に教えてよ」

「邪魔しちゃ悪いって思って、遠慮したんだ。あれが大和?」

「大和だよ」

「付き合ってんの? 俺が待てなくて付き合っちゃった?」

 涼がそう思うのも無理はない。

 だって、大和に抱きしめられていたんだ。

「付き合ってないよ。大和が勝手に抱きしめただけだもん。梨々のことが好きなんだって。でもね、梨々

は涼が好きだからちゃんと断ったんだからね」

 梨々は、涼が口を挟むスキがないくらいに一気に捲くし立てた。

「いいじゃん、もう断ったんだし。それより涼、梨々に会いにきたんでしょ、返事でしょ、早く言いなさ

いよ」

「会っていきなり言えって? 梨々ちゃん、意外に気が短いね」

「だって、こんなに待たせておいて……その上まだ待たせるなんて、……何とかの生殺しってゆーのよ」

 なんだっけ。

「そうだね。ごめんね、一ヶ月も保留にしてて」

「そうよ!」

 何の生殺しだっけ。

「ちょっと軽くドライブしない?」

「……いいけど」

 嬉しい。涼とドライブなんて。

 大和の告白に驚いたし、大和が帰ってしまってちょっとだけ悲しかったけれど、感傷に浸る間もなく涼

に会えてしまったから、大和のことを考える余裕がなくなってしまった。

 ごめんね、大和。

 大和の気持ちは嬉しかったけど、梨々はやっぱり涼がいいんだ。







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★あ~あ、大和砕けちゃった。
 何とも思っていない男に対して、女の子は時にひどく残酷なのでした。

 次回は最終話。 時間延長(字数延長?)でお送りいたします。

 たぶん大丈夫と思いますが、文字数オーバーになったらもう一話?

恋にとどくまで~梨々の恋 18step

18step



 
 今日は、苺花を雅人に会わせる約束だった。

 学校帰りに雅人の会社に、苺花と寄った。

 雅人とはまだ、気まずいままだ。だから連絡をしないまま、いきなり訪ねた。

 苺花を紹介して、さっさと退散するつもりだった。

 苺花なら取り残したって、きっと自分で何とかするに決まっている。

 梨々がついていなくたって平気に決まっているからだ。

「こんにちは」

 いつもより小さな声で、ちゃんとノックをしてから扉を開ける。

「おお、梨々っ」

 雅人は梨々に気がつくと、ぴゅんっと入り口まで飛んできた。

「ああ良かった。梨々に連絡しないとって思っていたのに、なかなかできなくてすまなかったね。でも

梨々から来てくれて嬉しいよ……あれ?」

 雅人は、梨々の後ろにいる苺花に気付いたようだ。

「あ、友達の苺花」

 紹介すると、雅人は「ああ」と、満面の笑みを浮かべて苺花に向き合った。

「梨々からいつも話は聞いてます。そうか、キミが苺花ちゃんかあ」

 雅人をじっと見ていると、苺花の顔と胸元に視線が往復しているのが、目に見えてわかった。

「あのさ、雅人さん」

 梨々は唐突に言った。

「梨々ね、今日は用事があって忙しいの。だからお願い、苺花と遊んであげて」

「え、梨々……」

 雅人が何か言う前に、梨々は二人の前から逃げるように立ち去った。






 苺花と雅人がどうなったのか、気にする間もなく、翌日苺花のほうから教えてくれた。

「エッチしちゃった」

 梨々、言葉に出来なかった。

 放課後の帰り道、歩きながら苺花は、道の真ん中でくるくる回るような勢いではしゃいでいる。

「付き合うことになったの。このままだと私、梨々のオバサンになっちゃう~。どうしよう」

 どうしようなんて思っていない風だ。面白くてたまらないって感じに見える。

 正直に言って、苺花には呆れた。

 もちろん、雅人にもだ。

 梨々が、涼と遊ぶだけであんなに怒ったくせに、自分だってしっかり高校生に手を出してるじゃん。

「事務所で話をしているうちに、何だかエッチな雰囲気になってきたのよ」

 聞かないのに、苺花は勝手に話してくれる。

「雅人さんって、ステキですねって言ったら、苺花ちゃんも可愛いね。だって言うからさ、じゃあ付き合

ってくれますかってストレートに言ったわけ。そうしたら、ちょっと考え込むような素振りを見せた。す

かさず私のほうから抱きついてさ~、軽くチュッてしただけで押し倒されたわ~」

 雅人がそんな獣だったなんて。

 身内のそう言う話って、他人の話を聞く以上にリアルで気持ち悪い。しかも相手が苺花。

 それに、会社でしょ? あの事務所の空間でそんなことをするなんて。

 する前って、シャワーをするものじゃないの?

 あの会社に、シャワーなんかついてなかったはず。

 いくら冬でも、汗はかいているんだし、梨々だったら絶対イヤだな。

「やった責任はちゃんと取るからって、真面目な顔で言うもんだから、ちょっと引いちゃった。結婚でも

してくれそうな勢いだったよ」

 アハハと面白そうに、苺花は笑う。

「まあ、しばらくは付き合ってみる。エッチはまあまあだったな」

「しばらくって、真剣に付き合おうって気はないの?」

 あんまりだと思ったんだ。

 最初からその程度の気持ちで付き合うなんて。

 会ってすぐエッチするのもどうかと思うし、それに……。

 ……それくらいの気持ちで付き合えるなら、大和と付き合ってあげればいいのに。

 でも、大和が苺花に遊ばれるのも可哀相だ。

きっといいように利用されて、パシリにされてしまうに違いない。

 だったら、大和は梨々が……。

「真剣になれるような男が、他の女しか見てないのよっ!」

 急に苺花が怒り出す。

「苺花?」

 びっくりして梨々は足を止めた。

「あ、ごめん梨々……。梨々に怒ったってしょうがなかった」

 ハッとしたように苺花はすぐに謝ってくれる。

「もしかして、苺花。本命がいるの?」

 その男は誰か別の女を好きなんだ、きっと。

「そうよ。だから、彼以上の男を……捜してるんじゃん。なのに、ちっとも満たされないよ」

 苺花がうつむき、今にも泣き出しそうに震えてる。

「告白……したの?」

 おそるおそる聞いてみると、苺花はうつむいたまま、小さく首を横に振った。

「出来ないよ。断られたら私、死んじゃう」

「死んじゃうって、そんな……」

 誰にでも簡単に好きだって言って、簡単にエッチして、付き合って別れてって繰り返していた。

 その苺花が、振られたら、死ぬなんて。

「死んじゃうの。恥ずかしくて恥ずかしくて。本当に死んじゃうくらい落ち込むに決まってるの。だか

ら、見てるだけでいい。好きな女と、幸せになってくれればいいと思ってたけど。その女って、すっごい

鈍感なの。大和の気持ちなんかちっともわかってない」

「そっか。鈍感なんだね」

 あれ? 何だか違和感。

 苺花を見ると、両手で口元を覆って、激しく首を横に振ってる。

「どうしたの、苺花」

「ななな、何でもないっ。よ、用事、思い出したから帰るねっ」

 そう言うと苺花は、逃げるように梨々を置いて帰って行った。

「……あれ??」

 また梨々は、苺花に変なこと、言ったのかな。

 もしかして、また怒らせた?




小説ブログランキング 今日は更新してないから、下がっちゃった。



★次回は涼が帰ってきます~。
 たぶん。……まだかな? 
 帰ってきたら最終話。来なかったらまだ続きます。(いい加減な情報ですね~)

恋にとどくまで~梨々の恋 17step

17step




 たぶん、梨々が何かしでかしたのには、違いないのだろう。

 苺花が怒った理由がわからない。

 気まずいまま、約束の一ヶ月が終わった。

「梨々から連絡するわけには……いかないよね」

 今日も大和とゲームをしている。

「向こうが返事するって言ったんだろ。梨々からするのは変。ってゆーか、

それじゃあ向こうをいい気にさせるだけじゃんか」

「いい気にって……」

 大和は画面に目を向けたままだ。

「梨々にこんなに想われてんのにさ、待たせるなんて真似、平気でやってんの。

きっとすっげー自惚れてるんだぜ。いい気になってる。俺はこんなにモテるんだぜーって」

 とげとげしい大和の言葉だけど、否定する気は起こらない。

 だって、大和の言葉にも一理あるなって思ったんだ。

 でも、梨々は涼を信じたい。

「そんなに嫌な人じゃないもん。涼は、ちゃんと考えるって言ってくれた。断るつもり

だったら、こんなに待たせないよ。考えてくれるんだから、可能性あるんだもん」

 大和は振り向き、梨々に冷ややかな視線を向ける。

「何よ」

「いや。梨々って前向きだなーって思って感心してるんだ」

「感心? バカにしてるんじゃないの?」

 言葉がとげとげだもん。

「してねーよ。俺も、梨々の欠片ほどもその前向きさがあれば告白してるのになーって」

「苺花のこと?」

「ちっげーよ、バーカ」

 大和は急にコントローラーを床に置くと、立ち上がった。

「帰る」

「何よ急にっ」

「急じゃねーよ。もういいんだ、じゃあなっ」

 わけがわからない。

 急に不機嫌になって、あんな風にいきなり帰るなんて。

 苺花もだけど、大和まであんなに怒るなんて、もしかして梨々は気付かないうちに、

何かとんでもない言葉を発していたのだろうか。

 苺花も大和も、何も言ってくれないから、わかんないよ。






「梨々」

 次の日学校で、苺花が梨々に声をかけてきてくれた。

「早く紹介してよ、雅人さん。そうしたら梨々と遊んであげる」

 交換条件?

 それって、紹介しないと梨々とは遊んでくれないってことだろうか。

「絶交したいのっ?」

 詰め寄るようにして、苺花に言われ、梨々はついついうなずいた。

「わかった。紹介するよ」

「やったー、だから梨々って好きなんだー」

 廊下の真ん中で、苺花はぎゅーっと梨々の身体を抱きしめる。

 だから、みんなクスクス笑って通り過ぎて行く。

 梨々の身体に、苺花の胸が、押し付けられているような状態だから、

いくら同性とはいっても、何だか変な感じがする。

 大きいな、ふわふわだな、苺花の胸。

 梨々にはないものだ。

 苺花に一度、聞いたことがある。

 どうしたら、そんなに大きくなったのかって。

 そうしたら、たくさんエッチすればいいの~、なんて軽く笑ってかわされた。

 梨々も、涼といっぱいしたら大きくなるかな。

 そうしたら、苺花みたいに魅力的な身体になれるんだろうか。

「何やってんだよっ、邪魔」

 いかにも迷惑だと言うような声が、梨々の後ろから浴びせられた。

「あーら、大和」

 先に苺花が大和に気付いた。

 梨々の身体を解放すると、大和の前に立って、じーっと顔を見上げている。

「何か文句あるのかよ」

 大和がたじろいだ。

「ごめんなさいねー、梨々のこと抱きしめちゃたー」

 ふふんと笑って、苺花はくるりと方向転換して行ってしまった。

「なんだよ、あれ」

 苺花の後姿を見送りながら、大和が吐き捨てるように言った。

「最近、不機嫌なの」

 言ってから大和を見上げる。

「大和も……不機嫌だよね」

「ああ。この前のことだろ。悪かったな」

 あっさり「ごめん」と謝られる。

「子供っぽいよな、ダメだな俺も。まだまだ感情のコントロールが出来てない」

 前髪をかきあげながら、大和が、はあっとため息を落とす。

「大和、仲直りのしるしにドラクエしに来る?」

 窺うように聞いてみると、大和は嬉しそうに笑ってくれた。

 やっぱり、大和はドラクエが好きなんだな。



★鈍感天然梨々。。。18stepに続きます。


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宇宙いっぱいの愛 エピローグ


エピローグ



「あのさあ、咲良」

「なに?」

「地球ってさ、いい星だよな」

 あれから陸は咲良の部屋に戻ってきていた。

 再び陸との同居生活……いや、同棲生活の始まりだ。

 陸のために買ったふとんは、押入れにしまったままだ。

 せまいけれど、陸と一緒にベッドで寝起きするのが、楽しくて嬉しくてしょうがない。

「こんなときなのに、また星の話?」

 陸に腕枕をされて、抱きしめられて、愛された後の余韻に浸っていたい、こんなときなのに陸は咲良よ

りも地球のことが気になるらしい。

「地球は永遠に続くのかって話なんだけど、どう思う?」

 しょうがない。こういう陸が好きになったんだ。

 咲良は陸の質問に真面目に答えた。

「地球が爆発して、人類滅亡とか?」

「なんだよ。地球は爆発しないし、人類も滅亡しねーんだよ」

「どうしてそう思うの?」

「思うんじゃなく、そう確信する根拠があるんだよ」

「根拠?」

 言い切る陸の話に耳を傾ける。

「遠い過去から続いてる地球は、そう簡単になくならないんだよ」

「……それって根拠って言える? 私は、危機感あるんだけどな。地球温暖化とか言われてるし、生態系

も崩れてきてるんでしょ?」

「そうなんだ。そうなんだよっ咲良」

 陸の目が変わった。

 こうなってしまった陸の言葉を止めるのは、きっと不可能だ。

「ちゃんとそれに気付いた今こそが大事なときなんだっ!」

 とうとう陸は、咲良をほったらかして、ベッドの上に起き上がってしまう。

 そして本棚からなにやら分厚い本を出してくると、開いて咲良に見せてくれる。

「大事なのは、地球を愛そうと思う心。つまり地球に対する愛なんだっ」

「……愛?」

「人間が地球を大事にしたいって言う愛を取り戻せるなら、きっと地球は回復するんだ。俺は車には乗ら

ないぞっ。夏のクーラーも使わない!」

「……すごいね」

 陸とのドライブは、一生無理かもしれない。

「たとえ俺一人でも環境破壊に関わらないようにする。人類みな兄弟なんだ。みんな仲良く手を取り合っ

て、明るい未来に向かって……」

 陸の言いたいことは良くわかるけれど、やっぱり他人が聞いたら「わかってるよ、ウザイ」って止めら

れそうだ。

 陸の話に付き合ってあげられるのは、やっぱり自分だけかもしれないと、咲良はその特権? と幸せを

思って苦笑した。

「陸ひとりじゃないよ。私も地球を大事にするよ」

 そう言ったら、陸は嬉しそうに顔を綻ばせて、咲良をぎゅっと抱きしめてくれた。



★ハッピーエンド★  


引き続き、「恋にとどくまで~梨々の恋」へどうぞ。大人になった涼くんが……。
左の書庫からでもここからでもいいですよ。

宇宙いっぱいの愛 第8話


第8話




 次の日、咲良はサークルに顔を出した。

 教室には陸しかいなかった。

 竜輝に煽られ、勇気を出してここまで来たものの、咲良に気付いた陸の態度にくじけそうになる。

「あ、相変わらず淋しいねっ」

 声をかけるが、陸は咲良を見ようともしない。

 やっぱり嫌われてるんだろうか。

「あのさ、陸」

「俺なんかに構ってる余裕ねーんだろ。彼氏と別れるほどに好きなやつがいるんなら、そっちを頑張れば

いいだろ」

 素っ気ない言い方に、さらに落ち込みそうになる。

「だって、いくら私が好きだって思ったって、伝わらないんだもん」

「告白したの?」

「……それはまだだけど」

「じゃあ、どうして伝わらないってわかるんだ」

「わかるよ。その人の言葉とか態度とか、私に対する気持ちが全然見えないっ!」

 陸が眉をひそめて咲良を見た。

 一瞬目が合ったけれど、すぐに陸は咲良から目を逸らす。

「俺に怒るなよ」

「だって……」

 その人は、陸なんだから。

 そう言えばいいだけだ。だけど、どう見ても陸の気持ちが自分にあるとは思えなかった。

「咲良が誰を好きなのか知らないけどさ、好きになってもらうの待ってるだけじゃ、いつまでたっても片

想いのままだぜ。ツライだろ? 俺と住んだり彼氏を作ったりして気持ちを紛らわそうとしてるのかもし

れないけどさ、そんなん逃避だろ。現実から目を背けてるだけじゃんか」

 そうやって言うのは簡単だよ、陸。所詮他人事だもんね。

 わかってるよ。告白すればいいことくらい。

 それが簡単に出来ないから悩んでるんだ。

「好きなやつに気持ちが届かない淋しさは、他の誰にも埋められねーんだよ」

「……なによ、わかったようなことばっかり言って」

「わかるよ。俺だって好きな女、いるし」

 どこか別の世界の言葉に聞こえた。

「い、いるの? 陸……好きな人」

 陸は読んでいた本をパタンと閉じた。

 そして咲良をじっと見据えると、ハッキリ言った。

「いるよ。いるから片想いのツラさがわかるんだ」

「陸……」

「だけど、その女には好きなヤツがいるんだ。最初から振られてんだよ、咲良より可哀相だろ? 俺」

 陸にじっと見つめられて……違う、睨まれてるんだ。

 好きな人からこんな風に軽蔑するように見られたら、もうどうしようもなくなる。

 ほんの少しの勇気さえ、音もなく壊れていきそうだ。

「俺と同居してさ、俺に逃げてんのかもしれないけど、その男の身代わりにされたくねーんだよな」

「そんなんじゃ、ない……」

 陸の言葉が咲良の胸に深く突き刺さった。

 今にも泣きそうになるのを必死でこらえる。

「その男に告白して振られたならともかく、言ってねーんだろ? 告る勇気もないくせに、他人を巻き込

むな」

 絶対泣かないと頑張ったけど、無理だった。

 ぎゅっと目をつぶった拍子に涙が落ちた。

「ごめん、泣かせた」

 陸が謝った。

「言うだけ言っといて、今さら謝らないでよ」

 咲良は涙をたくさん浮かべたまま陸を睨んだ。

 陸は一瞬、戸惑いを見せる。

「俺は咲良のために言ったんだ。咲良が現実逃避なことばっかやってるから……」

「何が咲良のためよっ! 嫌いなんでしょ、私のことなんか。嫌いなのに干渉しないでよ」

「嫌いなんか言ってねーだろ? それになんだよ、そっちが俺に逃げてるんだろ?」

 ふに落ちない、と言うような表情を陸はした。

「嫌いだなんて、いつ言った?」

「だって、竜輝先輩が私のこと好きかって陸に聞いたとき、陸は、あいつ彼氏いるぞって言っただけだっ

たし、竜輝先輩が私に告白するって言ったときも、勝手にすればって言ったじゃん。どうでもいいんでし

ょ、私のことなんか。嫌いだって言ってるようなものじゃない?」

「どうでもいいなら何も言わないだろ。こんな風に会話すんのも、嫌だろ」

「じゃあ、嫌いじゃないってこと?」

「まあな」

「……じゃあ、好きってこと?」

 理屈からすれば嫌いの反対は、好きってことになる。

 けれどこう言う場合、単純にそうはいかないことくらい、咲良にだってわかる。

 だけど、この際どうでもいい。

 咲良は覚悟を決めた。

「嫌いじゃないなら好きってことでしょ? ねえ陸、答えなさいよっ」

 咲良は陸の腕をつかんで揺さぶった。

「なんだよ、放せよっ」

 陸は咲良の手を振り払うようにして、腕を上げた。

 咲良は振り払われた手を、ぎゅっと握り締めると、陸に向かって殴りかかった。

「陸のバカーッ!」

「ちょっ……」

 陸は咲良の手首をつかんでかわした。

「なんだよいきなり。何をそんなに怒って……」

「陸が悪いんだからっ!」

 もうやけくそだった。

「陸のばかー」

 陸につかまれた手を振り払おうと、思い切り暴れる。

「何だか訳わかんねーんだけど。ってゆーか、落ち着けよ咲良」

「もう嫌だっ……」

 陸にとっては、いい迷惑だろう。

 訳がわからないって思うのも当たり前だ。

「私……」

 だから、陸に伝えよう。

「陸が……私は、陸が……好き」

「……は?」

「そんな呆けたような顔しないでよっ」

「んなこと言ったって。咲良、言う相手間違ってるぞ。俺は咲良の好きなヤツじゃないだろ。俺に逃げる

なって言ったはず……」

「だから、陸だよ」

「え?」

「私の好きな人って、陸だよ。最初から今の今までずっと陸なんだからっ!」

 ハッキリ伝えた。

 目からは涙がボロボロこぼれた。

「咲良……」

「もうガマンできないよ。好きだよ、陸」

 咲良は自分から陸の唇にキスをした。

「さく……」

 陸の身体がびくんと震えた。

 だけど陸は咲良を押しのけようとはせず、やがて咲良の背中に腕を回してきた。

「咲良……」

 きつく身体を抱きしめられて、キスが深くなる。

 いつも近くにいたのに、触れることのなかった陸とキスしているなんて、信じられない気分だった。

 咲良が陸の腕をぎゅっとつかんだ瞬間、唇が放された。

 咲良はうつむいて、大きく息を吐いた。

「ごめん陸。急にこんなこと……」

 言ってしまってから、咲良は急に身体の力が抜けてしまう。ズルズルとその場に座り込んでしまった。

「ちょっ、大丈夫か、咲良っ」

 陸が支えてくれなかったら、そのまま床に倒れてしまって、きっと二度と顔を上げられ

なかっただろう。

 穴があったら入りたい気分だった。

 いくら竜輝に、押し倒せって言われたからって、本当に自分からこんな風にキスしてしまうなんて。

「咲良。あの、今の……本気なのか?」

 陸が咲良の身体を支えたままの格好で、咲良の顔を覗き込むようにして聞いている。

「なにが?」

 なんだっけ。

 すっかり頭が真っ白だ。

「咲良は、俺が好きなのか? 咲良の好きなやつって、俺のことだった?」

「……うん。陸が好き」

 うなずいたまま顔が上げられない。

「ごめんね、陸」

「なんで、謝る?」

「だって、陸は私のこと、何とも思ってないのに。なのに無理やり強姦しそうになった」

「咲良」

 陸が咲良の身体を抱き寄せた。

「何よ。同情?」

「違うよ。そうじゃない」

 抱きしめた格好のまま、陸の手が咲良の髪を撫でている。

 同情だとしても嬉しかった。

 何するんだって突き飛ばされないだけ、ずっと良かった。

 目を閉じて、陸の胸に耳を当て、陸の早い鼓動を聞いていた。

「だいたい、咲良が彼氏なんか作るのが悪い」

「……え?」

「俺のほうこそ、咲良は俺のことは友達としか思ってないと思ってたよ。彼氏作るし、他に好きなやつが

いるなんて聞けば、それがまさか自分のことだとは思わないだろ、普通。よっぽど自惚れてなきゃ、無理

だって」

「自惚れてよ。陸なんだから」

「……なんだよ、そーゆーことは早く言えよ」

 陸が咲良の身体を少し放す。そして咲良の頬に手を触れた。

「陸?」

 ゆっくり顔を上げると、陸の微笑が咲良を見ていた。

「咲良……。俺、咲良とは無理だって決め付けてたから、自分の気持ち……封印してた」

 封印?

 咲良は瞬きするのも忘れて、陸をじっと見つめていた。

「咲良がいつも料理を作ってくれたり、俺の話を嫌がらずに聞いてくれたりしてさ、一緒にいて心地よか

った。ずっとあんな風に続けて行きたかったけど、咲良は彼氏を作っただろ? 結局、俺の片想いだった

と思ったよ」

「……片想い?」

「うん。咲良が彼氏といるほうが楽しいなら、応援しなきゃって思った。正直、あのまま一緒にいたら、

いつか無理やり咲良のこと襲ったかもしれない。だから部屋を出たんだ。早く咲良の気持ちを知ってた

ら、俺のほうから告白したのに」

「陸……」

「咲良が受け止めきれないくらい、俺の気持ちは大きいよ。ずっと好きだった」

 


 竜輝が言ってた言葉を思い出す。
 
 ──大丈夫。きっとうまくいく。 

 ──上手くいく可能性もゼロじゃないと思うよ。

 ──陸はいきなりで躊躇(とまど)ってただけだ。

もう一回、咲良ちゃんが真剣に言えば、聞いてくれるよ。
 
 本当だった。
 
 さすが陸の友達だけあって、ちゃんと陸の気持ちも気付いていたってことだ。

「サークル活動中だってゆーのに、俺たち何やってんだろ」

 ふいに気が付いた、と言う顔で陸は言った。

「じゃあ、星空研究会らしく、告白する」

 やっと咲良も落ち着いてきて、こんなことを言える余裕が出てきた。

 陸の気持ちが分かったんだ。

 まさかの両想いだったんだ。

 何を言っても受け止めてくれる。

「ものすごく広くて大きな宇宙のなかで、陸に出会えたことは、すごい運命だと思う。そして好きになっ

て、好きになってくれたことは、さらにすごい運命だよ。果てしなく広い宇宙の、無限の大きさに負けな

い愛。私の愛を陸にあげる」

「じゃあ、俺も咲良の告白に答えるよ」

「うん。言って」

「広大な宇宙から見れば、チリみたいにちいさな俺たちだけど、生きてるってことはちゃんと理由がある

んだ。それが何なのか俺たちには全部知ることは出来ないかもしれない。だけど、今わかったことがひと

つある。俺は咲良を愛するために生きてるんだってこと」

「私もだよ、陸。私のすべては陸に向かってる。宇宙規模で考えれば小さな愛かもしれないけど、いつか

私の愛で宇宙を埋めつくしたいよ」

「咲良の宇宙いっぱいの愛、俺が独占?」

「私も陸の愛。独占する」

 陸と咲良は顔を見合わせ、どちらからともなく唇を合わせた。

 陸の腕に抱きしめられて、咲良はそのぬくもりをかみしめていた。

 やっと想いが通じ合った奇跡の瞬間を、信じられない気持ちで味わっていた。


次回、最終話に続く。

宇宙いっぱいの愛 第7話


第7話



「あれ、竜輝先輩だけですか?」

 てっきり陸がいるものだと思っていたのに、珍しく竜輝がひとりで座っている。

「おー、咲良ちゃん。久しぶり」

「こんにちは」

「今までなにやってたんだよ」

「彼氏と……ちょと修羅場になってて。でも結果、別れましたけどね」

 咲良は正直に、笑顔を作って竜輝に知らせた。

「そうか、別れたのか。陸も咲良ちゃんがサークルに来なくなって心配してたぜ」

「心配かけちゃったんですね。悪かったな」

「今、俺さあ、陸と一緒に住んでるだろ? 何かアイツ落ち込んでるみたいだからさ、こうして俺もサー

クル活動をやってやってるわけだ」

「陸のためですか?」

「そうそう。もともとアイツに無理やり勧誘されたようなもんだろ? 宇宙って正直あんまり

興味ないんだ」

 そうなんだ。

「陸ならもうすぐ戻ってくるだろ。ジュース買いに行ってるだけだから」

「会うの久しぶりだから緊張しちゃいますね」

「ふーん。あ、そうだ。隠れて脅かしてやれば? 陸のこと」

 竜輝は悪戯っぽく笑うと、咲良の返事も聞かずに、教室の隅にある掃除道具入れに咲良を押し込んだ。

「やだ、先輩。こんなところに……」

「いいからいいから。あ、帰ってきたっ」

 教室のドアが開くのと同時に、竜輝が掃除道具入れのドアを閉めた。

「やっぱ、今日も誰も来ないんだな」

 陸の声がした。

「そうだな。サークル活動の意味ないよ。陸は個人的にいろいろ研究してるけどさ、一人じゃ孤独だよ

な、やっぱ咲良ちゃんも一緒がいいだろ」

「咲良?」

「そうそう。最近彼女、来ねーよなー」

 ここにいることを知っているくせに、竜輝はとぼけている。

「星の研究なんかより、彼氏と遊ぶほうが楽しいんだろ」

 そっけなく陸が言った。

「気になってるくせに。そんな何でもない風を装うな」

「何言ってんだ。変だぞ、今日の竜輝」

 咲良は出てゆくタイミングをつかめないまま、二人の会話を黙って聞いていた。

「俺さぁ、陸の正直な気持ちが知りたいんだよな」

「正直な気持ちってなんだよ」

 明らかに不審そうな陸の口調。

「実はさ、そろそろハッキリしたいんだよな」

「ハッキリって……何だよ」

「陸にも誰にも秘密だったんだけど、俺、咲良ちゃんが好きなんだ」

「は……今、何て言った?」

「だから、俺は咲良ちゃんが好きだって言ったんだ」

 咲良は驚いた。

 思わず声を出しそうになって、慌てて口を手で塞ぐ。

「好きって……おまえ本気なのか?」

「本当だ。だから気になるんだよ。陸が咲良ちゃんを好きだったら、俺も考えるしな」

「あいつ、彼氏いるぞ」

「ああ、それなら大丈夫。もう別れたって聞いたから。だから告白しようかなって思ったんだ。失恋して

落ち込んでる咲良ちゃんの心のスキマにつけこむつもり」

「なっ……」

「けど、陸の立場もあるし、一応了解取るべきかなって思ったもんだから。で、本心はどうなんだ?」

 俺と陸はライバルなのか? と、竜輝は言った。

「……なんだよ、勝手に告白すればいいだろ」

 陸の言葉に、咲良は胸が痛んだ。

 陸は自分のことを、どうでもいいと思ってる。

 竜輝と付き合ったって、別にどうってことないんだって、思い知らされた気がした。

「そっか。わかった。じゃあ、勝手にさせてもらう」

 竜輝の声が近づいて来たかと思ったら、いきなりドアが開けられた。

「聞いていたとおりだ。咲良ちゃんの気持ちを聞かせてもらおうかな」

 目を上げると、咲良を見下ろす竜輝とバッチリ目が合った。

「好きなんだ、咲良ちゃん」

 声は真剣だけど、目が笑ってる。

 もしかして、冗談? 演技だろうか。

「さ、出ておいで」

 竜輝に腕を引っ張られて、咲良は掃除道具入れから外に出る。

 狭いところにずっといたし、掃除道具の匂いに参っていたから、外の空気が新鮮に感じる。

 ふと見ると、陸が唖然とした顔をして、こっちを見ていた。

「陸……」

「な、何でいるんだよっ!」

「ごめん。まさか、こんな展開になるなんて……」

「俺が隠れてろって言ったんだよ」

 竜輝が咲良の言葉を引き継いだ。

「おまっ、知ってて俺に気持ちを言わせようとしてっ」

 陸は動揺しているようだ。

「そうだよ。けど陸は俺に勝手に告白すればいいって言った。その言葉、撤回するなら告白は待ってやっ

てもいいけど?」

「撤回……って……」

 陸は唇をぎゅっと噛んだ。

「いいのか? 陸は俺と咲良ちゃんを応援してくれんの? 咲良ちゃんが誰と付き合おうが、どうでもい

いわけ?」

 竜輝は、陸を煽っているようだ。

 でも、陸は黙ったままで、何も言ってはくれない。

 ヤケクソで竜輝の告白を受けてしまおうかと思った。けれど、ダメだ。

 もし、竜輝が真剣に思ってくれているなら、軽々しく受けてはいけない。

 すでに涼を傷つけてしまっているんだ。

 相手に気持ちがない以上、簡単に応じてしまってはいけないのだ。

「咲良ちゃん、陸は何も言わないようだよ。どうする? 俺と付き合う?」

「あの、ごめんなさい」

 咲良は頭を深く下げた。

「好きな人がいるんです。彼とダメになったのもその人が忘れられないからなんですっ」

 しばらくの間、誰も言葉を発しなかった。

 ゆっくり顔を上げてみると、笑顔の竜輝が咲良を見下ろしていた。

「竜輝先輩……」

「いいよ。知ってたから」

 竜輝はサラリと言うと、咲良の頭を軽く撫でた。

「じゃ、今度は咲良ちゃんがそいつに告白する番だな。大丈夫、きっとうまくいくよ」

 じゃあ頑張って、と竜輝は言い残して教室を出て行った。

 咲良は、ゆっくり陸を振り返る。

「あ、ああ、俺も帰ろうかな」

 頭をぐしゃぐしゃかき混ぜながら、陸も出て行った。

 教室にひとり取り残された咲良は、深いため息を落とす。

 他に好きな人がいるなんて言ったことを後悔していた。

 アレじゃあ陸が誤解してしまう。

 ちゃんと、陸が好きだって、どうして言わなかったんだろう。

 でも、言ったところでどうにもならないだろう。陸は竜輝の告白を止めなかった。

 咲良に構いもせず、自分も出て行ったんだ。

 せっかく涼と別れたのに、そんなことは何も関係なかったってことだ。

 告(い)わなくて良かったのかもしれない。

「はあ……」

 咲良はもうひとつため息をつくと、帰るために教室を出た。

 中庭を抜けると、竜輝と出会った。

「あれ? 咲良ちゃんひとり?」

 不思議そうに竜輝に聞かれた。

「陸は?」

「帰りました。竜輝先輩が出てった後すぐに」

「そっか。じゃあ、告白しなかったんだ?」

「え……」

「咲良ちゃんが好きなのって、陸だろ?」

 いつ、気持ちがバレたんだろう。

「どうして……」

「そんなの最初からわかってたよ。咲良ちゃんの陸を見る目は、恋する目だった」

「嘘、最初からだなんてそんな……」

 そんなはずはないと思う。自分の気持ちに気付いたのは最近のことだ。最初からなんて、絶対違う。

「嫌いな男と同居しないだろ? 嫌いな男のあんな話、熱心に聞かないだろ」

 それは、陸がいい人だと思ったからだ。それに宇宙の話は咲良も興味があった。

「ま、いつからなんて、この際どうでもいいよな。でもなー、陸のやつ、逃げるなんて根性なしだな」

「あの、先輩」

 咲良は言いにくそうに口を開く。

「竜輝先輩は……私のこと」

「ああ、それ、嘘。ごめん、陸を煽りたかっただけなんだ。本気にしたならごめん、謝る」

 嘘で良かった。と、咲良はホッとした。

「俺さ、陸も咲良ちゃんが好きなんだと思ってたんだよな。けど、あいつ俺の芝居に乗ってこなかった。

芝居がかってたのがバレたのか、それとも俺の思い違い? 陸は……」

「いえ、いいんです、もう」

 咲良は大きく首を振って、竜輝の言葉を遮った。

「陸が私をなんとも思ってないって分かって、スッキリしました」

「ホント?」

 竜輝に顔を覗き込まれる。

「ホントって言うか……。もういいんです」

 竜輝は困ったような顔をして話し始めた。

「陸とは友達だし、サークル仲間でもある。陸と咲良ちゃんが同居始めてさ、これで二人がうまくいくな

ら友達として嬉しいことだと思ってた。なのに、咲良ちゃんに彼氏が出来たって聞かされただろ? 陸と

の同居も解消になった。どういうことかなって、陸を観察してたんだ」

 竜輝に「座ろうか」と、ベンチに誘われた。

 横並びで座ると、竜輝は話をまだ続ける。

「咲良ちゃんは、彼氏と付き合ったけど別れた。その原因が陸だったわけだろ? 陸が好きで忘れられな

いから別れた。なのに簡単に諦めるなよ」

 ちゃんと告白しろ、と竜輝は咲良に詰め寄った。

「でも、振られるのわかって……」

「言わないと後悔するぞ? 誰と付き合っても、あの時どうして陸に気持ちを伝えなかったんだろうっ

て、絶対後悔するんだからな。当たって砕けろってことわざあるだろ?」

「砕けろってことですか?」

 口をとがらせて竜輝に抗議する。

「無駄な告白になりますっ」

「ならないよ。言わずにウジウジ悩んでるより、潔く砕け散ったほうが、ずっとスッキリ

するってもんだよ?」

「そうなんでしょうか……」

 咲良は考えた。

 咲良がお気に入りのバラエティ番組で、好きな相手に告白して、一緒に日本に帰るってヤツがある。

 みんな告白して、振られてもいつもスッキリしてるな。

「上手く行けば、一緒に日本に帰れるんですよね」

「え……日本?」

 あ、しまった。違った。

「まあ、上手くいく可能性もゼロじゃないと思うよ」

 竜輝は言った。

「俺の読みが正しければ、陸はさっきいきなりで躊躇(とまど)ってただけだ。もう一回、咲良ちゃんが

真剣に言えば、聞いてくれるよ。なんなら実力行使すれば?」

「実力行使?」

「そう。アイツさ、咲良ちゃんと住んでても手が出せないヘタレなヤツなんだよ。だからここは咲良ちゃ

んのほうから陸を押し倒せ!」

 竜輝はそう言って笑った。


第8話に続く

宇宙いっぱいの愛 第6話


第6話





 それ以来、会うたびに涼は咲良の身体を求めた。

 これが、涼の言う「付き合う」と言うことなんだろうか。

 咲良はそれに大人しく応じてはいたが、心はいつも可笑しいくらい冷めていた。

「咲良。あの、慣れてねーのかもしんないけどさ。気持ちよくない?」

 ベッドの中で、ふいに涼が言った。

「声とか、もっと出して?」

「……出せない」

 あれこれ要求されても出来ない。

「そっか。わかった。ごめん、変なこと言って」

 涼の気持ちに、ちゃんと答えてあげられない自分。

 まだ、咲良は涼を好きになれていないんだと悟った。

「私も……ごめん」

「咲良が謝らなくてもいいんだ。オレが下手なんだから」

 もっと研究するからな、と言われたって困る。

 それしか研究することがないのかって思った。

 そんなことよりも、もっと話をたくさんして、お互いのことを分かり合って……。

 じゃなきゃ、いつまでたっても、気持ちが熱くならない気がした。

 ちょうどその時期、バイトのシフトが変わって、更衣室で涼と会う機会がなくなった。

 誘われれば応じるけれど、自分から会いたいとは思わなかった。

 しかも会うたびに気持ちが冷めてゆくのだ。

 もう、終わりにしたい。

 そう思いながら、涼に言えないまま1ヶ月が過ぎた。

「最近ずっと具合、悪そうだな」

 咲良の部屋に来ている涼が、ベッドに寝たままの咲良を心配してくれる。

 それが、ひどく重荷だった。

「それって体の具合が悪いんじゃなくて、精神的なストレスじゃないのか?」

「……頭が痛いの」

「そうか? いつも頭が痛くなったり、胃が痛くなったりさ、すっげーツラそうだし、

オレといるのが……嫌?」

 涼といなきゃいけないって、言い聞かせていた。

 好きにならなきゃいけないって、頑張っていた。

 会いたくないのに、我慢して会っていた。

 それが精神的に自分を追い詰めているなんて、咲良は思っていなかった。

「誘うのはいつもオレのほうだし、電話だってオレからばっかだし。会ってもこんな風なんだ。

咲良がオレを好きじゃないってことくらい、わかるよ。最初から今日まで、咲良はオレが一度

も好きじゃなかったんだっ」

「怒鳴らないでよ。頭が痛いって言ったでしょ……」

 頭を抱えて、ベッドにもぐりこんだ。

「嫌なら嫌だって言ってくれていいよ」

 静かな口調で涼は言う。

「……嫌」

 聞こえないくらい小さな声で言った。

「聞こえるように……言えよ」

 咲良はゆっくり体を起こした。

 涼を見ると、涼も咲良をじっと見ている。

 寂しそうな目。それでいて、キツイ眼差しだ。

「嫌いなの。嫌い。涼くんなんか大嫌いっ!」

 こんな言葉が自分の口から出るなんて、咲良は驚いた。言われた涼のほうも、大きく目を見開いたま

ま、しばらくの間何も言えないようだった。

「……んだよ、それ……」

 震えるような声だ。

「涼くんのせいで……陸が出て行ったの。涼くんと付き合ってなかったら、陸は今もここにいたの」

 涼はぼう然と咲良の顔を見ている。何か言おうとしているようだけど、きっと言葉も出ないんだろう。

「嫌なんだもん。会いたくなかった。しょうがないじゃん。それでも涼くんが、会いたい会いたいって言

うから、無理して会ってあげてたのに」

「そんなに嫌われてるとは……思わなかったな」

 怒っているような、泣きそうな。そんな顔を涼はした。

「私もこんな嫌いになるとは思わなかった。涼くんと付き合ってなかったら、こんな嫌な自分に

ならなかった」

「咲良は、全部オレが悪いって言うのか?」

「そうよ。涼くんに縛られてるせいで、無駄に時間を過ごしたじゃない。どうしてくれるのよ! 返して

よ。アンタと過ごした時間。1ヵ月を返してよっ!」

 咲良は、自分でもわかっていた。

 言っていることはめちゃくちゃだし、涼を傷つけていることもわかっていた。

 けれど言葉を止められなかった。

「もういいよ。それ以上聞きたくねーって。ひどいよ、咲良。そんなこと言うなんて、信じらんねーよ」

 涼は咲良に背を向けた。その背中に向かって、咲良はさらに言葉をぶつける。

「聞きたくないなら、帰ればいいじゃんっ」

「わかったよ、帰るよ。そしてもう絶対会わねー。バイトも辞めてやるよっ。咲良とは一切関係ないから

な、こっちこそおまえなんか、大嫌いだっ! 別れてやるから、陸ってヤツとまた一緒にっ……暮らせば

っ、いいだろっ」

 最後のほうは涙声になっていた。

 涼は咲良に顔を見せないまま、部屋を出て行った。

「……ごめんなさっ……」

 いなくなった涼にはもう届かないけれど、ドアに向かって咲良は謝った。

 涼を傷つけた。

 会いたいと言ってくれた涼に、好きだと言ってくれた涼に応えてあげるのが、良い事だと思っていた。

 涼は楽しそうにしていたし、間違ってないと思ってた。

 ──本当に、楽しかったんだろうか。

 涼はいつも笑っていた。でも、それは心からのものだったんだろうか。

 もしかして、涼も無理していた?

 咲良の顔色を窺って、無理して明るく振舞ってくれていたんじゃないだろうか。

 でも……。

 だけど、やっぱり好きじゃないのだ。

 どうして、こんなに陸が出て行ったことに拘っているのか。どうして陸にそっけなくされて、傷ついて

しまったのか。

「私……陸がいいんだ」

 好きなんだ、と思った。

 陸の話があんなに面白いと思ったのは、宇宙が好きなのはもちろんだけど、きっとそれ以上に陸が好き

だからなのだ。

 いつから?

 ……そんなのどうでもいい。

 いつからか知らないけれど、咲良は陸が好きだと気付いた。


 
 気持ちに気付いたら、陸に会いたくてたまらなくなった。

 だけど、この一ヶ月。まともに陸を見ていなかったし、会話など一言もしていない。

 サークルにもご無沙汰だった。

 会うのは緊張するけれど、会いたい気持ちのほうが勝っていた。

「よし。行こう!」

 決心して、咲良は一ヶ月ぶりにサークルに顔を出した。

宇宙いっぱいの愛 第5話


第5話




 大学中を探したけれど、陸の姿は見つけられなかった。

「ま、いっか。サークルに顔を出せば会えるよね」

 独り言を言いながら、サークルの教室に向かった。

「咲良ちゃん、こんにちは」

 途中で陸の友達、竜輝に出会った。

 陸よりずっと体が大きい竜輝を、咲良は見上げるようにして挨拶を返す。

「こんにちは」

「今からサークルに行くの?」

「はい。ちょっと覗いてみようかなって。竜輝先輩は?」

「おれは行かない。用事があるんだ」

 しばらく先輩と立ち話をした。

 そして、不意に聞かれる。

「その後、どう?」

「その後って?」

「一緒に住んでるんだろ? 陸と。もうやられちゃった?」

「やだな、先輩。すぐそっちの方に考えちゃって」

「だって陸は男だぜ? 男と女がずっと一緒に暮らしててさ、何もないなんて信じられない」

 先輩は、「で、真相は?」と再び咲良に聞いた。

「何もされてません。竜輝先輩、考えすぎです」

「そうか? だったらアイツ、珍しいヤツだな。どっか変なんじゃないか?」

「変で悪かったな」

 急に後ろから声がして振り返ると、陸が目を眇めて二人を見ている。

「勝手に人の噂してんなよ」

 陸は不機嫌そうにそう言うと、咲良と竜輝を追い越して行ってしまった。

「あーあ、怒らせちゃったな」

 竜輝が言ったけれど、陸が怒ったのはたぶん今のだけが理由ではないだろう。

「じゃ、咲良ちゃん。急ぐからまたね」

 竜輝は言って、サークルの教室とは反対方向に歩いて行った。

 竜輝を見送って、サークルの教室のほうを見た。

「はあ。会うのもツライかも」

 今、陸は咲良の顔を一度も見なかった。視線はずっと隣にいた竜輝に注がれていた。

 わざと避けられた。

 そんな気がした。

 きっと朝のメールのことを怒っているに違いない。

 でも、どうせ帰ったらあの狭いワンルームで、嫌でも顔を合わせるのだ。早いうちに仲直りしよう。

 そう決意して、咲良は教室に向かった。

 教室をのぞくと、やはり陸のほかには誰も来ていなかった。

 相変わらず、みんな不真面目だ。

 陸は椅子に座って、熱心に何かの本を読んでいる。きっと宇宙の本に決まっている。

 咲良は少しずつ陸に近づいた。

 本に熱中してるのか、陸は咲良に気付かないのか、本から顔を上げてはくれない。

 ──無視してるのかもしれない。

 咲良は思って、陸の背後まで辿り着くと、陸の読んでいる本をそっとのぞきこむ。そして書いてあるこ

とを声に出して読んでみた。

「木星は……引力が、すごく、強い」

 後ろにいる咲良に気付いてないはずがないのに、陸は振り向いてもくれない。

 やっぱり無視してるんだ。

 どうせ、誰もいないんだ。

「陸っ」

 咲良は思い切って、陸の背中におぶさるようにして抱きついた。

「うわあっ! 何だよいきなりっ」

 陸は余程驚いたのか、咲良の体を乱暴に振り払った。

「やっ、ひどい仕打ち」

 冗談っぽく咲良は言ったが、内心ひどく動揺していた。

 陸に払われたショックで、涙が出そうになってしまった。

「あ…いや、そういうつもりじゃなくて。…泣くなよ」

「泣いてないもん」

 涙が頬を伝っているんだ。泣いていることはわかっている。

だけど、認めたくなくて、わざと強がった。

「泣いてるだろっ。何なんだよもう…」

 はあっと陸が大きなため息をついたのに、またさらに落ち込んだ。

「いいよ。そんなに怒るなら帰る! 先に帰るからねっ、バイバイ」

「待てよ!」

 陸が咲良の腕をつかんで引き止める。

「ったくもう。咲良が怒ってたんじゃねーのかよ。怒ったり、怒らせるようなことしたり、泣いたり。咲

良ってそんなヤツだった? なんか最近の咲良、ちっともわかんねー」

「わかんないのは、陸だよ」

「は? 朝っぱらから変なメール送りつけてくるし、わかんねーのは咲良だろ」

 呆れたように陸が言う。

「だから無視したの?」

「休むって言ったくせに学校に来てるし……」

「来ちゃいけないの? だいたい先に陸が悪いことしたんだからね」

「なんだよ」

「飲み会なんかに行ったし、抱きついたしっ」

「酔って覚えてねーんだよ」

「覚えてなかったら何してもいいのっ!」

「咲良…、本当に覚えてないんだ」

 陸が申し訳なさそうに、息を吐いた。

「ごめん。覚えてないとは言っても、そんなに怒るってことは、相当嫌な思いをさせちゃったんだろ? 

俺、咲良に何した?」

「何って……」

 言えない。だってそれ以上のことは何もされていないんだから。自分が望んだように陸が行動しなかっ

たってだけで、自分勝手に怒ってるんだ。

「もういいよ。許すよ、陸」

 最悪だ。許すだなんて、傲慢な言い方をして、すべて陸が悪いかのように責任転嫁している。

「言えないようなことを、俺は咲良にしてしまったんだな」

「……陸」

 違うよ、そうじゃない。

 そう言わなきゃいけないのに、言葉が出てこない。

「一緒にいたら、またこんなことが起こらないとも限らないよな。ちょうどいい機会かもな。俺、咲良の

とこ出てくよ」

 じゃあまた明日ねって言うように簡単に、陸はあっさりと咲良に告げる。

「やだ。出てくって何よ。出て行ったって、行くところあるの?」

「あるよ」

「ないから、うちにいたんじゃないの?」

「咲良の好意に甘えてただけだ。もともと金がたまるまでのつなぎのつもりだったんだ。ちょっと予定よ

り早くなったけどさ、竜輝のとこだって泊めてもらえるだろうし。大丈夫、心配すんな」

 陸は咲良の頭をポンッと軽く叩く。

「咲良は彼氏、安心させてやれよな」

 じゃあな、と言って、陸は咲良を残して教室を出て行った。

「これで……終わりなのかな」

 あまりにあっけないサヨナラだ。

 咲良はそこにあった椅子に、倒れこむようにして座った。





 陸がいなくなった部屋は、とても静かで、とても寂しかった。

「快適だなー。陸のイビキって時々すっごいうるさくて迷惑だったんだもん」

 大きな声で、自分自身に言い聞かせるようにして言った。

 今まで、そこに置きっぱなしだった陸の荷物がなくなった。

「荷物、散らかって邪魔だったもんっ」

 すっきりと片付いて良かったよ。

「良かった良かったー」

 笑おうとするのに、笑えなかった。




 次の日、サークルの教室をのぞくと、陸はちゃんといた。

「今日もひとりで活動してるの?」

 咲良が声をかけると、陸は気付いて笑顔をくれた。

「ハハッ、相変わらずだよ」

 咲良は陸の隣に座ると、陸が読んでいた本を見た。

「何の本、読んでるの?」

「宇宙の中における地球の位置の謎」

「謎?」

「そう。宇宙の中にはたくさんの星があるだろ? 近いところでは火星とか金星。けど、どの星も生物が

すむには条件が悪くて無理なんだ。地球だけが生物の住める唯一の星なんだよな」

 咲良はうなずきながら聞いた。

「生物が生きていくのに、絶対必要なのが水なんだ。地球の海と陸の割合って──」

 陸の話は、それからかなり長く続いたけれど、本当に良く知っているし、語るときの陸の目は、キラキ

ラしている。

 宇宙が本当に好きなんだなあ、と思ったら宇宙にちょっとだけ嫉妬した。

「本当に謎だよね。地球だけが特別な星で、そこに私たちが住んでるのってスゴイよね」

「さすが咲良。俺の話についてこれるのって、咲良だけだ」

 陸に喜んでもらえたことが、すごく嬉しかった。

「昨日、つい竜輝に同じように話してたんだけど、もういいよーとか途中で言われてさ、がっかりしてた

んだ」

「そっか。じゃあ戻ってくればいいよ。いつでも話を聞いてあげるよ」

「え……」

 陸は目を瞬いた。

「昨日、淋しかった。陸のいない部屋は広すぎて、眠れなかった。睡眠不足になっちゃうよ。帰って来て

よ、陸」

「何言ってんだ。彼氏に来てもらえばいいだろ」

 そっけなく、陸は言った。

 陸が出て行かなければならない状況を作ったのは、咲良自身だったのだ。

 咲良が、涼と付き合わなければ。

 咲良が酔っ払った陸のしたことを責めなければ。

 そして、あんなメールを送らなければ、まだ陸は部屋にとどまってくれていたかもしれないのだ。

「そのうち慣れるだろ? もともと一人で住んでたんだし。そのうち俺なんかいないの

が、当たり前になる」

 口を開いたら、泣いてしまうんじゃないかって思った。

 咲良は、陸にひとこと「じゃあね」と告げると、逃げるように教室を飛び出した。

 振り返っても陸は追いかけては来ない。

 


 その日以来、咲良はサークルに顔を出すのをやめた。




 陸が出て行ったことを話したら、涼は喜んだ。

 けれど、そんな涼を見て、咲良は腹が立ってしょうがなかった。

 涼と付き合わなかったら……。

 恨みがましく、涼を見てしまう。

「咲良。あのさ、オレたちそろそろ……」

 咲良の部屋に、涼が遊びに来ていた。

 彼氏に来てもらえばいいって言った陸の言うとおり、呼んでみたのだ。

淋しさが埋まると思ったからだ。

 ベッドに横並びで座っている。

 涼が何を言いたいのか、咲良にはわかってる。

「咲良」

 涼の腕が肩に回る。その手に力がこもったと思ったら、もう涼に押し倒されていた。

 見上げる涼の顔は、咲良に優しく微笑みかけてくれている。

「好き……さくら」

 涼の唇が触れる瞬間、そっと目を閉じた。

 初めて涼に抱かれたけれど、ちっとも集中出来なかった。

 
第6話に続く

宇宙いっぱいの愛 第4話


第4話





 涼から呼ばれて、咲良は涼と近所の公園で会った。

 昨日、陸とちょっと気まずくなったことが気になっていて、涼の言葉が頭に入ってこない。

「だからさ、嫌だってこと」

「……あ、ごめん。もう一回言ってくれる?」

 タバコを吸いに外へ出て行った陸を、咲良は迎えに外に出た。

 けれど陸は目を背けたままだった。

 咲良について部屋に入ってくれたものの、話もしないまま寝てしまって、そして朝も陸は黙ったままだ

った。咲良から話しかければ答えてくれたのかもしれないが、話しかけられる雰囲気じゃなかった。

 ──今日帰ったら、いつもの陸に戻ってるといいな。

「って、聞いてんのかよっ、咲良!」

「あ……」

 ダメだ。

 涼の話が全く聞けない。

「ごめん。ちょっと悩みが……」

「悩み? どうしたんだよ、悩みがあるなら聞くよ」

「ううん。お……女の秘密の悩みだから、涼くんには言えない」

 咄嗟についた嘘だけど、涼は「そっか」なんてうなずいて納得してくれた。

 咲良は気を取り直して、涼に言った。

「もう一回言って?」

「ああ」

 二人で並んでベンチに座っていた。

 咲良の右手を、涼がそっと握る。

 咲良もチラッと涼の横顔をうかがった。

「だから、嫌なんだ。咲良が男と住んでるの」

「うん……」

 その話だよね、やっぱり。

「嫌なんだけど、咲良が同居を解消するならオレと別れるって言ったじゃん? だから、別れられるくら

いならオレ…ガマンする。せっかく付き合えたのに、簡単には手放せない」

「いいの?」

「いいよ。あいつとは何でもないんだろ? ただの同居人ってだけだろ?」

 涼が咲良の顔を覗き込む。

 そこまでして自分と付き合っていたいんだろうか。と咲良は思った。涼のことを好きだとまだ思ってい

ないのに、それでもいいのだろうか。

「一緒にいたいんだ、咲良と」

 真摯な目で訴えられる。

「私……中途半端な気持ちで、涼くんの告白に応じた。取り敢えずでいいって言ったから、うなずいたん

だよね」

 土下座なんかされたから、しょうがなく。

「こんな形だけでいいの?」

「いいんだよっ」

 涼は、咲良を繋ぎ止めようと必死になっている。

 涼の気持ちはわかる。

「友達だって、一緒に遊んだり過ごしたり出来るんじゃない? 一緒にいて、私が涼くんを好きって思え

たら改めて付き合おうよ」

「ヤダよっ!」

 涼は子供のように大きく首を横に振って、唇をぎゅっと噛んで咲良を凝視する。

「友達なんか言ってたら、咲良他に彼氏出来るかもしんねーじゃん。陸ってヤツと一緒に住んでるんだ

し、アイツのほうが好きになる可能性だってあると思う。そしたらオレの入るスキなんかなくなる。一緒

に住んでるヤツに勝てる自信ねーよ。嫌だからな、別れない。絶対に別れないんだからなっ!」

 涼は一気に自分の気持ちを告白してしまうと、脱力したようにうな垂れた。

 形だけでも恋人同士でいたいんだろうか。

 付き合っている相手がいたって、他の人に心が奪われることだってあるのに。

「咲良、本気で好きなんだよ? 咲良がファミレスにバイトに来た瞬間から。やっとここまで来れたの

に、簡単にオレのこと捨てるなよ」

 懇願するように言われると、涼に流されそうになる。

「他に好きなヤツがいないなら。もう少し傍にいさせて欲しいんだ。オレ、頑張るからさ。咲良の理想の

男になるから、だから……」

 涼にだってプライドがあるだろうって思う。なのに、情けないくらい咲良に縋ってくる。

「うん。わかった」

 また断れなかった。

 また流されるように、咲良は涼と続けることを約束した。

「オレさ、ダメなとこばっかりかもしれないけど、頑張るからなっ」

 出来るだけ、涼を見てあげようと思った。涼のいいところをたくさん見つけていれば、きっと好きにな

れる。






「あれ? 陸、いないの?」

 帰った部屋は、真っ暗だ。

 遅くなるとは聞いていない。と言うより何も話していないんだった。

 帰りに夕食の買い物をしてきた。

 スーパーの袋をテーブルの上に置くと、咲良は中から買ってきた品物を取り出す。

 今日のメニューは、ちらし寿司と茶碗蒸しだ。

「まずは茶碗蒸しのダシをとるか」

 咲良は食品棚から椎茸を取り出し、水を入れたボウルに入れる。

 米を研いで、炊飯器にセットしてから錦糸卵を焼いた。

 そうしているうちに、陸が電話をかけてきた。

『悪い。バイトの仲間に誘われてさ、今日、飲み会になった』

「ええーっ、もう用意してるのに! もうせっかく……」

『しょうがねーじゃん。ちゃんと連絡したからな』

「もうっ、り──」

 陸は咲良の言葉を遮るようにして、電話を切ってしまった。

「なによ。電話するなら、もっと早くして欲しいよ」

 でも、連絡くれるだけ、いいのかもしれないと思った。

 それでも作りかけた夕食は、自分のためだけには、もう作る気がしなくなった。

 作りかけの料理をそのままにして、咲良はベッドに潜った。

 目をつぶっていたら、いつのまにか眠ってしまったらしく、玄関のドアが開く音で目が覚めた。

「たらいま~って。もう寝てるって」

 酔いの回った口調で陸は言うと、咲良の寝ているベッドに入ってきた。

「ちょっと陸! 陸はあっちでしょー」

「いいじゃん一緒に寝よ」

「陸!」

 酔っ払った陸を見るのは初めてじゃないけれど、こんな風に絡んでくることは今までなかった。

「咲良ちゃん……」

 陸に体を抱きしめられる。

「や……陸、放してっ」

 両手でぐいっと押し退けたら、陸がベッドから落ちた。

「う~ん……」

 落ちたままの体勢で、陸は眠ってしまったようだった。

「もう。しょうがないなー」

 咲良は陸のふとんを敷いてから、陸を運んだ。

「あーん。重いっ」

 引きずるようにしてやっと陸を寝かせると、そのままにしていた作りかけの料理を片付けた。





 翌朝、咲良は朝食を作らなかった。

「咲良、あの、ごめん」

 朝食の用意されていないテーブルを見ながら、陸が謝った。

 咲良が怒っていると思ったんだろう。

 怒っているわけではなかったけれど、素直に許すのも癪に障る。

「怒ってるんだよな? 昨日のこと」

「ふーんだ。知らない」

 咲良は陸と目を合わせずに、ふんっと顔をそむける。

「ホント悪かったよ。機嫌直せよ…な?」

「酔っ払って抱きついてきたくせに!」

「ええっ、嘘だろ。覚えてない。けど、それだけだろ? まさかそれ以上のことは……」

「さあね。早く学校行きなさいよ!」

 怒っていると言うより、ちょっとした反抗心。照れ隠しだ。

「咲良は?」

「今日はお休みするのよ。陸のせいで寝不足なの。頭が痛いんだもん」

 咲良は言って、ベッドに直行した。

 きっと陸は「大丈夫か?」って心配してくれるはず。

「そっか。じゃあ俺行くな。ホントごめんな?」

 なのに陸は、咲良の期待を裏切って学校へ行ってしまった。

「もう!」

 咲良は携帯を開き、陸にメールを送ってやった。

『陸のバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ

バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ……』


 画面いっぱいに「バカ」が並んだところで、送信した。

 こんなことをやって、子供っぽいと思われるだろうけど、それでも良かった。

「はー。学校行こう」

 本当は頭なんか痛くなかった。

 陸に心配して欲しかっただけだ。

 なのに、陸は逃げるように学校へ行ってしまったんだ。

 学校で陸をつかまえて、メールの反応を確かめたいと思った咲良は、陸を追いかける

ようにして家を出た。

 






第5話に続く

宇宙いっぱいの愛 第3話


第3話





 涼と映画を見に行った帰り、夕食を食べるために、駅ビル内にあるカフェレストランまで

行くことになった。

 駅前にバスセンターがあって、その上がビルになっている。

 九階建てのそのビルは、各階ごとにいろんな店が入っているのだ。

 映画はあまり面白いとは言い難かったけれど、涼は映画館を出てからずっと楽しそうにはしゃいでいる

から、咲良も笑顔を作って答えた。

 店に入り、向かい合わせに座ってメニューを広げた。

「なに食おうかなー」

「私、カルボナーラ」

「決めるの早いな」

 目の前の涼がメニューから顔を上げて言った。

「これは? 当店おすすめのかぼちゃのタルト」

「夕食だぜ。そんなんで腹いっぱいになんねーよ」

 そう言いながら涼は、おいしそうだなって笑った。

 結局、涼も咲良と同じものを注文し、涼はデザートにタルトをひとつ頼んだ。

 パスタを食べ終える頃に運ばれて来たタルトは、白いクリームがふわふわした感じで

のっていて、すごく美味しそうだ。

 フォークを使って涼がタルトを半分に切っているのをじっと見ていると、その半分を取り皿に載せて、

咲良の前に置いて言った。

「半分ずつ食おう」

「食べたかったんでしょ? いいよ、全部食べて」

「いいから食えって」

 無理やり押し付けられたタルトだったが、口に入れるととてもふんわりと柔らかで、とろけそうに美味

しくて、幸せな気分になった。

「おいしい」

「そっか。良かった」

 目の前に座る涼の顔も、いつもよりも柔らかな笑顔になった。

 ほんのちょっとだけど、こういうのもいいかもしれないと咲良は思った。




「人間の三大欲って何か知ってる?」

 店を出て、一階に下りるためにエレベーターを待っているとき、いきなり涼が

変なことを質問してきた。

 咲良は答えず、怪訝な目を涼に向ける。

「一つ目が食欲。コレは今、満たされただろ?

で、二つ目が睡眠欲。やっぱり満腹になったら眠くなるんだ。そして三つ目が何だと思う?」

 咲良の反応を窺うような目で、涼が顔をのぞきこんでくる。

「食欲、睡眠欲と来れば最後は……」

 ホテルとか行くなよって言った陸の言葉が頭をよぎった。

「わかった?」

 面白そうに涼が聞いてくる。

「涼くん、誘ってるの?」

 そう言ったら涼は満面の笑みを浮かべた。

「やっぱり咲良はいいな。男を良く理解してくれてる。さすが大学生、大人の女って感じ」

 そんな言葉でほめられても嬉しくない。

 年上だからって簡単に抱かせてもらえると思ってるのかもしれない。

「私はまだ大人じゃないよ。未成年だし」

「えー。けど、17のオレに比べれば大人だよ」

「比べればね。でもたった二つだし、自分ではまだまだ子供だと思ってるもん。悪いけど涼くんの性欲、

満たしてあげられないから帰るね」

 ちょうど開いたエレベーターの中に、咲良はさっさと足を踏み入れる。

「ええーっ。帰るのかよー。けど、まあいっか、先は長いんだし。じゃ、送るよ」

 不満そうな声を出しながらも、それ以上しつこく誘ってはこなくて、ちゃんとアパートの前まで咲良を

送ってくれた。

「ありがとう、ここでいいから」

 じゃあね、と言って部屋の鍵を開けようとした咲良の肩を、涼が後ろからつかんだ。

「部屋に入れてくんねーの?」

「……入りたいの?」

「コーヒーくらい飲んでって、とか言えよ」

 ドラマの見過ぎなんじゃない? 

「悪いけど、一人暮らしじゃないから勝手に他人を入れられないの」

「嘘、マジで? てっきり咲良って一人で住んでるとばっかり──」

「残念でした。そう言う事だから、またね」

 笑顔でヒラヒラと手を振ったとき、向こうのほうから陸が帰ってくるのが見えた。

「あ、陸!」

「え……」

 涼が振り向いたと同時に、陸もこっちに気付いたようだ。

「一緒に住んでるって、まさかあいつ?」

 涼は咲良を振り返ると、怪訝そうに聞いた。

「うん。同じ大学の先輩。陸ってゆーの」

「男と住んでるのか?」

 涼の顔つきが見る間に曇ってゆくのを、目の前でヤバイと感じながらも、咲良は言葉

を止められなかった。

「それがどうかした?」

「どうかって、なんだよそれ」

 涼の戸惑いが手に取るようにわかる。

 そうしている間に、陸が二人のそばまで辿り着いた。

「例の彼氏?」

「うん。桜井涼くん。送ってもらったの」

「ふーん。カッコイイ彼氏じゃん。まあうまくやってくれ」

 言いながら陸は横目でチラッと涼を見ると、先に部屋に入っていった。

「嫌だな……」

 涼がつぶやいた。

「え?」

「嫌だって言ったんだ。咲良が男と一緒に住んでるなんて。好きな女が他の男と一緒になんて、

すっげー嫌だっ」

 涼は大声で怒鳴るように言った。

「嫌なら別れればいいじゃない。解消する気ないよ、陸との生活」

 無言で睨みつけるように咲良を見る涼に、負けそうになった。

「な、何よっ!」

 咲良も負けずに、大声で怒鳴り返す。

「何よじゃねーだろっ、オレよりアイツとの生活のほうが大事だって言うのかっ! オレは咲良の彼氏じ

ゃねーのかよ。何だよその態度。はっきり言ってバカにされてる気がする。頭にくるんだよっ!」

 一気に怒鳴りつけられて、咲良は言葉に詰まった。

 涼の言いたいことはわかる。

 でも彼氏だと言っても、何となく付き合っっただけで陸との生活を犠牲にしてまで続けたいとは思わな

いのも事実だ。

 もしかしたら本当に涼のこと、バカにしているのかもしれない。

「今日は帰る……。けど絶対嫌だからな。こんなの絶対認めねー。絶対別れないからなっ」

 そう言い残して涼は帰って行った。





「あーあ、疲れたよ~」

 部屋に入るなり、咲良はベッドに倒れこんだ。

「なんか揉めてたみたいだな。って無理ねーか。初日でいきなり同居がバレたんだから、彼氏もキツかっ

たよな」

 涼に同情するような言い方をしたのに、咲良はムカッとなった。

「何よ~! 私だってキツイんだからね。疲れた疲れた。陸、マッサージして?」

 咲良はベッドに仰向けに寝返った。

「さっきの今で、良くそんなことが言えるよな」

 呆れたように陸が言った。

「さっきのって? そんなことって何よー」

 冗談っぽく咲良は言ったが、陸の反応は違った。

「どこマッサージして欲しいんだよ」

 意外にも陸の顔が真剣なので、咲良も笑っている場合じゃないかもしれないと悟った。

「どこでも……陸の好きなとこ、触っていいよ」

 陸は一瞬、目を大きく見開いたけれど、すぐにさっきよりもっと真面目な顔つきになって、無言で咲良

のわき腹あたりに手を触れた。

「ひゃははっ! やめてー」

 くすぐったくて身をよじった。

「もうっ! 陸がくすぐるなら、私だってこうしてやるー」

 咲良も陸の身体中をくすぐりだした。

「うわっ、やめろって…ハハッ、ちょっ……」

 二人で、シーツをグシャグシャにしながら暴れた。

「ああっ、もうダメって……やめっって降参」

 ついに陸が涙を流しながら降参した。

「もう降参なのー、つまんないの」

「ってゆーか、咲良……おりてくれる?」

 ハアハア息を乱しながら、陸が咲良を見上げる。

 ふと気が付くと、咲良は仰向けに寝た陸の身体に、またがるような格好で座っていた。

「あ、ごめん」

 咲良が陸から放れようとした瞬間、

「咲良……」

 ふいに陸が、咲良の腕をつかんだ。

 下りろと言ったのは陸なのに、どうして腕をつかまれるんだろうと、首をかしげて陸を見ていると、そ

のまま腕を引っ張るようにして……。

「きゃっ」

 ベッドの上に倒された。

「油断大敵」

 今度は陸が咲良の上に乗っかった。

「ああん、もう。重いよ~」

 咲良は陸の体を両手で押しのけようとしたが、一瞬早く陸に手首をつかまれ、シーツにギュッと押し付

けられた。

「陸?」

 咲良を見下ろす陸の表情は、天井に取り付けた明かりが逆光になってよく見えない。

 だけど、笑っていないことだけはハッキリと感じられた。

「陸……痛いよ」

 咲良は急に陸が怖くなった。

 強く握られた手首。そのせいか指先がじんじんとしびれてきた。

「…俺だって…ちゃんと男なんだ。そんな風に無防備に体…さらされたら…」

 咲良から目をそらし、陸は唇をかんでいる。そしてゆっくりと目を閉じると、ため息とともにつかんだ

手首を放してくれた。

 咲良を解放した陸は、テーブルのうえからタバコとライターを手にとって、ポケットに入れた。

「ちょっと…頭冷やしてくる」

 振り向かないまま告げてから、陸は部屋を出て行った。

 咲良を押さえていた陸はいなくて、自由に動けるはずの体が何故か動かない。

「何…これ」

 陸の言葉を頭の中で反芻した。

「わかってるよ。陸が男ってことくらい」

 そんなの改めて教えてくれなくても、十分承知している。

 無防備にって言ったって裸さらした訳でもないのに、あんな風に怒られるのはふに落ちない。

「そっか。欲求不満なのかも」

 ずっと彼女と一緒に住んでいた男が、別れて急に一人になったんだ。

 そこに女がいれば、血迷ってしまってもしょうがないのかもしれない。

 咲良は自分に魅力がないのかと思っていた。だから陸は一緒に住んでも何も起こらないんだと思いこん

でいた。

「私でも女に見てもらえたってことよね?」

 でも、陸は出来た男だからちゃんと警告してくれたんだ。

「やっぱり陸っていい人だな」

 涼が考えるようなことは起こらない。

 だから陸との生活を解消なんかしなくてもいい。

 そう考えたら、さっき怖いと一瞬思った陸のことも、もう怖くないと思えた。






★第4話に続く
 

宇宙いっぱいの愛 第2話


第2話



 いつも真っ暗で、しんと静まった部屋に帰ってくる咲良(さくら)は、部屋の明かりがついていること

にホッと心が癒された。

「お帰り。いつもこんなに働いてるの?」

 迎えてくれる人がいるのはとても嬉しいと思う。

「働かないと、食べていくだけで精いっぱいなんだもん」

 たくさん遊びたいし、と咲良は言った。

 親が送ってくれる仕送りは、生活費に消えてしまう。オシャレもしたいし、おいしいランチだって食べ

たい。それに昨日のように飲み会があったら、お金なんてあっという間に消えてしまうのだ。たくさん遊

びたいために働いている。そう言っても過言ではないと思う。

「俺も、早くバイト探すから」

「そうそう。ちゃんと稼いでくださいよ、先輩」

 冗談交じりに言ってから、シャワーをするために咲良はバスルームに行った。





  陸(りく)との同居生活が始まって十日が過ぎた。

 ちゃんと陸は約束を守って、バイトを始めた。

 食事の用意や後片付け、ゴミだしにいたるまで陸はちゃんと分担してくれた。

 それに、新しい布団を買って来たとは言え、ワンルームの部屋だからすぐそこに陸が寝ている。そんな

状況でも、咲良に指一本触れてこない。やっぱり陸はいい人だった。これならいつまでいてくれても構わ

ない。

「でさー、月って地球の動きに影響を与えてんだって。23.5度の傾きがその理由。すっげーよな。きっち

り計算されてんの」

「すごいね」

 陸の話に笑顔でうなずく。

「そもそも地球の存在自体がすごいんだって」

「すごいんだね」

 陸は延々と宇宙の話を続ける。

 宇宙の中にある地球の存在もすごいと思うけれど、それよりも陸の熱く語る表情がすごいな、と思う。

好きなことを話しているその表情は、生き生きと輝いて見えた。





「咲良ー。明日、映画行こうよ。って、あれ? まだ着替えてねーじゃん」

 次の日のバイトの終わりがけ、更衣室に涼(りょう)が入って来て言った。

 どうせ今日も乱入は予測できていたから、咲良はまだ着替えていない。

「涼くんが出てってから着替えることに決めたの」

「残念。咲良の下着姿、見れるの楽しみなのに」

 大袈裟にため息をつくと、涼はいきなり咲良を抱きしめる。

「ちょっと、涼くんっ」

 かわす間がなかった。

「咲良、オレの彼女になってよ」

「ええっ!」

「そんなに驚くなよー。オレのこと、嫌い?」

「今までそんな素振りも見せなかったくせに、急に言われても信憑性に欠けるっ」

「素振りもなにも、最初から咲良のことが気に入ってたから、いつも来てんじゃんか。やっぱり咲良って

鈍感だな」

 鈍感って言われても……。

 今まで涼は、単なる覗き趣味なのかと思っていたのだ。咲良だけじゃなく、誰に対してもやってるんだ

とばかり思っていた。

 ここで会う以外は、涼とはなにもない。携帯の番号も知らないし、どこの高校に通っているのかさえ、

知らなかった。そりゃあいつも覗きに来られていれば、全く意識していなかったなんてことはないけれ

ど。

「なー、咲良ぁ。付き合おうよ、付き合って?」

 甘えるようにお願いされる。

 いい人かどうかもわからない。性格だってつかめない。趣味も家族も何も知らないのに、付き合えるだ

ろうか。

「好きなんだもん。咲良ー、ねー。嫌いじゃないなら付き合おうよ」

 ギューギュー抱きしめられて、困ってしまった。

「私の、何を知ってるのよ。どこが好きだってゆーの?」

「そんなの顔じゃん。咲良、カワイイ」

「顔? 顔しか知らないんじゃないの?」

「いいじゃん、顔も咲良の一部。良く顔より性格が大事ってゆーヤツいるじゃん? けど、一番目につく

のは、顔だよ。顔から好きになって、何が悪い」

 そういうの、ヘリクツって言うんじゃなかった?

「咲良、オレの顔キライ? コレでもオレ、学校じゃかなり人気あるんだよ。涼くんと付き合いたいって

女の子いっぱいなんだ。そんなオレと付き合えるの、嬉しくない?」

 それじゃあ、いっぱいいる女の子と付き合ってやればいいじゃない、と思ったが……。

「とりあえず。お試しでいいから付き合って」

 涼は咲良の体を解放すると、いきなり目の前で土下座した。

「とりあえず……でいいなら」

 断れなかった。

 咲良の曖昧な返事に、涼は思った以上に喜んでいた。





 バイトから帰ったとき、部屋の明かりが消えていたことに一瞬ドキンとした。

「陸?」

 まだ七時にもなっていないと言うのに、陸は咲良のベッドで眠っていた。

 とりあえず陸がいたことにホッとする。

 バイトを始めたばかりで疲れているんだろう。

 起こさないように気をつけながら、咲良は夕食の用意を始めた。

 今日のメニューはハンバーグだ。野菜かごから玉ねぎを取り出し、皮をむいた。まな板の上で半分に切

ってからみじん切りにした。

 今日の玉ねぎは、やけに目にしみる。涙を拭き拭き玉ねぎと格闘してたら、

「おかえり、咲良」

 目をこすりながら、陸が起きてきた。

「なんか、今日すっげー疲れてさ。ああ、なんだか目も痛い」

 それは玉ねぎのせいだ。

「咲良も疲れてるのに、俺ばっかり眠っちゃって…って、どうしたんだよ、何で泣いてんの?」

 涙を流している咲良を見た陸は、驚いたように咲良の顔を覗きこんだ。

「まさかバイト先で何かあったのか?」

「違うよ。これ、玉ねぎが目にしみただけ」

 エプロンで涙を拭いながら咲良は言った。

「心配した?」

「まあ。けど何でもないなら、いい」

 陸は言って、テーブルの上を片付け始めた。




 料理は咲良の担当だけど、後片付けは陸の仕事に決めてある。 今日も夕食が済むと、陸が食器をキッ

チンまで運んでゆく。

「あのさ、咲良」

 陸が食器を洗いながら言った。

「明日、竜輝(りゅうき)と夕飯食う約束なんだ」

「あ、私も。明日は……」

 そこまで言って、咲良は言葉を濁す。

「咲良も用事?」

「うん。バイト先の人と映画に行く約束したんだ。たぶん遅くなるから、陸には外食してもらおうって思

ってた」

「俺も竜輝に誘われたものの、咲良にひとりで夕食食わせるのってかわいそうだーとか思ってたからさ、

咲良も誘おうかって内心考えてたけど、それなら良かった」

 それなら、そのほうが絶対楽しいと思う。

 竜輝は、同じサークルの先輩で、陸の友達で面白い人だ。

「バイト先の人って、男?」

 陸が聞いた。

「うん。しつこく誘われちゃったからしょうがなく」

「乗り気じゃない?」

「うーん。そうでもないようなあるような」

「なんだ曖昧だな。嫌なら行くのやめれば?」

「でも、もう付き合うって言っちゃったし」

 携帯の番号を聞くのを忘れたのだ。行かなかったら待ちぼうけさせてしまうだろう。

「付き合ってるの?」

「あー、うん。彼の熱意に負けて、ちょっと強引にね。今日から付き合うことにしたの」

 流されるようにうなずいたんだ。

「熱意ねえ。…まあいいけど。最初からあんまり飛ばすなよ」

「飛ばすって?」

 咲良は首をかしげた。

「いきなりホテルとか行くなよってこと。誘われても付いて行くなよ」

 男はみんな下心があるんだ、と陸は言った。

 洗い物が終わって、タオルで手を拭きながら陸は咲良の傍に座った。

「みんなってことは陸もあるの、下心」

 陸をじっと見つめて、咲良は聞いた。

「俺は特別出来た男だから。大丈夫だってわかってんだろ? 今まで暮らして咲良になんかしたか?」

 偉そうに胸を張って威張っている。

「そうだね」

「…でも、咲良に彼氏が出来たんなら、こういうのも解消するべきなんだろうな」

 ふいに陸が言った。

「こういうのって、同居のこと?」

 咲良の言葉に陸はうなずく。

「やっぱ、自分の彼女が男と暮らしてるなんて、俺だったら嫌だな。きっとそいつもいい気しねーと思う

よ。解消だな、同居」

「行くところ、ないくせに」

 陸は、咲良の言葉を無視して立ち上がると、布団を出して床に敷いた。

「陸とのこの生活楽しいもん。出て行くことないよ。いればいいじゃん」

 咲良は陸の背中に向かって言った。けれど陸は答えてくれない。

 咲良は陸の傍まで行くと、顔を覗き込むようにしてもう一度聞いた。

「何で無視するのよ。楽しくないの?陸は」

 陸はチラッと咲良を見ると、すぐに目を伏せ大きなため息をついた。

「どうしたの?」

「なんでもない。俺やっぱり疲れてるんだな。悪い、もう寝る」

 陸は布団に潜り込んでしまった。

「変な陸!」

 咲良はわざと大きな声で、陸に言葉をぶつけた。



★第3話に続く

宇宙いっぱいの愛 第1話


奏の初、恋愛小説。「恋にとどくまで」の涼が出てきます。
良かったら読んでみてくださいね。


宇宙いっぱいの愛~第1話



「陸先輩、しっかりしてくださいよ!」

 道路の端に座り込んで眠ってしまった上原陸(うえはらりく)先輩を、

結城咲良(ゆうきさくら)は懸命に介抱していた。

 大学のサークルの飲み会で、完全に酔っ払いと化してしまった陸を、みんなから押し付

けられたのである。

 陸は、付き合っていた彼女に昨日振られたらしい。彼女と一緒に住んでいたアパートも、

昨日限りで追い出されたと言っていた。それでヤケ酒だったのだろう。結局悪酔いしたらし

く、何度もトイレで吐いていた。

 自業自得だと言ってみんなは帰ってしまったが、陸をほおっておけなかった咲良は、こう

して陸を、揺さぶっていると言うわけだ。

 とりあえずタクシーを拾った。

「先輩、タクシーに乗りましょう」

 咲良が陸の耳元で言うと、陸はうっすらと目を開けた。

「ああ、ごめん……」

 そう言って陸は、何とか自分でタクシーに乗ってくれた。

 行く当てのない陸を、咲良はしょうがなく自分のアパートへ連れて帰った。





 咲良は大学に入学して、一人暮らしを始めて一ヶ月になる。三年の陸の勧誘で、

星空研究会と命名されたサークルに入って二週間目に今日の飲み会があった。

 星空研究会と言うのは、名前の通り、星に関することについて研究するサークルだ。

 夏休みには天の川を見にキャンプに行ったり、プラネタリウムに行ったり、希望者は、

市が開催する観測会にも参加できると説明された。

 陸は、星のほかにも天体全部に興味があるらしく、入会したばかりの咲良に熱心に話を

聞かせてくれた。宇宙の話は、咲良も好きだから楽しかった。

 他のメンバーたちは、サークルに入ってはいるものの、それほど真面目に活動している

わけではなく、熱心な陸にちょっと引き気味だ。

 とにかく陸の話は長い。好きな話だから全部を事細かに話したいのだろうが、聞くほうは、

うんざりしていることが多いらしい。

 そんな陸の話を、嫌がらずちゃんと聞いていた咲良だから、自然と話をする機会が増えていった。

 そうやって勧誘のときからお世話になっているし、実を言うと咲良は物知りな陸を尊敬しているし、い

い人だと思っているから、今日だってほおっておけなかったのだ。

 やっとのことで陸をベッドに寝かせると、咲良はふうっとため息をついた。

「連れてきちゃったけど、どうしよう」

 一人暮らしを始めて、まだとりあえず必要なものしか揃えていない。余分なふとんなんかないのだ。

真夏ならバスタオルくらいあれば床にだって寝れるけれど、まだ五月になったばかりで、

それでは風邪をひいてしまうかもしれない。

 シャワーを浴びて、パジャマに着替え、そしてベッドに寝かせた陸の寝顔をじっと見た。

「いっか。熟睡してるし」

 咲良は陸の隣に潜り込んだ。

 一応背を向けて寝たものの、かなり緊張してなかなか眠れなかった。





 陸より先に目が覚めた咲良は、起きて朝食の用意を始める。

 今日は日曜日だ。まだ陸を起こさなくてもいいだろう。ゆっくりと支度にとりかかる。

 たまご焼きを焼いて、味噌汁を作った。焼き魚でもあれば格好がつくが、なかったので

ウインナーを焼いて、ほうれん草のゴマ和えを作った。

 そしてご飯が炊き上がる頃になってようやく目を覚ました陸は、目をこすりながら首をひねった。

「あれ、俺……なんで?」

 陸は部屋を見回し、キッチンにいる咲良に目をとめる。

「咲良? 何で。ってここ咲良の家? あれ、俺きのう……」

 戸惑った様子で陸は自分の体を確かめるように触っている。

「先輩。昨日かなり酔ってて大変だったんですよ。ここまで連れてくるのがやっと。今まで熟睡でした」

 だから心配するようなことは何もありません、と笑って返す。

「そうか。悪かったな、迷惑かけた」

「いいです。それより朝ごはん食べませんか?」

 咲良はテーブルに食器を並べた。

「すっげー、これ咲良が作ったのか」

「はい。何もないですけどどうぞ食べてください」

 そう言って咲良は陸に箸を渡した。

 すっげー、と言われるほどのメニューではないが、褒められて素直に嬉しい。

「じゃ、遠慮なくいただきます」

 嬉しかった。陸がおいしいおいしいと言って食べてくれる。

「いいよな、こういうの。毎日こんなだったらいいな」

 ポツリと陸が言った。しかも涙ぐんでいる。

「先輩?」

 咲良はそんな陸を目の前にして、ちょっともらい泣きしそうになった。

「住むところ決まるまで、ここにいてもいいですよ」

 咲良の言葉に陸はハッと顔を上げた。

「行くところないんですよね。昨日、飲みながらそう言ってましたよね。先輩さえ良かったら

しばらくここにいても……いいです」

「いいのか? 俺、男なんだけど。一応、男」

「一応じゃなくて、男でしょ」

「いや、そうじゃなくて。いや、そうなんだけど。あの、その、もし何かあったらとか、

考えないわけ?」

「はい。先輩に限って何もないと信じてますから」

 咲良があまりにハッキリと信じていると言った手前、陸は何も言えなくなってしまったようだ。

「ところで先輩。荷物とかどこに置いてあるんですか?」

「荷物はまだ、あいつの。別れた彼女のところに置いてある」

「じゃあ、朝食がすんだら取りに行きましょう」

「本当にここに住んでもいいのか?」

 陸はもう一度、確認するように咲良に聞いた。

「いいです。先輩にはサークルに入ったときからずっとお世話になっているし、

いい人だってわかてますから。困ったときはお互い様です」

 でもちゃんと家賃と光熱費は半分払ってくださいね、と咲良はにっこり笑って付け加えた。




 午前中のうちに陸は荷物を取りに行った。

 荷物と言っても、身の回りのものだけだ。小さなボストンバッグひとつしかなかった。

「まさに、身ひとつで出てきたって感じですね」

 帰ってきた陸を見て、咲良は笑った。

「じゃあ適当に寛いでいてください。私、今からバイトなので行ってきます。あ、

合鍵作っておきました」

 咲良は陸に鍵を渡す。

「合鍵。何かやること早いな」

「だって、いるでしょう?」

 首をかしげた咲良に、陸は「そうだけど」とうなずく。

「じゃ、行ってきます」

 まだ一緒に住むことに実感がないらしい陸を置いて、咲良はでかけた。

 咲良は土日だけ、昼間から夕方にかけてファミレスでバイトをしている。

 今日も忙しくて、勤務時間の五時まで休む暇もなかった。

 五時になり、更衣室で制服を着替えていると、ふいにドアが開いた。

「やだ、涼くん。またのぞき?」

 慌てて咲良は前を隠した。

「ここは女子更衣室だって何度言えば……」

 咲良の言葉を無視して、桜井涼(さくらいりょう)は中に入ってきた。

 涼は、咲良と入れ替わりにバイトに入る男の子で、まだ高校生だ。

「いいじゃん。いつものことだし。咲良しかいねーんだし」

「涼くん、ダメってば。もう時間でしょう。早く行きなさいよ」

 こっちに向かって手を伸ばしかける涼をかわすようにして、咲良は言った。

「はーい。じゃあお疲れ」

 涼はあっさりと引き下がって更衣室を出て行った。

「はあ」

 一人に戻ると、咲良は深いため息を落としてしまう。

 涼とは何故か、もう一ヶ月もの間こんな調子である。

 高校生は何を考えてるのか、ちっともわからない。

 更衣室にはちゃんと鍵があるのだが、壊れていてかからない。

早く修理をして欲しいと言っているのだが、ドアに使用中のプレートをかけておけば

いいだろうという理由なのか、後回しにされているようだ。

 もうひとつため息をついて、咲良は着替えを済ませた。

恋にとどくまで~梨々の恋 16step

16step



 涼がいない一ヶ月の間、梨々は苺花と大和を交えて、三人で遊ぶことが増えた。

 今日も三人でカラオケに来ている。

 だけど、梨々は邪魔なんだろうって時々思った。

 誘われても梨々が遠慮すれば、大和が苺花に告白するチャンスがきっとあって。

 ちょうど苺花も今はフリーなんだ。

 大和が告白すれば、もしかすると気まぐれにオーケーするかもしれない。

 そうだ。

 今日は用事があるからと言って、先に退散するとしよう。

「あ、もしもしー」

 急に苺花の携帯が鳴って、苺花が誰かと会話を始めたので、大和が気を利かせて

カラオケの曲のボリュームを絞った。

「ハイハイ、オッケーです。行きますー」

 苺花は言うと、携帯を閉じてこっちを見た。

「ごめん、梨々、大和。私、用事が出来たから行くね」

 しまった。苺花に先を越された。

「どこ行くの?」

「新しい男になるかもしれない人のところ」

 苺花が意味深な笑みを浮かべた。

「1回やったら、わりと上手だったからっ」

 ふふっと笑って、苺花は肩をすくめる。

 苺花は、エッチの良し悪しで相手を決めるんだろうか。

 じゃあねー、と苺花はカラオケの支払いもせずに、行ってしまった。

 結局、カラオケ代は大和と半分ずつ払ったけれど、お金よりも苺花の行動のほうが、

大和にとってはショックだろうなって思った。

「ドラクエしてく?」

 だから梨々は、大和の好きなドラクエに誘ってあげた。

 苺花がしていることに比べれば、梨々と大和がゲームをするくらい可愛いものだ。

何でもないようなことなのだ。







「その後、新しい彼になるかもの人とはどう?」

 大和の気持ちを考えて、梨々はさりげなく苺花に探りを入れた。

「あー、あれね」

 学校の帰りに、ファーストフードの店に寄っていた。

 苺花はシェイクをストローで一口飲むと、梨々をチラッと上目使いで見る。

「女いたから、やめた」

「女いたの?」

「いたのよ。彼女いないとかウソついてさ。そんなに私とやりたかったのかなって

感じ。最悪でしょ? 創樹思い出しちゃったよ」

 苺花はハアッとため息をついた。

 苺花には悪いけれど、梨々は心の中で「やったー」と叫んだ。

 今こそ、大和の良さをアピールするチャンスだ。

 大和なら彼女もいないし、ちゃんと苺花のことを好きだと思っているんだから。

「やっぱ、若い男はダメだよ。まだ自分が遊びたいわけじゃん? こっちも遊び

たいんだけど、遊ばれるのはイヤよね。はー、そう考えるとやっぱり大人がいい

な。早く紹介してよ、雅人さん」

「……ん」

 大和をお勧め出来なかった。

 大人とは程遠いよね。

 雅人と大和なんて、比べなくてもその差は歴然としている。

 梨々は、大和のほうが雅人よりいいと思うけれど、きっと苺花に大和は物足りないだろうな。

「で、どうなの?」

 ふいに苺花に問われる。

「どうって、何が?」

 首を傾げて苺花に問い返す。

「涼のことよ。何か言ってきた? それとも本当に一ヶ月何もないままなの?」

「……ないままなの」

 涼の言っていた予定の一ヶ月は、もうすぐだ。



 あと一週間。


 予定通りなら、あと一週間で涼が帰ってくる。そして涼からの返事がもらえるんだ。


「待ってるつもり?」

「うん。待ってる」

「はー、健気だね、梨々。私だったら適当にやって過ごすな。ちょうど大和とか

手ごろに側にいるわけじゃん? やったら案外すっごいかもよー」

「だったら苺花がやってみればいいじゃん」

 言ってやった。

「ええっ……、ダメよ私は。だって、大和は……私なんか相手にしないよ。私なんか

さ、梨々じゃないしっ」

 苺花は、勢い良くシェイクをぐるぐるとかき回している。

 何かまずいことでも言ったのだろうか。

 苺花はそれきり、怒ったような態度になって、梨々とまともに喋ってくれなくなった。




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あまり進展ありませんでしたね~。次回は急展開!?(本当かな~)お楽しみに。

★17stepに続く

恋にとどくまで~梨々の恋 15step

梨々の恋~15step




 たくさん歌ってスッキリしたのは、苺花だけだったようだ。

 無理やり呼び出され、つき合わされ、しかもお金まで割り勘にさせられた大和は、

やっぱり可哀相だ。

「じゃあねー、梨々。ちゃんと送るのよ、大和」

 ヒラヒラと手を振って、苺花がバスに乗って行った。

「苺花、創樹さんと別れたらしいよ」

 大和と並んで歩きながら、梨々は大和に教えた。

「知ってる。創樹さんが言ってたもんな。ひっでー言葉で別れを告げられたらしくって、

創樹さん落ち込んでる」

「ひどい言葉って、どんな?」

「……下手くそなんだって」

「ああ、そう言えばそんなこと、苺花が言ってたっけ」

「苺花って、毒舌だよな」

「ハッキリしてるよね」

「自由人だよな」

「そうだね」

「俺じゃあ、相手にされないよなって最近思う」

「まだ苺花を想ってんの?」

「……まあ…。そういう梨々こそどうなってんの」

 梨々は、ありのままを大和に話した。

「そっか。複雑」

 そうやって話しながら歩いているうちに、梨々の家に辿り着く。

「寄って行く?」

 誘ったら大和がうなずいた。

 玄関に入ると、そこに父の靴があった。

 今日は平日で、まだ5時なのに何でいるの?

「大和、先に部屋に行ってて」

 梨々は大和を行かせると、父の部屋を覗いた。

「お父さん、何してるの」

「ああ、梨々」

 父は旅行バッグに荷物を詰めている。傍にはダンボールに詰まった洋服があった。

「急に福岡に転勤が決まったんだ。とりあえず身の回りのものだけ持って行く」

「長いの?」

「5年したら戻ってくる」

「……梨々は?」

「一緒に行くか?」

 父が梨々をじっと見ている。

 こんな風にちゃんと顔を見たのは久しぶりだ。

「行かない。行ったって友達いないし、お父さんは忙しいでしょ? 一人ぼっちに

なるのは目に見えてるもん。ここにいる」

 今までだって、一人暮らしのようなものだった。

 友達がいる分、ここにいたほうがマシだ。

「そう言うと思ったよ。雅人には頼んである」

 だから何?

 雅人に頼んだって、それで済ませるの?

「友達来てるから、部屋行くね」

 父は、明日発つとか、連絡がどうとか言っていたけれど、知らない。

 イロイロ言われたって行くのは決定なんだし、梨々を置いて行くのも勝手に決めていたんだ。

 勝手に早く行っちゃえばいい。

 今まで通り、多すぎるお小遣いだけくれていればいいもん。

「あ、梨々。もういいのか? お父さん何だった?」

 部屋に入ると大和が振り返る。

 手にはコントローラー。テレビ画面にはドラクエが映っている。

「それ、梨々のゲームなのに、何で勝手にやってるの?」

「あ、ごめん。ヒマだったからさ、レベル上げしたら梨々が喜ぶかと思って。先には

進んでないから大丈夫……」

「もうゲームなんかしないっ」

 梨々はゲームのコンセントを抜いた。

「おい、壊れるって」

「いいのっ」

 梨々はベッドに倒れこんだ。

「お父さんと、何かあった?」

 大和が心配そうな声をかけてくれる。

「福岡に転勤だって。5年も」

「転勤?」

「明日行っちゃうんだって。梨々置き去りなんだよ」

「なんだそれ。梨々まだ未成年じゃん。普通、置いて行く?」

「そう言うひとだもん。梨々のこと雅人さんに頼んだって。けど、雅人さんとは

気まずいんだよ。仕事だって忙しいし、梨々だって頼まれたくない」

 大和が黙って梨々の頭を撫でてくれた。

 慰めてくれているんだろう。

「大和は、梨々のこと可哀想って思うの?」

「一人になるんだし、淋しいだろうし、心細いんじゃないかな」

「別に淋しいってわけじゃないよ。お父さんが梨々のことを持て余したり、

素っ気なくされたりして、愛を感じないのが悔しいだけだもん。お母さんだって、

梨々より男を選んで梨々を捨てた。あんな親たちならいらないんだ。一人のほうが気楽」

 梨々の思っていることが、ちゃんと大和に伝わっているのかわからない。

「俺がいるじゃん、梨々」

「……うん」

「俺なんかいつもヒマだし、いつでも遊べるよ」

「ありがとう、大和」

 胸がじんわり温かくなった。

「あのさ、どうせなら……その、梨々と、その……」

 大和が何か言いたげに、梨々をチラチラ見ながら言葉を濁している。

「俺……苺花が好きだって言ったじゃん? 実はあれさ……」

「あ、そうよ。苺花もフリーになったことだし、大和、告白のチャンスだよ」

 雅人を紹介してとか言っていたけど、梨々は大和の味方だから紹介してあげないつもりだ。

 大和に苺花は手に余るかもしれないけれど、大和が幸せになれるなら協力を惜しまない。

「苺花に告白しなよ」

「……そうだな。うん、そうだよな」

 自信がないのか、大和の元気がなくなった。

 それから大和は帰るまで、何故だか何度も深いため息ばかりついていた。




 
★16stepに続きます。
  
      ~大和ったら、タイミングが……。
  


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恋に届くまで~梨々の恋 14step

梨々の恋 14step




 涼は、呆れて言葉が出てこないって顔だ。

「涼……梨々は、涼が好き」

「……うん」

「好きなの、好き。本気なんだよ、好きで好きで……。ちゃんと一番に特別に涼が好きだから」

「ったく、好き好き言いすぎ」

 涼は梨々からふいっと目を逸らした。

 ガーン。

 やっぱり言い過ぎたんだ。

 呆れちゃったよ、涼……。

「ううっ……」

 しかも梨々、泣くなんて、超ウザイよね。

「ごめん、梨々ちゃん」

 降りて、と涼に言われる。

「……わかった」

 梨々の気持ちは、ウザイとこだけしか伝わらなかったみたい。

 梨々は車を降りた。

 好きだと言われて嬉しいのは、相手も自分に少なからず好意を持っている場合にのみなんだ。

 迷惑な、一方的な気持ちの押し付けだ。

「ちょっと考えさせて」

 運転席に座ったまま、涼が言った。

「来週から、北海道なんだ」

「ほっかいどー?」

 それって、何?

「氷の祭典ってイベントがあってさ、仕事で一ヶ月行ってくる。帰ってきたら返事をするから」

 それだけ言うと、涼はじゃあねって手を振って行ってしまった。

 ……こおり?

 ……一ヶ月?

「北海道、行くんだ?」

 ふらふらと家に入り、ベッドに倒れこんだ梨々は、まるで電池が切れた

ロボットみたいに動けなかった。




 一生分の告白をしてしまったようだ。





 パワー切れ。

 



 何がなんだか、わからなくなった。




  ☆  ☆  ☆




「創樹と別れちゃった」

 ふふっと笑って苺花が言った。

 始業式がすんで、学校の帰りにドーナツショップへ寄っている。

「次は誰と付き合おうかな。ねえ、梨々。梨々のオジサンって独身?」

「雅人さんのこと?」

「そうそう。やっぱ大人がいいよね。いくつだっけ?」

「28歳」

「そっか。微妙に若いけど、11歳差かあ。ま、いっか。紹介してよ」

「雅人さん、意外と固いよ」

 梨々は失恋気分を引きずっていると言うのに、苺花はいいなあ。前向きだな。

「そういう人が本気になったら、一直線なのよ。きっと激しく求められるに違いないわ~」

 苺花ったら、すっかり雅人に気に入られるって前提だ。

 大和の気も知らないで。

「あ、そう言えば涼とどうなった?」

「一ヶ月後に返事するって」

「一ヶ月? 何よその期間は。一ヶ月も待たせといていいと思ってんのかしら。

煮え切らない男ね、やめたら?」

「……だよね」

「そうよ。一ヶ月の間にうやむやにする気よ。何よ、ちょっとカッコイイからって

何様のつもりよ。こうなったら、梨々も新しい男、探しなさいよ」

 大和なんかどう? と苺花に言われる。

「大和は友達だもん」

 まさか、大和の気持ちを苺花に伝えるわけにはいかないだろう。

「だよね~、大和だもんね」

「どういう意味よ、それ」

「どうって、大和……バカなんだもん。鈍感だし、女心なんかちっともわかってなさそう」

 苺花は口を尖らせた。

 大和が聞いたら落ち込みそうなセリフだ。

 大和と自分の姿がだぶって見える。

 苺花に想いが伝えられない大和と、涼に気持ちを曖昧にされている梨々。

 大和も可哀想だし、梨々も可哀想でしょ?

「梨々、カラオケ行こうか」

「カラオケ?」

「暗くなってないでパーッと騒ごうよ」

 本当は騒ぐ気分じゃないんだけれど、苺花が大和まで電話で呼び出すもんだから、断れなかった。



★15stepに続く。

 梨々は涼をあきらめるのでしょうか。


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恋にとどくまで~梨々の恋 13step

13step


「……それって、大和のこと言ってるんでしょう?」

 涼は、梨々が大和と付き合っていると誤解しているから……。

「別れてないんだろ? 二番目は嫌だからな」

「付き合ってないよ、大和とは。大和は苺花が好きなんだもん。梨々は大和の恋愛相談に

乗ってるだけで、ただの友情だもん」

 良かった。涼に遮られることなく、今日はちゃんと言えた。

「相談に乗れるくらい、梨々ちゃんって恋愛経験があるんだ」

 すごいねって言われたけれど、素直に喜べるはずがない。

 間違いなく、からかわれているんだって、わかるからだ。

「バカにしないでよっ」

 強気で言ったつもりだったけれど、声が震える。

目の前がぼーっとなったかと思ったら、瞳から涙がこぼれる。

「ああ、そんなに嫌だった?」

 ちょっとだけ、涼の表情が困ったように見えた。

 こうなったら泣き落とす? 泣いて駄々こねて縋って脅迫?

「りっ、梨々はねっ」

 ぐすんと鼻をすする。

 ヤバイ、鼻水まで出そうだ。

 涙は可愛くても、鼻水はきっと引かれちゃう。

 バッグからハンカチを取り出し、口と一緒に鼻も覆った。

 吸収性が悪いハンカチ。本当はティッシュがいいんだろうけれど、カッコ悪くて使えない。

「梨々は、涼が好き」

 ちょっと、唐突だったけれど、言いたいのはそれだけなんだ。

「バカにされて悔しいし、涼が梨々を想ってないのも知ってる。子供だって思ってんのも

知ってるし、梨々が雅人さんの姪だからしょうがなく相手にしてくれてるのも、ちゃんと

全部わかってるもんっ」

 涼は、梨々の話に口を挟まない。

 梨々をじっと真正面から見ている。

 梨々のほうが負けそうになった。じっと目を見られて、緊張する。

 でも、伝えるんだ。

 ちゃんと気持ちを全部伝える。

「梨々はずっと本気で涼が好きなんだから」

 子供の本気を舐めるなよ!

「お、お母さんに捨てられて、お父さんからも放任されて。この前雅人さんにも見放された

んだから。それに大和は苺花が好きなの。梨々には涼しかいないんだからっ」

ああ、しまった。 ……これじゃあ、同情を買うだけ?

「ちょっと、出ようか」

 涼が立ち上がる。

「逃げるの?」

「違うよ。ここじゃ梨々ちゃんの声が大きすぎて他の人の迷惑になるだろ」

「あ……」

 ふと見回すと、梨々たち注目の的になっている。

 狭いカフェ内で、梨々の告白、ここにいる人たちにみんな聞かれちゃった?

 途端に恥ずかしくなって、誰とも目を合わせないようにして涼の後について店を出た。





 涼の車に乗って、また家まで送られた。

 車の中で話の続きをするものだと思っていたが、そんな雰囲気じゃなかった。

 涼も梨々も、お互い無言のままだった。

「じゃあね、梨々ちゃん」

 家の前まで着いてから、何もなかったように涼は言った。

「やだっ、降りないっ」

 シートベルトを両手でぎゅっと握り締めてから、首を振った。

「ふうん、ずっとそこに乗ってる気?」

「話が終わってないもん」

「……なんの話だっけ?」

 ムッカー! いい加減にしてよ、涼っ!

 梨々を馬鹿にして、そらすのもいい加減にしないと、梨々はマジギレするんだから。

「梨々は涼に告白したの。真剣に告白したのに、あんな言い方はなかったって気になった

とか、連絡なくてなんとかだったとか、言ったくせにまた今日も同じこと繰り返す気? 大

人のくせに学習しなさいよね。子供だと思ってバカにして。何回も言われなくてもわかって

る。涼は梨々が嫌いなんでしょー!」


 違う……。

 間違えた。


 嫌いなんでしょう、じゃないじゃん、梨々。

 そうだよ、って言われたらどうするのよ。

「梨々ちゃん」

 ああ、言われる。振られるっ。

 怖くてぎゅっと目を閉じた瞬間、梨々の頭に何かが触れた。

 そっと目を開けてみると、それは涼の手のひらで。

 チラッと涼の顔を窺うと、梨々を優しい目で見てくれていた。

「俺、正直……戸惑ってるし、確かに逃げてるよね」

 数回、目をパチパチと瞬かせて涼を見た。

「俺が好きになる女ってさ、何故だかみんな、本命がいたんだよね。本命に振り向いて

もらえないからって、俺に逃げてくるの。何でかしんねーけど、ずっとそう。いつだって

二番目。一番になったことがなかった」

 いつだって彼女を切らしたことがないと思っていた。


 二番目?

 そんなこと、初めて知った。

 涼を二番目にキープするなんて、その女たち目がおかしいんじゃないの? そうよ、きっと

感覚が変なのね。

「梨々が、好きだって言ってくれたのは嬉しかった。でも、大和がいるじゃんって

思った。またかよって、二番目かよって思ったら……素直には受け入れられないって思ってた」

 今こそ梨々の本気を伝えるチャンスだ。

「梨々は涼が本命だよっ、涼が一番! 涼が好きだもん、大好き。これまでもこれからも

ずっとずっと永遠に涼しか好きじゃない。結婚しよう、涼っ」

 勢いがついて、梨々ったらプロポーズしてしまった。



★14stepheへ続く

  涼は梨々のプロポーズにどう答えるんでしょうか?

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