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ハツコイゴコロ-3

悠は、座り込んだ私の前に、同じように腰を下ろすと、さっきと同じように

顔を覗き込んでくる。

「見ないでったら!」

呆れていたのに、また干渉するつもりなんだろうか。

こんな泣き顔のみっともない姿を、好きなひとに見られたくなかった。

しばらくの間、ふたりともそのままの体勢でいたんだけれど、いつまでたっても

泣き止まない私に、とうとう悠が大きなため息をついた。

それを聞いたとき、とうとう本当に呆れられたんだと思った。

こんな訳もわからないまま、目の前で泣かれたって、迷惑だよね。

「あのさあ佳奈。泣くなよ、な?」

言いながら悠の手が私の頭を撫でた。

まさかそんな風に優しく触れられるなんて思わなくて、びっくりして顔を上げた瞬間、

後頭部を引き寄せられて、悠に抱きしめられた。

悠の肩口辺りに顔を埋めるような格好で、膝が地面について、何だか中途半端な体勢だ。

「俺……さぁ、俺……」

悠の声が、耳元で聞こえる。

首筋あたりに、悠の息づかいを直接感じた。

背中に回された悠の腕に力がこもって、私は混乱した。

心臓がドキドキを通り越して、口から飛び出しそうになっている。

耳の内側から、身体の中から、心臓の音が身体中を支配したように鳴り響く。

「佳奈……」

少しかすれたような悠の声。

悠の力が少し緩んで、それとともに身体も少し離される。

背中を抱いてくれていた悠の手が、私の頬に触れた。

ますますドキドキして、顔も上げられなかった私の目の前に、悠の顔が迫ってきたかと思ったら

一瞬だけ、唇に何かが触れた。

「え……なに?」

「は? なにって何だよ」

何だかわからないまま、悠に身体を突き放された。

「悠……」

「こんなとこにいたらさ、何するかわかんねーし。涙、止まっただろっ、帰るぞ」

立ち上がって服についた埃でも払うような仕草をする悠を、私はじっと見ていた。

「置いて帰るぞ、早く来いよ」

「あ、うん」

慌てて立ち上がり、先に歩いてゆく悠を追いかけた。

涙は悠が言ったように、とっくに止まっていた。

何で泣いていたんだろうと思えるくらい、さっきの悠にされたことが気になっていた。

悠のあとをついて歩きながら、指先でそっと唇に触れてみる。

もしかして、触れたのは悠の唇?

だとしたら、あれは……キス?

キスなんかしたことがなくて、それがどんな感触なのかもわからない。

唇じゃないかもしれない。悠の頬が当たっただけかもしれない。聞いたら答えてくれるだろうか。

だけど、そんなことが聞けるような雰囲気じゃないし、キスじゃなかったら、ひどい自惚れ

だろうし、恥ずかしくて結局何も聞けないまま、私の家に着いてしまった。

「じゃあな、おやすみ」

そのまま背を向けて帰って行く悠の背中を見送りながら、その姿が見えなくなるまで

その場を動けないでいた。
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ハツコイゴコロ-2

悠は急に私の手首をつかんだ。
ドキッとして顔を上げてみると、やっぱり不機嫌な顔と目が合う。
「痛い……」
まるで私が逃げて行かないようにするかのように、手首を握る手に力がこもっている。
「悠、痛いったら」
「つまんなかったら、和が行けなくなった時点で、俺だって行くのやめてるよ」
つまんなくねーよ、と悠は吐き捨てるように言った。
「だから、ごめんねとかゆーな。謝る必要なんかねーんだよ」
まるで怒られているような悠の口調だけど、言っている言葉の意味が、そうじゃないことはちゃんとわかる。
「それに、花火なんか口実だし」
ぐいっと手首を引っ張られ、そのまま悠が歩き出すのについてゆく。
どこに行くんだろう。花火大会の会場とは全く逆のほうへ、どんどん引っ張っていかれる。
不安はあったけれど、悠にだったらついて行きたいと思った。



花火大会のあっている公園の奥に、何だかわからないけれど大きなコンクリートの建物みたいなものがあった。暗かったし、後でそれが何だったのか確かめないままなので、その正体はいまだにわかっていない。
そこの陰に隠れるようにして、ふたりで向き合って立っていた。
ココからじゃ、花火なんか全く見えない。だから人もいないんだろうけれど、あのときはこれから何が起こるのかわからなくて、ドキドキしていたから、それさえ気がつかなかった。
「佳奈は、和のことが好きなんだろ」
予想もしていなかった言葉が、悠の口から出てきた。
「和が言ってた。佳奈はいつも楽しそうに、たくさんしゃべってくれるって。話も合うし、気も合うし、それに……」
そこまで言うと、悠は言葉を止めた。
「それに、何?」
「佳奈は、俺のことがたぶん好きだと思うって」
「俺って、和希くんのこと?」
「そう。で、和のヤツも佳奈が好きなんだってさ」
両想いってヤツだろって、悠はまた怒ったみたいに言った。
私は、勘違いをしていたようだ。
つまんなくないとか、花火は口実だとか、そんな風に悠が言った言葉に期待した。
私が悠をいいなって思っているように、悠も思ってくれているんじゃないかと。
こんな場所に連れてこられたのは、もしかして告白? とか、上手く行けばキス……なんて。
だけど、とんだ思い上がりだったようだ。
一緒に出かけるのは嫌じゃないけれど、好きだからじゃなかった。
もしかすると、悠には私の気持ちが知られていて、でも悠にとって私のことは、友達以上ではない。
親友の和希の気持ちを知っていたから、私が悠に告白する前に和希の気持ちを代弁したんだ。


遠くで花火の音が聞こえる。
始まったんだ、花火。でも、その明るささえもここまで届かない。
「佳奈は、和のこと好きなんだよな?」
好きじゃない。好きなのは悠だ。そう言いたかったけれど、言えなかった。
「っ……ううっ……ひっく」
不覚にも泣いてしまった私に、悠の困ったような声が降ってくる。
「何だよ、泣くなよ。俺が泣かしたみてーじゃん」
「だって……っ」
ポロポロこぼれ落ちる涙を止めたくて、両手で顔を覆ったのに、悠に引き剥がされる。
両方の手首を悠につかまれ、泣き顔を隠すことも出来ずにうつむいた私の顔を、悠はのぞきこんでくる。
「泣くなよってば」
「見ないでよ!」
「何で泣くんだよ」
「知らない、言わない」
会話にならないような言い合いを、何度か繰り返していた。
そして、先に言葉を止めたのは悠だった。
つかまれていた手首も解放されて、呆れたように背を向けられる。
バカみたいにボロボロ泣いてしまった。
子供みたいにしゃくりあげてしまう。
そしてそのまま、立っているのもつらくなった私は、その場に座り込んでしまった。

ハツコイゴコロ-1

中学のときに好きなひとがいて、そのひとと同じ高校に行きたくて受けた公立高校に私もそのひとも見事に落ちてしまった。
それで、第二希望だった私立高校にそれぞれ進んだ。

付き合っていたわけではなかった。ただの私の片想いだったから、卒業後はまったく接点はなくなってしまった。

家から少し遠い私立高校。同じ中学からは、誰も進学しなかった。
誰も知る人がいないはずの高校生活の始まりだと思ってた。


悠(はるか)に声をかけられるまでは。





誰も知るひとがいなかった不安いっぱいの高校生活の始まりに、悠との再会は、とても心強かった。
悠とは、小学校が同じだった。
男の子の中でも目立つほうで、いつもみんなの中心にいた。
私はひそかに悠のことが「いいな」と思っていたから、この再会はとても嬉しかった。
悠が転校してしまってそれきりで、中学校も別々だったのに、ずっと仲良くしていたように、気があった。
悠と同じ中学から来たという和希(かずき)くんは、悠の親友で、一緒に行動することが多くなって、悠に接するように、私にも優しくしてくれるようになった。


3人でいることは、楽しくてしょうがなくて、毎日学校へ行くのが待ち遠しかった。
ずっと3人でいられると思ってたのに、それは夏休みに崩れてしまった。
3人で行こうねって行ってた花火大会だったのに、和希が急に高熱を出したために行かれなくなってしまったのだ。
私はずっと、悠のことが密かに好きだったから、本当は和希の熱を心配しなきゃならないのに内心、喜んでいたんだ。


ふたりきりの花火大会。


いつもは3人でいたから、こんな風にふたりきりだと、どう接すればいいのかかなり戸惑っていた。
いつもどおりに振舞えばいいんだと思うのに、態度がぎこちなくなるし、上手く言葉も出てこない。
それに、せっかく着せてもらった浴衣のことも、悠は何も言ってくれないし、履きなれない草履は、歩きにくくてだんだん足も痛くなった。
人ごみに、悠を見失いそうになったけど、走って追いかけるには、足が痛くて……。
何度か立ち止まって、私を待っててくれる悠は、いつものような笑顔じゃなくて……。
ふたりで来たって、楽しくなかったのかなとか、浴衣なんか着てきて、こんな風に上手く歩けなくて、迷惑なんだって思っているように見えた。

「悠、ごめんね」
追いついて、謝った。
「ごめんって、何が?」
「……私といても、つまんないんでしょ」
そっと悠の顔を窺うと、やっぱり怒っているように見える。
居た堪れなくって、すぐに目を逸らした。

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