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宇宙いっぱいの愛 エピローグ


エピローグ



「あのさあ、咲良」

「なに?」

「地球ってさ、いい星だよな」

 あれから陸は咲良の部屋に戻ってきていた。

 再び陸との同居生活……いや、同棲生活の始まりだ。

 陸のために買ったふとんは、押入れにしまったままだ。

 せまいけれど、陸と一緒にベッドで寝起きするのが、楽しくて嬉しくてしょうがない。

「こんなときなのに、また星の話?」

 陸に腕枕をされて、抱きしめられて、愛された後の余韻に浸っていたい、こんなときなのに陸は咲良よ

りも地球のことが気になるらしい。

「地球は永遠に続くのかって話なんだけど、どう思う?」

 しょうがない。こういう陸が好きになったんだ。

 咲良は陸の質問に真面目に答えた。

「地球が爆発して、人類滅亡とか?」

「なんだよ。地球は爆発しないし、人類も滅亡しねーんだよ」

「どうしてそう思うの?」

「思うんじゃなく、そう確信する根拠があるんだよ」

「根拠?」

 言い切る陸の話に耳を傾ける。

「遠い過去から続いてる地球は、そう簡単になくならないんだよ」

「……それって根拠って言える? 私は、危機感あるんだけどな。地球温暖化とか言われてるし、生態系

も崩れてきてるんでしょ?」

「そうなんだ。そうなんだよっ咲良」

 陸の目が変わった。

 こうなってしまった陸の言葉を止めるのは、きっと不可能だ。

「ちゃんとそれに気付いた今こそが大事なときなんだっ!」

 とうとう陸は、咲良をほったらかして、ベッドの上に起き上がってしまう。

 そして本棚からなにやら分厚い本を出してくると、開いて咲良に見せてくれる。

「大事なのは、地球を愛そうと思う心。つまり地球に対する愛なんだっ」

「……愛?」

「人間が地球を大事にしたいって言う愛を取り戻せるなら、きっと地球は回復するんだ。俺は車には乗ら

ないぞっ。夏のクーラーも使わない!」

「……すごいね」

 陸とのドライブは、一生無理かもしれない。

「たとえ俺一人でも環境破壊に関わらないようにする。人類みな兄弟なんだ。みんな仲良く手を取り合っ

て、明るい未来に向かって……」

 陸の言いたいことは良くわかるけれど、やっぱり他人が聞いたら「わかってるよ、ウザイ」って止めら

れそうだ。

 陸の話に付き合ってあげられるのは、やっぱり自分だけかもしれないと、咲良はその特権? と幸せを

思って苦笑した。

「陸ひとりじゃないよ。私も地球を大事にするよ」

 そう言ったら、陸は嬉しそうに顔を綻ばせて、咲良をぎゅっと抱きしめてくれた。



★ハッピーエンド★  


引き続き、「恋にとどくまで~梨々の恋」へどうぞ。大人になった涼くんが……。
左の書庫からでもここからでもいいですよ。
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宇宙いっぱいの愛 第8話


第8話




 次の日、咲良はサークルに顔を出した。

 教室には陸しかいなかった。

 竜輝に煽られ、勇気を出してここまで来たものの、咲良に気付いた陸の態度にくじけそうになる。

「あ、相変わらず淋しいねっ」

 声をかけるが、陸は咲良を見ようともしない。

 やっぱり嫌われてるんだろうか。

「あのさ、陸」

「俺なんかに構ってる余裕ねーんだろ。彼氏と別れるほどに好きなやつがいるんなら、そっちを頑張れば

いいだろ」

 素っ気ない言い方に、さらに落ち込みそうになる。

「だって、いくら私が好きだって思ったって、伝わらないんだもん」

「告白したの?」

「……それはまだだけど」

「じゃあ、どうして伝わらないってわかるんだ」

「わかるよ。その人の言葉とか態度とか、私に対する気持ちが全然見えないっ!」

 陸が眉をひそめて咲良を見た。

 一瞬目が合ったけれど、すぐに陸は咲良から目を逸らす。

「俺に怒るなよ」

「だって……」

 その人は、陸なんだから。

 そう言えばいいだけだ。だけど、どう見ても陸の気持ちが自分にあるとは思えなかった。

「咲良が誰を好きなのか知らないけどさ、好きになってもらうの待ってるだけじゃ、いつまでたっても片

想いのままだぜ。ツライだろ? 俺と住んだり彼氏を作ったりして気持ちを紛らわそうとしてるのかもし

れないけどさ、そんなん逃避だろ。現実から目を背けてるだけじゃんか」

 そうやって言うのは簡単だよ、陸。所詮他人事だもんね。

 わかってるよ。告白すればいいことくらい。

 それが簡単に出来ないから悩んでるんだ。

「好きなやつに気持ちが届かない淋しさは、他の誰にも埋められねーんだよ」

「……なによ、わかったようなことばっかり言って」

「わかるよ。俺だって好きな女、いるし」

 どこか別の世界の言葉に聞こえた。

「い、いるの? 陸……好きな人」

 陸は読んでいた本をパタンと閉じた。

 そして咲良をじっと見据えると、ハッキリ言った。

「いるよ。いるから片想いのツラさがわかるんだ」

「陸……」

「だけど、その女には好きなヤツがいるんだ。最初から振られてんだよ、咲良より可哀相だろ? 俺」

 陸にじっと見つめられて……違う、睨まれてるんだ。

 好きな人からこんな風に軽蔑するように見られたら、もうどうしようもなくなる。

 ほんの少しの勇気さえ、音もなく壊れていきそうだ。

「俺と同居してさ、俺に逃げてんのかもしれないけど、その男の身代わりにされたくねーんだよな」

「そんなんじゃ、ない……」

 陸の言葉が咲良の胸に深く突き刺さった。

 今にも泣きそうになるのを必死でこらえる。

「その男に告白して振られたならともかく、言ってねーんだろ? 告る勇気もないくせに、他人を巻き込

むな」

 絶対泣かないと頑張ったけど、無理だった。

 ぎゅっと目をつぶった拍子に涙が落ちた。

「ごめん、泣かせた」

 陸が謝った。

「言うだけ言っといて、今さら謝らないでよ」

 咲良は涙をたくさん浮かべたまま陸を睨んだ。

 陸は一瞬、戸惑いを見せる。

「俺は咲良のために言ったんだ。咲良が現実逃避なことばっかやってるから……」

「何が咲良のためよっ! 嫌いなんでしょ、私のことなんか。嫌いなのに干渉しないでよ」

「嫌いなんか言ってねーだろ? それになんだよ、そっちが俺に逃げてるんだろ?」

 ふに落ちない、と言うような表情を陸はした。

「嫌いだなんて、いつ言った?」

「だって、竜輝先輩が私のこと好きかって陸に聞いたとき、陸は、あいつ彼氏いるぞって言っただけだっ

たし、竜輝先輩が私に告白するって言ったときも、勝手にすればって言ったじゃん。どうでもいいんでし

ょ、私のことなんか。嫌いだって言ってるようなものじゃない?」

「どうでもいいなら何も言わないだろ。こんな風に会話すんのも、嫌だろ」

「じゃあ、嫌いじゃないってこと?」

「まあな」

「……じゃあ、好きってこと?」

 理屈からすれば嫌いの反対は、好きってことになる。

 けれどこう言う場合、単純にそうはいかないことくらい、咲良にだってわかる。

 だけど、この際どうでもいい。

 咲良は覚悟を決めた。

「嫌いじゃないなら好きってことでしょ? ねえ陸、答えなさいよっ」

 咲良は陸の腕をつかんで揺さぶった。

「なんだよ、放せよっ」

 陸は咲良の手を振り払うようにして、腕を上げた。

 咲良は振り払われた手を、ぎゅっと握り締めると、陸に向かって殴りかかった。

「陸のバカーッ!」

「ちょっ……」

 陸は咲良の手首をつかんでかわした。

「なんだよいきなり。何をそんなに怒って……」

「陸が悪いんだからっ!」

 もうやけくそだった。

「陸のばかー」

 陸につかまれた手を振り払おうと、思い切り暴れる。

「何だか訳わかんねーんだけど。ってゆーか、落ち着けよ咲良」

「もう嫌だっ……」

 陸にとっては、いい迷惑だろう。

 訳がわからないって思うのも当たり前だ。

「私……」

 だから、陸に伝えよう。

「陸が……私は、陸が……好き」

「……は?」

「そんな呆けたような顔しないでよっ」

「んなこと言ったって。咲良、言う相手間違ってるぞ。俺は咲良の好きなヤツじゃないだろ。俺に逃げる

なって言ったはず……」

「だから、陸だよ」

「え?」

「私の好きな人って、陸だよ。最初から今の今までずっと陸なんだからっ!」

 ハッキリ伝えた。

 目からは涙がボロボロこぼれた。

「咲良……」

「もうガマンできないよ。好きだよ、陸」

 咲良は自分から陸の唇にキスをした。

「さく……」

 陸の身体がびくんと震えた。

 だけど陸は咲良を押しのけようとはせず、やがて咲良の背中に腕を回してきた。

「咲良……」

 きつく身体を抱きしめられて、キスが深くなる。

 いつも近くにいたのに、触れることのなかった陸とキスしているなんて、信じられない気分だった。

 咲良が陸の腕をぎゅっとつかんだ瞬間、唇が放された。

 咲良はうつむいて、大きく息を吐いた。

「ごめん陸。急にこんなこと……」

 言ってしまってから、咲良は急に身体の力が抜けてしまう。ズルズルとその場に座り込んでしまった。

「ちょっ、大丈夫か、咲良っ」

 陸が支えてくれなかったら、そのまま床に倒れてしまって、きっと二度と顔を上げられ

なかっただろう。

 穴があったら入りたい気分だった。

 いくら竜輝に、押し倒せって言われたからって、本当に自分からこんな風にキスしてしまうなんて。

「咲良。あの、今の……本気なのか?」

 陸が咲良の身体を支えたままの格好で、咲良の顔を覗き込むようにして聞いている。

「なにが?」

 なんだっけ。

 すっかり頭が真っ白だ。

「咲良は、俺が好きなのか? 咲良の好きなやつって、俺のことだった?」

「……うん。陸が好き」

 うなずいたまま顔が上げられない。

「ごめんね、陸」

「なんで、謝る?」

「だって、陸は私のこと、何とも思ってないのに。なのに無理やり強姦しそうになった」

「咲良」

 陸が咲良の身体を抱き寄せた。

「何よ。同情?」

「違うよ。そうじゃない」

 抱きしめた格好のまま、陸の手が咲良の髪を撫でている。

 同情だとしても嬉しかった。

 何するんだって突き飛ばされないだけ、ずっと良かった。

 目を閉じて、陸の胸に耳を当て、陸の早い鼓動を聞いていた。

「だいたい、咲良が彼氏なんか作るのが悪い」

「……え?」

「俺のほうこそ、咲良は俺のことは友達としか思ってないと思ってたよ。彼氏作るし、他に好きなやつが

いるなんて聞けば、それがまさか自分のことだとは思わないだろ、普通。よっぽど自惚れてなきゃ、無理

だって」

「自惚れてよ。陸なんだから」

「……なんだよ、そーゆーことは早く言えよ」

 陸が咲良の身体を少し放す。そして咲良の頬に手を触れた。

「陸?」

 ゆっくり顔を上げると、陸の微笑が咲良を見ていた。

「咲良……。俺、咲良とは無理だって決め付けてたから、自分の気持ち……封印してた」

 封印?

 咲良は瞬きするのも忘れて、陸をじっと見つめていた。

「咲良がいつも料理を作ってくれたり、俺の話を嫌がらずに聞いてくれたりしてさ、一緒にいて心地よか

った。ずっとあんな風に続けて行きたかったけど、咲良は彼氏を作っただろ? 結局、俺の片想いだった

と思ったよ」

「……片想い?」

「うん。咲良が彼氏といるほうが楽しいなら、応援しなきゃって思った。正直、あのまま一緒にいたら、

いつか無理やり咲良のこと襲ったかもしれない。だから部屋を出たんだ。早く咲良の気持ちを知ってた

ら、俺のほうから告白したのに」

「陸……」

「咲良が受け止めきれないくらい、俺の気持ちは大きいよ。ずっと好きだった」

 


 竜輝が言ってた言葉を思い出す。
 
 ──大丈夫。きっとうまくいく。 

 ──上手くいく可能性もゼロじゃないと思うよ。

 ──陸はいきなりで躊躇(とまど)ってただけだ。

もう一回、咲良ちゃんが真剣に言えば、聞いてくれるよ。
 
 本当だった。
 
 さすが陸の友達だけあって、ちゃんと陸の気持ちも気付いていたってことだ。

「サークル活動中だってゆーのに、俺たち何やってんだろ」

 ふいに気が付いた、と言う顔で陸は言った。

「じゃあ、星空研究会らしく、告白する」

 やっと咲良も落ち着いてきて、こんなことを言える余裕が出てきた。

 陸の気持ちが分かったんだ。

 まさかの両想いだったんだ。

 何を言っても受け止めてくれる。

「ものすごく広くて大きな宇宙のなかで、陸に出会えたことは、すごい運命だと思う。そして好きになっ

て、好きになってくれたことは、さらにすごい運命だよ。果てしなく広い宇宙の、無限の大きさに負けな

い愛。私の愛を陸にあげる」

「じゃあ、俺も咲良の告白に答えるよ」

「うん。言って」

「広大な宇宙から見れば、チリみたいにちいさな俺たちだけど、生きてるってことはちゃんと理由がある

んだ。それが何なのか俺たちには全部知ることは出来ないかもしれない。だけど、今わかったことがひと

つある。俺は咲良を愛するために生きてるんだってこと」

「私もだよ、陸。私のすべては陸に向かってる。宇宙規模で考えれば小さな愛かもしれないけど、いつか

私の愛で宇宙を埋めつくしたいよ」

「咲良の宇宙いっぱいの愛、俺が独占?」

「私も陸の愛。独占する」

 陸と咲良は顔を見合わせ、どちらからともなく唇を合わせた。

 陸の腕に抱きしめられて、咲良はそのぬくもりをかみしめていた。

 やっと想いが通じ合った奇跡の瞬間を、信じられない気持ちで味わっていた。


次回、最終話に続く。

宇宙いっぱいの愛 第7話


第7話



「あれ、竜輝先輩だけですか?」

 てっきり陸がいるものだと思っていたのに、珍しく竜輝がひとりで座っている。

「おー、咲良ちゃん。久しぶり」

「こんにちは」

「今までなにやってたんだよ」

「彼氏と……ちょと修羅場になってて。でも結果、別れましたけどね」

 咲良は正直に、笑顔を作って竜輝に知らせた。

「そうか、別れたのか。陸も咲良ちゃんがサークルに来なくなって心配してたぜ」

「心配かけちゃったんですね。悪かったな」

「今、俺さあ、陸と一緒に住んでるだろ? 何かアイツ落ち込んでるみたいだからさ、こうして俺もサー

クル活動をやってやってるわけだ」

「陸のためですか?」

「そうそう。もともとアイツに無理やり勧誘されたようなもんだろ? 宇宙って正直あんまり

興味ないんだ」

 そうなんだ。

「陸ならもうすぐ戻ってくるだろ。ジュース買いに行ってるだけだから」

「会うの久しぶりだから緊張しちゃいますね」

「ふーん。あ、そうだ。隠れて脅かしてやれば? 陸のこと」

 竜輝は悪戯っぽく笑うと、咲良の返事も聞かずに、教室の隅にある掃除道具入れに咲良を押し込んだ。

「やだ、先輩。こんなところに……」

「いいからいいから。あ、帰ってきたっ」

 教室のドアが開くのと同時に、竜輝が掃除道具入れのドアを閉めた。

「やっぱ、今日も誰も来ないんだな」

 陸の声がした。

「そうだな。サークル活動の意味ないよ。陸は個人的にいろいろ研究してるけどさ、一人じゃ孤独だよ

な、やっぱ咲良ちゃんも一緒がいいだろ」

「咲良?」

「そうそう。最近彼女、来ねーよなー」

 ここにいることを知っているくせに、竜輝はとぼけている。

「星の研究なんかより、彼氏と遊ぶほうが楽しいんだろ」

 そっけなく陸が言った。

「気になってるくせに。そんな何でもない風を装うな」

「何言ってんだ。変だぞ、今日の竜輝」

 咲良は出てゆくタイミングをつかめないまま、二人の会話を黙って聞いていた。

「俺さぁ、陸の正直な気持ちが知りたいんだよな」

「正直な気持ちってなんだよ」

 明らかに不審そうな陸の口調。

「実はさ、そろそろハッキリしたいんだよな」

「ハッキリって……何だよ」

「陸にも誰にも秘密だったんだけど、俺、咲良ちゃんが好きなんだ」

「は……今、何て言った?」

「だから、俺は咲良ちゃんが好きだって言ったんだ」

 咲良は驚いた。

 思わず声を出しそうになって、慌てて口を手で塞ぐ。

「好きって……おまえ本気なのか?」

「本当だ。だから気になるんだよ。陸が咲良ちゃんを好きだったら、俺も考えるしな」

「あいつ、彼氏いるぞ」

「ああ、それなら大丈夫。もう別れたって聞いたから。だから告白しようかなって思ったんだ。失恋して

落ち込んでる咲良ちゃんの心のスキマにつけこむつもり」

「なっ……」

「けど、陸の立場もあるし、一応了解取るべきかなって思ったもんだから。で、本心はどうなんだ?」

 俺と陸はライバルなのか? と、竜輝は言った。

「……なんだよ、勝手に告白すればいいだろ」

 陸の言葉に、咲良は胸が痛んだ。

 陸は自分のことを、どうでもいいと思ってる。

 竜輝と付き合ったって、別にどうってことないんだって、思い知らされた気がした。

「そっか。わかった。じゃあ、勝手にさせてもらう」

 竜輝の声が近づいて来たかと思ったら、いきなりドアが開けられた。

「聞いていたとおりだ。咲良ちゃんの気持ちを聞かせてもらおうかな」

 目を上げると、咲良を見下ろす竜輝とバッチリ目が合った。

「好きなんだ、咲良ちゃん」

 声は真剣だけど、目が笑ってる。

 もしかして、冗談? 演技だろうか。

「さ、出ておいで」

 竜輝に腕を引っ張られて、咲良は掃除道具入れから外に出る。

 狭いところにずっといたし、掃除道具の匂いに参っていたから、外の空気が新鮮に感じる。

 ふと見ると、陸が唖然とした顔をして、こっちを見ていた。

「陸……」

「な、何でいるんだよっ!」

「ごめん。まさか、こんな展開になるなんて……」

「俺が隠れてろって言ったんだよ」

 竜輝が咲良の言葉を引き継いだ。

「おまっ、知ってて俺に気持ちを言わせようとしてっ」

 陸は動揺しているようだ。

「そうだよ。けど陸は俺に勝手に告白すればいいって言った。その言葉、撤回するなら告白は待ってやっ

てもいいけど?」

「撤回……って……」

 陸は唇をぎゅっと噛んだ。

「いいのか? 陸は俺と咲良ちゃんを応援してくれんの? 咲良ちゃんが誰と付き合おうが、どうでもい

いわけ?」

 竜輝は、陸を煽っているようだ。

 でも、陸は黙ったままで、何も言ってはくれない。

 ヤケクソで竜輝の告白を受けてしまおうかと思った。けれど、ダメだ。

 もし、竜輝が真剣に思ってくれているなら、軽々しく受けてはいけない。

 すでに涼を傷つけてしまっているんだ。

 相手に気持ちがない以上、簡単に応じてしまってはいけないのだ。

「咲良ちゃん、陸は何も言わないようだよ。どうする? 俺と付き合う?」

「あの、ごめんなさい」

 咲良は頭を深く下げた。

「好きな人がいるんです。彼とダメになったのもその人が忘れられないからなんですっ」

 しばらくの間、誰も言葉を発しなかった。

 ゆっくり顔を上げてみると、笑顔の竜輝が咲良を見下ろしていた。

「竜輝先輩……」

「いいよ。知ってたから」

 竜輝はサラリと言うと、咲良の頭を軽く撫でた。

「じゃ、今度は咲良ちゃんがそいつに告白する番だな。大丈夫、きっとうまくいくよ」

 じゃあ頑張って、と竜輝は言い残して教室を出て行った。

 咲良は、ゆっくり陸を振り返る。

「あ、ああ、俺も帰ろうかな」

 頭をぐしゃぐしゃかき混ぜながら、陸も出て行った。

 教室にひとり取り残された咲良は、深いため息を落とす。

 他に好きな人がいるなんて言ったことを後悔していた。

 アレじゃあ陸が誤解してしまう。

 ちゃんと、陸が好きだって、どうして言わなかったんだろう。

 でも、言ったところでどうにもならないだろう。陸は竜輝の告白を止めなかった。

 咲良に構いもせず、自分も出て行ったんだ。

 せっかく涼と別れたのに、そんなことは何も関係なかったってことだ。

 告(い)わなくて良かったのかもしれない。

「はあ……」

 咲良はもうひとつため息をつくと、帰るために教室を出た。

 中庭を抜けると、竜輝と出会った。

「あれ? 咲良ちゃんひとり?」

 不思議そうに竜輝に聞かれた。

「陸は?」

「帰りました。竜輝先輩が出てった後すぐに」

「そっか。じゃあ、告白しなかったんだ?」

「え……」

「咲良ちゃんが好きなのって、陸だろ?」

 いつ、気持ちがバレたんだろう。

「どうして……」

「そんなの最初からわかってたよ。咲良ちゃんの陸を見る目は、恋する目だった」

「嘘、最初からだなんてそんな……」

 そんなはずはないと思う。自分の気持ちに気付いたのは最近のことだ。最初からなんて、絶対違う。

「嫌いな男と同居しないだろ? 嫌いな男のあんな話、熱心に聞かないだろ」

 それは、陸がいい人だと思ったからだ。それに宇宙の話は咲良も興味があった。

「ま、いつからなんて、この際どうでもいいよな。でもなー、陸のやつ、逃げるなんて根性なしだな」

「あの、先輩」

 咲良は言いにくそうに口を開く。

「竜輝先輩は……私のこと」

「ああ、それ、嘘。ごめん、陸を煽りたかっただけなんだ。本気にしたならごめん、謝る」

 嘘で良かった。と、咲良はホッとした。

「俺さ、陸も咲良ちゃんが好きなんだと思ってたんだよな。けど、あいつ俺の芝居に乗ってこなかった。

芝居がかってたのがバレたのか、それとも俺の思い違い? 陸は……」

「いえ、いいんです、もう」

 咲良は大きく首を振って、竜輝の言葉を遮った。

「陸が私をなんとも思ってないって分かって、スッキリしました」

「ホント?」

 竜輝に顔を覗き込まれる。

「ホントって言うか……。もういいんです」

 竜輝は困ったような顔をして話し始めた。

「陸とは友達だし、サークル仲間でもある。陸と咲良ちゃんが同居始めてさ、これで二人がうまくいくな

ら友達として嬉しいことだと思ってた。なのに、咲良ちゃんに彼氏が出来たって聞かされただろ? 陸と

の同居も解消になった。どういうことかなって、陸を観察してたんだ」

 竜輝に「座ろうか」と、ベンチに誘われた。

 横並びで座ると、竜輝は話をまだ続ける。

「咲良ちゃんは、彼氏と付き合ったけど別れた。その原因が陸だったわけだろ? 陸が好きで忘れられな

いから別れた。なのに簡単に諦めるなよ」

 ちゃんと告白しろ、と竜輝は咲良に詰め寄った。

「でも、振られるのわかって……」

「言わないと後悔するぞ? 誰と付き合っても、あの時どうして陸に気持ちを伝えなかったんだろうっ

て、絶対後悔するんだからな。当たって砕けろってことわざあるだろ?」

「砕けろってことですか?」

 口をとがらせて竜輝に抗議する。

「無駄な告白になりますっ」

「ならないよ。言わずにウジウジ悩んでるより、潔く砕け散ったほうが、ずっとスッキリ

するってもんだよ?」

「そうなんでしょうか……」

 咲良は考えた。

 咲良がお気に入りのバラエティ番組で、好きな相手に告白して、一緒に日本に帰るってヤツがある。

 みんな告白して、振られてもいつもスッキリしてるな。

「上手く行けば、一緒に日本に帰れるんですよね」

「え……日本?」

 あ、しまった。違った。

「まあ、上手くいく可能性もゼロじゃないと思うよ」

 竜輝は言った。

「俺の読みが正しければ、陸はさっきいきなりで躊躇(とまど)ってただけだ。もう一回、咲良ちゃんが

真剣に言えば、聞いてくれるよ。なんなら実力行使すれば?」

「実力行使?」

「そう。アイツさ、咲良ちゃんと住んでても手が出せないヘタレなヤツなんだよ。だからここは咲良ちゃ

んのほうから陸を押し倒せ!」

 竜輝はそう言って笑った。


第8話に続く

宇宙いっぱいの愛 第6話


第6話





 それ以来、会うたびに涼は咲良の身体を求めた。

 これが、涼の言う「付き合う」と言うことなんだろうか。

 咲良はそれに大人しく応じてはいたが、心はいつも可笑しいくらい冷めていた。

「咲良。あの、慣れてねーのかもしんないけどさ。気持ちよくない?」

 ベッドの中で、ふいに涼が言った。

「声とか、もっと出して?」

「……出せない」

 あれこれ要求されても出来ない。

「そっか。わかった。ごめん、変なこと言って」

 涼の気持ちに、ちゃんと答えてあげられない自分。

 まだ、咲良は涼を好きになれていないんだと悟った。

「私も……ごめん」

「咲良が謝らなくてもいいんだ。オレが下手なんだから」

 もっと研究するからな、と言われたって困る。

 それしか研究することがないのかって思った。

 そんなことよりも、もっと話をたくさんして、お互いのことを分かり合って……。

 じゃなきゃ、いつまでたっても、気持ちが熱くならない気がした。

 ちょうどその時期、バイトのシフトが変わって、更衣室で涼と会う機会がなくなった。

 誘われれば応じるけれど、自分から会いたいとは思わなかった。

 しかも会うたびに気持ちが冷めてゆくのだ。

 もう、終わりにしたい。

 そう思いながら、涼に言えないまま1ヶ月が過ぎた。

「最近ずっと具合、悪そうだな」

 咲良の部屋に来ている涼が、ベッドに寝たままの咲良を心配してくれる。

 それが、ひどく重荷だった。

「それって体の具合が悪いんじゃなくて、精神的なストレスじゃないのか?」

「……頭が痛いの」

「そうか? いつも頭が痛くなったり、胃が痛くなったりさ、すっげーツラそうだし、

オレといるのが……嫌?」

 涼といなきゃいけないって、言い聞かせていた。

 好きにならなきゃいけないって、頑張っていた。

 会いたくないのに、我慢して会っていた。

 それが精神的に自分を追い詰めているなんて、咲良は思っていなかった。

「誘うのはいつもオレのほうだし、電話だってオレからばっかだし。会ってもこんな風なんだ。

咲良がオレを好きじゃないってことくらい、わかるよ。最初から今日まで、咲良はオレが一度

も好きじゃなかったんだっ」

「怒鳴らないでよ。頭が痛いって言ったでしょ……」

 頭を抱えて、ベッドにもぐりこんだ。

「嫌なら嫌だって言ってくれていいよ」

 静かな口調で涼は言う。

「……嫌」

 聞こえないくらい小さな声で言った。

「聞こえるように……言えよ」

 咲良はゆっくり体を起こした。

 涼を見ると、涼も咲良をじっと見ている。

 寂しそうな目。それでいて、キツイ眼差しだ。

「嫌いなの。嫌い。涼くんなんか大嫌いっ!」

 こんな言葉が自分の口から出るなんて、咲良は驚いた。言われた涼のほうも、大きく目を見開いたま

ま、しばらくの間何も言えないようだった。

「……んだよ、それ……」

 震えるような声だ。

「涼くんのせいで……陸が出て行ったの。涼くんと付き合ってなかったら、陸は今もここにいたの」

 涼はぼう然と咲良の顔を見ている。何か言おうとしているようだけど、きっと言葉も出ないんだろう。

「嫌なんだもん。会いたくなかった。しょうがないじゃん。それでも涼くんが、会いたい会いたいって言

うから、無理して会ってあげてたのに」

「そんなに嫌われてるとは……思わなかったな」

 怒っているような、泣きそうな。そんな顔を涼はした。

「私もこんな嫌いになるとは思わなかった。涼くんと付き合ってなかったら、こんな嫌な自分に

ならなかった」

「咲良は、全部オレが悪いって言うのか?」

「そうよ。涼くんに縛られてるせいで、無駄に時間を過ごしたじゃない。どうしてくれるのよ! 返して

よ。アンタと過ごした時間。1ヵ月を返してよっ!」

 咲良は、自分でもわかっていた。

 言っていることはめちゃくちゃだし、涼を傷つけていることもわかっていた。

 けれど言葉を止められなかった。

「もういいよ。それ以上聞きたくねーって。ひどいよ、咲良。そんなこと言うなんて、信じらんねーよ」

 涼は咲良に背を向けた。その背中に向かって、咲良はさらに言葉をぶつける。

「聞きたくないなら、帰ればいいじゃんっ」

「わかったよ、帰るよ。そしてもう絶対会わねー。バイトも辞めてやるよっ。咲良とは一切関係ないから

な、こっちこそおまえなんか、大嫌いだっ! 別れてやるから、陸ってヤツとまた一緒にっ……暮らせば

っ、いいだろっ」

 最後のほうは涙声になっていた。

 涼は咲良に顔を見せないまま、部屋を出て行った。

「……ごめんなさっ……」

 いなくなった涼にはもう届かないけれど、ドアに向かって咲良は謝った。

 涼を傷つけた。

 会いたいと言ってくれた涼に、好きだと言ってくれた涼に応えてあげるのが、良い事だと思っていた。

 涼は楽しそうにしていたし、間違ってないと思ってた。

 ──本当に、楽しかったんだろうか。

 涼はいつも笑っていた。でも、それは心からのものだったんだろうか。

 もしかして、涼も無理していた?

 咲良の顔色を窺って、無理して明るく振舞ってくれていたんじゃないだろうか。

 でも……。

 だけど、やっぱり好きじゃないのだ。

 どうして、こんなに陸が出て行ったことに拘っているのか。どうして陸にそっけなくされて、傷ついて

しまったのか。

「私……陸がいいんだ」

 好きなんだ、と思った。

 陸の話があんなに面白いと思ったのは、宇宙が好きなのはもちろんだけど、きっとそれ以上に陸が好き

だからなのだ。

 いつから?

 ……そんなのどうでもいい。

 いつからか知らないけれど、咲良は陸が好きだと気付いた。


 
 気持ちに気付いたら、陸に会いたくてたまらなくなった。

 だけど、この一ヶ月。まともに陸を見ていなかったし、会話など一言もしていない。

 サークルにもご無沙汰だった。

 会うのは緊張するけれど、会いたい気持ちのほうが勝っていた。

「よし。行こう!」

 決心して、咲良は一ヶ月ぶりにサークルに顔を出した。

宇宙いっぱいの愛 第5話


第5話




 大学中を探したけれど、陸の姿は見つけられなかった。

「ま、いっか。サークルに顔を出せば会えるよね」

 独り言を言いながら、サークルの教室に向かった。

「咲良ちゃん、こんにちは」

 途中で陸の友達、竜輝に出会った。

 陸よりずっと体が大きい竜輝を、咲良は見上げるようにして挨拶を返す。

「こんにちは」

「今からサークルに行くの?」

「はい。ちょっと覗いてみようかなって。竜輝先輩は?」

「おれは行かない。用事があるんだ」

 しばらく先輩と立ち話をした。

 そして、不意に聞かれる。

「その後、どう?」

「その後って?」

「一緒に住んでるんだろ? 陸と。もうやられちゃった?」

「やだな、先輩。すぐそっちの方に考えちゃって」

「だって陸は男だぜ? 男と女がずっと一緒に暮らしててさ、何もないなんて信じられない」

 先輩は、「で、真相は?」と再び咲良に聞いた。

「何もされてません。竜輝先輩、考えすぎです」

「そうか? だったらアイツ、珍しいヤツだな。どっか変なんじゃないか?」

「変で悪かったな」

 急に後ろから声がして振り返ると、陸が目を眇めて二人を見ている。

「勝手に人の噂してんなよ」

 陸は不機嫌そうにそう言うと、咲良と竜輝を追い越して行ってしまった。

「あーあ、怒らせちゃったな」

 竜輝が言ったけれど、陸が怒ったのはたぶん今のだけが理由ではないだろう。

「じゃ、咲良ちゃん。急ぐからまたね」

 竜輝は言って、サークルの教室とは反対方向に歩いて行った。

 竜輝を見送って、サークルの教室のほうを見た。

「はあ。会うのもツライかも」

 今、陸は咲良の顔を一度も見なかった。視線はずっと隣にいた竜輝に注がれていた。

 わざと避けられた。

 そんな気がした。

 きっと朝のメールのことを怒っているに違いない。

 でも、どうせ帰ったらあの狭いワンルームで、嫌でも顔を合わせるのだ。早いうちに仲直りしよう。

 そう決意して、咲良は教室に向かった。

 教室をのぞくと、やはり陸のほかには誰も来ていなかった。

 相変わらず、みんな不真面目だ。

 陸は椅子に座って、熱心に何かの本を読んでいる。きっと宇宙の本に決まっている。

 咲良は少しずつ陸に近づいた。

 本に熱中してるのか、陸は咲良に気付かないのか、本から顔を上げてはくれない。

 ──無視してるのかもしれない。

 咲良は思って、陸の背後まで辿り着くと、陸の読んでいる本をそっとのぞきこむ。そして書いてあるこ

とを声に出して読んでみた。

「木星は……引力が、すごく、強い」

 後ろにいる咲良に気付いてないはずがないのに、陸は振り向いてもくれない。

 やっぱり無視してるんだ。

 どうせ、誰もいないんだ。

「陸っ」

 咲良は思い切って、陸の背中におぶさるようにして抱きついた。

「うわあっ! 何だよいきなりっ」

 陸は余程驚いたのか、咲良の体を乱暴に振り払った。

「やっ、ひどい仕打ち」

 冗談っぽく咲良は言ったが、内心ひどく動揺していた。

 陸に払われたショックで、涙が出そうになってしまった。

「あ…いや、そういうつもりじゃなくて。…泣くなよ」

「泣いてないもん」

 涙が頬を伝っているんだ。泣いていることはわかっている。

だけど、認めたくなくて、わざと強がった。

「泣いてるだろっ。何なんだよもう…」

 はあっと陸が大きなため息をついたのに、またさらに落ち込んだ。

「いいよ。そんなに怒るなら帰る! 先に帰るからねっ、バイバイ」

「待てよ!」

 陸が咲良の腕をつかんで引き止める。

「ったくもう。咲良が怒ってたんじゃねーのかよ。怒ったり、怒らせるようなことしたり、泣いたり。咲

良ってそんなヤツだった? なんか最近の咲良、ちっともわかんねー」

「わかんないのは、陸だよ」

「は? 朝っぱらから変なメール送りつけてくるし、わかんねーのは咲良だろ」

 呆れたように陸が言う。

「だから無視したの?」

「休むって言ったくせに学校に来てるし……」

「来ちゃいけないの? だいたい先に陸が悪いことしたんだからね」

「なんだよ」

「飲み会なんかに行ったし、抱きついたしっ」

「酔って覚えてねーんだよ」

「覚えてなかったら何してもいいのっ!」

「咲良…、本当に覚えてないんだ」

 陸が申し訳なさそうに、息を吐いた。

「ごめん。覚えてないとは言っても、そんなに怒るってことは、相当嫌な思いをさせちゃったんだろ? 

俺、咲良に何した?」

「何って……」

 言えない。だってそれ以上のことは何もされていないんだから。自分が望んだように陸が行動しなかっ

たってだけで、自分勝手に怒ってるんだ。

「もういいよ。許すよ、陸」

 最悪だ。許すだなんて、傲慢な言い方をして、すべて陸が悪いかのように責任転嫁している。

「言えないようなことを、俺は咲良にしてしまったんだな」

「……陸」

 違うよ、そうじゃない。

 そう言わなきゃいけないのに、言葉が出てこない。

「一緒にいたら、またこんなことが起こらないとも限らないよな。ちょうどいい機会かもな。俺、咲良の

とこ出てくよ」

 じゃあまた明日ねって言うように簡単に、陸はあっさりと咲良に告げる。

「やだ。出てくって何よ。出て行ったって、行くところあるの?」

「あるよ」

「ないから、うちにいたんじゃないの?」

「咲良の好意に甘えてただけだ。もともと金がたまるまでのつなぎのつもりだったんだ。ちょっと予定よ

り早くなったけどさ、竜輝のとこだって泊めてもらえるだろうし。大丈夫、心配すんな」

 陸は咲良の頭をポンッと軽く叩く。

「咲良は彼氏、安心させてやれよな」

 じゃあな、と言って、陸は咲良を残して教室を出て行った。

「これで……終わりなのかな」

 あまりにあっけないサヨナラだ。

 咲良はそこにあった椅子に、倒れこむようにして座った。





 陸がいなくなった部屋は、とても静かで、とても寂しかった。

「快適だなー。陸のイビキって時々すっごいうるさくて迷惑だったんだもん」

 大きな声で、自分自身に言い聞かせるようにして言った。

 今まで、そこに置きっぱなしだった陸の荷物がなくなった。

「荷物、散らかって邪魔だったもんっ」

 すっきりと片付いて良かったよ。

「良かった良かったー」

 笑おうとするのに、笑えなかった。




 次の日、サークルの教室をのぞくと、陸はちゃんといた。

「今日もひとりで活動してるの?」

 咲良が声をかけると、陸は気付いて笑顔をくれた。

「ハハッ、相変わらずだよ」

 咲良は陸の隣に座ると、陸が読んでいた本を見た。

「何の本、読んでるの?」

「宇宙の中における地球の位置の謎」

「謎?」

「そう。宇宙の中にはたくさんの星があるだろ? 近いところでは火星とか金星。けど、どの星も生物が

すむには条件が悪くて無理なんだ。地球だけが生物の住める唯一の星なんだよな」

 咲良はうなずきながら聞いた。

「生物が生きていくのに、絶対必要なのが水なんだ。地球の海と陸の割合って──」

 陸の話は、それからかなり長く続いたけれど、本当に良く知っているし、語るときの陸の目は、キラキ

ラしている。

 宇宙が本当に好きなんだなあ、と思ったら宇宙にちょっとだけ嫉妬した。

「本当に謎だよね。地球だけが特別な星で、そこに私たちが住んでるのってスゴイよね」

「さすが咲良。俺の話についてこれるのって、咲良だけだ」

 陸に喜んでもらえたことが、すごく嬉しかった。

「昨日、つい竜輝に同じように話してたんだけど、もういいよーとか途中で言われてさ、がっかりしてた

んだ」

「そっか。じゃあ戻ってくればいいよ。いつでも話を聞いてあげるよ」

「え……」

 陸は目を瞬いた。

「昨日、淋しかった。陸のいない部屋は広すぎて、眠れなかった。睡眠不足になっちゃうよ。帰って来て

よ、陸」

「何言ってんだ。彼氏に来てもらえばいいだろ」

 そっけなく、陸は言った。

 陸が出て行かなければならない状況を作ったのは、咲良自身だったのだ。

 咲良が、涼と付き合わなければ。

 咲良が酔っ払った陸のしたことを責めなければ。

 そして、あんなメールを送らなければ、まだ陸は部屋にとどまってくれていたかもしれないのだ。

「そのうち慣れるだろ? もともと一人で住んでたんだし。そのうち俺なんかいないの

が、当たり前になる」

 口を開いたら、泣いてしまうんじゃないかって思った。

 咲良は、陸にひとこと「じゃあね」と告げると、逃げるように教室を飛び出した。

 振り返っても陸は追いかけては来ない。

 


 その日以来、咲良はサークルに顔を出すのをやめた。




 陸が出て行ったことを話したら、涼は喜んだ。

 けれど、そんな涼を見て、咲良は腹が立ってしょうがなかった。

 涼と付き合わなかったら……。

 恨みがましく、涼を見てしまう。

「咲良。あのさ、オレたちそろそろ……」

 咲良の部屋に、涼が遊びに来ていた。

 彼氏に来てもらえばいいって言った陸の言うとおり、呼んでみたのだ。

淋しさが埋まると思ったからだ。

 ベッドに横並びで座っている。

 涼が何を言いたいのか、咲良にはわかってる。

「咲良」

 涼の腕が肩に回る。その手に力がこもったと思ったら、もう涼に押し倒されていた。

 見上げる涼の顔は、咲良に優しく微笑みかけてくれている。

「好き……さくら」

 涼の唇が触れる瞬間、そっと目を閉じた。

 初めて涼に抱かれたけれど、ちっとも集中出来なかった。

 
第6話に続く

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